第70話 温泉
「へえ、この廃村に温泉なんてあったんだ」
「幸三さんのお祖父さんの日記がありまして、そこに書いてあったんです」
「祖父さん、日記なんて書いていたんだ。場所がわかるのなら、私が探してみようか」
「みんなで探しに行きましょう」
「そうだね」
伊作村に戻った私たちは、翌日は普通に休んでいた。
私たちは国防隊と雇用関係を結ばず、好意で戸高さんに手を貸している形にしている。
そうすることで、国防隊や日本政府に都合よく利用されることを防ぐためであった。
その分板挟みになる戸高さんが大変なので、そこは定期的に貴重なお酒を一緒に飲むことでフォローしている。
古い昭和の遺物と言われることも多い飲みニケーションだったが、使いようによってはとても役に立つものなのだから。
そんなわけで今日は自主的にお休みを取ったわけだが、なにやら家の中で探し物をしていた楓さんが祖父さんが書いた古い日記を見つけ、その中に温泉に関する記述を見つけたと教えてくれた。
温泉と聞いて無視できるわけがなく、早速温泉探しに行くことに。
楓さんによると、伊作村……この廃村に、以前温泉があったというのだ。
「祖父さん、温泉の復活はやらなかったんだな」
「村の他の家の方が、頑張って自宅敷地を掘って温泉を見つけたそうです。ちなみに位置はここです」
楓さんは、かなり古びた大きな屋敷を見つめた。
祖父さんの家よりも朽ちていたので、長年無人だったようだ。
「この家の敷地内に温泉を引いたのか!」
楓さんから借りた日記を読むと、温泉がある家の家主は生前かなり偏屈で、村人たちの許可もなく勝手に温泉を掘って死ぬまで村八分状態だったそうだ。
「その人が生きている間は、このオンボロ屋敷と温泉に手が出せなかったんだな」
手を出せたところで、場所が場所なのでこの屋敷を購入した人はゼロ。
長年放置された結果オンボロ屋敷となり、せっかく掘った温泉も封印されたままということか。
「まさか他の村の住民も、勝手に他人の屋敷の温泉を使うわけにいかなかったということか」
「栓を開けたら、まだ温泉が出るといいですね」
「それを確認しにいこう」
「温泉、いいですよね」
それぞれに休日を過ごしていた瑠璃さんたちに声をかけると、全員が温泉がある空き家に顔を出した。
みんな、温泉に興味があるのか。
「この家の住民は祖父さんが死ぬ数年前に死んだはずで、遺族も全然姿を見せなかったから、ちょっボロいかな?」
人が住まない家の劣化速度は早まる。
この屋敷もそんな風に見えた。
それは直せるので、問題はまだ温泉が出るかどうかだ。
お風呂場に移動すると、やはり十数年も使っていないのでボロくて汚い。
温泉が出る栓も錆びついてた。
「これは駄目かな?」
「幸三さん、栓が錆びついてて固いぃーーー!」
「瑠璃さん、手を貸すよ。うぎぎ……」
全力で力を込めると、なんと錆びていたハンドルが動き出した。
これもレベルアップで力が増したおかげだろう。
正直温泉が出るが疑問だったのだけど、なんとちゃんと温泉が出てきた。
「やったね、幸三さん!」
「これはつまり、温泉施設を作れってことか」
「そうですよね。私も温泉欲しいです」
無事に温泉が出てくると、楓さんのテンションが上がった。
こんな世界になってしまって温泉旅行も難しいから、私もせめてその気分だけでもと思ったのだ。
「オレ、温泉って初めてだ」
「ようし、ちゃんと温泉に入れるようにしよう」
「おおっーーー!」
私たちはいったん温泉が出る栓を締め、浴槽の掃除や簡単な補修を始めた。
初めて中に入った屋敷の風呂場はまるで古い民宿のような造りになっており、掃除と簡単な補修ですぐに使えるようになった。
まさか、こんな過疎の村に大金をかけて温泉を引き、風呂場も広く豪華に改修するなんて。
この屋敷の主は、祖父さん以上の道楽者だったようだ。
「ガス釜は壊れているけど、ここは温泉専門にすればいいか」
普通のお風呂も焚けるようになっているが、ガス釜は壊れているので交換しないと駄目だった。
でもガスでお湯を焚くお風呂は自宅にもあるので、用途別に分ければいいだろう。
「露天風呂があるといいんだけど」
「それは本格的な建設工事が必要だから、今は無理だろうね」
一から露天風呂を作るのは難易度が高い。
さすがに無理だと、未来さんに返答した。
私も簡単なDIYくらいならできるけど、さすがに露天風呂を作る技術はなかったからだ。
「あっ、でも。少しずつやるという手もあるか」
「自分も手伝うし、時間はいくらでもあるから」
未来さんも温泉が大好きなようで、露天風呂を作るのなら手伝ってくれると言う。
幸いにして、建設に使う資材は『アイテムボックス』の中にある。
いつか完成すればいいと考えて、あとで図面でも引いてみるかな。
まずは、古い温泉宿風の風呂場(天然温泉)が使えるようになったのでよしとしよう。
せっかくの広いお風呂場なのに、他の住民を温泉に誘うことはしなかったようだ。
偏屈だから集落の住民たちから避けられていたと祖父さんの日記には書かれており、だから温泉の存在がほとんど知られていなかったというのは残念というか、悪いけどこちらで有効活用させてもらおう。
「ふう……。温泉はいいなぁ……」
無事に温泉に入れるようになったので、早速一番風呂を楽しんでいた。
栓から出した温泉を排出する排水路は壊れていなかったが、長年使っていなかったので土やゴミで詰まっており、その除去に意外と手間取ったのだ。
その疲れを、温泉が癒してくれる。
「アンデッドを倒すよりも、働いた感あるなぁ」
同じお風呂でも、温泉だと余計に疲れが取れるような気がする。
久々の温泉を楽しんでいると、ドアの向こうに複数の人の気配と音を感じた。
「……しまった!」
排水路の掃除で汗をかいたので、ついのん気に一番風呂を楽しんでしまったが、このパターンは……。
「昭和の温泉宿の浴場っぽくてエモいなぁ」
「風情ありますよね」
「この村にこんな隠し玉があったなんて。他にもなにかあるかもしれないから探さないと。あとは、露天風呂をどうするかだね」
「オレ、温泉って初めてだ」
裸の美少女四人が入ってきてしまい、私は彼女たちから視線を反らしつつ、さりげなくお風呂からあがることに集中する羽目に。
これは露天風呂よりも、男女でお風呂を分ける工事の方を先にした方が……いや、それをしてしまうとてせっかくの広いお風呂場が場が狭くなってしまいのか。
風呂場の拡張工事は……今は難しいか。
とにかく今は彼女たちの保護者代わりとして、今後もしっかりとレベルを上げることで欲情しないようにしなければ。
なぜなら私はこの村唯一の、未成年者たちに対し責任のある大人なのだから。




