第39話 夜戦
「幸三さん、酷い配置だよね」
「剣崎は、私たちに死んでもらいたいんだろうね」
「自分もかぁ……。剣崎に媚びなかった罰ってことでしょうね。何様なんだろう?」
「伴龍高校の人たちって、他校の生徒に対していつも上から目線ですしね」
「伴龍高校に通っているってだけで、少なくとも地元の地域では勝ち組って評価だから。地元有力者の子弟も多いしね」
私、瑠璃さん、楓さん、美空さんが配置された場所にも、剣崎たちのところと同じくらいの数のスケルトンが押し寄せていた。
安城陸将に取り入り、戸高さんを差し置いてレベリスト部隊を指揮する剣崎たち……高校生に指揮されて、レベリスト部隊の人たちは不満ではないのだろうか? 空気を読んでというか、これまでの権威に従った結果、自分を死地に置くとは愚かな……は私たちを見下しているし、邪魔者扱いもしている。
安城陸将も同じ考えなので、あえてこの配置にして、スケルトンに殺させようとしているのだろう。
「私にはどうすることもできない。なにより今は、自分が生き残れるかどうかだ」
私は自己責任という言葉が嫌いだが、こんな世の中になってしまったら、自分の命と生活は自分で守らなければならない。
ゾンビに襲われてもすでに携帯電話が使えないので、警察を呼んで助けてもらうことすらできないのだから。
元々今の警察に、個人の通報に対処できる力はないのだけど。
「援軍は期待できないだろうな」
今の戦力も、かなり無理をして出しているはずだ。
松代の防衛もあるし、もし援軍を呼べば安城陸将の評価にも影響が出てしまう。
なにがなんでも援軍は呼ばないだろう。
「私たちはともかく、向こうの方が心配ですね」
この状況でレベリスト部隊の心配をするなんて、楓さんは優しいな。
私はもう、彼らを救えないと見切っている……この冷酷さは、異世界で手に入れたというか、そうせざるを得なかった結果なのだけど。
どうせ私たちも、この場を離れられない。
もしここが破られてしまうと、スケルトンが野営陣地内に入り込んでしまうからだ。
それなのに私たちだけをここに配置するなんて、剣崎たちは自分も不利益になると気がつかないのだろうか?
伴龍高校の生徒には、変な万能感がある人が一定数いる気がしてならない。
そして私たちレベリストはスケルトンを倒せるが、国防隊員たちは一時戦闘不能にするので精一杯だ。
なので絶対に、アンデッドを野戦陣地内に侵入させない方がいいと思う。
この野戦陣地だって使っている物資や労力を考えたら、撤退時に捨てていくなんて無駄はしない方がいいに決まっているのだから。
「剣崎たちは、私たちがスケルトンに殺されたらここの守りをどうするのかな?」
「私たちが殺されたあとで、応援を出せばいいと思っているはずだ。基本、あまり深く考えていないのでは?」
瑠璃さんの質問に、皮肉を込めて答える私。
剣崎たちレベリスト部隊は五十名以上もいる。
もし私たちが殺されても援軍を送ることぐらいできる、と計算した上でこの配置を決めたのだろう。
戸高さんの考えも同じで、レベリストでない彼がここにいるのも、水無月市解放の手柄を独り占めしたい安城陸将と、彼に上手く取り入りたい剣崎たちとの合意の結果なのだろうから。
指揮官先頭を実践……本当のレベリスト部隊の指揮官は、ずっと後方で安城陸将たちと一緒にいるけど。
「そんな剣崎たちの生き死に、自分たちが気を使う必要なんてないんじゃないかな? それどころではないし、私はここにいた方が生存率は上がると思うがね」
「その考えは正しいでしょうね……」
美空さんも楓さんも、生き残るために割り切ったようだ。
私はレベルアップの影響で、『遠見』、『夜目』などのスキルも再び使えるようになった。
早速使ってみると、なんとスケルトンたちの後ろには、今日倒せなかった大勢のゾンビたちの姿も見える。
アンデッドは夜に行動が活発になるという私からの情報が正しいことを、安城陸将たちは今、赤外線スコープを通じて確認しているはずだ。
「……こりゃあ、倒せるだけ倒して撤退だな」
「敵前逃亡で死刑にされたりして」
「伊作さん、色々と緩い国防軍にそんな法はないし、全部隊がアンデッドに蹂躙されて壊滅してしまえば、それどころではないと思う。なにより、ただでさえ貴重なレベリストを処刑したら、戦力不足が加速するだけなんだから。この敗戦の責任は安城陸将が罰を負えばいい。被告人死亡でうやむやになる可能性も高いけど」
戸高さんも予備の火炎放射器を背負い、火炎瓶を持っているが、スケルトン相手には効果がない。
私たちが前に出て、聖魔法、治癒魔法を込めたミスリルソードで斬り倒していく。
半年に及ぶレベルアップ遠征のおかげで、数十体ほどのスケルトンなら苦戦しなくなっていた。
「はぁーーー!」
「幸三さんはさすがだなぁ。私の出番はないよ」
「これから山ほどあるさ」
「だよねぇ……」
魔法剣士で火魔法が得意な瑠璃さんはミスリルソードに『火炎』を纏わせてから、スケルトンが全滅したあと大群で押し寄せたゾンビたちに突入して攻撃を開始した。
エンチャント(魔法付与)で火炎に覆われたミスリルソードでゾンビを斬ると、瞬時にゾンビは炎に包まれ、短時間で燃え尽きて骨と魔石だけになってしまう。
物理でなく魔法の炎なので、火炎放射器よりもゾンビが燃え尽きるのも早い。
それだけ大きなダメージを与えられているということだ。
「私たちも負けないようにしないと」
「はい」
私と楓さんも、ミスリルソードに治癒魔法と聖魔法を纏わせ、ゾンビの群れに飛び込んで斬りまくった。
レベルアップのおかげで魔法の威力が上がったので、私がゾンビを斬りつけると治癒魔法のシンボルである緑色の炎が。
楓さんがゾンビに斬りつけると、聖魔法のシンボルである青白い炎を上げて燃え上がり、短時間で骨だけになってしまった。
「魔力回復は早めにね」
「わかりました」
三人とも魔力補充の腕輪を装着しており、倒したスケルトンとゾンビが落とした魔石を使って魔力を回復させることも忘れない。
アンデッドとの戦で魔力が切れてしまったら、死が近づくなんてものではないからだ。
こまめに倒したゾンビとスケルトンが落とした魔石を拾い、剣に纏わせた魔法が切れないように注意。
魔法をかけ直すタイミングは、絶対に間違えないようにする。
「瑠璃さん、どうかな?」
「無理だね。これは」
「楓さんは?」
「松代の日本政府と国防軍の上層部は、どういう計算で水無月市の解放に成功できると計算したのでしょうか?」
「上の人たちの楽観論には困ったものだ」
確かに私たちは、短時間で無双して数百体のスケルトンとゾンビを倒したが、今も続々と水無月市から押し寄せている。
いくら私たちのレベルが高くても、一度に数十万体のゾンビを倒せるわけがなかった。
「戦術を生き残り優先に変えて、時間を稼ぐ」
「幸三さん、そのあとは?」
「否応なく戦況に大きな変化が起こる。そうしたら、逃げるしかない」
私たちは少数で、押し寄せるアンデッドの半分を相手している状態だ。
今もう半分を引き受けている、剣崎たちが率いるレベリスト部隊と、安城陸将が指揮している国防軍を助けている暇などない。
先に崩れるのは間違いなく向こうであり、残念だがそれを止める力が私たちにはなかった。
「私の出番は、安城陸将が殉職してからか……」
「はい」
いくら敗北確定な状況でも、戸高さんが勝手に部隊の指揮を執るわけにいかない。
安城陸将が殉職……国防隊では戦死とは言わないそうだ……したあと、戸高さんが一人でも犠牲を減らすべく困難な撤退戦を指揮することになる予定だ。
今すぐ戸高さんが安城陸将から指揮権を奪って撤退を開始すれば犠牲も減るが、もしそれをしたら確実に戸高さんは罪に問われる。
『戸高さん一人が罪人になることで多くの国防隊やレベリストが救われるのなら、戸高さんは決断すべきだ!』
もし私が若造なら、泣きながら戸高さんを説得したかもしれない。
だけど私は就職氷河期のおじさんで、人生がそうなんでも都合よくいかないことを理解している。
「(今後の犠牲を減らすためだ。安城陸将とバカガキどもには死んでいただく)」
私たちはいつ撤退命令が出てもいいように、ゾンビを倒すペースを落としながら戦いを続けるのであった。




