第52話 四人目は……
「本当にハンバーグだ!」
「レトルトなのは勘弁だけど、ここはゾンビのいる町の中だから。家に帰ったら、手作りのハンバーグを作ってあげよう。コーンスープ、フライドポテト、ご飯、パン、サラダもあるよ」
「ありがとう、おじさん。いただきまーーーす!」
ゾンビがこの世界に出現した七ヶ月前。
この子はその時、咄嗟に児童養護施設の天井に逃げ隠れおおせた、おかげで生き残ったそうだ。
だが、他の子どもたちや職員は逃げきれずにゾンビにされてしまった。
「そのあとは、ねぐらを児童養護施設の上の階の天井裏に移して、時おりゾンビに気が付かれないように、町のあちこちから食べ物や物資を集めて生き延びていたんだ。そんな生活を送っていたら、突然数字が見えてさ」
「それはいつ頃かな?」
「ゾンビが出現して一週間後くらいかな」
この子のレベリスト資質の具現化は、かなり早いな。
これからレベリストの才能が具現化する人たちとなにが違うのだろうか?
「デザートもあるよ。コンビニスイーツだけど」
「オレ、児童養護施設育ちだから、コンビニスイーツはご馳走だから」
「遠慮なく食べなさい」
こうやって子供に食事やデザートを勧めていると、独身なのにまるでお父さんになった気分だ。
「武器は近くの高校のアーチェリー部から拝借して、最初は弓の弦すら引けなかったけど、そのうち矢を放てるようになってさ。すると矢に青白い光が纏わりつくようになって、ゾンビに当たったら燃え上がって骨になったんだ」
この子は、自分の特性が『魔法弓師』であることに本能で気がついたのだろうか?
だから学校からアーチェリーと矢を持ってきた?
偶然かもしれないし、あとで資質を調べて育成計画を立てないと。
「でも、ゾンビの骨から復活するスケルトンは倒せなかった。だから、なかなか町の外に出られなくてさ」
この子は、児童養護施設の天井裏に住処を作って一人生き延びてきた。
だがたった一人で低レベルゆえに町から脱出できず、すでに食べ物は保存の利くものばかり。
それなのに私たちが保存食の回収を始めたから、警告するために矢を放ったというわけか。
「それはすまなかったけど、ここにもじきに他のレベリスト、君のようにアンデッドを倒すとレベルが上がる人がやってくるようになるはずだ。彼らと揉めないためにも、ここを出た方がいい」
「でもオレには家族がいないから、他のところに住めないんだ」
少年のデザートを食べていた手が止まり、表情を曇らせた。
たとえここがゾンビだらけの町の中心部でも、彼の居場所は住んでいた児童養護施設しかなかった。
もしこの町からの脱出に成功したとしても、どこが安全かもわからない。
家族もいない自分が、ちゃんと受け入れてもらえるか不安もあるのだろう。
「(この子は、頭がいいんだな)それなら、私たちが住んでいる村に来ればいい。私たちとパーティを組んでレベルを上げてもっと強くなれば、将来村を出て一人立ちもできるだろうから」
「いいのか?」
「私たちも家族が行方不明でね。同じような境遇の人たちとの共同生活だと思ってくれたら」
「オレ、その村に住むよ!」
「じゃあ、あとは夕方まで頑張るか。一緒に戦ってレベルを上げよう。ところで君の名前は?」
「御影 晶」
晶か。
いい名前だな。
それにこの子、今は背が低くて痩せているけど、顔が整っているから将来はイケメンになるだろう。
食事が終わると、あとは夕方まで晶を守りながらゾンビとスケルトンを倒し、たまに矢を放たせてその腕前を確認しながら一日を終えた。
『移転』で村に戻ってからは、晶は七ヵ月近くお風呂に入っていなかったので急ぎ入浴させることに。
「晶の次は、幸三さんと私たちで一緒に入りましょう」
「それは……」
あれからなるべく、瑠璃さんと楓さんと一緒にお風呂に入らないよう努力しているのだけど、なかなか阻止できなかった。
「瑠璃ちゃんと楓ちゃん、伊作さんと一緒にお風呂に入っているんですか?」
「ええと……まあ、そんな感じで……」
第三者である美空さんに誤解されそうなので、つい私は口籠ってしまった。
「共に命を懸ける仲間なので!」
「これもチームワークを強化するためですから」
「……じゃあ、自分も一緒に入ろうかな」
「なぜそうなる!」
美空さん、ここに来る前に混浴の習慣でもあったのだろうか?
一緒にお風呂に入るのが三人になってしまうと困るので、どうにか切り抜ける方法を……。
『三人は未成年で……美空さんはもう成人か……ともかく娘みたいなものだから!』と強く思い込んで冷静さを保っていると、とてもいいアイデアを思い付いた。
「私は晶と一緒にお風呂に入ろうかな。耳の後ろとか、ちゃんと洗ってあるか確認しないと」
瑠璃さんも、楓さんも、美空さんも、いくら子供でも晶と一緒にお風呂には入らないだろう。
私は男同士なので問題ない。
急ぎ風呂場に向かうと、やはり三人は脱衣所に入ってこなかった。
「上手くいったな。晶、久しぶりのお風呂はどうだい?」
服を脱いで浴場に入ると、そこには丹念にボディーソープで体を洗う晶がいた。
「久しぶりのお風呂、最高だよ」
そう言いながら、全身に泡立てたボディーソープをシャワーで洗い流す晶。
「(やっぱり背が低くて痩せ気味だから、大人の義務としてちゃんとご飯を食べさせてあげないとな)」
などと思いながら晶の体を確認していたのだが……。
「(あれ? 鳩胸? えっ? 男の子にとって大切な物が見えない? ない?)」
あらためてよーーーく晶の体を確認すると、服を着ていた時にはわからなかったけど、かなり女の子っぽい体つきをしていた。
「おじさん、オレが背中を流してあげようか?」
「その前に、もしかして晶って女の子?」
「見ればわかるじゃん。おじさん、すげえ筋肉だな。やっぱり鍛えているんだ。オレも頑張ってムキムキになるよ」
「……やり過ぎはよくないかも」
その後、私は恥ずかしさで心がいっぱいのまま晶に背中を流してもらい、一緒に湯船に入った。
確かに晶と一緒にお風呂に入れば、三人と混浴しなくて済む……いや、晶が女の子であることが判明したので、もしかしたら今後私は、女性四人と混浴することになってしまうのか?
「……晶、女性って混浴したいものなのかな?」
「どうかな?」
晶はまだ子供なのでわからないか。
わからないよな?
「オレはおじさんとお風呂に入るの楽しいよ。このお風呂、広くて最高だし。ゾンビから隠れながら暮らしていた時は、お風呂どころじゃなかったから、体を拭くくらいしかできなくてさ」
子供がお風呂に入れずに汚れたままなのはよくないので、それはよかったと思う。
亡くなった天国の祖父さん。
あなたが作った拘りのお風呂は、今とても役に立っています。




