第69話 傭兵
「絶対に二人一組の連携を崩さず、一体のゾンビに向けて一斉に突け!」
「「はいっ!」」
「必ず突くタイミングを合わせて! 最初は掛け声を忘れないでね!」
「横合いから、ゾンビに襲われないように目視を忘れずに」
「必ずゾンビと距離を置いてね」
「新しいゾンビを見つけたからって、すぐに突っ込むなよ」
伴龍高校がある神明町北地区から南下していくと、坂道で数十体のゾンビの集団が待ち受けていた。
どうやら今のところ、アンデッドたちに北地区を奪還する意思はないようだ。
早速、率いていたレベリストたちと戦わせる。
傭兵扱いのレベリストといえば聞こえがいいが、結局国防隊がそれを許したのは、レベリストとしての資質が出たばかりでレベルが低かったからだ。
国防隊も人手不足で、彼らを鍛える余裕がないらしい。
それだけレベリストの資質が出た人が増えた証拠ともいえるが、レベルが低いレベリストは簡単に死んでしまう。
だが最初にある程度レベルを上げてあげれば、それだけで死亡率が下がる。
今の私たちの仕事は、新明町の偵察と伴龍高校駐屯地が受け入れた傭兵レベリストたちの教育となっていた。
なんと晶ですら、すでに新人に指導する立場となっている。
私たちと一緒にレベルを上げた結果、すでにベテランという扱いなのだ。
最初は、傭兵レベリストたちから女子高生と女子中学生に教わることに文句が出そうなので心配していたのだが。瑠璃さんも、楓さんも、未来さんも、晶もレベルは100を超えており、異世界のミスリル製装備を扱えるようになっている。
いまだ私が貸与したレザーアーマーしか装備できない傭兵レベリストたちは、素直に彼女たちの指示に従っていた。
異世界のレザーアーマーでも、こちらの世界で作った炭素繊維製のプロテクターより防御力があり、私たちはもう使わないので貸与専門となっている。
レザーアーマーなので手入れの仕方と共に戦い方を教えていると、某海兵隊の訓練シーンが出てくる映画の鬼教官軍曹と新兵に見えてしまうのは、私が昔その手の映画を見たからかもしれない。
「「「「「いくぞ!」」」」」
「「「「「やぁーーー!」」」」」
傭兵レベリストたちが二人一組で、穂先が銀でできた槍を突いてゾンビを倒していく。
この槍は異世界製の銀の槍に比べると攻撃力が落ちるが、先端だけ銀製にしてあるので、低レベルのレベリストたちにも扱いやすいのがメリットだった。
奈津子さんが同僚たちと量産して、新人レベリスト全員がこれを装備していた。
槍だと、剣に比べてゾンビと距離を置ける。
ゾンビに噛まれたり、引っかかれる確率が下がるので、その分レベリストたちの生存率が上がるというわけだ。
そう私が提案をすると、戸高さんと大島三佐はすぐに採用してくれた。
新明町の様子を探る時に同行させて実戦経験を積ませ、レベルも上げる。
これも私の提案で、とにかく生き残りたかったらレベルを上げろと、口を酸っぱくして言い続けていた。
「二人で合わせて、もう一回だ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
二人一組で二回ずつ。
合計四回、銀の槍で突かれたゾンビが崩れ去り、骨だけが残される。
魔法を纏わせていない銀製装備で攻撃され、ダメージが限界を超たゾンビは炎を出さずに骨を残して崩れ去った。
「疲れたら、すぐに後ろの組と交代だ!」
「焦らなくても、ゾンビは沢山いるから」
私と瑠璃さんの命令に従い、傭兵レベリストたちは順番にゾンビを倒していく。
最初に接触したゾンビの集団は、新人レベリストたちにより全滅した。
だが、すぐに新しいゾンビが南からやってくる。
「やはり数が多いな……」
「ゾンビたちが、これ以上北上しないのは救いですね」
ゾンビたちは、北地区と南地区の間にある坂道の下付近に集まり、上にあがってくる様子はなかった。
私たちが南地区に入らなければ、それで良しと考えているようだ。
新明町を偵察といっても、やはりゾンビの数が多すぎる。
倒しても倒しても南地区の町中から補充され、私たちは低レベルの傭兵レベリストたちを率いているので、これ以上の南下は不可能だった。
「骨がスケルトンになってしまったら、新人たちでは歯が立たない。今日はこれで終わりだな」
「焦っても仕方がないしね」
「少しはアンデッドを減らせたってことで」
「今のペースだと、新明町のアンデッドを全滅させるのに何年かかるんだろうね?」
「あーーーあ、何度も再利用するから矢の先が潰れちゃった。奈津美さんに直してもらわないと。オレも矢の直し方を習った方がいいのかな? ゾンビはいくらでもいるからなぁ……」
「つまり我々は、上からそこまで期待されていないってことです。その方が気楽でいいですよ」
「変に期待されるよりはいいのか……」
一緒に戦っている大島三佐に言わせると、どうやら松代は戸高さんの部隊が神明町を解放できるとは微塵も思っていないらしい。
朝山駐屯地の隅川陸将が水無月市を解放するまで、神明町南地区のアンンデッドが朝山駐屯地を襲わないようにする盾。
それが、伴龍高校駐屯地の役割なのだと。
ただ、戦力比において圧倒的に不利なのは伴龍高校駐屯地も朝山駐屯地も同じ……いや、水無月市のゾンビの数を考えたら、もっと不利かもしれない。
それなのに、隅川陸将が水無月市を解放する計画を立てている、国防隊の上層部って大丈夫なのだろうか?
「隅川陸将は国防大首席卒業のエリートで、上層部期待の星ですからね。見事水無月市を奪還して、この功績をもって次の統合幕僚長に就任する。手柄を立てるのが一般大学出の戸高陸将補ではいけないんです」
「相変わらずのエリート主義というか、先に楽観的な計画を立てるのは危険だなぁ」
異世界の貴族軍人の中にもそんな人たちがいて、魔王退治の時に何度も悲劇を起こしたものだった。
必ず成功するという前提で作戦を立てるのは危険……そんなことは軍人経験のない私でも理解できるのに、エリートたちがそれに気がつかないなんて本当に不思議だ。
功名心が判断力を鈍らせてしまうのか。
「とはいえ、隅川陸将は優秀ですから無理はしませんよ」
「だといいけど……」
優秀だからこそ、上の思惑を敏感に感じ取って無茶をする可能性が高いとも言える。
頭のいい人は上司を敵に回したくないので、無理な作戦をどうにか達成できないか、色々と工夫してしまう傾向にあるからだ。
私は、隅川陸将にも安城陸将とは違う別の危うさを感じていた。
「さすがに大丈夫だと思いますけどね。今後は私たち対アンデッド部隊も、今日と同じように傭兵レベリストたちの指揮をとってレベル上げを続けます。偵察は……なかなか町の奥に入り込めませんからねぇ……」
この日は新人レベリストたちの訓練も順調に進んだので、そのまま引きあげることにした。
やはりアンデッドとの戦いは長期戦になるので、無理をしないように戦力を適切に強化しないと。
それが最終的には、自分の命を救うことになるのだから。




