第33話 無謀な解放作戦
「選ばれしレベリストの精鋭諸君! この水無月市の解放こそが、日本開放の第一歩となるのだ! 全軍進撃開始!」
一週間後、安城陸将による、いかにも準備不足な水無月市解放作戦が始まった。
主力は松代からやって来た部隊とレベリストたち、そして朝山駐屯地で訓練を重ねた部隊とレベリストたちだ。
さらに私たちも、この作戦に参加することになったのだが……。
「あれえ? 使えない就職氷河期じゃないか」
「おっさんは、用務員の時と同じく掃除でもしてな」
「そうそう、無能は弁えた方がいいって」
松代から来たレベリストの中に、私をバカにし続け、挙句の果てに伴龍高校から逃げ出した生徒たちも数名いて、彼らは私を見るなりバカにしてきた。
普通に考えたら、伴龍高校が備蓄していた食料を盗み、仲間を見捨てて逃げ出した卑怯者なのだが。逃げた松代でレベリストになれたので、自分たちの罪と恥はノーカウントだと思っているようだ。
私への態度と合わせて彼らはなにも変わっておらず、逆にある意味感心してしまった。
「用務員のおっさん、役立たずの癖に、えらく古風な装備を着けてるな」
「ゲームじゃないんだっての」
「その年で、コスプレは似合わないぜ!」
レベリストたちは、国防隊から支給された厚手の特殊繊維製のインナーと、カーボン製と思われるプロテクターを全身に装備していた。
対アンデッド戦の教訓から、アンデッドに噛まれたり引っ掻かれても肌が傷つかないようにするための装備だと思われる。
いかにも近代的で最新装備といった感じなので格好よかったが、残念ながら防御力は低いだろう。
最新素材なので軽くて頑丈なのはわかるが、アンデッド相手だと攻撃を食らわない方がいい。
たとえ噛まれたり引っ掻かれなくても、アンデッドのパワーで怪我をしてしまうからだ。
そして、レイス相手にはなんの役にも立たない。
その点ミスリル装備なら魔力を込めなくても、レイスとの接触をかなりの時間防げる。
私がミスリル装備に拘った理由だ。
「その鎧、本当に金属製なのか?」
「まさか。だとしたら、無能なおっさんや女子が装備できるわけないだろう。コスプレ衣装で防御力は皆無に決まっている。もし本当に金属製なら重たくて動けないはずだからな」
「なんだよ、白井と他校の女子も同じ装備かよ。おっさんと一緒にコスプレとはご苦労だな」
「コスプレで戦えると思うなんて、最高に笑えるぜ。俺なら恥ずかしくて、そんな格好できないね」
「せいぜい、死なないようにな」
伴龍高校の生徒たちは、私たちに好き勝手言ってからその場を離れた。
「幸三さんをバカにするなんて!」
「自分たちは、伴龍高校にアンデッドが押し寄せた時、学校の備蓄食料と他人の車を盗んで他の人たちを見捨てたくせに!」
瑠璃さんと楓さんは、伴龍高校の生徒たちに怒っていたが、私はそんな感情が湧いてこなかった。
なぜなら……。
「あいつら、まだレベル3なんだけど、大丈夫か?」
むしろ、そのレベルでゾンビの大軍と戦わされる彼らに対し、憐みの感情しか湧いてこなかった。
私たちのレベリングは疲れたらやめられるが、水無月市の解放作戦を安城陸将が諦めるわけがない。
もし彼が諦めるとしたら、それはレベリストと国防隊の部隊が大損害を受けた時だからだ。
「えっ! レベル3? 低っ!」
「そんなにレベルが低いんですか? というか、他の人のレベルがわかるんですね」
「ここ半年の大幅なレベルアップのおかげで、最近『レベルサーチ』が使えるようになったんだ。これはかなり特殊なスキルなんだよ」
「他人のレベルが見えるんだ。凄い!」
「アンデッドのレベルも見えるんですか?」
「アンデッドや魔物にはレベルがないから見れないよ」
「わかれば、アンデッドの強さがわかりやすいのに……」
異世界の王様によると、『レベルサーチ』は歴史に残る軍師とかが使えたらしい。
敵の強さも味方の強さもわかるので、情報がなによりも大切な戦争において、これほど有利なスキルはないはずだ。
『探知』と合わせれば、これほど戦いで有利なスキルは存在しないだろう。
ただ残念ながらアンデッドと魔物のレベルはわからないので、対魔物戦においては、共に戦う者たちの強さを探るのが精一杯であった。
無能な味方と一緒に戦うとこちらまで死亡率が上がるので、たとえ人間にしか使えなくても重宝していたけど。
それはいいとして、伴龍高校の生徒たちのみならず、他のレベリストのレベルも低すぎる。
伴龍高校の生徒たち以外のレベリストの強さも確認してみたが、一番高くてレベル12だった。
人数も松代から来たレベリスト部隊が50人で、朝山駐屯地で育成していたレベリストはわずか8人。
水無月市は政令指定都市で人口が多く、ゾンビにより多くの犠牲者を出していた。
私たちは水無月市に一度も踏み入ったことがなかったが、奪還はかなり困難だと思われる。
「もしかして水無月市には、数十万体のゾンビが手つかずでいるってこと?」
「その可能性が高い」
瑠璃さんの問いに対し、正直に答える私。
嘘をついたところで、この絶望的な状況が解決するわけではないからだ。
私たちも移動ルートの関係で、水無月市には手を出していなかった。
それにわずか半年で、本州の大半の町を回りながらアンデッドを討伐したのだ。
抜けがあっても仕方がない。
「大丈夫なんですか? 私たちだけでそんな大戦力を相手するなんて……」
「実は、レベリストと一緒に国防隊の対ゾンビ部隊が投入される予定で、松代に栄転したい安城陸将としては、そちらも自分の指揮で活躍してもらいたいんだ」
「あっ、戸高さんだ」
「こんにちは」
戸高さんが姿を見せ、私たちに状況を解説してくれた。瑠璃さんと楓さんに挨拶をされ、戸高さんも満更ではないようだ。
笑顔で事情を説明してくれた。
「伊作さんたちが思っているとおり、確かにこの作戦は無謀だ。私個人としてはそう思っているが、上からの命令に逆らえないのさ」
私たちがこの作戦の行く末について悲観しているのと同じく、迷彩柄の作業服姿の戸高さんもこの作戦が成功するとは微塵も思っていないらしい。
彼は副司令として安城陸将の下についているようだけど、今回の作戦には反対という態度を隠さないからか、安城陸将に干されて仕事がないのかも。
「司令部の仕事は、松代からやってきたエリートの旧市ヶ谷組が張り切ってるので、私の出番はないな」
「旧軍のエリート参謀たちのような、結末にならないことを祈ってますよ」
「彼らがそこまで愚かだとは思いたくないが、国防大学を出ていないのに陸将補になってしまった私がちょっとハブられているのは確かだから」
安城陸将としても、稲美基地を放棄するまで守りきったという実績のある部下が鬱陶しい、というのもあるのかもしれない。
「副司令が手持ち無沙汰で大丈夫なんですか?」
「参謀たちが優秀だから」
「いくら参謀が優秀でも、戦力が足りないと厳しいのでは?」
「厳しいけど、安城陸将はそれだけ対ゾンビ部隊に自信があるんだろうね。上もかなり期待していて、虎の子のレベリストたちが、一つの戦場にこれだけの人数投入されるのは初めてなんだ」
確かに、私たちを含めて合計61名のレベリストが戦うので戦力は多く見えるのか。
それよりも問題なのは、レベリストの平均レベルが低いこと……レベルは自分にしかわからないし、国防隊にはレベルいくつなら大丈夫かなんて指標もない。
なにしろ国防隊が、アンデッドたちに対しこれだけ大規模な反攻作戦を行うのは、初めてのことなのだから。
「安城陸将としては、この作戦を成功させれば、次の統合幕僚長が見えてくるってことですか」
「伊作さんには隠し事ができないなぁ。だから、私が活躍するのも困るので暇なんだよ」
「ああっ、可愛がっている後輩を次の朝山駐屯地の司令にしたいんでしたっけ?」
「この作戦にも参加しているというか、対ゾンビ部隊の部隊長だよ」
「大人って、面倒だよねぇ」
「こんな時に派閥に拘ったり、功績争いをしている場合じゃないんですけど……」
「それが人間ってものなんだろうね」
異世界ではその手の動きを王様が懸命に抑えていたけど、まったくなかったわけではない。
そのせいで、魔王の軍勢に負けてしまったことだってあったのだから。
「それで作戦なんだけど、まずは対ゾンビ部隊で派手にゾンビを焼き払うそうだ」
「我々は、骨から復活したスケルトンの相手ですか」
「ええ」
「スケルトン相手だと、大半のレベリストたちはレベルが足りない気もしますけど……」
「レベリストたちは特別だから、なかなか言うことを聞かないようで……。元々自衛官じゃないから、命令されてそのとおりに動く訓練も足りていないだろう。軍事行動には不向きなのさ」
やはりそうなるか。
レベリストたちは、たまたま特別な才能が開花した一般人に過ぎない。
一応国防隊に組み込まれているし、国防隊員の指揮官もいるがレベリストではないし、レベリストは希少で替えが利かない。
厳しく統制するのが難しいのだろう。
その結果、伴龍高校の生徒たちみたいに増長している者が出始めた。
「レベル2になると、まるで背中に羽根が生えたかのような体の軽さを感じる。自分が特別な存在になったような気がするんだ」
そのため、自分を過信してレベルアップをサボってしまう人が多い。
だから、彼らのレベルは低い傾向にあるのが容易にわかってしまった。
特別な才能を得て有頂天であり、周囲もなかなか注意できなかったのだろう。
伴龍高校の生徒たちを見れば、それは一目瞭然だ。
「本人たちのためでもあるから、厳しく指導した方がいいですよ」
海兵隊のような扱き方はやる必要ないけど、ちゃんとアンデッドと戦わせて一つでもレベルを上げてやらないと。
それこそが、一番生存率を上げる方法なのだから。
「それが……。あまり厳しくすると、警察、消防、内閣府の部隊に行ってしまうから……」
「レベリストの運用を一元化できなかったんですね」
「ああ……」
まさに縦割り行政だな。
私たちが外部の情報を遮断し、半年間レベルアップとお宝探しに勤しんでいた間に、多くのレベリストが出現したのはいいけど、そんなことになっていたのか……。
「安城陸将としては水無月市の解放を成功させて、その功績でレベリストたちの管理を国防隊で一元化したいという思惑もあるようだ。彼が上からの支持が厚いのは、積極的にそういう運動をしているからだ」
「この非常時に、警察や消防、内閣府と競争している場合じゃないと思うけど……。頭大丈夫かな?」
「頭が痛いよ。こっちは」
まともな国防隊員である戸高さんからしたら、そんなことをしている場合じゃないだろうにと思っているはずだ。
だが、上層部がやっていることを阻止するのが難しい。
いくら優れた個人が頑張っても、組織相手には無力ということも少なくないのだから。
「あのぅ……。そんな裏の事情を私たちに教えて大丈夫なんですか?」
「坂田さん、私は漏らしてはいけない情報は漏らしていないよ。それに作戦については、君たちも参加しているからね。情報の共有は必要だから」
なににせよ、戸高さんが国防隊やレベリストの裏の事情を教えてくれるのはありがたい。
「そんな事情があって、私は安城陸将の命令で君たち付きとなった。よろしく頼むよ。司令部には優秀な参謀や将校が沢山いて、私などお呼びでないってことさ」
「……」
一見、この作戦の指揮を執る安城陸将にナンバー2である戸高さんが疎まれ、こっちに飛ばされただけという風に受け取れるが、どうやらそれだけではないようだ。
「(作戦は失敗しそうだな)」
そしてその時は、安城陸将以下司令部要員は無事では済まない可能性が高いのだと。
戸高さんはそれに気がついたが、安城陸将を説得することはまず不可能だ。
「(だが、部隊の副司令が勝手に司令部を離れたら、確実に懲罰の対象になってしまう。そこで自ら、私たちのところに行って指揮を執ると安城陸将に上申し、それが認められた)」
安城陸将としては、司令部に戸高さんがいない方が都合がいいのだから。
「もしかして戸高さんは、この作戦が成功するしないは別として、生き残る鍵はレベリスト部隊だと思っているのですか?」
「(伊作さん、鍵はレベリスト部隊じゃないですよ。あなたたち三人ですから)もうすぐ作戦が始まりますよ」
こうして戸高さんは私たちと合流し、それからすぐ水無月市の解放作戦が始まるのであった。




