第35話 三人目の少女
「(安城陸将と最初に会った時、私たちを稲美基地防衛の英雄と持ち上げていたけど……)」
結果的に稲美基地は放棄されてしまったし、私たちは戸高さんと仲がいい。
自分にすり寄ってこなかった私たちよりも、安城陸将は同じレベリストでも地元名士たちの子弟である彼らを優遇することにしたようだ。
そしてチラリと戸高さんを見ると、あからさまに伴龍高校の生徒たちが信用ならないといった表情を浮かべていた。
「伊作さんたちは、稲美基地で多くのゾンビとスケルトンを倒した凄腕のレベリストだ。我々も対アンデッド部隊と一緒にゾンビと戦えるよう、安城陸将に進言してくる。私も稲美基地で見たが、ゾンビよりもスケルトンの方が強いのは事実だ」
「……そっ、そんなことはない! 俺たちは松代に移動する間、沢山のアンデッドと戦ってきたんだから!」
「そうだ! なにより我々レベリストは切り札なんだ! 対アンデッド部隊がゾンビを焼き尽くしてからが出番だ!」
「みんな、スケルトンとの戦いに備えて今は待機だ!」
「「「「「「「「「「……はい」」」」」」」」」」
結局レベリストたちは、伴龍高校の生徒たちの指示に従って、対アンデッド部隊がゾンビを焼き払う様子を眺めているだけだった。
戸高さんが安城陸将に、レベリストたちもゾンビ討伐に参加させるよう進言したのだが却下されてしまい、レベリストたちは戸高さんが安城陸将に干されていると察知してしまったのも大きいと思う。
そんな彼の命令に従う必要はないと。
「私たちって水無月市攻略部隊に組み込まれているから、上からの命令がないとなにもできないのが困りものよねぇ……」
「ゾンビを倒して、経験値を稼ぎたいですね」
世界を救えるかどうかわからないし、そのために命を削るつもりもないけど、生き残るためにレベルを上げたい。
それが、私たち三人の共通した認識だったからだ。
「へへへっ、おい用務員と学校で問題児だった白井と他校の女。安城司令が、少数ならゾンビたちの横合いを突いてもいいってさ」
「押し寄せるゾンビたちが多くて、火炎放射器部隊が苦戦しているのか?」
「そんなこと、俺たちは知らないよ!」
軍人としての安城陸将も底が見えたな。
戸高さんに直接命令を出せばいいのに、伴龍高校の生徒たちを通して、私たちにゾンビと戦っていいと言うのだから。
軍人として、『それはどうなんだ?』と思ってしまう。
指揮系統もへったくれもない……ここにいるレベリストたちは国防隊に所属しているから、彼らの行動は間違っているとは言えないのか。
「伊作さん?」
「戸高さん、少数でゾンビたちの横合いを突く作戦ですが、やりましょう」
このままここに待機していても意味がない。
いや、それどころか時間の無駄でしかないのだから。
「(戸高さん、火炎放射器部隊ですが、じきに崩れますよ。絶対に)」
他の人に聞かれると不都合なので、私は小声で戸高さんと話し始めた。
「(やはり、人数が足りないか……)」
「(それと、火炎放射器で使うガソリンの量もです)」
今は順調にゾンビたちを焼き払っているが、これまで手つかずの水無月市にいるゾンビの数は多い。
じきに火炎放射器部隊はガソリン切れとなり、大量に迫りくるゾンビを捌ききれず、ゾンビの群れに飲まれるか、その前に逃げ出すだろう。
「(元々、戦力比がお話にならないので)」
私は特に軍事に詳しいわけではないけど、戦力差があり過ぎることだけはわかっている。
しかしよくこんな作戦、国防隊上層部はともかく、日本政府が許可したな。
「(本当に、松代の連中はどうしようもないな)」
国防隊が編成した対アンデッド部隊が華麗に水無月市を解放し、その功績でレベリストたちを国防隊で一元管理できるようにする。
戸高さんの話によると一番の目的がそれらしく、上の考えを読んだ安城陸将がその意に沿って動き、水無月市解放作戦の司令官に任じられた。
それが、突然の水無月市解放作戦が決まった裏事情のようだ。
「(政治優先ですか……。そんな理由で死ぬ国防隊員やレベリストが可哀想ですね)」
「(松代の連中が死ぬわけじゃないから、余計にバカみたいな作戦を考えるのさ)行くのか?」
「ええ、ゾンビの群れの中に留まって、その場で死ぬまで戦えと命令されたわけではないので行きますよ」
「ここでボーーーっと立っているよりも有意義だしね」
「私たちも生き残るために、もっと強くなりたいですから」
私たち三人は半年間の遠征でかなりレベルも上がったので、死ぬ前に水無月市から撤退することも可能だ。
この世の中に絶対はないけど、ほぼ死ぬ心配はないはず。
「では行ってきます」
「戸高さんも大変だなぁ」
「中間管理職の悲哀ですね」
「まあね。他に何人か連れて行っても……。志願する者はいないか……」
私たち以外のレベリストは、安城司令の威を借る伴龍高校の生徒たちの言いなりだったのだから。
「三人で十分ですよ」
「私たち、結束が強いので」
下手に素人を混ぜると、かえって行動を阻害される可能性もある。
それに今いるレベリストたちは、伴龍高校の生徒たちの言いなりというもの気になった。
世の中がこんな状況になってしまったのに、生き残るために貪欲にレベルを上げようという気概もない。
ゾンビ出現以前の価値観に従って、伴龍高校の生徒たちの言いなりになるのは自由だが、そのせいで不利益を被って泣きついても、もう私は手を貸さないつもりだ。
なぜなら、私たちだっていつ死ぬかわからない世の中になってしまったのだから。
「あっ! 自分も参加して戦いたいです!」
と思ったら、一人だけレベリストが手を上げた。
瑠璃さんと楓さんと同年代くらいか?
そんなことを考えていたら、伴龍高校の生徒たちが彼女を制止しようとした。
「美空さん、危ないですよ」
「そいつはただの用務員なんですから!」
「美空さんとは違って、口だけのチキン野郎なんです」
しかしこいつら、言いたい放題だな。
それよりも、一つ気になることがあった。
「あいつら、どうして彼女に敬語なの?」
「幸三さん、知らないの? 美空 未来さんって、空手の世界チャンピオンなんだよ」
「知らなかった」
空手の世界チャンピオンとは凄いな。
私たちパーティへの同行に立候補した女の子は瑠璃さんと楓さんよりも小柄で、とても可愛らしい見た目をしているのに。
伴龍高校の生徒たちとしても、彼女を怒らせると怖いと思っているから敬語なのかも。
「レベリストは突然出現した力だから、前歴は関係なくない? それに、この三人って稲美基地でゾンビやスケルトンと戦ったんでしょう? 実戦経験豊富じゃん」
「ですがね……」
「自分の行動は自分で決めるので。安城司令も、少数による陽動作戦は許可したんでしょう? 自分に向いてるので。伊作さんに、白井さんに、坂田さんだったね。よろしく」
「よろしくお願いします」
「「よろしく」」
「じゃあ、行こうか」
思わず了承してしまったけど、やる気があるのなら問題ないか。
私たちは空手の世界チャンピオンである美空さんを連れて、ゾンビたちを横合いから攻撃するために移動するのであった。




