第53話 楓の計画
「今日はおじさんと一緒にお風呂じゃなくて、瑠璃さんたちとお風呂だね」
「晶は女の子だから、幸三さんとではなく私たちとお風呂に入りましょう」
「みんな、おじさんとお風呂に入っていたんでしょう? どうしてやめたの?」
「物理的な理由かな?」
「楓さん、なにそれ?」
「幸三さんって、真面目な人だから。堅物とも言うかな? 自分、そういう男性は嫌いじゃないけど。幸三さんは恥ずかしがり屋さんなんだよ、きっと」
「ふーーーん」
最初はよく幸三さんとお風呂に入っていたのに、最近では上手くかわされるようになってしまいました。
せっかく私の裸で興奮した幸三さんが私を押し倒して既成事実となり、そのまま結婚という流れにする作戦だったのに……。
さらにしばらくすると、幸三さんが私たちの裸を見てもあまり興奮しないことに気がついてしまいました。
私たちの裸を見て興奮しないなんて、そんなことあるのかなって思っていたけど、どうやらレベルアップによって興奮しないようにしているらしく。レベルアップは生き残るために必要だけど、ここで思わぬデメリットが露呈したというか……。
そんなことがあって、なかなか幸三さんとそういう関係になれなかったのです。
最近では、瑠璃さんと未来さんと協力して、三人で幸三さんの奥さんになろうと頑張っているけど、なかなか上手くいっていません。
幸三さんは私たちを共に戦う仲間、同じ村で暮らす家族のように思ってくれるようになっていて、それはとても嬉しかったのだけど、少し違うとも思います。
私は、幸三さんの奥さんになりたいのに……。
そんな私たちに、新しい仲間が加わりました。
お宝探しをしていた町にある児童養護施設で、一人隠れるように暮らしていた御影晶ちゃんです。
同じ施設で暮らしていた子供たちと職員さんたちはゾンビになってしまったけど、晶ちゃんは機転を利かせて天井裏に逃げ延び、そのあとはゾンビに見つからないよう、隠れて暮らしていたと聞きました。
晶ちゃんは、私たちが倉庫に入って保存食回収しようとした時、それを奪われまいと矢を放ってきたので、ようやくその存在に気がついたくらい上手く隠れていたのです。
その後は誤解が解けて仲良くなり、幸三さんが子供をゾンビが溢れる無人の町に置いておけないと、この村に連れて来ました。
それはとてもいいことなんですけど、一つ想定外のことがあって。
なんと、晶ちゃんは女の子だったのです。
私たちは晶ちゃんが男の子だと思ったから、幸三さんと一緒にお風呂に入ることを不自然に思わなかったけど、女の子だとわかってしまったらそれは駄目です。
じゃあ私たちはいいのかって話になるけど、私たちは大人……もうすぐ成人だから!
でも晶ちゃんは子供で、それなのにもし幸三さんが晶ちゃんの裸に興奮したら困るので、私たちと一緒にお風呂に入ることが決まった次第です。
晶ちゃんが女の子だと判明したあと、幸三さんは優しいから、レディーファーストで私たちが先にお風呂に入るようにとも。
そうすれば、幸三さんがお風呂に入っている時に、私たちが乱入しないと思われたのもあるみたい。
もう私たちはそこまでしないし。こうなったらもっと内面から幸三さんに好きになってもらい、幸せな結婚生活を送りたいと願うようになっているのに。
「オレは、毎日お風呂に入れれば幸せだけど」
「それもそうね」
世界中にゾンビが出現したせいで、人々の生活に大きな支障が出ていました。
食料、綺麗な水、生活に必要な物資などが不足し、社会インフラは断ち切られてしまい、大半が復旧の目処すら立っていない。
人々はアンデッドに怯えつつ、生きるために必要な食料と水、今は冬なので体を温めるものの確保に必死だったのです。
私たちは幸三さんのおかげで毎日お風呂に入れますし、家の中もエアコンが動くので十分に暖かい。
ゾンビから逃げて来た避難民たちの中には、まったくお風呂に入れない人がいるとも聞きます。
なかなか水道が復旧せず、電気やガスも共に不足していたからです。
山で薪を集める人が増えていたけど、今後は都市部にいるゾンビがいつ山谷に出現するようになるかわからないので、いつまで安全に薪を拾えるかわかりません。
なにより、山には所有者がいます。
所有者が生き残っていて、勝手に薪や食べられる野草を採取していた人たちと揉めて、殺傷沙汰もあったとか。
なにより、いくら生き残った日本人が二千万ほどだとしても、みんなで薪を拾っていたらすぐに足りなくてなってしまうはず。
薪を確保するために木を切り倒し始めたら、あっという間にハゲ山になってしまうのですから。
そんな外の世界と比べたら、私たちは幸せだと思います。
「……」
「どうかしたの? 晶ちゃん」
「楓さんの胸、大きい。オレもあと数年で胸が大きくなるかな?」
「なるんじゃないかな?」
以前は、胸なんて大きくても邪魔なだけだと思っていたけど、今となっては胸を大きく産んでくれた両親に感謝しています。
だって幸三さんは隠そうとしているけど、たまに私の胸に視線が行くから。
「(それはすなわち、私のことを女性だと思ってくれている証拠だし)」
幸三さんが私に手を出さないのは、こんな状況だからというのが大きいと思います。
もう少し状況が落ち着けば、きっと私をお嫁さんにしてくれるはず!
「(その時、私の胸の大きさを考えたら、瑠璃さんや美空さんよりも有利?)」
肩が凝るだけで、これまで胸が大きくてもいいことなんて一つもなかったけど、真面目な幸三さんが視線を向けるってことは、大きな武器だってことに気がついたのですから。
形はいいけど二人の胸は普通なので。
「(ニヤア)」
「なに? 楓、どうしたの? はっ! さてはあなた、自分が胸の大きさで優位に立っていると思ってるのね?」
「いえ、そんなことは……」
瑠璃さん、勘がいいなぁ……。
どちらにしても、私は今後、この胸の大きさを有効活用していこうと思います。
「実は瑠璃ちゃんよりも胸が少し大きい自分、少し安堵」
「美空さん、私とそんなに変わらないじゃないですか! それに幸三さんは、胸の大きさだけで奥さんを選ばないから!」
「それはどうでしょうか? 男性はほぼ全員が女性の胸を見てしまう生き物なのだそうなので」
この前、本でそんな記述を読みました。
男性の視線が女性の胸に向かうのは、生物的な本能からきていると。
そして女性の胸を見ない男性などおらず、そうでない人は誤魔化すのか上手なだけだって。
なにより私の胸を見るってことは、私と子孫を残す……つまりは子供を作る意思があるってことだから。
「(今後、この世界が平和になるかわからないですけど、家族で幸せに暮らすことはできるでしょうから)」
なるべく早く幸三さんと結婚して、子供は三人くらい欲しいですね。
夢が広がります。
「オレの胸、大きくなるかな? 大きくなったら、おじさんは喜ぶのかな?」
「「「……」」」
もしかして、晶ちゃんも幸三さんとの結婚を狙ってる?
現在晶ちゃんって中学一年生だから、五年後ならあり得なくない?
幸三さんは晶ちゃんを娘のように扱っているけど、五年後も経てば大人になるだろうし。
「(それはそれでいいのかも)」
アンデッドが溢れる世界でクソ真面目に一夫一婦制を語ったところで、という思いがありますし、幸三さんを巡ってパーティメンバーと争っても生存率を下げるだけ。
それに、瑠璃さんも美空さんも今では大切な仲間にして友人だから。
それなら下手に争わず、私たちだけで幸三さんを独占した方がいいに決まっている。
「(今後は、幸三さんに他の女性が惚れないように気をつけるけど)」
そこはあとで、瑠璃さんと未来さんにも話して協力し合わないと。
そうしなければ、幸三さんを物にしようとする女性は増える一方になるはず。
今のうちに対策しておけば、幸三さんの奥さんは一桁くらいで済むかもしれないし。
幸三さんの魅力が他の人たちに知れ渡り、評価されるのはいいけど、彼のことがこの世で一番好きなのは絶対に私。
そこは譲れません。
あの時、ゾンビの群れから私を救ってくれた幸三さんは、私の王子様なのですから。




