第65話 稲美基地奪還
「ようし! あと少しだ!」
「スケルトンを一体も逃がすな!」
「レイスは伊作さんたちに任せるんだ! お前たちではまだレベルが足りないんだから」
ついに、一度は放棄した稲美基地の総司令部へと辿りついた。
総司令部があった大型倉庫の中には、最後の抵抗とばかり数十体のスケルトンが籠城していたが、順調にレベルを上げている対アンデッド部隊により次々と倒されていく。
私たちは、時おり壁から出てきて対アンデッド部隊に襲いかかろうとしたレイスを確実に倒していく。
そして、大型倉庫を守るスケルトン最後の一体を倒した瞬間、今度は一度に数十体のレイスたちが壁をすり抜けて襲いかかってきた。
私たちなら勝てるので、それぞれ分散してレイスに攻撃を始める。
「対アンデッド部隊は下がってくれ!」
「伊作さん、本当に我々ではまだ勝てませんか?」
真面目なのだろう。
女性が多い私たちだけに任せられないと、若い隊員が私に尋ねてくる。
「レイスは、最低でも異世界のミスリル製装備を着けられるレベルがないと勝てない。つまりはもう少しだ」
「……わかりました。お任せします」
本心では納得していないようだが、自分が死んでしまうと敵が増えてしまって私たちが苦労する羽目になるため、若い隊員は素直に退いてくれた。
国防隊員だから、上官の命令に忠実というのもあるのか。
私は上官ではないけど、戸高さんから『私たちの指示に従うように』と言われていたからなぁ。
「みんな、油断するなよ!」
「まだ死にたくないものね」
「レイスは、触れられるだけで死んでしまいますから」
「体に魔法の纏わせ方をしくじると死ぬ自分は、常に油断できないよ」
「弓手のオレは、レイスに接近されたら終わりだからさ。ドンドン矢を放つぜ!」
全員がミスリル製装備をつけた私たちは、レイスたちに攻撃を仕掛ける。
以前に比べれば楽に勝てるようになったのは、コツコツとレベルを上げたおかげだろう。
特別個体もいなかったため、十分ほどでレイスの集団は全滅した。
「楽にレイスを倒せるようになったのはいいことだよ。残り一億体以上いるけど」
私たちがこれまでに倒したアンデッドの数は、全体の何パーセントなのだろう?
考えると嫌になるので、今はレイスたちに勝利できたことを喜ぼう。
「それだけアンデッドがいると、レベルとか関係ないかも」
「あるさ。一億体が一箇所に纏って、一斉に襲いかかってくるわけじゃない。やはりレベルの高い奴は生き残りやすい」
「日本を、世界を救うなんて考えなければ、大きな問題はないですね」
「それだよ」
もし私のレベルが魔王討伐直後に届いたとしても、全世界に数十、数百億体いるアンデッドを殲滅できるわけがないのだから。
「消極的と言われようと命は一つだから、慎重に動くしかないよね」
「オレは普通に暮らせればいいかな。無理に戦いたくないし」
「イケイケなのは、自分で戦わない人たちだからね。だから俺は出世ルートから外れたのさ。あそこにいると、平気で人を死地に送るようになる」
だから大島三佐はエリートコースから外れて、私たちと一緒にレベルを上げているのか。
使い道の多い魔石を拾いながら、念を入れて基地内にアンデッドが残っていないか確認をする。
それが終わり、私たちはようやく稲美基地の解放に成功したのであった。
「まさか、稲美基地を取り戻せるとはなぁ……」
「とはいえ、いまだ伴龍高校や新明町はアンデッドで溢れていますけど……」
「大島の対アンデッド部隊の半分をここに置いて防衛しつつ、少しずつアンデッドを削っていくしかないな」
「対アンデッド部隊の半分を置いて、朝山駐屯地の守りは大丈夫ですか?」
「今のところは。水無月市からやってくるアンデッドの数が極端に少ないからな。だが、水無月市から大量のアンデッドが攻め寄せてきたら、すぐにここを放棄する予定だ」
「ここを維持し続けようとした結果、朝山駐屯地が落とされたら意味ないですからね」
「戦力不足もいいところだが、レベリストの数でいえばうちは恵まれているからなぁ」
「稲美基地ですが、勝手に奪還して大丈夫なんですか?」
「元々放棄したことが、上の連中からしたら気に入らなかったんだ。可能な限り奪還することと最初から命じられているから問題ないよ」
「また放棄したら怒られそうですね」
「とはいえ、ここを維持するために多くの犠牲を出したり、朝山駐屯地が落とされたら本末転倒だ。水無月市のアンデッドたちは今のところ大半が町の中に留まっているが、いつ攻勢に出るかわからない。状況に応じて臨機応変に動くしかないよ。伊作さんたちは……」
「伴龍高校周辺のアンデッドたちを削る、ですね」
「伊作村と、この稲美基地の二方面から削っていく」
「一番効率的なやり方だと思います」
アンデッドたちから奪還した稲美基地は閑散としていた。
大島三佐が率いる対アンデッド部隊のみの駐屯となり、いつでも即座に撤退できるよう、最低限の物資しか運び込まれていなかったからだ。
ここを恒久的に維持できるかどうか、いまだに不透明だからだろう。
対アンデッド部隊の隊員たちが多くのアンデッドを倒してレベルが上がり、犠牲者も出なかったので、たとえ再びこの基地を放棄することになっても、損はしていないという評価だった。
無理にこの基地の維持に拘った結果、水無月市から朝山駐屯地に大量のアンデッドが押し寄せ、朝山駐屯地が落とされてしまうのは困る。
戸高さんも、無理にこの基地を維持することはないと考えていた。
「たかだか百八十八名のレベリストで、人口八万人の町を奪還できるかどうか。やってはみるが無茶は禁物だ。住民の何割がアンデッドになったのか、いまだ正確な数はわからないが、数万人はいるだろうから」
「結果的に、新明町にいるアンデッドを削りきったら我々の勝ち。それができなかったら、守りに入るしかないですね」
世界を救うつもりはないが、せめてアンデッドがいない人間の住める場所をなるべく確保しておく。
私のイメージではアンデッドとの戦いは長く続くだろうから、安全な土地は大いに越したことはなかった。
「『人類が、この世界に出現したアンデッドをすべて倒して世界は救われた! バンザイ!』とはならないでしょうね。稲美基地の整備と修復を進めます」
奪還した基地の整備は戸高さんたちに任せて、私は『移転』で伊作村へと帰った。
伊作村は私たちの大切な家なので、まずは伴龍高校付近の土地からアンデッドを追い出すことにしよう。




