第58話 巨人
「やっぱり、お土産どころじゃないか」
「売ってなくもないですよ。味と品質は保証できませんけど……ほら、あそこにお土産物屋が」
もしお土産が買えたらと思って、大島三佐が知っているお店でお土産を見てみる。
売れ残ったペナントや、キーホルダー、湯飲みや手拭いは、誰も欲しいという表情を浮かべない。
地元銘菓は綺麗に包装されたものはなく、一つ一つバラ売りされていた。
地方のお土産とはいっても、材料、包装紙、食品添加物は別の場所から仕入れているところが大半だ。
それが手に入らないので、いかにも手作り感満載な饅頭だけが売られる事態となっているようだ。
「今手に入る材料で作れても、美味しくなかったり、長持ちしなかったりだろうから」
「そんな感じですね」
お土産品の地元銘菓でも、裏の材料表記を見れば、真の意味で地元食材だけで作っているものは少ない。
添加物を批判する人も多いが、それがない食品は日持ちしないし、美味しく沢山作るのが難しかったりした。
味も安定せず、バラつきが出やすく。着色するのだって、見栄えも美味しさの大切な要素だからだ。
店頭に並ぶお饅頭の数は少なく、あまり美味しそうに見えなかった。
日持ちしないし、今廃棄を出すなんてあり得ないから一度に大量に作らないのだろう。
商品が少ないお土産物屋はえらく寂れており、購入意欲をなくしてしまった。
「帰ろうか?」
車を使えば、貴重なガソリンを消費してしまう。
山地が多い長野で、徒歩や自転車で他の町に移動するのはちょっと勘弁してほしいところだ。
私は普段からアンデッドと戦っていて、運動はしっかりとやっているのだから。
「生存登録という目的は達したので、戻ろうか?」
「そうだね。家が一番だよ」
「家で夕食にしましょう」
「その方が美味しい物も食べられるからね」
「オレも家がいいなぁ」
「大島三佐も食べていくでしょう? 朝山駐屯地まで送りますし」
「ご馳走になります」
これで、すぐに松代に来れるようになったからもういいだろう。
人のいない場所から『移転』で家に戻ろうとしたその時、地鳴りと共に人々の悲鳴があがった。
「何事だ?」
「幸三さん、あそこ!」
瑠璃さんと視線を合わせると、松代を伺うようにゾンビの巨人が現れ、松代に向かってゆっくりと歩き始めた。
そのあまりの巨体に、私たちは息を飲む。
「特別個体……」
「あれで一体なの?」
「みたいですね」
「幸三さん、どうしますか?」
「うーーーん……」
こいつを倒さなければ朝山駐屯地の補給が滞る可能性が高いので、無視はしたくない。
だが、私たちだけで巨大ゾンビを倒せるのだろうか?
それだけが気になった……いや、もう一つ問題があった。
「もし私たちがこいつを倒すと、今後もの凄く日本政府や国防隊にあてにされそうな気がする」
「それはあるよね」
楓さんが私の考えに賛同する。
正直に言わせてもらうと、日本政府や国防隊の上層部は、安城陸将の無謀な作戦を受け入れてしまうような人たちだ。
もし私たちが巨大ゾンビを倒した場合、無理やり国防隊の所属にされて使い潰されかねなかった。
「それは絶対に避けたいですね」
「自分もすでに国防隊を辞めた身だから、もう国防隊で働くのは嫌だなぁ」
「オレもやだ」
「とはいえ、この巨大ゾンビに松代を破壊されると、うちの補給が……」
そしてそれは、戸高さんとはお互い持ちつ持たれつなので避けたいところではある。
私たちが伊作村で暮らせているのは、彼の見逃しのおかげでもあるのだから。
というわけで、なんとかしてゾンビ巨人を倒さないと。
勿論、勝てそうになかったら逃げるけど。
「これを着けて顔を隠すか……」
私が『アイテムボックス』から取り出したのは、プロレスラーが着けるマスクであった。
これで顔を隠して戦うことで、身バレを防ぐ。
単純な手だが、松代に私たちを良く知る人たちがいて、マスクを着けてもすぐわかる、なんてことはないはずだ。
「誤魔化せるとは思うけど……」
「試しにやってみるしかないよね」
「見捨てるのも、罪悪感がありますからね」
「こいつを倒せれば、レベルも上がるだろうし」
「向こうは巨大だから、矢は当たりやすいはずだ」
私たちは顔にマスクを被ってから、装備を着けてゾンビ巨人に挑むことにした。
「あっ、マスクを貸してください」
なぜか、大島三佐も私にプロレスマスクを貸してくれと頼んできた。
「大島三佐は、素顔で戦った方が功績になるのでは?」
「下手に功績を挙げて、松代に戻れって言われたら嫌なので」
「……国防隊の未来は暗い」
この人、将来の統合幕僚長候補と言われていたくらいのエリートだって、戸高さんから聞いているのに……。
「今後も継続してこんなのに襲われるかもしれない、松代の方が前途多難ですから」
これまではゾンビの出現数と被害がかなり少ない松代に、突如特別個体が出現したということは、アンデッドたちが松代を破壊することで日本という国の崩壊を狙っている可能性が高かった。
「(アンデッドを操っている存在……。もしや魔王でもいるのか?)あっ、マスクをどうぞ」
「どうも。ようし、奴を倒すぞぉ!」
魔王がいれば普通の魔物や魔族も出現するはずなので、そうではなく『アンデッドの王』的な存在がいる可能性が高まったのかも。
大島三佐も私からプロレスマスクを借り、合計六人で特別個体の巨人ゾンビに挑むのであった。




