第64話 第五の女(後編)
「どうせ松代でもろくに買い物できないから、ここでいいかなって。それと、ミスリルに興味あるから」
すでに私がミスリル製の武器を持っていることは日本政府と国防隊に知られていたし、当然サンプルを供出させられた。
一応買い取りとなっていたが、その価格は微々たるものだ。
だが、確かにミスリルは魔法を纏わせると高い攻撃力を発揮できたが、魔法を纏わせないとアンデッドに効果がないのは他の武器と同じだ。
なにより、異世界製のミスリル製の武具はレベルが高くないと重たくて使えたものではない。
対アンデッド用の武器としては、装備すれば誰でもアンデッドを倒せる銀製武器の研究の方が盛んだった。
そして、私が日本政府と国防隊に供出したミスリル製の武器はごく少数でしかない。
彼らはレベリストの一部に、『アイテムボックス』なる特技が使える者が現れたことは知っていたが、私以外のレベリストが使える『アイテムボックス』の容量は、広くても小屋一つ分くらいだ。
私の『アイテムボックス』とは性能が段違いであり、彼らはその事実に気がついていなかった。
そもそも『アイテムボックス』持ちですら非常に希少だったし、レベリストについての研究は始まったばかりなのだから。
今の『アイテムボックス』持ちの人数と収納量では、国防隊が求める大規模な軍事作戦の補給を支えることはできない。
先日水無月市から撤退する時に、私が殿部隊に『アイテムボックス』から取り出したトラックを供与した件も知られているはずだが、国防隊上層部が好きそうな大規模軍事作戦の補給を支えられるほどではないと判断されたのだろう。
まさか、私の『異次元倉庫』の容量が無限かもしれないなんて思わないだろうし。
さらに私は軍属でもないので、無理に命令はできない。
どうやったのかは知らないが、廃村に住む、戸高さんと大島三佐に個人的に協力するレベリストグループみたいな扱いになっているようだ。
大島三佐の妹さんは軍属だけど、あまり無理強いすると辞めてしまうから、お兄さんのいる朝山駐屯地に転属になったのだと思う。
「伊作さん、試しに加工していいミスリル塊とかないですか?」
と、目を輝かせながら聞いてくる奈津子さん。
自ら進んで刀工になった彼女は未知の金属に興味があり、それで刀を作ってみたいのだと思う。
「あっでも、ミスリルは魔力で溶かす金属だから、普通の鍛冶道具では加工できないよ」
ミスリルは、精錬と加工に莫大な量の魔力を使うからこそ、魔法と相性のいい武器を作れるというわけだ。
魔力はアンデッドを倒した時に出る魔石を使えるけど、戦闘専門であった私は異世界の鍛冶道具を持っていない。
自作せねばならず、かなりハードルが高いはずだ。
「だから刀身の部分は弄らずに、柄や鞘を修理したり調整するに留めた方がいいかな。あとは、自分で銀の武器を作って腕を上げるとか」
この世界で作られた銀製の武器でも、異世界製よりは性能が低いけどゾンビくらいは倒せる。
理論上スケルトンも倒せはするけど、最低でも数十回は斬りつけられる実力が必要だろう。
レベリストなら、銀製の武器に魔法を纏わせれば……。
いや、この世界で作られた銀の武器は耐久性が低いから、すぐに壊れてしまう。
という説明を、私は奈津子さんにした。
「ミスリルが加工できたらいいのに!」
「魔法を纏わせることができないと、ミスリル製の武器もただの重たい金属の塊でしかないけどね」
日本政府と国防隊がミスリルにあまり興味を持たないのは、今のところ多数いる非レベリストたちが使える武器にできないからだ。
異常に重たくて、高レベルのレベリストしか装備できないのだから。
「これからもレベリストは増えていくし、レベルも上がっていくから、その時に備えてですよ。せっかく伊作さんがミスリルのサンプルを提供してくれたので」
ミスリル製の武器だけでなく、ミスリル鉱石や、壊れたミスリル製の武器や防具、ミスリルインゴットなどを少量提供していた。
だけど武器にできなければ、ただの重たい貴金属でしかない。
奈津子さんとしては、自分でミスリル製の武器を作りたいのだろう。
「ただ、ミスリル装備も魔法を纏わせないとアンデッドを倒せないからなぁ。今は銀製の武器の性能アップを進めた方がいいと思う」
ミスリル装備に魔法を纏わせると、銀の武器よりもはるかに攻撃力が上がるし、すべてのアンデッドにダメージを与えられる。
だが、レベリストが使わないとゾンビすらろくに倒せない、ただの重い武器でしかないのだ。
なので今は、この世界で性能の高い銀製の武器を作れるようになった方が戦力増強に貢献できると思う。
材料も手に入りやすい……世界中にアンデッドが出現したので、銀鉱山から採掘、精製するのは難しいけど。
この辺の面倒くささが、なかなかアンデッドが減らない原因でもあった。
「ミスリルの加工には魔導炉が必要だけど、さすがに私も作り方は知らないんだよね」
なぜなら私は戦い専門で、鍛冶なんてやったことがないからだ。
「魔導炉?」
「魔石を燃やして温度を上げ、ミスリルを溶かすんだ。膨大な量の魔石が必要になるけど」
だから、ミスリル製の装備は大変貴重品であった。
私が沢山持っているのは、敵からの鹵獲品だからだ。
敵の装備をそのまま放置すると、敵に回収されて再び使われたり、もっと悪いのは魔王侵攻で治安が悪化していたので、山賊などに回収されることだった。
異世界の人たちは全員レベルが上がるので、ミスリル製の装備を使えるようになる人が多かった。
特に山賊なんて、貴族、兵士、冒険者崩れが多かったのだから。
「伊作さん、せめて魔導炉のヒントを!」
「ええとねぇ……」
武器購入の際に何度も見せてもらったことがあるので、私は紙にボールペンでその概要を書いた。
あとは、異世界で聞いた魔導炉についての話も可能な限り奈津子さん伝えていく。
まだ鹵獲品のミスリル装備には余裕があるが、それ以上に壊れたミスリル製の武器、防具、スクラップ、鉱石などを持っているので、これを武器に加工し直してレベリストたちに配れたら、もっと多くのアンデッドを倒せるかもしれない。
全世界で百億体は超えているアンデッドを殲滅できるかと言われると、それは厳しいかもしれないけど、人間が安心して暮らせる土地をより多く確保することはできるはずだ。
そのためにも、奈津子さんには頑張ってほしいものだ。
「確か、こんな感じだったはず……」
「ようし! 早速魔導炉を試作してみます。兄貴、工兵たちを貸して!」
「いいけど、異世界製装備も手入れや調整が必要なんだぞ。そっちを遅らせるなよ」
「当然それもしっかりとやりつつ、『目指せ! 魔導炉の作成とミスリル製武器の自家製造!』だよ。 松代よりも、こっちの方が面白い」
「……すみません、変わった妹で……」
「面白い人だし、案外妹さんのような人が、この世界を救ったりするんですよ」
兄妹共に、別分野だけと才能がある大島家って凄いと思う。
奈津子さんに魔導炉が作れるどうかわからないけど、挑戦することは悪いことでない。
私は生産職ではなかったけど、出来る限り協力して……あっそうだ。
異世界で手に入れた技術書があったのを思い出した。
これを翻訳して奈津子さんに教えれば、もしかしたら魔導炉の建造に成功するかも。
すぐ翻訳に取りかからないと。




