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第59話 巨人ゾンビ

「おじさん、オレはどうすればいいのかな?」


「銀の矢を命中させて、巨大ゾンビの体を削っていけ! あいつは多分、多数のゾンビの集合体だから」


「わかったよ」


「遠慮せずに、矢が足りなくなったら言ってくれ。撃って撃って撃ちまくるんだ」


「了解」




 松代を踏み潰そうと迫ってくる、巨人ゾンビの討伐を開始した。 

 まずは遠距離から、晶が銀の矢を放ち続ける。

 事前に楓さんが銀の矢に聖魔法を込めていたため、命中する度に聖魔法特有の青白い炎が上がって巨人ゾンビの体を焼き落としていく。

 だがその巨体ゆえか、体が削れても歩みをなかなか止めなかった。

 体が一部欠けても、ゾンビには痛覚がない。

 だから、燃やし尽くすのが一番有効な戦術だった。


「足元を狙ってくれ! 移動速度を落としたい」


「わかったよ、おじさん!」


 晶は銀の弓で、巨大ゾンビの足を狙っていく。

 そこが嫌らしく、巨大ゾンビは足に刺さった矢を取ろうとその場で足を振り払い始めた。

 楓さんが聖魔法を纏わせている銀の矢なので、どうせ足の甲に刺さると青白い炎を発しながら周辺の腐った肉を焼いていき、足に穴を開けて落ちてしまうのだけど。

 足の甲に何箇所も穴が開いた巨大ゾンビは歩みが止まってしまい、作戦の第一段階は成功だ。

 私は晶に、巨大ゾンビの足元にどんどん矢を放てと命じる。


「いくぞ、みんな!」


「「「「「おおっ!」」」」」


 晶には嫌がらせと足の削りを続けてもらい、私たちも巨人ゾンビの足元を攻撃していく。

 

「はい、晶ちゃん」


「サンキュー、楓さん」


 楓さんは、聖魔法を込めた銀の矢を絶え間なく晶に渡しつつ、自分も聖魔法を放って巨大ゾンビの足の肉を削っていった。


「はぁーーー!」


 未来さんが、巨大ゾンビの踝を拳や蹴りで集中して狙い。


「倒れろぉーーー!」


 瑠璃さんが火魔法を纏わせた剣撃で、足首を斬り落とそうとする。


「これ以上進ませるか!」


 大島三佐は、私があげた銀の斧でやはり巨人ゾンビの足元を狙っていく。

 まずは歩行不能にして、松代が蹂躙されないようにする。

 その作戦に忠実に動いていた。


「……やってみるか……」


 私は、これまで異世界でもやったことのない攻撃をしてみようと思った。

 それは、ゾンビが巨人だからこそできる技だ。


「食らえ!」


 私は『火炎』魔法を、巨人ゾンビの金的な急所に向けて放った。

 これは賭けだ。

 ゾンビが人間サイズの時は、そんなことを試すまでもなく倒せたし、スケルトンとレイスには金的な急所がなかったので試せなかった。


「さて、どうなるか……」


 もし駄目なら、みんなと同じく足元を狙って歩けなくすればいい。

 ゾンビは食欲がなくなっていないというか、それが一番強いので、匂いのある食べ物を、なんなら腐っていても食べてしまう。

 睡眠は取らない。

 では、残りの人間の三代欲求、性欲はどうなのか? 

 巨大ゾンビは見た目男性のようなので、ゾンビになってもそこは人間の急所ではないのか?

 そう考えての、急所攻撃であった。


「どうだ? 参ったか!」


 『火炎』を食らった巨大ゾンビの股間が燃え上がり、それが消えると巨大ゾンビの股間が消滅していた。


「成功したか?」


「モウ! ナニスルノヨォーーー! ニンゲンハ、ヒトリノコラズブッコロシテヤルンダカラァ!」


「ええっーーー!」


 まさか、特別個体の股間を焼いたらオネエ口調になってしまうなんて……。

 だけど発言内容からして、人間との共存は不可能だろう。

 最初からアンデッドとの話し合いなんて、私は微塵も期待していないけど。

 それよりも、この巨人ゾンビを松代に差し向けた黒幕が気になるなぁ。


「やはり、股間がなくなっても気にならないのか……」


 元々ゾンビには痛覚がない。

 股間の大切な部分がなくなっても同じようだ。

 頭を斬り落とされても普通に動けるゾンビが、股間攻撃で大ダメージを食らうはずもなく、だからこそ厄介だとも言えた。


「結局物理的に足を削って、動けなくするのが一番みたいだな。攻撃の手を緩めるな!」


「「「「「了解!」」」」」


 私が指示を出すと、全員が巨人ゾンビの足を狙って攻撃を続けた。

 魔力が尽きる前に、魔力の腕輪に用意していた魔石を嵌めて魔力を回復させるのを忘れない。

 足への攻撃を続けていくと、ついに巨人ゾンビの両足の膝下がすべてなくなってしまい、バランスを崩して地面に倒れ伏した。


「巨大だけど、意外と弱い? 次は目だ!」


 確かにゾンビは頭を斬り落としても死なないが、目を潰せばなにも見えなくなる。

 そして、その損傷を回復させる手段はなかった。

 一度倒されてスケルトンになると、また目が見えるようになるという謎はあるけど。


「はぁーーー!」


「いきます!」


 私と一緒に戦っている期間が一番長く、戦い慣れした瑠璃さんが剣から『火炎』を、楓さんが私がプレゼントした杖から『聖弾』を飛ばし、ほぼ同時に巨人ゾンビの目を潰した。

 立てず、目も見えなくなった巨人ゾンビがその場で暴れ始め、まるで地面が地震のように揺れる。


「倒すまで削り続けるしかない! 攻撃を続けるんだ!」


 私たちは止めることなく、暴れる巨大ゾンビに攻撃を続ける。

 腕、体、顔と、ただひたすら巨大ゾンビの身を削っていく作業だ。


「伊作さん、このまま続けていけば倒せそうですね」


「巨大なだけで、こいつはそんなに強くないな」


 これまでの特別個体は、私たちよりもはるかに強くて苦戦したけど、こいつはただ大きいだけで倒すのに時間がかかる、というのが正直な感想だった。


「そんな特別個体もいるってことで」


 そんなことを考えながら巨大ゾンビに攻撃を続けて削っていると、突如四方八方から火炎が放たれ、巨大ゾンビの体を焼いた。


「民間人諸君! ご苦労である! あとは我々に任せたまえ」


「はあ……」


 どうやら、松代の対アンデッド部隊が出動したようだ。

 さすがに気がつくか……。

 巨大ゾンビを包囲して、全方位から火炎放射器で炎を浴びせかけていた。

 できれば事前に攻撃することを教えてほしかったけど、対アンデッド部隊の隊長は世界で一番自分が偉いといった感じの表情を浮かべていたので、絶対に揉めそうなので黙っていた。

 この手の輩と言い争っても、ろくなことはないのだから。


「それはご苦労さまです」


「あとはお任せします」


 私と大島三佐は、言われるがままに巨大ゾンビにトドメを刺す役割を対アンデッド部隊に譲った。

 あきらかに手柄の横取りだったが、別にそんなものに興味はないので問題ない。

 大島三佐も同じ意見というか、どうやら対アンデッド部隊の隊長と知り合いのようで、マスクを着けた自分の正体を知られないように、すぐにその場から立ち去りたい雰囲気を漂わせていた。


「(熊野一尉にバレずに済んだかな?)」


「(大島三佐、お知り合いですか?)」


「(ええ、あの対アンデッド部隊の隊長は俺の後輩なんです。かなり功名心の強い男でして、水無月市攻略失敗後に対アンデッド部隊を率いる指揮官の一人になりました)」


「(納得しました)」


 だから素早く自分の部隊を動かし、私たちから巨大ゾンビにトドメを刺す権利を奪ってでも特別個体を撃破して、それを自分の出世に繋げようという魂胆か。

 完全に手柄の横取りなんだけど、とにかく先に自分の部隊が巨大ゾンビを倒してしまえば、あとで民間人のレベリストが文句を言ってきたところで、国防隊の権威で誤魔化せばいいと思っているのだろう。

 異世界でも別世界から召喚された私が勇者であることが気に入らず、私から手柄を奪ってまで自分が勇者になり替わろうとした貴族がいたのを思い出した。

 

「幸三さん、いいの?」


「まあいいでしょう。だけど……」


 後ろで、対アンデッド部隊が巨大ゾンビにトドメを刺し終わるまでは見届けるつもりだ。

 そうすれば私たちにもこいつを倒した経験値が入るし、対アンデッド部隊が討伐に失敗してもフォローできるからだ。

 せっかくの特別個体なので、経験値を譲るほどお人好しではないというのが一番大きいか。


「大丈夫なのでしょうか?」


「一応警戒しているけど、よほどのことがないと大丈夫だと思う」


 すでに巨大ゾンビは胴体だけになっており、今も四方八方から火炎放射器で焼かれていたからだ。

 これでは反撃する手段もなく、ただその身を焼かれる一方だろう。


「なんかあの指揮官さぁ。それがわかっていて、オレたちに手を引かせたっぽいな」


「だろうね」


 熊野一尉という人は、少なくともアンデッドについてちゃんと勉強しているだけ、安城陸将や彼の部下、エリート参謀たちよりマシであった。

 対アンデッド部隊の本格デビュー戦である水無月市解放作戦は、失敗に終わった。

 新任の部隊長としては、巨大ゾンビ討伐という功績が欲しいのだと思う。


「大人って大変なんだな」


「そうだね」


 晶とそんな話をしている間にも、巨大ゾンビは火炎放射器で焼かれ続けていた。

 そして、もうそろそろ巨大ゾンビも限界かなと思われたその時。


「幸三さん、あそこなんか動いてない?」


「動いている?」


 すでに黒焦げで胴体だけなっていた巨大ゾンビが、大きく動くことはあり得ないはず。

 それでも瑠璃さんが指さした方を見ると、ちょうどお腹の部分が上下に激しく盛り上がっているところだった。


「呼吸?」


「未来さん、ゾンビは呼吸しないから」


「ということは、お腹の中になにかいるの?」


「そういうことになるのかな? 出るぞ!」


 徐々に激しく動くようになった巨大ゾンビのお腹であったが、ついにお腹の皮が破れ、そこから通常サイズのゾンビが出現した。


「「「「「「「「「「新手だ!」」」」」」」」」」


 巨大ゾンビを焼いていた対アンデッド部隊の隊員たちが騒ぐが、隊長である熊野一尉が部下たちを一喝する。


「新手がいようが、ゾンビなら火炎放射器で焼ける! 狼狽えずに奴も焼いてしまえ!」


 熊野一尉の命令で数名の隊員が、新たに出現したゾンビに火炎放射器を向けた瞬間だった。

 そのゾンビは素早く火炎を回避し、熊野一尉の目前に迫る。

 そして……


「なっ……ごばっ……」


 拳の一撃で熊野一尉の胸をぶき抜き、致命傷を受けた彼は口から血を吐きながら倒れ伏した。


「隊長ぉーーー!」


 あっという間に部隊長を失った対アンデッド部隊の隊員たちは、一瞬で恐慌状態に陥ってしまう。

 あとは残った反撃すらできない胴体を焼き尽くすだけで楽勝だと思っていたので、余計にショックが大きいのだろう。

 

「(奴は、対アンデッド部隊を率いている隊長という存在を理解しているのか!)」


 そして最初に指揮官を殺すことで、対アンデッド部隊の隊員たちを恐慌状態にしてしまった。

 見た目は普通のゾンビなのに、圧倒的に強く、知性もある。

 まさに、『スーパーゾンビ』とも言うべき存在だった。

 どうやら連戦になりそうだ。

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― 新着の感想 ―
 おねぇ言葉を吐いたし、優勢だったから、完全に油断しました~  熊野一尉を、ワタシは笑えないですw  『手柄』のトレード、やり取りは否定しません。有用な時もあるでしょう。  だけどなめきって、横取り…
この大尉もゾンビ落ちしそう・・・。
まあ芯にリッチ相当の個体が居ると思った
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