第66話 伴龍高校奪還
「……見慣れた人が多い。だが、全員がゾンビになってしまっていては倒すしかない」
「私、学校ではハブられていたけど、悲しくなるよね」
「私はこの高校の人たちにいい印象はないですけど、悲しくなりますね」
「倒してあげることこそが最大の供養だよ。他に手はない。慈悲の拳ってやつだよ」
「オレも、同じ施設の人たちがゾンビになってしまって悲しかったからなぁ。瑠璃姉ちゃんたちの気持ちはよくわかるよ」
伴龍高校周辺の町に残っていたゾンビ、スケルトン、レイスを数日かけて駆逐していき、残るは伴龍高校のみとなった。
ここは建物も頑丈で設備も整っているので、ここを新たに拠点として整備しつつ新明町に向けて南下を目指すのが戸高さんの方針だ。
早速校内に入ると、あちこちに生徒や教師たちのゾンビが多数彷徨っていた。
やはりあの日の大規模攻勢で、多くの生徒と教師がゾンビにされてしまったようだ。
用務員であった私をバカにしたり、見下したり、そんな生徒たちに注意をしなかった生徒と教師であったが、こうなってしまうと哀れとしか思えない。
もはやアンチアンデッド薬も使えず、彼らを人間に戻す手段がない以上、倒して成仏させるしかないのだから。
「みんな、いくぞ!」
「「「「「「「「「「おおっーーー!」」」」」」」」」」
大島三佐以下のレベリストたちも加わり、伴龍高校内のアンデッドへと攻撃を開始する。
ゾンビたちも噛みつく相手が欲しかったようで、校庭で身構える私たちを確認すると、次々と校舎や裏庭から出てきて襲いかかってきた。
「円陣を組んで外側を向き、内側に弓使いの晶を入れて、守りながら戦うんだ!」
「さあて、始めるか」
レベルアップによりミスリル製武具の装備ができるようになって、さらに矢に聖魔法を纏わせられるようになった晶が、ミスリル製の矢をゾンビに向けて放っていく。
かなり腕を上げたうえに、標的はアンデッドで一番弱いゾンビだ。
百発百中なうえ、命中と同時にゾンビは青白い炎に包まれ、それが晴れると骨だけが残された。
「国防隊は軍隊なので、射手が欲しい……」
「レベリストたちの中には、弓使いもいるのでは?」
「いますけど、銀とミスリルの矢の調達ができないんです。だから私も含めてみんな、近接戦闘で戦っていますから」
そう言いながら、ゾンビを銀製の大斧で袈裟斬りにする大島三佐。
なかなかの腕前だけど、あまり国防隊員には見えない。
特殊繊維製のアンダーウェアーの上から防具を着け、銀製の武器を持った対アンデッド部隊の隊員は異世界の冒険者によく似ていると思った。
今となっては防具のどこかについている階級章だけが、彼らが国防隊員である証拠であった。
「とにかく時間がかかるし、面倒だな」
「仕方あるまい。いくら骨を燃やしても、砕いても、必ずスケルトンとして復活してしまうんだから」
ゾンビを倒したあとに残った骨を集め、校庭の真ん中に集めていく。
元は人間の骨ではあるが、私は異世界で人の死を沢山見てきたので、怖いとか気持ち悪いとか、微塵も思わなくなっていた。
人骨に直接触ることを躊躇する国防隊員もいるなか、淡々と作業を進めていく。
ゾンビを倒したあとの骨は必ずスケルトンになってしまうので、それならその前に集めておけというマニュアルができたのだ。
そして、復活と同時に倒す。
そうすればスケルトンに対して奇襲攻撃になるし、簡単に倒せるからだ。
スケルトンが復活して動き出しても対応できる対アンデッド部隊員たちを配置しつつ、残りの人員で残ったゾンビがいないか校内を探していく。
「さすがはセレブ御用達の名門校ですね。幸いゾンビたちにあまり荒らされていないし、設備も大半がそのまま使える。ここから、新明町奪還を試みることができる」
「(設備は最高なんだけど、用務員として働いていた私は非正規で給料も安かったけどね)」
大島三佐と共に校内を探ってみたが、生き残り……ゾンビは最初から死んでいるけど……は一体もいなかった。
ゾンビを倒したあとの骨は校庭にすべて集め終わり、あとはスケルトンとして復活したら倒すだけ。
レイスはいつどこで復活するかわからないので、そこは臨機応変にといったところだ。
「アンデッド三段活用のせいで、なかなか人間の安全圏ができない」
「困りものです。このところ流行していた創作物みたいに、異世界の勇者が短時間でアンデッドを駆逐してくれたらいいのに」
「その異世界の勇者は、まだ全盛期の数分の一の強さだから。最初はレベル1だったし」
「我々がアンデツドを倒せるようになったのは伊作さんのおかげですから、確かに伊作さんは異世界の勇者ですよ」
レイスは、物理攻撃、聖魔法と治癒魔法、一定以上の威力を持つ攻撃魔法以外ダメージを与えられない厄介なアンデッドだ。
そのうえ突然出現するし、物質をすり抜けるのが厄介だった。
物は破壊しないが、触れただけの生物の命を確実に奪うのも脅威だろう。
今のところ松代を始めとした人が住む場所に現れたことはないが、これから徐々に倒されるアンデッドが増えると、その可能性がゼロではなくなるはずだ。
高レベルのレベリストでなければレイスに対応できないので、ゾンビとスケルトンを倒せば倒すほど、後方にも注意する必要があった。
そのせいで、アンデッドの討伐速度と町の奪還速度を確実に遅らせるだろう。
今後万が一に備えて、凄腕のレベリストを後方に配置する必要があるからだ。
「(結界があれば、レイスも入ってこれないけど……)」
結界は特別個体には通用しないし、今の私のレベルではまだ作れない。
在庫も異世界で手に入れて『異次元倉庫』に仕舞ってあるだけなので、これを今の日本政府に提供するつもりは微塵もなかった。
私の考えは戸高さんも理解しているようだし、私が『アイテムボックス』にどれだけのものを保管しているのか。
私以外は知らないので、向こうも無茶な要求を出せないはずだ。
なにより私が死ねば、『アイテムボックス』の中身は異次元の空間で永遠に迷子となり、二度と取り出すことができない。
そのことは事前に戸高さんに教えていたし、国防隊や日本政府に協力する『アイテムボックス』持ちのレベリストたちがいるので、私に無茶は言ってこないはずだ。
「今のところレイスは、他のアンデッドがいない場所にはほとんど出現していません。ゾンビとスケルトンのいない土地を増やすのが、一番のレイス対策ですね」
ようは、今人が住んでいる場所にゾンビとスケルトンが攻め込んでこないようにするのが、一番の対アンデッド対策と言えた。
「(いつまたアンデッドが攻め込んでくるかもしれない場所に、貴重な結界を使えないよなぁ……)」
結界は、一度設置すると二度と動かせない。
だから余計に、設置場所は慎重に検討する必要があった。
「これで稲美基地は比較的安全になりました。ここに主力を移す予定です。お金持ち学校だから建物がしっかりしているし、校門と外壁が頑丈だから稲美基地よりも守りやすい。奈津美の工房もここに移そうと思います。電気は太陽光パネルと蓄電池から、水道は地下水の汲み上げが可能なので、かなり暮らしやすくなるはずです」
まさかお嬢様お坊ちゃま学校の豪華な設備が、基地建設の役に立つなんて。
ゾンビ物の創作物みたいだ。
「次はいよいよ新明町ですか……」
「まずは、新明町にいるアンデッドの数を知りたいところですね。偵察が必要だし、レベル上げもしないと」
「数の差がエグイですからね」
「ええ」
新明町の住民の何割がアンデッドになってしまったか不明だが、推定数万体のアンデッドだ。
町の奪還は容易ではなく、無理をしないで防衛体制を整えつつ、まずは偵察と、レベル上げを兼ねて徐々にアンデッドを削っていこうと思う。




