第26話 パーティ誕生
「凄ぉーーーい! こんなに体が軽いなんて!」
「私も魔法が使えるのでしょうか?」
「そこのところは、自分で試していくしかないんだ」
「頭上と手の平に、レベルの数字が刻まれているだけですからね。職業も、HPも、МPも、魔法もスキルも表示されていないですから」
「RPGとは違ってHPの数字が記載されているわけじゃないから、引き際を誤って死ぬ奴が多いんだ。魔法もどれが使えるか手探りだし、使用時の消費MPも人によってかなり違う。MPの数字表記もないから、魔法をどのくらい使えるかは、やはり感覚で覚えないといけない。МPが尽きると気絶するから、それは絶対に避けないと」
「ゾンビに噛まれてジ・エンドだよねぇ」
「そういうこと」
二人に『アイテムボックス』から取り出した鉄の兜、鉄の鎧、鉄のブーツ、鉄の盾を装着してもらい、武器として銀の剣も渡してある。
そして私はついに、ミスリルシリーズの装備ができるようになった。
アンデッドを倒す際、剣に治癒魔法か聖魔法を纏わせる必要があるが、ミスリルは魔力を内包して離しにくい。
かなりコスパ良く戦えるし、銀の剣に比べると攻撃力が段違いなのが嬉しかった。
「早く二人もレベルを上げて、ミスリル装備を使えるようにした方がいいな」
「じゃあ、沢山ゾンビを倒さないとね」
「頑張ります」
「まずは、その前に……」
二人の適性を見ないといけない。
レベルは表示されても、近接戦闘が得意なのか魔法が得意なのかもわからないからだ。
ステータス表示を見るような魔法も存在せず、二人はなにか得意で、なにをできないのか確認する必要があった。
「二人とも銀の剣は普通に使えるから、あとは魔法が使えるかどうかだな」
どんな魔法が存在するのか。
この世界にはゲームがあるから想像しやすいにしても、手探りだから私がいなかったら少し面倒だったかもしれない。
「比較的、誰でも使えるのが『ヒール』かな」
浅い傷や、失ったHPを少し回復させる魔法だ。
ゾンビにもダメージを与えられる。
同じ『ヒール』でも、レベルによって効果はかなり変わるから、やはりレベルは高いに越したことはなかった。
他の魔法もまったく同じなのだけど。
あとは個人差もかなり大きい。
魔法が得意な魔法使いか、魔法は使える魔法剣士みたいな人と別れているからだ。
「『ヒール』ね。ゲームみたい。あっ、使えた」
「私も使えました、『ヒール』」
二人とも、魔法が使えるのはラッキーだった。
これでパーティーの戦力は大幅増強だ。
「次は『火炎』だね」
ゾンビだけは、火魔法で倒せるのでとても大切だ。
これが使えるかどうかで、随分と違うと思う。
異世界にはアンデッドではない魔物もいるので、他の系統魔法も役に立つが、ゾンビはともかくスケルトンやレイスに『風魔法』、『水魔法』、『雷魔法』、『土魔法』などを使っても効果がない。
さらにスケルトンは、物理的な攻撃で壊しても時間が経つと復活してしまう。
さほど強くないが、倒し方に制約があり、すぐに数を増やせるアンデッドは、異世界でも面倒な魔物とされていた。
「『ヒール』などの治癒魔法、ゾンビは倒せる『火炎』などの火魔法、そして神官系の特技を持つ人が使える『聖光』などの聖魔法。この辺がアンデッドには有効だ。補助魔法は身体能力を上げてくれるから、アンデッドへの攻撃、逃走にはとても便利な魔法だ。ただいくら魔法が使えても、アンデッドを倒す手段がないと逃げるしかなくなってしまうから」
「今のところ私は、火魔法が得意みたい。格闘戦も坂田さんより得意かな。魔力は少なめ?」
「私は治癒魔法が得意みたいです。格闘は普通でしょうか?」
試しに二人でゾンビと戦ってもらっているが、正しい自己分析だ。
瑠璃さんは、火系統の魔法剣士。
楓さんは、神官戦士の傾向が強いかな。
「これからレベルが上がると、また新しい特技や魔法を覚えることもあって、傾向や性質が変わることもあるけど」
RPGのようにわかりやすく職業が分かれているわけではなく、レベルアップによるステータスの成長も見られない。
覚えられる特技も表示されないので、これまで剣なんて一度も握ったことがないのに、なぜか使えるようになった、みたいなことでしか見分けるしかないのだ。
魔法も人によって覚えられる、覚えられないがあり、覚えられるレベルも人それぞれだ。
しかも、レベルが上がったからといって、わざわざ『新しい魔法を習得しました』なんて教えてくれない。
自分で使えるかどうか、その都度試してみるしかないのだ。
その点が非常にわかりにくいと思う。
私が二人に色々とアドバイスできているのは、異世界で魔王を倒すために修練を続けた経験があるからだ。
「HPも体感で測るしかないし、МPも実際に魔法を放っておおよその消費量を推測するしかない。調子に乗って魔法を使いすぎないようにしないと」
「気絶するとゾンビに噛まれちゃうなんて、魔法の運用はかなり慎重にやる必要があるんだね」
「だから魔法の使用はМPに余裕を持つのと、普段からこの魔法なら何発は放てるかなど、しっかりと魔力量を測っておくべきだ」
「他に方法はないんですか?」
「МPが尽きかけると眠くなるけど、眠くならないうちに強力な魔法を使った結果、一気にМPが枯渇して一瞬で気絶なんてこともある。楽な方法に拘って手を抜かない方がいいかも」
「そうですね」
学校の近くの町で、三人でゾンビとスケルトンを次々と倒していく。
リッチーに勝利して大幅にレベルアップしたおかげで、私たちはゾンビとスケルトンに苦戦しなくなった。
初心者にしては、瑠璃さんと楓さんの動きもいい。
「幸三さんの戦い方を見ていたんです」
「さすがは異世界の勇者。動きに無駄がありませんね」
「いやあ、照れるなぁ」
そこは再びレベル1になったとしても、異世界で五年間も戦ってきた経験のおかげだろう。
効率のいい戦い方を、体が完全に覚えていたのだ。
「このまま三人でレベルを上げていけば、少なくとも私たちだけは、しばらく生き残れるだろう」
ただ、いまだ私の強さは全盛期の数十分の一だ。
いつ強い特別個体に襲われるかもしれず、絶対ではないのだけど。
「今日でだいぶ二人の強さや特技、使える魔法の把握はできたし、武器と防具にも問題ないみたいだ。今日は二人とも疲れただろうから、もう家に帰ろう」
三人でかなりの数のゾンビとスケルトンを倒して魔石を手に入れたので、念のため町で使えそうな物を探しておく。
「もうなにもないか……」
使える物は粗方『アイテムボックス』に入れてあるので、あとは運べない家や建物、ガラクタくらいだった。
ゾンビ出現の影響で出火して焼けた建物もチラホラ見え、町中にはゴミや謎の残骸が散らかり、人がいない町が早く駄目になっていく様子を直に体験できた。
魔王退治の途中に通りかかった、滅んだ町に比べればまだマシだが、はたして元の住民がこの町に戻れるのか?
大半の住民がゾンビにされてしまった可能性も捨てきれず、私は物悲しい気持ちになってしまった。
「ゾンビが出現してから、まだ半月ほどなのに……」
瑠璃さんが一人つぶやく。
動くものといえば、いまだ倒しきれていないゾンビとスケルトンくらいだ。
いつかこの町に、人が戻れるようになればいいのだけど。
その後は三人で車に乗って廃村に戻り、夕食を食べ、お風呂に入ったら、疲れていたのですぐに就寝してしまった。
そして朝。
「幸三さん!」
「ムニャムニャ……えっ? なにかあった?」
突然寝室に、楓さんが飛び込んできた。
「大変です! 無線通信をしているここから一番近い国防軍の基地から、ゾンビとスケルトンの総攻撃が激しく、水も食料も残り少なくて、もうすぐ基地を放棄する旨の通信がありました!」
「あれ? その基地って、食料の在庫はまだ一カ月以上あったはずでは?」
「それが、新しく避難してきた人たちを受け入れてしまったそうで……」
「救援に行くぞ!」
「はい!」
「幸三さん、準備できたよ」
「早いな」
以前の私なら、確実に基地を見捨てていたはず。
なぜなら、ちゃんと戦えるのは私一人だったからだ。
レベルも上げないといけないし、今後レイスが大量に出現したり、特別個体と遭遇するかもしれない。
すでに学校周辺の町のゾンビとスケルトンは激減しており、新しい狩場を探す必要もあった。
正直なところ、『基地にいる人たちを救いたい!』という明確な意思はないと思う。
だけど瑠璃さんに起こされて状況を伝えられたら、自然と体が動いていた。
「車を全速力ですっ飛ばすから、話しかけないでね」
悲しいことに私は長らくペーパードライバーだったから、これも事故対策の一環だ。
「今なら警察もスピード違反で捕まえないから問題なし!」
「ゾンビの警察官に止められるかもしれませんけど」
「そんな警察官……いたぁーーー!」
山道を抜けたあと、基地に向けて幹線道路を全速力で飛ばしていると、本当に道路の真ん中に警察官の服装をしたゾンビが立っていた。
そして私たちの進路を妨害するように前に立ち塞がってきたのだけど……。
「時間が惜しい! 二人ともショックに備えてくれ!」
「「はい!」」
私は速度を緩めず、そのまま警察官ゾンビを車で撥ね飛ばした。
死体の状況が悪かったからか、あきらかに体が千切れ飛んでいたけど、向こうはゾンビなので問題ない……はず。
「凄く悪いことをしている気分」
「わかります、それ」
「私もお巡りさんとすれ違うだけで、なにも悪いことをしていないのに緊張していた小市民だったからなぁ……」
普通にゾンビを倒す時よりも緊張してしまったが。それもすぐに忘れてしまい、私は車を全速力で飛ばし続け、国防軍の基地を目指すのであった。




