第51話 四人目
「『アイテムボックス』の中に入るだけ入れておけばいいさ。あとで役に立つかもしれない」
どうせこの町は無人だし、国防隊が盛大に失敗して半分のレベリストたちを失った。
軍事の定義で言えば全滅であり、だから美空さんは国防隊を辞めてしまったし、レベリストの中には国の組織に所属することを嫌がる人も増えるだろう。
そんな彼らか目指すことといえば、アンデッドを倒してレベルアップすることであり、そのうちアンデッドに占拠された都市などで活動するようになるはず。
そしてそのついでに、無人の町中で使える物を拾って自分の利益とするはずだ。
「同業者たちと奪い合いになる前に、先にいただいておこうという作戦ですね」
「悪いけど、こういうのは早い者勝ちだから」
「遠慮している間に消費期限が過ぎて食べられなくなったり、使えなくなったら損ですしね」
「楓さんの言うとおりだ」
それに私の場合、『アイテムボックス』があるから入れておけば悪くならない。
ゾンビに食われたり、壊れたり朽ちるに任せるくらいなら、先に回収しておいた方があとで使えるからいいと思う。
「おっ! このウィスキーは限定品だ! 欲しかったんだよなぁ、これ」
「幸三さん、好きですね」
「前は高くて買えなかったから」
用務員の仕事は給料が安かった。
今は無職になってしまったけど……いや、お宝探しが仕事みたいなものかな。
これまで手に入らなかった物が自分の実力で手に入るのだから、レベルが上がるのは悪いことではないと思う。
インバウンド客向けの酒屋で、鍵付きのショーケースに入っていた高価で希少なお酒の数々をゲットすることができて、嬉しさでいっぱいだった。
「瑠璃さんと楓さんと美空さんも、ブランド品とか、服とか、高価なアクセサリーを沢山手に入れたじゃない」
「最初は舞い上がって嬉しかったけど、そんなに沢山いらないよね」
「いくつかは使って、あとはお金代わりですね。現物資産ですから」
「現金とかもかなり拾えるけど、今の松代では、一万円でペットボトルの水が一本買えるかどうかだから。せっかくゾンビから逃げ延びたのに、投資系インフルエンサーや仮想通貨長者が自殺したって」
「現物のない資産が、文字通り消滅したからなぁ……」
ゾンビが出現しなければ富裕層で勝ち組だったのに、今では一文ナシになってしまった。
心を病んで当然かもしれない。
あっでも、アンデッドが駆逐されてからネットが繋がれば復活するのか?
いや、今や企業活動をしているところが珍しいから、株や債券の価値なんてないに等しいのか。
国債は、こんな状況なので国は踏み倒すのだろうか?
利息を支払うのも難しいだろうし。
私も老後に備えてiDeCoと新NISAを積み立てていたけど、もう価値はないんだろうなぁ。
悲しくなったが、回収した現物資産の評価額を考えると大幅に黒字か。
それなら今後、若い頃からコツコツを貯めていた銀行預金が消滅してしまったとしても我慢できるはず。
「だから、現物資産にもなるお酒は大切ってことで」
「タバコでもですか?」
「私は吸わないので、これもお金代わりかな」
これまでに、店舗や自販機から大量のタバコを回収したけど、私はタバコを吸わないからすべて死蔵していた。
欲しい人に売るなり、なにかと交換するのに使おうと思う。
「自分はお酒を飲まないからよくわからないけど、伊作さんの趣味ってことなんだね」
「そうそう」
夜に高いウィスキーで晩酌するのが、私の楽しみになっていた。
「そのうち、放置された醸造所の樽を回収したいかも」
そんな話をしながら町中を探索していく。
倒したゾンビがスケルトンになって襲ってきだが、今の戦力なら苦戦することなく倒せた。
「ここも備蓄倉庫かな?」
入口を開けて倉庫の中を確認しようとした瞬間、咄嗟に殺気を感じて手が動いた。
私を狙った矢が放たれたようだが、素早く手で掴み取る。
実は手で掴み取らなくても矢は私に命中しなかったが、矢には聖魔法が籠められていたので、気になって手で取ってしまった。
急ぎ籠められた聖魔法の残滓を『探知』して、狙撃者の情報を集めていく。
「(矢に聖魔法を籠められるのは凄いけど、コントロールが甘いかな)これは警告なのか、ただ単にまだ腕が未熟なのか……」
「幸三さん! 大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、楓さん。この矢、聖魔法が込められているんだ」
「それってもしや……」
矢自体は、アーチェリーで使う競技用のものだと思われる。
そのままでは命中させてもゾンビすら倒せないが、この矢は聖魔法を纏わせているので、これなら倒せるはずだ。
籠められている聖魔法の強さからして、スケルトンを倒せるかどうかは微妙だけど。
「矢に聖魔法を籠められるってことは、アンデッドではなくて人間だな。多分、『付与』系の能力に長けている」
こちらが見えない位置から矢で狙撃する。
特別個体ならあり得たが、さすがにアンデッドが矢に聖魔法は籠められない。
これは人間の、それもレベリストによる仕業だ。
「もしかして、お宝探しのライバルを殺そうとしたの?」
瑠璃さんも全力で、狙撃者の気配を探っていた。
この町のお店にはほぼ手つかずで商品が残っていたから、お宝探し目的のレベリストたちが入り込んでいるようには見えない。
これまでは独占できていたのに、ライバルが出現したから追い出そうとして矢を放ったのか?
「警告でしょうか?」
「『縄張りを荒らすな!』的な? 伊作さん、どう思います?」
「そこはまだわからないけど、まだレベルが低くて未熟なんだろうね。人間一人の気配を感じる。捕まえるか」
遠方から気配を消しての狙撃だったので、初撃は許してしまったが、一度矢を放ってしまえば完全に気配を消すなんてことはできない。
どんな人なのか気になったので、私は『探知』した狙撃者を全速力で追いかけ始めた。
「「「待てぇーーー!」」」
「速い! 捕まる!」
「はい、捕獲」
それに気がついた狙撃者が逃げようとするが、残念なことにレベルに差があり過ぎた。
私はあっという間に狙撃者の捕縛に成功する。
「人を間違えた狙撃したのなら、謝るのが筋だと思うけど」
「……この町の生き残りは、オレ一人だけになってしまったんだ。生きていくのに必要な保存の利く食料を持っていかれたら困ると思って……」
あらためて確認してみると、狙撃者は子供だった。
小学校高学年から中学一年生くらいだろうか?
ショートカットで、健康的に日焼けした顔の綺麗な男の子だ。
「子供?」
「オレは子供じゃない! この七ヶ月間、オレは一人でこの町で生き残ってきたんだ!」
「前回は、町の外縁部を少し探りながらゾンビを倒しただけなので、この子に気がつかなかったですね」
その子にどう説明すればいいのか。
これからは、レベリストたちが町に残った使える物を集め始めるはずだ。
じきにこの町にも、レベリストたちがやってくるはず。
確かに自分の住んでいる場所をある物資や食料を奪われるのは嫌だろうが、それはこの子の物ではない。
あとから入ってきたレベリストたちに奪われても、ここに警察の目はないので、下手に抵抗すると殺されてしまう危険もあった。
なにしろこんな世の中なので、日本の治安は悪くなる一方なのだから。
確かに他人の物を勝手に回収している私たちは悪党かもしれないが、今はこんな世の中なので仕方がない。
「下手に他人を矢で撃つと、正当防衛で殺されかねないぞ」
「そうだよ、幸三さんだから当たらなかったけど、もし他のレベリストを狙って矢が顔でも当たったら……」
「報復で殺されかねないよ。レベルの低いレベリストなら、君の狙撃で死んでいたかもしれないし」
「それで君が逮捕されるような世界ならまだいいんだけど、ここは警察の力が及ばない無人の町だ。君が報復で殺さるかもしれないんだ」
とはいえ、無抵抗だとこの子は食料を奪われてしまうのか……。
「ところで、君のご両親は?」
「オレにそんなものはいない」
「そうか……。少し話を聞かせてくれないかな? この仕事は情報収集が基本だ。お礼は食事で」
「えっ! 食事? ええと……」
この七ヵ月間、あまりいい物を食べていなかったのだろう。
少し背が低い気がするし、体も痩せているような……。
いきなり見ず知らずのおじさんから食事に誘われたからか、男の子は迷っているようだったが、すぐにお腹が鳴り始めた。
「好きな食べ物は?」
「ハンバーグ」
「では、お昼はハンバーグにしよう。君も食べるよね?」
「……うん」
「じゃあ、昼食の準備だな」
狙撃されたとはいってもまだ犯人のレベルが低く、なにより私には命中しなかった。
別段腹を立てることなもなく、なにより相手は子供だ。
それにしてもこの七ヶ月間、よくゾンビだらけの町でたった一人で生き残れたものだ。
運良くレベリストの才能が具現化し、上手く自分の特性を見抜いて独学で戦い方を覚え、ゾンビを倒していたからだろう。
「(この子には才能がある)」
レベリストとしてアンデッドと戦う力は、今はあった方がいいに決まっている。
だけど相手は子供なので、今はこの町から出して生活の面倒を見てあげないと。
なぜなら私は大人で、この子は子供なのだから。




