第61話 戦力強化
「対アンデッド部隊の交代ですか?」
「ええ、朝山駐屯地にいた部隊と、熊野が指揮していた部隊とが交代になります」
「そんなマジック、使えるんだ……」
「裏技とまでは言わないでしょうが。松代の連中からしたら、私と同じく将来統合幕僚長候補であった熊野を死なせてしまった対アンデッド部隊が、このまま臨時首都である松代を守ることに不安を感じたんですよ。だから、その心理を突きましてね」
「朝山駐屯地に左遷……転属させると?」
「ええ、建て前はそういうことになっています」
「それは悪いような気がするなぁ」
「彼らとしても、朝山駐屯地なら伊作さんの指導を受けられますし、装備品も借りられますからね。今の時代、生存率の高さは重要ですよ。それを保証してくれる上官についていく。私もそうですけど、水無月市解放作戦の件で日本政府と国防隊の上層部は、国防隊員とレベリストたちの信頼を失ったのです。無条件に上に従うような者たちの多くが、これまでに死んでしまったという事情もありますけど」
松代から戻ってきてから数日後。
私は、朝山駐屯地でレベリストたちに指導をしていた。
アンデッドの効率的な倒し方を実戦形式で教えつつ、レベリストたちに私が異世界で手に入れ、死蔵していた武器と防具を貸与したのだ。
国防隊でも、アンデッドに噛まれたり傷つけられないようにカーボン繊維製のプロテクターや特殊繊維製のアンダーウェアーが順次採用されつつあったが、アンデッドのせいで製造能力が壊滅状態のためになかなか配備されず、スポーツ用品や古い甲冑を用いる部隊が大半であった。
松代の部隊は優先的に新装備が配備されているが、他の部隊は後回しというのが現状だ。
そこで朝山駐屯地には、私が武器と防具を貸すことになったのだ。
どういうわけか、異世界の武器と防具の方が、この世界で作られた武器と防具よりも性能がよかったからだ。
ただ異世界の武器と防具は、レベリストでないとレザーアーマーなのに重たくて装備できないといった不思議な現象が発生しており、レベリストでない隊員たちは、私が町で拾ってきた剣道着やスポーツ用品、ゾンビの歯が届かない分厚いアンダーウェアを改良して装備している。
戸高さんと大島三佐、六名のレベリストたちは、定期的に私たちと一緒にゾンビ退治に繰り出していた。
撤退した水無月市や、伴龍高校と元々私、瑠璃さん、楓さんが住んでいた神明町でレベルを上げ、実戦経験を積んでいく。
そして来週には、全員がレベリストになってしまった対アンデッド部隊がここに転任してくることになっている。
隊長は大島三佐ということで、彼らをちゃんと指揮できるように懸命にレベルを上げていた。
「大島の奴、えらく熱心だな。松代の特別個体のこともあって、私は彼とレベルで大きく差をつけられてしまったよ」
朝山駐屯地で一番レベルが高いのは、大島三佐となっていた。
私たちと一緒に、巨大ゾンビとスーパーゾンビを倒したのが大きいと思う。
「対アンデッド部隊をしっかりと指揮するためには、レベルの高さも必要なんですよ」
レベリストの場合、レベルが低い上官に部下が従わないケースがあり、国防隊、警察、消防でも問題になっていた。
それを聞いていた大島三佐は、自分が高レベルになることでその問題を防ぐつもりのようだ。
さすがはエリート。
努力を怠らないのだ。
「国防隊で一番レベルが高いのって、大島三佐なのでは?」
「出世にはなんの関係もありませんけどね」
「そうなんだ」
「ええ、レベルが高いレベリストを出世させると、レベリストではない多くの将校が困るじゃないですか。現在国防隊を動かしている上官の方々はレベリストではないですし。なにより前例がない」
「ははっ……」
大島三佐の言うとおりで、所詮は国防隊もお役所ということか。
それに、この世界からアンデッドが駆逐されれば、レベリストなど必要なくなる。
レベリストたちに平和になった国防隊を任せたくない、というのが本音なのだろう。
今から戦後のことを考えているなんて、お気楽というか、戦略的思想を持っているというべきか。
「対アンデッド部隊が交代となって、彼らのレベルを上げることができたら試したいことがある」
「神明町の解放ですか?」
「さすがは伊作さんだ。勿論安城陸将とは違って、駄目そうなら諦めるけど」
正直なところ私も、水無月市よりも伴龍高校周辺や、私たちが暮らしていた神明町を解放する方が現実的だと思っていた。
地元で土地鑑があるし、私たちがレベルアップのために定期的出向いているが、水無月市よりも町の規模が小さくアンデッドの数も少ないからだ。
たまに港から上陸してくるアンデッドもいるが、今では大幅に減っていたというのもある。
勿論比較論の話で、神明町をアンデッドから解放するのが難しいのは、水無月市と似たようなものだったが。
「神明町の解放かぁ……」
考えようによっては伊作村までの土地に人の壁ができるから、私たちは安全になるのか?
問題があるとすれば、国防隊の一駐屯地が勝手にそんなことをしていいのかってことだな。
そうでなくても、水無月市では失敗していたのだから。
「勝手にやってしまっても、実際に神明町が解放され、機能するようになれば、上としても我々を処罰できないので」
元々戸高さんは上から期待されていないし、安城陸将みたいに功績目当てで無茶はしない。
もしやれたら、くらいの気持ちで言っているはずだ。
「朝山駐屯地とそこに配備された戦力は、解放した神明町を守るために必要ということですか……」
「一度奪還した町を再びアンデッドに奪われたら、大きな失態ですからね。以前放棄した稲美基地を再建しつつ、水無月市に巣食うアンデッドたちに備える、という体で私たちはここに居座ることができるでしょう」
伊作村、神明町、稲美基地、朝山駐屯地を安全な人間の住処として確保しつつ、解放に失敗し、逆にアンデッドたちが攻めてくるかもしれない水無月市からの脅威に備える。
そしてその責任者が、戸高さんというわけか。




