第5話 つい助けてしまった
「……ゾンビばかりだな」
海沿いから山の手を目指して車を走らせているが、ゾンビばかりで生きている人間は一人もいなかった。
すべて倒していると時間がかかるので、今は無視……もできないので!
「すまんな!」
たとえ死んでいたしても、人間を車で轢くのは気分がよくない。
それでも気分がよくないぐらいで済んでいるのは、私が異世界で魔王と戦ったおかげだろう。
私は肉体的な強さと共に、精神的な強さも手に入れた……鈍くなったとも言えるけど。
だから顔色一つ変えないでゾンビを倒せるのだが、それが私にとって幸せなのか、不幸なのか。
それがわかるのは、私の人生が終わる時だろう。
「生きた人間だ!」
もう少しで学校というところで、十名ほどの人間を発見した。
だが彼らは各々、鉄パイプや掃除道具などを武器を持ち、ゾンビ集団と対峙、けん制している最中だった。
強力な火力を用意できない普通の人間が、ゾンビを倒すのは難しい。
このままでは、彼らもゾンビにされてしまうだろう。
咄嗟に助けようと近づいたのだが、私は彼らが伴龍高校の制服を着ているのを確認してしまい、途端にその気が失せてしまう。
彼らにバカされている時の会話が脳内再生され、無意識に動きを止めてしまったのだ。
それでもレベルアップの影響で、彼らの会話が聞こえてしまうのは皮肉というか。
「ちっ! ゾンビが多すぎて、学校近くの民家から食料を取ってくることすらできないとは!」
「生徒会長、どうしますか?」
「ゾンビに対抗できる装備を準備してから、もう一度挑戦しよう」
「ですが、今となっては逃げるのも難しい状態で……」
「手ならあるさ」
レベルアップの影響で、遠くのものがよく見え、聞こえるのも考えものだ。
学生たちを率いている生徒会長……その顔には見覚えがあった……が邪な表情を浮かべたと思ったら、一人の生徒を強く押して転倒させた。
仕事の関係で、生徒会長がどんな人物かくらいは知っていた。
私への態度はあまりよくないが、こんなことをする人物には見えなかった。
つまりそれだけ、彼らが切羽詰まっている証拠だろう。
「今のうちに逃げるぞ!」
「生徒会長?」
「大を救うために、小を犠牲にすることを決断する。これもリーダーの役割なんだよ」
生徒会長と他の生徒たちは一人の女子生徒をゾンビへの囮とし、彼女を見捨てて全速力で逃げ出した。
「そこまでやるか!」
白井さんではないし、伴龍高校の生徒なので見捨ててもよかったのだが、私もなかなか非情に徹しきれない部分があるようだ。
車を全速力で走らせ、ゾンビたちに囲まれてしまった女子生徒の横に車をつけた。
数体のゾンビが跳ね飛ばされたが、相手はゾンビなので問題ない。
「あなたは……」
「乗れ! 早く!」
「でも私は……」
「いいから! 早く!」
「はいっ!」
伴龍高校の生徒は、高慢ちきで鼻持ちならない生徒ばかりだと思っていたのに、随分と大人しい子だなと思った。
用務員をやっている私の記憶に残らない生徒ということは……少なくとも私と話をしたことがないはずだ。
改めて助手席に乗り込んだ子を見てみると、艷やかな黒髪を腰近くまで伸ばしており、眼鏡をかけていて知的に見えるがかなりの美人だ。
ギャルの白井さんとは真逆のタイプで、こういう子が好みの男性も多いかも。
そんなことを考えながら私は車を走らせ、無事にゾンビの集団を撒くこと成功した。
「ひとまずは安心……(でもないか……)」
この子を含めて運良く学校に逃げ込めた生徒は多いみたいだが、先ほどの生徒会長たちの会話によると、食料に不安があるのだろう。
そこで生徒会長がリーダーになり、学校近くの住居から食料を調達しようとしたがゾンビの集団に襲われてしまい、生徒会長たちはこの子を囮にして逃げてしまった。
「(そんな学校には戻りにくいよなぁ……)」
だからといって、この子を私の家に連れていくのかという問題も出てくる。
私は一人で暮らしたいからだ。
「あの……。私を降ろしてください! 私はもう駄目です!」
「ええと……なにが駄目なのかな?」
「これを見てください!」
女の子が私に見せた腕には、ゾンビに噛まれた跡があった。
「助けてくださってありがとうございます。でも私は……」
ゾンビに噛まれるとゾンビになってしまうことを知っているということは、すでにそういう人を見ていたのか。
確かにゾンビに嚙まれたり引っ掻かれると、その人もゾンビになってしまう。
ゾンビの感染力は強く、だから異世界でも最弱のアンデッドだったのに、厄介な魔物として知られていた。
「私はもうすぐゾンビになってしまいます。私のことを助けてくれた人を襲いたくないから……」
「(この子、いい子だな)」
あの学校の生徒とは思えない……よく見たら制服が違っていた。
ついでに、胸の部分の大きな膨らみも……。
白井さんもスタイルがよかったけど、この子の胸の大きさは彼女を遥かに凌駕していた。
「君は……」
「坂田 楓です」
「坂田さんは、伴龍高校の生徒じゃないようだけど……」
「三日前に突然海からゾンビが上陸してきて、町の住民は必死に逃げていたんですけど、次々とゾンビに噛まれてゾンビになってしまって……。数少ない人間だけが、伴龍高校に逃げ込めたんです」
「そういうことだったのか……」
伴龍高校に通っている生徒はお金持ちの子弟ばかりのため、不審者の侵入に備えて校門と塀が高く頑丈に作られていた。
そのために安全と思われ、生き残った町の住民たちも急ぎそこに逃げ込んだのだろう。
だが……。
「町の住民を入れてしまったがために、食料がなくなるスピードが早まった」
「はい。そこで、いくつかグループを作って学校の近くにある家やお店で食料や生活に必要なものを集めようって話になって、私は伴龍高校の生徒会長のグループに参加したんです」
そうしたら運悪く、ゾンビの群れと遭遇してしまった。
生徒会長は一人を囮にして逃げる策を考え、囮役に他校の生徒である坂田さんを選んだわけか。
これを、愛校精神溢れるといっていいものか……。




