第68話 戦備増強
「……とはいっても、我々一般隊員が土木工事をやっているんだけど。人手不足なんてもんじゃないな」
「建設車両と補給物資は優先して送られてきているから、いいんじゃないか?」
「整備隊員たちは戦車や装甲車両よりも、建設車両の整備や修理ばかりしているけどな」
「ガソリンがないから、無理やり蓄電池つけてある建設車両だろう? 松代から送られてきたやつ。稼働時間が短いのが難点だな」
「電力不足なのに、燃費が悪くて大変だってさ。EV車も稼働時間は短いんだ。重たい建設機械なら猶更だろう。電気はソーラーパネルで発電できるが、ガソリンをここで精製できるわけないからな」
「戦車や装甲車なんて、燃費が悪すぎて動かすと叱られるレベルだからな。戦車兵たちは、建設車両ばかり動かしてるじゃないか」
幸いなことに、新明町から再びアンデッドが攻め上ってくることはなく、伴龍高校駐屯地の整備は順調だった。
「高校の技術室とは思えないほど設備がいいね」
「ほとんど使われていなかったけど」
「勿体ないなぁ」
「伴龍高校は、れっきとした進学校だったから」
一定数親のコネで入学したバカ生徒もいたが、大半の生徒は幼少の頃からしっかりと教育を受けており、卒業後は有名大学に進学する生徒が大半だった。
だから伴龍高校のスケジュールは、進学校のそれに近かったのだ。
体育、美術、音楽、技術、家庭科などの授業を表向きはやっていることにして、実はまったくやっていなかった。
受験科目にないからだが、こんな無茶、私立の学校だからできたとも言える。
「本当は駄目なんだろうけど、伴龍高校の生徒の親には権力者もいたから」
伴龍高校の学習指導要領違反は、なぜか見逃されていた。
親のコネで入学したバカ生徒たちは、勉強ばかりやらされるので辟易していたみたいだが。
「技術室があるのは、文部科学省向けってことだね。使いもしないのに、設備が豪華だよね」
「金持ち学校だからだよ」
「朝山駐屯地と稲美基地から持ち込めた機材と合わせて、ここを凄い工房にする予定だから。戸高さんが、隣接している美術室や科学実験室の使用許可もくれたんだ。魔導炉の研究も、伊作さんが翻訳してくれた異世界の技術書を参考に、今急ピッチで進んでいるから」
「他にも色々と頼まれているのに凄いな」
さすがは、大島三佐の妹というべきか。
アンデッドとの戦いは持久戦になるから、補給、生産力能力の構築は勿論のこと。
できれば異世界の技術を極力再現できた方がいいと、戸高さんの許可を得て研究まで始めたのだから。
「今、松代の技術者たちは銀製の弾丸の開発の方を急がされているね。でもねぇ……」
「気持ちはわからなくもないかな」
銀の矢なら、レベリストでなくてもゾンビを倒せる。
『それなら、銀の銃弾を使えばいいのでは?』という考えが出ても不思議ではないのだけど、銀は希少な金属だ。
さらにいえば、この世界にアンデッドが出現したせいで火薬の生産にも難がある状態で、それならあとで矢を回収できる弓矢の方がいいという結論に至っていた。
ただ銀の矢は、銀の弾丸よりも多くの銀を使うから、なかなか量産できなかったけど。
そして必ず、戦いのあとに矢の回収が義務付けられていた。
国防隊員がアンデッドとの戦で矢を紛失すると、あとで上官にぶん殴られるなんて噂もあったり、なかったり。
魔石の魔力で銀の弾丸を発射する魔銃ならいけるかもしれないけど、この世界でそれを作れるようになるには時間がかかる。
それでも、国防隊が持つ銃で撃てる銀の弾丸の量産を求められているわけか。
「そもそも、銀が手に入らないから」
「ボクは銀の弾丸の試作はしているけど、性能はともかく量産がネックだよねぇ」
こんな世の中になってしまったので、現金よりも現物資産ということで、資産として銀を持つ人が増えていたからだ。
当然銀の相場は上がり続け、銀の弾丸を作ろうにも銀が不足していた。
私は異世界でかなりの量を手に入れていたが、さすがに無料で提供する気にはなれない。
冷たいとか、人でなしと思われかもしれないが、私はまず自分と大切な仲間たちが生き残り、安寧に暮らすことを優先しているからだ。
だから戸高さんの指揮する部隊には、ちゃんと武器と防具を貸していたのだから。
「戦前みたいに、国が市民に金属を提供させるわけにいかないだろうしね」
もし国が国民から銀を没収し始めたら、それは終わりの始まりだと私は思っている。
「矢ならあとで回収しやすいってのもあるから、だから銀の矢の量産が最優先さ。弓矢は訓練が必要だけど、放つのに火薬もいらないってのもある。鏃が潰れても直せるしね」
そのあとも色々と話をしたあと、奈津子さんは仕事に戻った。
私から聞いた情報を基に、どうにか異世界の武器や防具を再現したいらしい。
同じ材質の武器と防具でも、どういうわけか異世界製の方が性能がいいからだ。
他にもやることが沢山あるそうだが、戸高さんが隊員の中から人手を割いてくれたので、奈津子さんの忙しさは大分マシになったようだ。
その分前線で戦う隊員が減ってしまったけど、戦力を維持するために正面戦力だけ増やしても意味がない。
私は、戸高さんの判断は正しいと思っている。
「あっ、伊作さん。新戦力を紹介しますね」
「新戦力? 松代が増員してくれたの?」
大島三佐に挨拶をしてから伊作村に戻ろうと思っていたら、彼から今ここに到着したばかりだという新戦力を紹介された。
確かに校庭に並ぶ老若男女は、まったく自衛官に見えなかった。
「そんな戦力があったら、上の連中は朝山駐屯地の隅川陸将のところに回しますよ。ついに国防隊も傭兵を認めたんです。もっとも、レベリスト部隊だけですけど」
「民間のレベリストを雇えるようになったんだ」
これまでは、たとえ軍属扱いでも国防隊に入隊させていたのに、よほどレベリストが集まらなくなったのだろう。
「我々だけで新明町の開放は無理ですし、安城陸将のせいで、国防隊に雇われたくないレベリストが増えましたからね。だから国防隊が正式に雇わず、傭兵という扱いで所属させることが可能になりました。報酬は出来高払いで、こっちの命令を拒否できるんです」
命令を拒否できるのは、安城陸将がやからかしたせいだろう。
そしてそんな条件を国防隊が飲んだのは、よほど新規でレベリストが集まらなかったのだと推察する。
そして大島三佐は、傭兵扱いのレベリストたちも率いるようになったということか。
そりゃあレベリストたちからすれば、レベリストでもない国防隊のお偉いさんの無茶な命令で死にたくないだろうし。
「伊作さん、今後は彼らの訓練を手伝っていただけると嬉しいのですけど」
「いいですよ。とはいっても、レベリストはレベルが高ければ高いほど生き残れる確率が上がる。よって、できる限り効率よくアンデッドを倒すだけなんですけどね」
「おおっ! さすがは松代近郊で、巨大ゾンビを倒した伊作さんだ!」
「あんな巨大なゾンビを倒せる伊作さんに教われば、俺たちも強くなれるはずだ」
「両親を殺したゾンビたちを一体でも多く倒す! 伊作さんからしっかりとゾンビの倒し方を教わらないと」
「あれれ?」
あの時私は、マスクをして顔を隠していたはずなのに……。
もしかして、大島三佐が上に報告したのか?
「いえ、伊作さんは国防隊の情報収集能力を見くびり過ぎです。さすがにマスクをしたくらいではバレますよ。私もすぐにバレましたから」
「それは仕方がないか」
なににせよ、戦力が増えたのはいいことだ。
たとえ神明町を取り戻せなくても、伴龍高校駐屯地を守りきれる確率は大幅に上がるのだから。




