第24話 特別個体戦(前編)
「イザクゥーーー! ヨウムインフゼイガ、ボクニサカラウノカ?」
「自分で生活費を稼いたこともなく、祖父と父親の威を借るしか能がないお前に私が逆らって、なにが悪い?」
「ブッコロス!」
「図星だったか」
ついに言ってやった。
いつも私をバカにしていた田島が、特別個体のリッチーになっていたとは思わなかったが、奴を倒せれば気分が清々するだろう。
いくらそんなクソ野郎でも、人が死んでアンデッドになったのだから憐憫の情は湧かないのかって?
異世界で魔王を倒す過程で色々とあって、そんな感情はとうに消え失せた。
なんの罪もない人が亡くなればそんな気持ちになるだろうが、私は田島たちに毎日バカにされても、クビにならないように耐え続けていたのだ。
それに田島がリッチーになってしまったのは、田島自身の責任になる。
そういえば、田島たちが私をバカにする時は『自己責任』云々と言っていた。
つまり、田島がリッチーになってしまったのも自己責任というわけだ。
「見事なブーメラン発言だな、田島」
「イザクゥーーー!」
激高した田島のリッチーの隙をどうにか見出そうとするが、やはり相当なレベル差があるようでなかなかできないでいた。
それなら、田島を怒らせなかった方がいいのではないかって?
奴を挑発してもしなくても、私は田島に殺されてしまうかもしれない。
ならその前に、憂さ晴らしくらいしても問題ないだろう。
「ハッーーーハッハッ! クチバカリデヨワイナァ、イザクゥハーーー!」
「(結局レベルが足りないか……)」
まさかこんな場所でリッチーに遭遇するとは思わず、なにより今の私のレベルではリッチーに勝てない。
それでも私には魔王を倒した経験がある。
どうにかそれを生かして、レベル差を埋めたいところだが……。
「クソッ!(なんてパワーだ……)」」
リッチーの一撃で腕の骨が折れてしまったので、急ぎ『ヒール』で治す。
まだミスリルソードが使えないため銀の剣で攻撃をするが、大したダメージを与えられない。
「(何度も攻撃しないと駄目か……)」
『ヒール』を攻撃手段に使うのは、自身の治療を優先しないと死ぬので難しい。
そして銀の剣では、リッチー相手では攻撃力が足りなかった。
徐々に追い込まれているのがわかってしまう。
「イザクゥーーー、モウスグシヌカ?」
田島もそれがわかっているようで、私に対し嘲笑を向けながら挑発してきた。
ゾンビではなく知能が残っているリッチーだからこそできる芸当だが、腹が立つのは確かだ。
「年上には『さん』くらいつけたらどうだ? アンデッドにされてしまった自称エリートさん」
「オマエノヨウナ、ザコシュウショクヒョウガキセダイニ、ソンナコトヲスルヒツヨウハナイ」
「お前は、その雑魚就職氷河期世代以下の死人だけどな」
「オレハ、アンデッドノオウニナルノダァーーー!」
「無理無理、たまにいるんだよなぁ。運良く特別個体になって喋れると、アンデッド界で天下を取った気になる奴が」
異世界にもいて威張っていたが、いざ戦うとすぐに倒されてしまったのを思い出した。
「ナンダト!」
生前から、下に見た人に対してマウンティングを取ってくる嫌な奴だったが、アンデッドになっても性格は変わらないんだな。
「特別個体の中でも、リッチーなんて最下位に近い存在だから。そのうち、他のもっと強い特別個体にアゴで扱き使われるか、ここで今私に倒されるかのどっちかだな」
「ハーーーハッハッ! オマエガオレニカテルワケナイダロウガ!」
「(やっぱりちゃんとレベル差を把握してやがるな)そんなのはやってみないとわからないさ。そうれ!」
自分よりも強い敵だ。
死なないためには卑怯もクソもなく、私は話をしてる最中にもかかわらず、大量の聖水を田島のリッチーに浴びせた。
向こうは完全に会話モードで油断していたようだが、アンデッドと話をしている最中に攻撃してはいけないなんて法はない。
油断していた田島が悪いのだ。
「キサマァーーー! アツイーーー!」
大量の聖水を浴びたリッチーは盛大に白い煙をあげるが、ゾンビならともかくリッチーでは致命的なダメージを与えられない。
あくまても時間を稼ぎ、一撃でも多く攻撃できるようにするためだ。
私は、白い煙を噴き出すリッチーに銀の剣で斬りかかる。
さらに斬り口から白い煙があがるが、なかなか致命傷を与えるに至らない。
「コノォーーー!」
「くっ!」
やはりリッチーの一撃は重たい。
一撃を食らうと、必ず骨折してしまう。
常人が骨折をすると動きが止まってしまうが、異世界での戦いでは大怪我なんて日常茶飯事だった。
治療しながら戦うことに慣れているからこそ、今私は死なずに済んでいるのだと思う。
「(「ヒール」も攻撃に回したいが……)」
もしそれをしたら、私が先にすべてのHPを失って死んでしまうだろう。
だが今の戦い方でも、私のHPは徐々に削られつつある。
回復が追いついていないのだ。
「(かといってヒールの回数を増やすと攻撃ができず、魔力の回復もしないといけないから……)てい!」
再び聖水を投げつけ、銀の剣で斬りつけてリッチーにダメージを与えていくが、やはりレベル不足で勝ち目はなさそうだ。
「(もう逃げるのも難しいな……。さてどうしたものか……)」
速度も向こうの方が速く、なにより下手に逃げようとして田島にあの廃村の場所を知られるわけにいかない。
「(あの子たちのためにも、私はここでコイツを倒す。たとえここで殺されるにしても……)」
もし私がゾンビになってしまえば、リッチーの命令に逆らえない。
あの廃村の場所を聞かれたら、隠すことができないのだ。
「(私がゾンビやスケルトンになるわけにいかない。あの子たちのためにも……。ならば……)」
私は『アイテムボックス』から、『火連爆』という攻撃用アイテムを取り出した。
これを用いると、強力な火炎で範囲内にあるものをすべて焼き尽くせる。
そしてこれは当然、ゾンビ、スケルトン、そしてリッチーにも効果があった。
その効果は、異世界で実証済みだ。
「(アイツに投げて倒したいところだが、それは無理だろうな)」
レベル差があるので、確実に避けられてしまうはずだ。
だが、もし私がアイツに抱きついてから火連爆を発動させれば……。
「(私も灰も残らず消え去るが、リッチーも倒せるはず。田島も骨ごと燃え尽きるけど、アンデッド三段活用の法則からは逃れられない。次はスケルトンになるが、骨まで燃え尽きている以上、復活には少し時間がかかるはずだ……)」
そして私もゾンビにならずに死ぬから、アンデッドになることもない。
最善の手とは言えないが、あの子たちの命を少しでも永らえさせることができれば。
これも、もう人生後半で、残される妻や子供たちもいない就職氷河期の最後の格好つけってやつだ。
できる限り、若い人が一日でも長く生き残った方がいい。
そうすることで、この絶望的な世界が救われる可能性もゼロではないのだから。
「(異世界で魔王を倒している時は、命がけながらも充実していた)」
私がこれまで働いていた会社とは違って、王様はちゃんとしていたからな。
ホワイトとは言えないが、ブラックではなかった。
「(こうして元の世界に戻ってきたけど、私にやりたいことなんてなかったんだ……)」
だから、祖父さんの住んでいた家に戻って隠棲しようと考えた。
だが紆余曲折あって、結局あの子たちを助けてしまって一緒に住むことに。
そして次第に、その生活が悪くないものだと思い始めていたのだ。
「(できればコイツに勝ちたいが、レベルが足りないのはどうにもできない。ならば……)」
せめてあの子たちがもうしばらく平穏に暮らせ、アンデッドに対策できるように時間を稼ごう。
「(それが、年長者の務めだ)」
私は覚悟を決めた。
そんなに潔い性格ではなかったと思うが、これも異世界で魔王を倒した影響かもしれない。
「モウカンネンシタカ?」
「そうだな……。せめてひと思いにやってくれないか?」
「イイダロウ、ソノイサギヨサダケハホメテヤル」
私が銀の剣を下げると、リッチーが私に迫ってきた。
「(あとは私がコイツにしがみついた瞬間、この火連爆を発動させるだけだ)」
手に隠した火連爆をいつでも作動させられるように準備を整え、リッチーが噛みやすいように首を強調する。
田島が私の首に噛み付いた瞬間、奴にしがみつき、即座に火連爆を作動させる。
そこまで脳内でシミュレーションし、その瞬間を待っていた時だった。
「ナッ! ナンダ?」
「聖水か! まさか!」
私に迫っていたリッチーに対し、突然死角である横合いから水が振りかけられ、その体から白い煙が発生。
即座にその水が聖水だとわかり、誰が発射したのか確認……聖水を渡していた人は限られているけど……すると、そこには対ゾンビ用の装備をつけた瑠璃さんと楓さんが水鉄砲を構えていた。




