第34話 対アンデッド部隊
「横並びで進撃して水無月市内に入り、ゾンビが襲ってきたら攻撃開始だ!」
ついに、水無月市解放作戦が始まった。
安城陸将の自信満々な態度の根拠となっている対アンデッド部隊の正体であったが、なんと軍人たちに強力な火炎放射器を装備させただけであった。
彼らの目立つ特徴は、背中に背負った大きな燃料タンクであろう。
かなりの量なので、長時間火炎を発射できるはずだ。
普段から厳しい訓練を積んでいる屈強な国防隊員だからこそ、大きな燃料タンクを背負うことができるというわけか。
こんな状況では多くの兵を動かすのに必要な食料の補充も儘ならないはずだし、この半年で新兵器を開発できたとは思わない。
兵器メーカーの研究や生産なんて、エネルギー、資源、部品不足でほとんどできていないはずなのだから。
なので私も、新部隊とやらにそこまで期待していたわけではなく、まあ想定の範囲内だった。
レベルが上がらない人がゾンビを倒すには、燃やすのが一番効率がいいからだ。
火炎放射器なら、生き残った技術者、職人、軍人でも作れる。
ただ遺体の火葬を考えればわかるが、人間の体を焼いて骨にするには強い火力とそれを長時間持続させる大量の燃料が必要であり、強力な火炎放射器と大きな燃料タンクを用意したのだろう。
軍人たちはベテラン揃いらしく、一糸乱れずに横並びで水無月市に入り、彼らを見つけて襲いかかってきたゾンビたちを火達磨にしていく。
高火力の火炎を放射され、ゾンビたちは次々と火達磨になり、黒い塊になって倒れていった。
完全に燃やし尽くしてはいないが、これだけの高火力で焼かれると、体が硬直して動かなくなるし、ダメージ過多でHPがゼロになったものと思われる。
火炎放射器の炎で次々と黒焦げの死体が量産され、ゾンビは地面に倒れ伏し、動かなくなった。
「火炎瓶じゃあ、あの火力は無理だからなぁ。自信があるのは頷けるよ。それと、このくらい焼けばゾンビも倒せるのか」
「幸三さんは、骨になるまで焼き払うものね」
「ゾンビだから黒焦げでも生きていて、思わぬ不覚を取るかもしれない。なにより、治癒魔法と火炎魔法は高威力だから、一発でゾンビが骨だけになるんだよねぇ」
私たちレベリスト部隊は、彼ら火炎放射器部隊の後方にいた。
倒されたゾンビがスケルトンとして復活した時、それを倒すのが仕事だ。
ただ、私たち以外のレベリストたちのレベルが低く、そもそも彼らはスケルトンを倒した経験があるのだろうか?
気になったので、私をバカにしている伴龍高校の生徒以外のレベリストに聞いてみた。
「スケルトンですか? 国防隊の人たちが、スケルトンは骨だけだからゾンビよりも弱いので、先にゾンビを倒せれば大丈夫だって」
「なっ!」
だから彼らはレベルが低いのか……。
それよりも、とんでもないことが発覚してしまった。
ゾンビよりもスケルトンの方が強い。
そんな基本的な情報すら、レベリストたちには共有されていなかったのだ。
「ねえ、楓さんは、無線で色々と情報を稲美基地に伝えていたよね?」
「はい、確かに伝えました」
人類を救うために滅私奉公しようとは思わなかったが、アンデッドに関する知識は楓さんが無線で伝えていた。
それがちゃんと国防隊の上層部に伝わっていれば……もしそうなら、レベリストたちが間違った情報を得ているわけがないか……。
「アンデッドは物理的法則を外れた存在だ。スケルトンは骨だけだけど、ゾンビよりも力もあるし強い。ゾンビはレベリストでなくても倒せるけど、スケルトンはレベリストしか倒せないし」
「そうなんですか?」
「えっ? でも……」
若者が多いレベリストたちの視線が、一斉に伴龍高校の生徒たちに向かった。
つまり、その偽情報はこいつらから得たものだったのか……。
「あなたたちは、年下の高校生の言っていることを鵜呑みにしたんですか?」
レベリストたちにあまりに自主性がないため、瑠璃さんが強めの口調で問い質したほどだ。
「突然能力に目覚めた僕たちは、やはり突然国防隊に組み込まれて、訓練でゾンビを倒していたんだけど、指揮官の人はレベルが上がらなくてなにも知らないから」
「今もここにいないし……」
なんの知識もなく、学ぶ気もない人が上官になることほど不幸なことはないと、私はあらためて思った。
しかもレベリスト部隊の指揮官は総司令部に詰めており、ここにはいないという。
「(典型的な出世だけを目指す、エリート将校様ってか)」
レベリスト部隊の指揮官など腰掛け任務で、出世に繋がる司令部参謀の仕事が本命だから、レベリストたちを放置して司令部に詰めている。
自分たちを引き上げてくれるであろう、安城陸将から離れたくないのだ。
「それに彼らは、伴龍高校から長野までアンデッドと戦いながら避難してきたって聞いているから……」
「年下だけど一番のベテランだからって、この部隊の隊長も言っていて……」
「「「……」」」
私たちは、ただ呆れるばかりだった。
それにしても、言った者勝ち作戦か……。
彼らは伴龍高校に避難していたが、そこがアンデッドに襲われたらクラスメイトたちを見捨て、食料と車を持って逃げ出した。
それを誤魔化すために、レベリストの才能が具現化したのを利用して、ありもしないアンデッドとの戦闘経験をでっち上げたのだろう。
それを素直に信じてしまう方もどうかと思うけど、
「さすがに嘘はよくないと思うがね」
「はあ? 俺たちが嘘を言ってるって言うのか?」
「そうだ。スケルトンはゾンビよりも強い。先にゾンビを倒してもっとレベルを上げてからスケルトンに挑まないと危険だ。戸高副司令、安城司令に上申して……」
「はんっ! 安城司令は、お前のような用務員の意見なんて聞かないさ」
「僕のパパは県会議員だ。安城司令は僕たちの意見の方が正しいと思うに決まってる」
「みんな、聞いてくれ! 俺たちは伴龍高校の生徒で、家族は地元の名だたる名士ばかり。当然上手く長野に逃げ出せたし、安城司令とも懇意にしている」
「ここから避難する時にアンデッドを倒した経験もあるし、みんなとちゃんと訓練もした」
「そこの用務員と俺たち。どっちを信用するかな?」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
伴龍高校の生徒たちにそう尋ねられ、レベリストたちは困惑と不安の入り交じった表情を浮かべた。
突然アンデッドと戦わされることになり、命令どおりゾンビと戦ってレベルは上げたけど、これからどう行動すればいいのか迷っているのだろう。
こんな世界になってしまったので、人は自由に行動しようと思えばいくらでもできるようになった……いや、そう思うのは年を取り、異世界で魔王を倒してきた私だからなのか?
結局人は、自分で判断すること自体がプレッシャー、ストレスになる人が一定数いて、他人になにかを決めてもらいたい人が多い。
だから、地元の有名エリート私立高校の生徒たちの言い分を信じてしまう。
彼らの後ろには名士や富裕層の父兄もいて、安城陸将とも懇意だというのが大きいのだろう。
結局人は、ゾンビが溢れる世界になっても権威に弱いということだ。
そんなもの、アンデッドにはまったく通じないにしても。




