第49話 三人目の……
「ふう……。やっと終わったぁ」
「幸三さん、疲れたよねぇ」
「早くお風呂に入りたいですね」
「……そうだね」
負け戦だったけど、無事に戻れてよかった。
いくら私が異世界で魔王を倒したとはいえ、この世界に戻ってきたらレベル1になっていたため、頑張ってレベルを上げてもリッチーにすら苦戦する有様だ。
そんな私に、この世界を救うなんて不可能だろう。
自分たちのことしか考えない冷たい奴と批判されるかもしれないが、とにかく私は自分が一日でも長く生き残り、快適な生活を送ることを優先したい。
私は車を運転しながら、そんなことを考えていた。
就職氷河期世代で苦労した身としては、無条件に他人を助けたくないからだ。
長年の苦労を『自己責任』の一言で否定された身としては、アンデッドから生き残れるかどうかも『自己責任』だと考えていたからだ。
「少人数のレベリストが少しばかりレベルを上げたところで、アンデッドにはまったく歯が立たないんですね」
「数が多いってのは、最強ってことだよ」
楓さんはレベルが上がって少し自信があったのだろうけど、さすがに一都市に巣食う大勢のアンデッドには勝てない事実に気がついたようだ。
昔から、多勢に無勢というくらいなのだから。
「それを今回、本当に実感したよねぇ……」
瑠璃さんも、かなり疲れたようだ。
「これからどうするんですか? あの村に籠もるのでしょうか?」
「あそこで暮らしつつ、新しい魔法を覚えたはずだから試す予定だよ」
「魔法? でも、村の周辺にはアンデッドなんていないんじゃあ……」
「戦闘で使う魔法じゃなくて、普段使える魔法をね。異世界では、今のレベルで覚えたから」
「どんな魔法なんですか?」
「『転移』魔法だよ。これまでに行ったことがある場所に瞬時に移動できるから、村で暮らしつつ、レベルアップやお宝探しもできる。これは便利だ」
「凄ぉーーーい! ようやく本格的にあの村を安寧の住処にできるね」
「村を出る前に庭の畑に種を播いたけど、半年も遠征で空けてしまって枯れているでしょうから、今度はお野菜をちゃんと作りたいです」
「スローライフっぽくていいね、それ」
「村での生活、楽しみぃ」
戸高さんによると、首都圏の大半はアンデッドに占拠されているそうで、私たちも遠征でそれを確認している。
二人は戸高さんに家族のことを尋ねていたが、今のところ生存者リストにその名前は書かれていなかったと聞いた。
もっとも今は、ネットどころか電話すら十分に使えない状態なので生存者リストは紙だったし、漏れが多くてあまりあてにならないそうだ。
首都圏外の避難キャンプや町で暮らしているために、把握しきれていない人の方が多いので、生存者リストに載っていないからって死んだとは断言できないと言っていた。
私はすでに縁を切られているので、家族の消息は聞かなかった。
たとえ生きていたところで、この村に呼び寄せて一緒に暮らす気など微塵もなかったからだ。
「到着だ」
「あれ? 村に誰かいるのかな?」
「えっ? 不法侵入者ですか?」
車を家の隣の駐車場に停めてから降りると、家から生活音が聞こえてくる。
誰か避難民が逃げ込んだ?
いや、確かにここは今のところ安全なんだけど、ここに至るまでの道や町にはアンデッドが多数生息しており、レベリストでなければ辿りつくのは難しかった。
「車を飛ばせば辿り着けそうだけど、どこで車やガソリンを調達するのかとか、最寄りの伴龍高校がある町から徒歩だと半日は歩かないと辿り着けないから」
わざわざ命がけでこの廃村に逃げ込む人は……いなくはないのか?
「誰なんでしょう?」
「確認すればいいよ」
家に入ると、侵入者は台所でご飯を作っていた。
食料はすべて『アイテムボックス』に入れて出かけていたので、この家には食料がまったくなかった。
ということは、自分で食料を持参したのかな?
エプロンをして料理をしているので背中側しか見えないけど、小柄で、お尻の形からして女性、それも若い人だろう。
「あれ? この人は……」
「伊作さん、お帰りなさい。今夕飯を作っているので。白井さんと坂田さんの分もありますよ」
「「「美空さん!」」」
なんと、謎の侵入者は美空さんだった。
彼女は松代からやって来た国防隊所属のレベリストなので、他のレベリストたちと一緒に松代に戻ったはず。
それがどうしてここに?
「自分、レベリスト部隊で孤立しちゃって。自分だけ伊作さんたちと戦ってレベルが上がったから、みんなに無視されちゃった。だから戸高さんに相談したら退職の手続きをやってくれることになって、退職金代わりに食料なんかを貰ったので、伊作さんたちと合流しようかなって」
「美空さんをハブったの? あの腰抜けレベリストたちは」
「美空さんが命がけて戦ったからこそ、自分たちも生き残れたのに酷い話ですね」
「ありそうな話だよなぁ……」
松代からやって来たレベリスト部隊のメンバーは、かなり気が弱いというか、空気をばかり読むというか、上からの命令に従順というか……。
さらに、強くなることに対し積極的ではなかった。
それなら無理に志願しない方がよかったと思うが、周囲からのプレッシャーに耐えられなかったのだろう。
レベリストではない一般人の多くは、レベリストは全員志願して当然という感情を抱く。
過去に私も、異世界に召喚された勇者は魔王と戦って当然だと、過剰な応援という名のプレッシャーをかけられたのを思い出した。
「ところが彼らは、アンデッドに無残に負けて半数が殺されてしまった。上官である安城陸将と参謀たちも殉職してしまって。そんな中でリッチーを始めとして多数のアンデッドを倒して大きくレベルを上げた美空さんは、国防隊から評価され、期待もされていたはずだ」
他のレベリストたちは、自分たちの立場がないって思ったのだろう。
そして、その原因だと思った美空さんをハブってしまった。
そんな状態で、松代まで彼らと同じトラックに乗る。
私なら嫌だな。
「これから頑張ればいい気もしますが、美空さんが気に入らなかったんですね」
「貴重なレベリストだから、他に移るなり、フリーになって心機一転頑張ればいいのにね。とにかくあの連中と一緒にいたくなかったんだ」
「レベリストは貴重だから、引く手数多なのにね」
「だよねぇ、瑠璃ちゃん」
自分たちが剣崎たちの言いなりになってなにもできなかったくせに、彼らに逆らってアンデッドと戦って成果を出した美空さんを嫌う。
人間っぽくはあるけど、私たちも今後彼らとは関わりたくないかも。
「レベリストは貴重な存在とはいえ、美空さん以外は今回の件で評価を落としてしまったから。警察、消防、内閣府も彼らは雇わず、新しいレベリストを取り合うと思う」
今回の負け戦で、経歴に傷がついてしまったからなぁ……。
日本の大企業や官僚組織は、実力があってもマイナス評価を受けた人を嫌う。
安城陸将とエリート参謀たちが殉職してしまったこともあり、無様を晒したレベリストたちを雇わない可能性があった。
どのみち彼らは、自分の意志で今後の人生を考えないといけないのか。
安城陸将とエリート参謀たちと近しい関係の自衛官からしたら、上官たちを見捨てて水無月市から逃げ戻ったレベリストたちなど、使い捨ての駒にしても構わないと思っているかもしれないのだから。
フリーになって鍛え直すか、国防隊と同じくレベリストを集めている内閣府、警察、消防にアピールして自分たちを高く売るという手もあるが、剣崎の言いなりになっていた彼らには難しいか。
彼らは強さ以前に、心が弱いのだから。
そういう手を使えない経験者なら、変な手垢のついていない未経験者の方がいい。
警察も、消防も、内閣府ですら、そんな風に考えるのではないかと。
いまだに、日本の会社や組織の新卒信仰は根強いだろうからだ。
たとえこんな世の中になったとて、そう簡単に組織の風土は変わらないはずだ。
「この状況で、人材を選り好みしている場合ではないと思いますけど……」
「こんな時にもそれをしてしまうのが人間なんだよ」
と、楓さんに話をする私。
近年人手不足が深刻であったが、就職氷河期世代はいらないという企業が多かったのと同じだ。
生き残ったレベリストたちの評価は低いだろう、水無月市攻略部隊の司令官であった安城陸将と多くの将校、隊員たちを死なせてしまい、レベルも大して上がっていないのだから。
彼らだけはいらないと言われても、私は不思議に思わなかった。
「だからこそ、そんな負け戦でも評価を上げた美空さんが気にくわない。恐ろしきは人間の嫉妬だな」
「帰りのトラックでリンチでもされたら嫌だからね。あっ、彼らに自分がやられるわけがないけど、たとえ正当防衛でもボコボコにした結果、処罰されるのも嫌だから」
「生き残ったレベリスト全員でかかっても、美空さんには歯が立たないことは確実だろうからね」
「伊作さん、わかってるぅ。そんな事情で自分は国防隊を辞めたので、この村で暮らします! お願いします! 置いてください!」
「いいよ」
「あっさりとOKしていいんですか?」
「いいよね? 瑠璃さん、楓さん」
「美空さんなら大歓迎」
「よろしくお願いしますね。ご飯、美味しそう」
「自分、空手の試合に出る関係でウェイトコントロールが必要だから自炊してたんだ」
「「完璧超人だ!」」
「学業は……なんだけどね。じゃあ、夕食にしましょう」
私たちは、美空さんが作った食事を美味しく食べた。
そして正式に美空さんがこの村に住むことになり、私たちは四人でパーティを組むことになるのであった。
水無月市開放作戦は失敗してしまったけど、私たちは頼もしい仲間を迎えることができた。
これで、生き残れる確率も上がったというものだ。
ただそれは私たちパーティのことで、日本や世界が救われるというわけではないのだけど。




