第46話 助っ人参戦
「幸三さんが、私たちに任せてくれた。命を預けてくれた」
「絶対に倒します!」
水無月市攻略に失敗し、撤退する私たちを追撃していたリッチー四体は強く、一対一だと幸三さんですら不利だった。
特に、幸三さんを一方的に憎んでいる剣崎のリッチーの異常な強さは群を抜いていた。
だから幸三さんが剣崎を引き受けたが、幸三さんですら不利な戦いを強いられることに。
そんな不利な状況を打開するため、幸三さんは超人薬なる魔法薬を飲んで一時的に強くなり、剣崎ともう一体のリッチーを倒すことに成功したが、その副作用で意識を失ってしまう。
でもその前に、幸三さんは私たちにあとは任せると言ってくれた。
これまで、私と楓さんは幸三さんに守られている状態だった。
だから以前の戦いでは、もし敵を倒す前に意識を失ったら死ぬしかない超人薬を使わずにいたけど、今度は躊躇わずに使って私たちにあとを託した。
自分の命を預けると。
こんなに嬉しいことはなく、それは楓さんも同じだと思う。
だからこそ、私と楓さんが主戦力となって、残り二体のリッチーを倒す必要があったのだ。
「剣崎は一番強かったけど、残り二体のリッチーも弱くはない」
それどころか、一対一なら私たちよりも強いはずだ。
「楓さん!」
「瑠璃さん! 先に美空さんのところへ!」
「わかった」
そのまま近くの楓さんを助けようと走り出したら、彼女から美空さんを助けるように言われてしまった。
空手の世界チャンピオンで卓越した身体能力がある美空さんだけど、レベルが低いのでかなり不利な戦いを強いられていた。
それでもリッチーに殺されていないのだから、類まれなる戦闘センスの持ち主だと思う。
もし私が今の美空さんくらいのレベルだったら、とっくにリッチーに殺されていたはずだ。
「私は美空さんを助けにいく。楓さん、もう少し頑張ってね」
「私も殺されないように粘るので精一杯だから無茶はしません」
まずは美空さんと戦っているリッチーを倒して、そのあと楓さんと戦っているリッチーを三人で倒す。
その順番でいくと決めたあと、私は美空さんとの戦いに集中しているリッチーの背後から、同じくミスリルソードでその身を突き立てた。
「オナジテヲクウカ!」
「ちっ!」
どうやら、さっき私によって倒されたリッチーの末路を見ていたようで、リッチーは私の一撃を回避してしまった。
さすがは特別個体。
でも私からすれば、回避されるのは想定内の出来事だ。
「隙あり!」
後方からの私の一撃をかわせば、前方に対し隙が生まれる。
私の動きに気がついていた美空さんが、防御と回避主体の動きから後方に意識が向いたリッチーに対し打撃を繰り返し、ダメージを重ねていく。
「アガッ! グベッ!」
美空さんによるお手本のような正拳突きを食らったリッチーの動きが止まり、今度が私がもう一撃背中からミスリルソードで突き入れた。
今度は回避に失敗し、リッチーの体をミスリルソードが貫通する。
刀身に纏わせていた『火炎』がリッチーの体内を焼き、しばらく白煙を出してからリッチーは火達磨になった。
リッチーはゾンビの一種なので、火魔法が有効だ。
レベルアップのおかげで、アンデッドにも効果がある『火炎』になっていたのもあり、リッチーは短時間で燃え尽きて骨になってしまった。
「やった!」
「次は楓さんね!」
「急ぎましょう」
美空さんは、もう実質幸三さんのパーティメンバーのようなものだ。
幸三さんもその実力を認めて、他のレベリストたちとは違う扱いをしていたのだから。
その証拠に彼女には、幸三さんが異世界で手に入れたというアンデッドに効果がある武器と、魔石で魔力を回復できる魔法の腕輪を貸与していた。
「これでリッチーはあと一体」
「三方向から攻撃して倒してしまおうよ」
「それがいいよね」
私と美空さんが、楓さんのところに向かおうとした時だった。
突然、楓さんと戦っていたリッチーが炎上した。
「ナニモノダァーーー!」
「白井さん、あそこ!」
「ええっ! 戸高さんと大島さん?」
私たちの後方で、対アンデッド部隊と戦の様子を伺っているはずだった戸高さんと大島さんが、いつの間にかリッチーの左右斜め後方(死角)から火炎放射器を発射。
倒すことはできなかったけど、ダメージを与えることに成功した。
リッチーだけでなく、私たちにも気がつかれないように遠回りして後方に回り、死角である両斜め後ろから、わずかに残ったガソリンを使って火炎を発射したんだ!
敵を欺くには味方からというけど、後方で対アンデッド部隊の指揮を執っていた戸高さんと大島さんが、こんな大胆な手に打って出るなんて……。
「今、伊作さんを失えない。それに君たちがリッチーに負けたら、私たちだけで逃げたところで、すぐに追いつかれて皆殺しにされてしまう。それなら、一か八かでも手を貸すに限る」
「戸高陸将補は、昔からいざとなると無茶しますから」
「リッチーもゾンビだから火が効くとなれば、火炎放射器の出番だろう。見事成功だ」
「ヨクモォーーー!」
リッチーは、レベリストでもないのに自分にダメージを与えた戸高さんと大島さんに激昂し、楓さんよりも先に襲いかかって倒そうとした。
だけど、それは楓さんに背中を見せることになる。
「一対一なら私たちの方が不利でしたけど、複数対一になるとここまで脆いとは」
楓さんの聖魔法を纏ったミスリルソードが、リッチーを袈裟斬りにした。
ダメージを受けたリッチーが仰け反って動きが止まると、戸高さんと大島さんが残り少ないガソリンを使って火炎放射器を発射。
リッチーは一撃目よりも大きな炎に包まれて燃え上がり、ついに限界がきたようだ。
その場に倒れ伏してしまった。
そして火炎放射器の炎が消えると、あとには骨だけが残された。
「幸三さん、勝てたよ」
幸三さんは眠ったままだったけど、私は彼に声をかけた。
「リッチーを一度に四体。強敵でした」
「かなりギリギリの勝利でしたね。自分はキツかったです。それにしても、レベリストでもないのに、戸高副司令と大島一尉は大活躍でしたね」
「これで二人の火炎放射器のガソリンは空だ。あれ?」
「ガソリンがなくなる前に勝ててよかったぁ……。これは?」
「二人とも、どうかしましたか?」
「坂田さん、私の目の前に数字が表示されているのだけど、これはレベリストのレベルを表示した数字でいいのかな?」
「戸高陸将補、私にも数字が見えますよ」
「私たちの時と同じだ」
レベリストとしての才能が出現していない人でも、幸三さんと一緒に強力な特別個体を倒すとレベリストになってしまう。
今幸三さんは寝ているけど、RPGでは戦闘中にパーティメンバーが寝てしまうこともあるから、戸高副司令と大島一尉は対リッチー戦で幸三さんのパーティに加わったという扱いだったみたい。
途中参戦でもいいんだ。
「レベリストでない人が、レベリストたちと一緒にゾンビやスケルトンを倒してもレベリストの才能が具現化しなかった。伊作さんと一緒に特別個体と戦って倒す必要があるってことなのか? それとも、彼以外のレベリストが特別個体を倒せれば、あるいは……」
現時点で、幸三さん以外のレベリストたちが特別個体を倒せるかどうか怪しいところだし、非レベリストたちが殺されないように戦うなんてさらにハードルが高いのだから。
「それは幸三さん以外のレベリストたちが、レベリストではない人たちと一緒に特別個体を倒してみないとわからないです。戸高さん、大島さん。早く幸三さんを連れて、ここから撤退しましょう」
「せっかく生き残ったんだ。急ぎ逃げるとしよう」
「そうですね。せっかくリッチーを倒して生き残ったのですから」
無事に剣崎たちのリッチーを倒した私たちは、対アンデッド部隊と共に徒歩で朝山駐屯地を目指す。
寝ている幸三さんは、対アンデッド部隊の若い男性隊員が背負ってくれたのでとても助かった。
結局水無月市の解放には失敗し、安城陸将以下五百名を超える犠牲者を出してしまったけど、私たちは命拾いすることができた。
こんなゾンビ溢れる世界においては、死なないで済むことが一番の幸運だと思い、私たちは眠い目を擦りながら歩き続けるのであった。




