第41話 自業自得
「へへっ、やれるじゃないか」
俺たち、伴龍高校に通っている者たちは特別なんだ。
確かに最初に逃げ込んだ学校から松代まででスケルトンと戦った経験なんてないが、レベリストの資質が出現してからはゾンビを倒してレベルも上がっている。
それなのに、先にレベリストの資質が出たからといって、就職氷河期の用務員ごときが俺たちを下に見やがって!
ろくなところに就職できなかった就職氷河期の無能が、将来は県会議員、いや国会議員となるであろう俺に勝てるわけがない。
親父に頼んだら、安城陸将からレベリスト部隊の実質的な指揮権を貰えた。
国防隊の将校と同じく、俺はレベリストたちの優れた指揮官になればいい。
国防隊員だろうとレベリストだろうと、前線でゾンビと戦っている奴なんて所詮は消耗品の歯車にしか過ぎないのだから。
肉体労働なんて、用務員の伊作にお似合いの仕事だ。
俺たち伴龍高校の生徒たちは、クールにクレバーにレベリストたちを指揮していく。
そして日本を、いや世界を救った英雄として称賛されるのだ。
そういう考えで俺たちは、早速姿を見せたスケルトンとゾンビたちと戦い始めたのだけど……。
「剣崎、次々とレベリストたちがやられていくぞ!」
「クソッ! 数が多すぎるんだ!」
最初はレベルも上がって順調だったのに、徐々にゾンビの数に押されるようになってしまった。
段々と疲れてきて、銀の剣を振るうのにも疲れてきた。
すでにバリケードは抜かれ、今は野戦陣地内で戦っている状態だ。
それにしても、倒しても倒しても数が減るどころか増えていく一方じゃないか。
『コラ! 下がるな! ゾンビたちを陣地の外に追い出せ!』
小型通信機から安城陸将の叱責の声が入るが、それどころではない。
昼間に活躍した火炎放射器部隊も参戦しているが、ガソリンを節約しながら戦っているので、なかなかゾンビの数を減らせない。
「おい、剣崎。そろそろ……」
同級生の尾崎が言いたいのは、『そろそろ逃げ出した方がいいのではないか?』だろう。
確かにこの数のゾンビ相手では、もはや勝ち目はない。
前に出したレベリストたちも次々とやられているので、これは早めに逃げ出した方がいいな。
「(どうせ敗戦の責任は、安城陸将が負うんだからな。俺はレベリストだし、親父がいるんだから)」
この戦いで俺たちは、レベルも上がって強くなった。
今後もし国防隊に嫌われても、レベリスト部隊は警察にも、消防にも、内閣府だって持っているんだ。
売り込み先はいくらでもある。
ここで死んだレベリストたちは不幸だが、俺たちエリートの身代わりになれたことを光栄に思うんだな。
「(おい、俺たちだけで逃げるぞ)」
「(それがいい)」
小声で同級生たちに提案すると、全員が賛同した。
学校から逃げ出した時と同じで、その辺は阿吽の呼吸ってやつだ。
俺たちは伴龍高校の生徒で、いわゆるエリートという存在だ。
たとえ他のレベリストたちを犠牲にしても、生き延びる価値があるのだから。
「押し切られるぞ! もっと前に出るんだ!」
まだ生き残っているレベリストたちに前に出て攻撃せよと命じてから、俺たちは後方からこっそりと逃げ出した。
「(盾役ご苦労さん)」
お前たちは貴重なレベリストかもしれないが、俺たちはさらなるエリートだから生き残らないといけない。
頑張って、俺たちの身代わりになってくれよ。
「安城陸将たちがいる司令部もゾンビに囲まれたみたいだ」
「それは不幸だったな」
今回の作戦の失敗は、安城陸将と参謀たちが背負えばいい話だ。
死人に口ナシで反論もできないのは不幸だが、敗軍の将なので仕方がない。
ましてや、水無月市解放作戦を国防隊の上層部と政治家たちに売り込んだのは、自分なのだから。
俺たちは今回の失敗を生かして、今後は上手くやる予定だ。
「トラックを探せ!」
俺たちのようなエリートが徒歩で逃げるなんて疲れるし、あり得ない話だ。
こんな世情なので、トラックを無免許で運転したところで問題ないからな。
俺たちは全力で走って、トラックが置いてある場所に辿りついた。
みんな応戦で忙しいので普段はいる見張りすらおらず、これならすぐにトラックを動かせるはずだ。
「一番近くのトラックでいいか?」
「ちゃんとガソリンの量を確認しろよ。松代に着く前にガス欠になったら嫌だからな」
「それもそうだ」
「早く探せ……っ!」
「田中、どうかしたのか?」
分担して、ガソリンが満タンのトラックを探そうとしたその時だった。
同級生の田中の様子がおかしいので声をかけると、彼は周囲に視線を向けており、その表情も硬直したままだった。
何事かと思って俺も見てみると……。
「なっ!」
いつの間にか俺たちは、数百体のスケルトンに囲まれていた。
「すっ、スケルトン! なんて数だ!」
「剣崎!」
「ええい! 逃げるしかない!」
認めたくないが、ゾンビよりもスケルトンの方が強かったことがわかったし、この数だ。
今は逃げるしかない。
トラックを確保し損なったので、最悪徒歩で逃げるしかないか……。
「そのうちレベルを上げて、お前たちを粉々にしてやる! 逃げるぞ!」
俺たちは野外陣地の外に向かって走り出すが、なんとスケルトンたちもとんでもない速さで走りながら、追いかけてきた。
「えっ?」
「剣崎、こいつら気持ち悪いほど速く走るぞ!」
「どうする?」
「どうするって……。逃げるしかないだろうが!」
集団で歩きながら野営陣地に迫ってくるところしか目撃していなかったので、まかさスケルトンがこんなに速く走れるなんて……。
「ぎゃーーー!」
「剣崎ぃーーー! 助けてくれーーー!」
俺たちは全速力で走り続けるが、一人また一人とスケルトンに追いつかれ、囲まれ、無残に殺されていく。
同級生たちの断末魔の声が後方から聞こえてくるが、助ける余裕なんてなかった。
同じ伴龍高校の生徒でも、俺は一番のエリートだから絶対に生き延びなければならない。
勘弁してくれ。
あとでいいお墓を建ててやるから。
ついには俺一人となってしまい、気がつくと多数のスケルトンに囲まれていた。
スケルトンたちは、徐々に包囲の輪を狭めていく。
「近寄るな! 俺は剣崎議員の息子なんだそ! 伴龍高校の生徒なんだ!」
エリートである俺が、こんなところで死ぬなんてあり得ない!
あの用務員ですら生き残れているというのに!
「このっ!」
どうにか生き残ろうと銀の剣を振るうが、疲労のせいでもう腕が鉛のように重く、すぐに落としてしまった。
「やめろ! 俺がこんなところでぇーーー!」
死にたくない!
そんな願いも虚しく、特殊繊維製のアンダーウェアを指の骨で破かれ、皮膚を引き裂かれて出血が増えていく。
ゾンビやスケルトンに引っかかれてしまったので、すぐに死んでゾンビになってしまうだろう。
「伊作の奴ぅーーー!」
エリートの俺が死ぬのに、無能な就職氷河期で非正規の伊作が綺麗な女子たちを従えていい気になりやがって!
白井は不良だがいい女なので、卒業後に俺が愛人にしてやろうと思っていたのに、先に手を出しやがって!
あの坂田という胸の大きな女もだ。
そして美空!
そう美空だ!
ちょっと空手が強いくらいで、調子に乗りやがって!
この俺が目をかけてやったのに、伊作と仲良くするなんて言語道断だ!
「あの野郎も死なないと納得できん!」
もしチャンスがあるのなら、無能な就職氷河期である伊作を殺してやりたい。
なぜなら、エリートである俺が死んでしまうのだから。
奴もアンデッドに殺されてしまうのが、この世の正しい道理だろう。
そんなことを考えていたらもう意識が……。
神様、いや悪魔でもいい。
伊作の野郎を殺すチャンスを!




