第43話 撤退戦開始
「やっぱり作戦を変更する! 瑠璃さん、楓さん、美空さん。手伝ってくれ」
「幸三さん、協力するよ」
「幸三さんはちゃんと守ります」
「自分も頑張ります!」
野営陣地は、部隊の指揮を引き継いた戸高さんの決断で放棄されることになった。
早速、生き残った国防隊員とレベリストたちを集めて撤退を始めたが、トラック置き場をスケルトンたちによって占拠されてしまったので、徒歩で逃げるしかない。
追加の補給部隊に合流して、野営陣地から持ち出せなかった食料と水を手に入れるつもりらしいが、もし補給部隊になにかあると部隊は全滅してしまうだろう。
そこで私は、スケルトンたちの妨害を排除しつつ、トラックを回収する作戦を立てた。
三人に護衛されながらスケルトンを倒すことに拘らず、トラックを『アイテムボックス』に収納していく。
上手くいけば、対アンデッド部隊以外の隊員たちを先に逃がすことができる。
この計画を三人に伝えたら、協力してくれることになった。
美空さんも今ではレベルが上がり、さっきもスケルトンを倒していたので、戦力としてあてにしている。
もう少しでミスリル装備が装備できるのだけど、それだけが残念でならない。
「邪魔だぁーーー!」
進路を妨害するスケルトンだけを倒していき、トラックに接近する。
魔石を拾えないのは残念……。
「ようは走りながらスピードを落とさずに拾えばいいんですよ。全部は無理だけど」
さすがは空手の世界チャンピオンだ。
運動神経とバランス感覚が抜群なので、全速力で走りながら拾えそうな魔石を拾って、瑠璃さんと楓さんに投げ渡した。
二人はそれを魔法の腕輪に取り付け、魔力を回復させる。
この作戦では二人がスケルトン撃破の主力であり、私はトラックを『アイテムボックス』に収容することに集中できた。
「えっ! 手品ですか?」
「あとで話すよ。今は作戦に集中してくれ」
「わかりました」
美空さんが、『アイテムボックス』にトラックを収容する様子を見て驚いていたが、手を止めることなく自分の役割は確実にこなしていた。
さすがだと思う。
「……剣崎たちか……」
「自分たちだけ先に逃げようとここに走ってきたら、スケルトンたちに殺されたんだね」
「伴龍高校の人たちって、こんな人たちが多いですね」
「エリート意識が強くて、自分も苦手だったなぁ」
他校の生徒だからか、楓さんの伴龍高校に対するイメージは最悪のようだ。
私は用務員として働いていたからよくわかるというか、元々いい家の生まれなのもあったが、無意識に選民思想が植え付けられている生徒が一定数いたのを思い出した。
勿論瑠璃さんを始めとしてそうでない生徒の方が多かったけど、不思議と生き残っている生徒に限ってそういう奴が多い気がする。
安城陸将もそうだったけど、自分が死ぬなんて思ってもみなかったのだろう。
あり得ないって言いたそうな表情を浮かべながら死んでいた。
「いつゾンビになるかわからない。トラックの回収を急いで、早くここを出よう」
瑠璃さんと楓さんは私ほどではないけど高レベルで、アンデッドを多数倒して経験を積んだので、安心して背中を預けることができる。
美空さんもレベル以上の実力があって、正直とても助かっていた。
「トラックの回収終了! 撤退だ!」
「「「了解!」」」
無事にすべてのトラックの回収に成功した私たちは、進路上にいるゾンビだけを倒しながら、すでに国防隊の部隊が逃げ出した野営陣地からの脱出に成功した。
とはいえ、ゾンビたちがしつこいくらい追いかけてくるので、適時それらを倒しながら松代へと走っていく。
「伊作さん! 白井さん! 坂田さん! 美空さん!」
逃げ出した部隊の殿に追いついたと思ったら、なんと最後方にいたのは安城陸将の代わりに部隊を指揮している戸高さんだった。
「戸高さん、危ないですよ」
「撤退だけなら、大島一尉に任せれば問題ない。私には安城陸将の暴走を止められなかった責任がある」
戸高さんは優秀だからこそ、作戦中に干されてなにもできなかったことに責任を感じているのか……。
とはいえ、それならクーデターを起こしてでも安城陸将から指揮権を奪えばよかった、とは私は思わない。
それをしようとした結果、戸高さんが失敗して安城陸将たちに拘束されていたら、スケルトンとゾンビに夜襲されたこの部隊は、最悪の末路を迎えていたかもしれないからだ。
なにより、いくら戸高さんが優秀で正しくても、他の国防隊員たちが処罰される危険を冒してまで彼に協力するかというと……。
別に安城陸将は、違法行為をしていたわけではないのだから。
「それよりもトラックを回収してきたので、これに対アンデッド部隊以外の兵員を乗せて先行させましょう」
「トラック? どこにそんなものが?」
「ここですよ」
私は、『アイテムボックス』から回収したトラックを出して道路に置いた。
「これは……レベリストとしての魔法というか、特別な力なのかな?」
「そんなところです。それよりも……」
「今は驚いている場合じゃない。戦力にならない隊員からトラックに乗せて先行させよう」
戸高さんは隊列を組んで道路を移動していた国防隊員たちを小型無線機で呼び戻し、次々とトラックに乗せて松代を目指させた。
少なくとも、彼らは生き残れるはずだ。
「ガソリンの在庫は心許ないが、対アンデッド部隊の火炎放射器でゾンビたちの追撃に対応できるはずだ」
「とりあえず、日が昇るまで逃げ切れば追撃も止むはずです」
ゾンビとスケルトンは日の光が苦手なんてことはないが、拠点を決めてあまり遠方に移動しない。
諦めて、水無月市内に戻るはずだ。
「対アンデッド部隊を再編して、後方からの追撃に備えよう」
「レベリストたちは?」
戸高さんが静かに首を振ったので、わかってしまったというか……。
いきなりあれだけ過酷な戦いを経験して、半分の仲間が殺されてしまったので、多分心が折れてしまったのだろう。
剣崎たちも罪なことを……。
戸高さんは、生き残ったレベリストたちもトラックに乗せて送り出した。




