第60話 スーパーゾンビ
「ひぃーーー!」
「危ない!」
熊野一尉を殺したスーパーゾンビが他の隊員に襲いかかろうとしたが、その前に私は動いた。
スーパーゾンビによる一撃で人間の体を貫くパンチを、ミスリルソードで防いだ。
「(とてつもない力だな)」
残念ながら、力比べでは勝てそうにない。
ミスリルソードの刀身で力を滑らせながら逃がしつつ、スーパーゾンビの一撃をかわした。
「そいつから離れろ!」
いったんスーパーゾンビと距離を置きつつ、隊長が死んで呆然としている隊員たちに逃げるよう指示を出しながら、けん制目的で『火炎』を放ってみた。
当たってくれたらラッキーと淡い期待もしていたが、呆気なくかわされてしまう。
「力があって、さらに素早いなんてなぁ……」
拳による一撃で、プロテクターをつけた熊野一尉の腹を一撃で貫いたのだ。
ミスリルメイルを装備していても油断はできない。
魔法も、かなり弱らせるか、至近距離から放たないと当たらないだろう。
「(となると……)」
「幸三さん、格闘戦で倒すしかないよ!」
とここで、未来さんがスーパーゾンビに殴りかかった。
レベルアップによりミスリルナックルを装備できるようになり、それに聖魔法を纏わせた彼女の一撃が、スーパーゾンビの顎を砕いた。
顎を砕かれ、人間なら激痛が走っているだろうが、ゾンビは痛みを感じない。
怯むことなく未来さんに反撃するが、彼女はその攻撃を両腕に聖魔法を纏わせた一撃で防いだ。
「ナイス!」
「アンデッドの攻撃は、聖魔法を纏わせて防げば問題ないみたいだね」
「それができる人は少ないけど」
普通のレベリストは、ゾンビの攻撃が当たる場所に聖魔法を纏わせるタイミングが間に合わず、傷ついてしまう。
そして、そのままゾンビになってしまうのだ。
「自分も、魔力切れには気をつけないとだね」
どうやらスーパーゾンビは、ただ身体能力が超人的なだけのようだ。
格闘戦に優れているようには見えず、現状レベルとステータスでは勝ち目がないはずの未来さんだが、スーパーゾンビと互角に戦っていた。
「ならば私も!」
ミスリルソードを腰に差した鞘に納め、『アイテムボックス』からミスリルナックルを取り出して装着。
後ろから、スーパーゾンビの背中を殴りつけた。
拳に纏わせた治癒魔法の緑色の炎が、スーパーゾンビの背中の肉を焼いていく。
痛みを感じないのは相変わらずで、背中に穴が空いてもスーパーゾンビはそのまま未来さんと戦い続けていたけど。
「いったん回復っと!」
未来さんが魔力回復のためにスーパーゾンビから離れると、ミスリルソードに『火炎』を纏わせた瑠璃さんがタイミングを合わせて斬りかかった。
袈裟斬りにされたスーパーゾンビが瑠璃さんに反撃しようとするが、注意がいっていなかった右斜め前から楓さんの放った『聖弾』が飛んできて、スーパーゾンビの右手の先を焼いていく。
私ももう一撃、背中に拳で一撃入れた。
「卑怯だと思うなよ」
スーパーゾンビが振り返って、私の胴体に無事な左拳で一撃入れた。
ミスリルメイルの上からだったのでゾンビになる危険はないが、とんでもない力だ。
肋骨が折れて内臓に傷がつき口から血を吐くが、今度は別の方向から銀の矢が飛んできて、奴の左手の甲を撃ち抜いた。
晶が上手く攻撃してくれたようだ。
矢には楓さんが聖魔法を纏わせてくれており、スーパーゾンビは左手の先も燃え尽きてしまう。
「痛みに慣れていてよかった」
治癒魔法で腹部のダメージを治しつつ、魔力の腕輪と魔石を使って魔力を回復させる。
その間に瑠璃さんが、『火炎』を纏わせた剣で背中を袈裟斬りにし、スーパーゾンビの背中が焼け落ちていく。
スーパーゾンビを徐々に削っていく作戦は順調だ。
「こいつ、焦っているんですかね?」
「多分?」
一対一ならまずスーパーゾンビに勝てないが、こちらはパーティだ。
ついに大島三佐が、銀の大斧でスーパーゾンビの首を刎ねることに成功した……のだが……。
「くっ!」
「大島三佐!」
両手の先がなくなったにもかかわらず、スーパーゾンビは飛び出た腕の骨で、大島三佐の頬を傷つける。
思わぬ反撃を食らって負傷してしまったので、私は彼にアンチアンデッド薬を投げた。
大島三佐はそれを受け取って、一気に飲み干す。
これでゾンビになる心配はないだろう。
「幸三さん、こいつ、頭がなくなっても正確にこっちを攻撃してくるよ」
「気配で探っているのか?」
頭のないスーパーゾンビは、腕から飛び出た骨と、足を使って正確に未来さんを攻撃し続けた。
彼女は上手く回避したり、体の一部に聖魔法を纏わせて負傷を防ぐ。
さすがは、レベル以上の戦闘力の持ち主だ。
「美空さん!」
大島三佐が彼女に声をかけた。
すぐにその意図を察した彼女が、大島三佐のいる場所までスーパーゾンビを誘き寄せる。
すると、いつの間にか大島三佐が指揮を引き継いだ対アンデッド部隊が、一点集中で火炎放射器を発射。
未来さんは、自分が火炎に包まれる前に大きくジャンブして上手く逃げ仰せており、スーパーゾンビだけが火達磨となった。
「なかなか燃え尽きないなぁ」
全身真っ黒になって燃え続けるスーパーゾンビであったが、なかなか燃え尽きない。
さすがはスーパーゾンビというべきか。
「こうなれば追加だ!」
「トドメです!」
「食らえ!」
「しぶといなぁ、こいつ」
火達磨になりつつも、なかなかスーパーゾンビは倒れなかった。
追加で大島三佐と楓さんが聖魔法を、私が治癒魔法を、瑠璃さんが『火炎』魔法を、晶が聖魔法を纏わせた銀の矢を放ち、これでようやくスーパーゾンビは完全に燃え尽きて、骨だけとなった。
そして残った巨大ゾンビの胴体部分も、肉が溶け去って骨だけとなる。
やはり巨大ゾンビは多くのゾンビが合体していたようで、数百体分の骨が残された。
「終わった……」
「レベルが上がった」
「強敵でしたからね」
「おじさん、オレ、レベル100を超えたよ」
だとすると、晶もミスリル製の装備を使えるようになったはずだ。
持っているミスリル装備の中で、サイズが合いそうなものを見繕っておこう。
「大島さん……は、いいのかな? あれ」
「まあ、いいんじゃないの?」
さすがはエリート将校というべきか、大島三佐は後輩である熊野一尉がスーパーゾンビに殺されたあと、恐慌状態に陥った対アンデッド部隊を掌握。
火炎放射器による集中攻撃で、スーパーゾンビ討伐に大きく貢献したのだから。
一つ不思議なのは、大島三佐はマスクをつけたままなのに、隊員たちが素直に彼の命令に従っていることだ。
「顔は隠していても、将来を嘱望されたエリート将校ってことなのかな?」
「「「「「「「「「「大島三佐!」」」」」」」」」」
なんだ、とっくに正体がバレていたのか。
大島三佐は、対アンデッド部隊の隊員たちに名前で呼ばれていた。
「俺は大島三佐じゃない! 謎のマスクレベリストだ」
「お立場上、正体をあかしたくないのはわかりますけど、隠しきれていませんから! それよりも、我々もレベリストになったようです」
「数字も確認できますから」
「なんと!」
隊長が殉職した……国防隊に戦死の概念はないからだ……対アンデッド部隊の指揮を大島三佐が引き受け、スーパーゾンビ討伐に参加したので、隊員たちにレベリストの資質が現れたのだろう。
彼らは間接的に、私のパーティに参加したということか。
大島三佐が驚いているのは、素直に喜べないからだと思う。
徐々にレベリストとなる人が出てきているが、まだ数は足りない。
私と特別個体討伐に参加し、倒すことに成功したらレベリストとなれるなんてことが知られると。お上や国防隊に私が使い倒される未来が見えてしまったからだろう。
それが最後までまっとうできればいいが、私は自分が嫌だったら逃げてしまうし。それを防ぐ手がないことを大島三佐は理解しているのだから。
「仕方がない。上手く誤魔化しましょう」
「そんなことできるんだ……」
さすがは、エリート将校。
その能力を、出世しないようにも使える能力があるってことか。
「お前ら、朝山駐屯地に来い。松代で使い潰されたくなければな」
「……そうします」
「熊野一尉は功名心が強すぎて、いつ無茶をさせられるか心配だったんです」
「向上心があるのはいいことだが、熊野の場合は功名心の方が強かったからな」
「そうですよね」
「だから死んでしまいましたけど……」
隊員たちも、レベリストだからという理由で国防隊に使い潰されることを恐れているようだ。
彼らも国民を守るために戦うことを恐れていないが。安城陸将のような、自分の出世のためなら隊員の命なんてどうでもいいと思っている上官には利用されたくないと思っている。
そして、大島三佐はそういう人ではないと、部下たちから信用されているのがわかった。
「大島三佐!」
「くっ、熊野一尉が!」
「起き上がった!」
大島三佐と隊員たちが話をしていると、死んだ熊野一尉がゾンビとなって復活した。
少し早いが、それだけ未練が強かったのだろう。
「彼には可哀想なことをしたな」
アンチアンデッド薬は、生きている人にしか効果がない。
だから、スーパーゾンビに胸を貫かれて即死した熊野一尉を救うことはできなかった。
いくら私が異世界で魔王を倒した勇者でも、死者の蘇生はできない。
ましてや今の私のレベルは、最盛期にまったく及ばない状態なのだから。
「伊作さん、私が倒しましょうか?」
「後輩を倒すのは嫌でしょう? 私は彼と面識がないから」
私は、熊野一尉のゾンビを一刀両断に斬り捨てる。
斜めに斬り割かれた熊野一尉のゾンビは緑色の炎に包まれ、それが消えると骨だけが残された。
「巨大ゾンビやスーパーゾンビと熊野一尉の骨が、スケルトンになるまで待つか……」
そのまま放置すると、松代の町に迷惑がかかるからな。
そして数時間後、骨から発生したスケルトンもすべて倒してから、私たちは『移転』で伊作村へと帰ったのであった。




