第30話 続けたお宝探し
「ふう……。ひとまず倒し終えたかな」
「倒し残しはいませんね」
「倒して骨にしたゾンビだけど、どうにかスケルトンに復活するのを阻止できれば、もっと楽になるのに……」
「私もそう思って、これまでに色々試したけど無理だったからなぁ……。さて、ここにはどんなお宝があるのかな?」
廃村を出て全国回り始めて半年ほど。
私たちはレベルを大幅に上げ、装備も三人全員がミスリル製を装備可能となっていた。
そしてこの頃になると、出没するアンデッドがゾンビとスケルトンだけでなく、レイスも混じるようになった。
私たちが倒したスケルトンがレイスになり、ランダムに復活し始めたのもあるが、どうやらレイスの中にはこの世界で過去に死んだ亡霊の類もいるらしい。
レイスはすべて見た目が同じなので、誰の悪霊なのかわからないけど。
この世に幽霊が存在するのかしないのか、そんな論争があったけど、少なくとも今は存在するってことになるのかな?
悪霊ではなくレイスであり、幽霊否定派の人たちは直接レイスを見ても、『これは、プラズマです!』と言いかねないけど。
「レイスは、ゾンビとスケルトンがいる場所に出やすい傾向があるのかな?」
そのおかげで、この世界の人類は助かっているのだけど。
レイスには物理攻撃が効かないのに、人間を始めとした生物は数秒間触られただけで死んでしまう。
さらに壁などをすり抜けて人を襲うので、最悪のアンデッドと言っても過言ではなかった。
そんなレイスが避難所などに出現したら、そこにいる人たちは最悪全滅してしまうのだから。
とりあえず、この近辺のアンデッドはすべて倒した。
骨はじきにスケルトンになるけど、その前にお宝を回収してここを立ち去れば問題ない。
「幸三さん、『探知』は常に発動させておくからね」
「ありがとう、瑠璃さん」
「この倉庫群にお宝があるんですね。鍵がかかってますけど」
「だから、ゾンビたちが入り込んでいないのか……」
ゾンビに、鍵を開けて中に入るなんて知能はない。
だから店舗や家庭の食料や物資はほとんど荒らされていたが、地下室や倉庫は荒らされていないケースが多かった。
私たちはこの半年、日本全国を回ってアンデッドを倒しながら、使えそうなものを片っ端から回収していたのだ。
「この倉庫の中身は無事だといいな。この前の冷凍倉庫は悲惨だったよね」
「酷い臭いでしたからね」
いくら冷凍した商品が長持ちするとはいえ、冷凍倉庫の電源が切れていたら意味がない。
とある手つかず……ゾンビだらけの場所にある店舗や倉庫を探る人間なんてまずいないはずなので、手つかずで当たり前なんだけど……の冷凍倉庫の扉をこじ開けてみたところ、中身が腐っていてとんでもない腐臭を放っていたことがあった。
さらにその臭いに釣られて、また大量のゾンビが集まってきてしまい、倒すのにえらい苦労したのを思い出す。
このゾンビだらけの世界で始めたお宝探しも、常に成果が出るわけではなかった。
こんな世界になったので、一番貴重な食料……消費期限が長くて匂わず、鍵のかかった倉庫に入っていたもの……も大量に見つかったが、食料以外の物の方が多かった。
とりあえずあとで使うことがあるかもしれないし、私は貧乏性なので『アイテムボックス』に入る限りはすべて回収していたけど。
ただ、町のブランドショップやジュエリーのお店がまったく荒らされてなくて、店内に店員のゾンビがいるのを発見した時。
私たちが暮らしていた文明的な社会は本当に崩壊してしまったのだなと、物悲しくなったのを思い出す。
こんな世界で、ブランド品のバッグや大きな宝石のついたアクセサリーを手に入れたところでなんの意味があるのか、と思ってしまったのだ。
『幸三さん、婚約指輪と結婚指輪が必要だと思います!』
『幸三さんが選んでください』
成果は平等に分けるつもりだったのに、『これからはずっと家計を共にするので、一緒でいいです。婚約指輪は選んでくださいね』、『『アイテムボックス』に入れておかないと量が多くて管理できないから、幸三さんが預かってよ。それに幸三さんは、一家の大黒柱だから』などと言われてしまい、私は女子高生二人に似合うアクセサリーやブランド品、服をプレゼントすることで分け前の代わりとしていたけど。
以前なら買えなかった高級ブランド品や高価なアクセサリーが、アンデッドを倒すことで大量に手に入ったけど、こんな世界で意味があるとは思えない。
まあ、二人が喜んでくれたからいいのかな?
『これまでブランド品にあまり興味はなかったんだけど、幸三さんがプレゼントしてくれたのが嬉しい』
『そもそも普段は、装備品ばかり着けていますからね、私たちって。でもこれからは、戦っていない時はお洒落しようと思います。幸三さんのために』
段々と、この二人も積極的になってきたというか……。
ただこの旅の間、私たちは寝る時とお風呂、シャワーの時間以外はずっとミスリル製の装備に身を包んでいたので、プレゼントしたアクセセサリーを着けるのは、家に帰ってからになるかな。
ミスリルも高価な貴金属なので、装備していること自体がステータスではあったけど。
「この倉庫は常温かぁ……。なにが入って……。おおっ! これは当たりだ!」
なんと倉庫の中には、缶詰、乾物、レトルトパックの段ボールが大量に積まれていた。
町中のお店にあった生鮮食品、要冷蔵、冷凍の食品が全滅した今、常温保存可能で消費期限が長い食品はお宝と呼ぶに相応しかったからだ。
私からすれば、ブランド品やアクセサリーを発見した時よりも嬉しかった。
「すべて消費期限内だな。全部いただきだ」
私の『アイテムボックス』に入れておけば悪くならないし、今のところはいくらでも収容できる。
残す意味もないで、私は倉庫に入っていた食料をすべて『アイテムボックス』に仕舞った。
そんな感じで私たちはアンデッドだらけの町を巡り、ゾンビとスケルトンを倒しながら、私の『探知』で反応があった場所でお宝を拾い続けていた。
瑠璃さんも『探知』を使えるけど、スキルが魔法戦士寄りなのでアンデッドの探知に長けている。
そして私の『探知』はお宝を探すのに便利で、上手く役割分担ができていた。
『探知』のおかげで、お宝を多く見つけることに成功している。
「おっ! また『探知』に別の反応があるぞ!」
「今度はなにかな?」
「楽しみですね」
よくよく考えると、私たちのお宝探しは泥棒ではないかって気もしなくはないが、このまま朽ち果てるよりも、有効活用した方がいいという考えに落ち着いた。
すでに三人だけなら一生かけても使い切れない量の食料と物資を集めていたのだけど、レベルアップのついでなので続けていたのだ。
「また倉庫だ! 周囲のスケルトンを蹴散らすぞ!」
「はいっ!」
「任せて」
私たちはすでに慣れた連携攻撃でスケルトンたちを倒し、鍵のかかっていた倉庫をこじ開けると、その中には大量のお酒が入ったダンボールやケースが積んであった。
「やったぁーーー! 当たりだ!」
「そうかな?」
「そうですか?」
「ぐっ!」
お酒も瓶や缶、紙パックに入っているからか、ゾンビたちに荒らされていないことが多い。
私はブランド品に興味はなかったが、町中の普通の酒屋や、高価なワイン、ブランデー、ウィスキー、日本酒などを売る専門店を見つけると、ウキウキで店内に入ってお酒を回収することを忘れなかった。
「おっ! この焼酎は限定品で、プレ値がついてるやつだ。この日本酒とウィスキーも! ここはお宝の山だぁーーー!」
多分ここは、インバウンド客向けにプレ値で日本の貴重なお酒を売るお店の倉庫だったのだろう。
用務員時代には高くて飲めなかったお酒が大量に手に入り、私は歓喜の中にいた。
「幸三さん、飲み過ぎは駄目だよ」
「そうですよ。幸三さんには健康で長生きしてもらわないと」
「私は、大酒飲みではないけどね」
元々私の飲酒量は普通であり、そもそも今の生活で酩酊するまで飲んでしまうと、就寝中にアンデッドに襲われたらゲームオーバーだ。
その辺はちゃんと弁えていた。
「飲みたかった高価なお酒を、一杯、二杯と。じっくりと楽しむのがいいんだよ」
「幸三さん、お酒って美味しいの?」
「それはその人によるかな。今は飲まない人も多いし。ただ未成年者には飲ませないので、二十歳になってから飲んでください」
「成人年齢は十八歳なのに、お酒は二十歳からって謎だよね」
「お上のすることなんて、どこか矛盾しているんだから」
と、捻くれた就職氷河期は言ってみる。
こんな世相なので、二人がお酒を飲んでも咎める人はいない……私は咎めるか。
二十歳を過ぎたら、私もなにも言わないけど。
「お酒は飲むだけでなく、料理にも消毒にも使えるから。長保ちもするし」
「それにしても、幸三さんの『アイテムボックス』って凄いですね。どれだけ収納できるんですか?」
「わからない。触れ込みは、異世界の勇者は無限だって王城の魔法使いが言ってた」
「じゃあ無限なのでは?」
「大げさに言っている気がするんだよね。真実はそのうちわかるでしょう」
この半年、使えそうなものはすべて回収してきたが、まだ『アイテムボックス』はいっぱいにならない。
もしかしたら、本当に容量が無限なのかも。
でも、さすがに限界があると思うんだよなぁ……。
「とにかく、『アイテムボックス』がいっぱいになってから、入れておく物と捨てる物を考えよう」
その後も私たちは、この倉庫が沢山ある町でアンデッドを倒しつつ、お宝を探した。
すると、さらに色々な物が見つかった。
「これはお宝ですよぉーーー。急ぎ全部回収しましょう」
古書店の倉庫らしきものがあり、沢山の本を見つけたら、楓さんが大喜びしている。
もはや電子書籍を読むことはできないし、紙の本を作るのも難しい世界になってしまった。
ネットにも繋がらないので、知識を得られる紙の本は見事復権を果たしたと思う。
まだ気がついていない人も多いが、私も本は確実に回収することを決めていた。
「『紙の本なんて時代遅れ、全部断捨離して電子書籍オンリーにしたから!』って言ってた人、今絶望の淵にいるかも」
私たちは今もスマホを持っているが、このゾンビ溢れる世界でフリーWIFIが使えるわけがない。
時計、電卓、ダウンロードしてあった簡単なゲーム、電灯。
そのくらいしか使わなくなっていた。
大量の新品、中古のスマホも手に入れたけど、今のところあまり使い道はなかった。
「電子書籍が見れなくなった時、私もそうなりかけたんですけど、幸三さんのおかげで助かりました」
楓さんにとって、本は大切なものなのだ。
続けて見つけた倉庫の中には、大量のキャラクターグッズが入っていた。
キーホルダー、アクリルスタンド、ポスター、タペストリーなどなど。
こんな世界で、キャラクターグッズ楽しめるかという問題があり、さすがにこれは回収する必要性を感じなかったのだけど……。
「タレ耳犬のグッズが全種類大量にある! 幸三さん、少なくともタレ耳犬のグッズは全回収で!」
いまだに見た目はギャルを貫く瑠璃さんであったが、まさか『タレ耳犬』が好きだったなんて……。
私の姪が、小学生の頃に好きだったのを思い出した。
その頃は私も家族と普通に接していたので、よく覚えていたのだ。
「(今も姪は、タレ耳犬が好きなのかわからないけど)」
その前に、私の両親と兄家族の消息も不明であり、生きているかどうかすら不明だったけど。
家族の縁を切ると言ってきたのは向こうからだったし、今こうして全国を回っているけど、私に家族を探そうという気は微塵もなかった。
そこは、瑠璃さんと楓さんとは違うかもしれない。
異世界でシビアに戦ってきたせいか、その辺の割り切りは早くなった気がする。
どのみち海に近い都市や首都圏に住んでいた住民の大半はゾンビとなってしまい、どうにか生き残った人たちは全国各地の標高の高い山地に逃げ出してしまった。
その中にはすでに住民がいなくなっていた過疎の村などもあるようで、もし私の家族が生きていたとしても、探し出すのは難しいだろう。
今や人々は電話を使えず、メールやメッセージアプリ、SNSも使用不可能であり、各所に置かれた無線通信機で連絡を取り合っている有様なのだから。
そのせいか、二人も家族に会いたいと言わなくなっていた。
「(二人が家族に会いたいと言わない以上、私も先には言い出しにくいな)」
その前に、別に私は家族に会いたいわけではない。
だからこそ、レベルアップとお宝探しに集中できたわけだけど。
「幸三さん、そろそろ一旦村に戻らない?」
「この半年で、かなりレベルも上がりましたし、留守にした家の様子の気になりますしね」
「そうだなぁ」
北海道と九州、沖縄を除く日本全国の都市や港はおおよそ回ったし、遠方だから強くてレベルの上がりやすいアンデッドが出るという話でもない。
異世界とは違って、この世界にはアンデッドしかいないだから。
特別個体の出現もランダム過ぎて数自体も少ないので、そろそろ遠征の意味も薄れつつあった。
「確かにもうそろそろ、廃村の近くに出現するアンデッドの数も増えているはず」
「そうなの?」
「倒し過ぎると数が減って、時間が経つと元に戻る。魚みたいですね」
とにかくアンデッドの数が多いので、一か所で頑張って戦って減らしても、ある程度時間が経てば元に戻ってしまう。
異世界でもそうだったのを思い出す。
「もしかしたら、まだアンデッドが戻っていないかもしれないけど、もしそうだったら、また遠征すればいいし」
「じゃあ、家に戻りましょう」
「早く家に戻って寛ぎたいですね」
家かぁ……。
確かに短期間ながら三人で暮らしていたので、あそこは私たちの家なのか。
それに、この半年で大きな成果もあった。
いまだこの世界がどうなるのか不明だけど、私たち三人くらいは死ぬまで困窮せずに生きていける量の食料と各種物資を得ることができたし、アンデッドに対抗できるレベルと強さも手に入れたにのだから。
それに遠征中は、寝る場所に簡易結界は張ったけど、いつアンデッドに襲われるかわからない緊張感もあった。
ちゃんとした結界が張られた廃村に戻って、ゆっくりと過ごしたい気持ちも強かったのだ。
「半年ぶりかぁ、家は大丈夫かな?」
「結界が張ってあるから、かなり強力なアンデッドでなければ大丈夫だよ」
「今度は村でちゃんと農業をやってみたいですね。農業の本を今読んでいるところなので」
翌朝、私たちは荷物を纏めて車を廃村の村へと走らせた。
次の遠征は、北海道と九州に渡る方法を手に入れてからになるのかな。
それが見つかるかどうか、今はまだわからなかったけど。




