第23話 参戦希望の二人
「幸三さん、どう? この装備は。ゾンビに噛まれないように肌の露出はいっさいなくして、重たい金属も使わず、特殊な布を重ねて分厚くしてゾンビの歯と爪を防ぐ仕組みなんだ」
「悪くない。もしもの時は、それを装着して逃げてくれ」
「私も幸三さんと一緒に、ゾンビ退治をしてみたいんだけどなぁ……」
「それは駄目だ。レベルが上がらない人は連れて行けないさ」
「ですが、幸三さんがずっと一人で戦うのもリスクですよ」
「私はゾンビを倒せば倒すほど強くなるからいいんだよ。でも二人はそうじゃない。だから連れては行けないな」
瑠璃さんと楓さんが、ゾンビに噛まれないように自作の防具を作っていた。
材料は『アイテムボックス』の中にあった、私がショッピングモールから回収したスポーツ用品や服、布などだ。
ゾンビに噛まれるとゾンビになってしまうので、噛まれないようにするか、もし噛まれても肌にゾンビの齒や爪が届かないようにすればいいと考え、分厚い布の全身防具を作っていた。
さらにその上に、野球やアイスホッケーのプロテクターやヘルメットも装備している。
二人はこれでゾンビと戦いたがっていたが、それは許可できなかった。
私はゾンビを倒せば倒すほとレベルが上がるけど、二人はレベルが上がらない。
それに……。
「その防具だけど、装着して長時間戦うなんて無理だから。熱射病になるよ」
今は真夏で、しかも今年の夏も暑い。
温暖化の影響かどうかは知らないけど、逃げる時に使うくらいが限界だろう。
レベルが上がると暑さ寒さにも強くなるが、常人がこの真夏に肌の露出がない分厚い装備で動いたら、すぐに熱射病になってしまう。
強さ以前に、気候の問題で戦うなんて不可能なのだ。
「幸三さんは、あまり暑そうに見えませんね」
「レベルが上がったのと、『冷却のネックレス』を装備しているからね」
異世界でも夏は暑かった。
いくらレベルが上がっても、そのまま金属製の全身鎧を装備していると熱射病で倒れてしまう危険がある。
そこでこの、冷却のネックレスのような涼しくなる装備が必要だったのだ。
逆に冬は寒く、やはりそのまま金属製の全身鎧を装備していると、今度は肌が凍傷になってしまう危険もあり、『温暖のネックレス』を装備するのが必須だった。
レベルアップのメリットの中に、体力向上による暑さ、寒さへと耐性能力向上もあって、高レベルになると、それらの装備品は無用になる。
ただし、最低でもレベル1000を超えないといけないけど。
魔王、魔族、魔物、ゾンビ以上に、気温も人間の厄介な敵だった。
「冷却のネックレスのおかげで私は、日本の真夏にフル装備状態でも熱射病にならず、ゾンビやスケルトンと戦い続けることができる。だけど、君たちには無理だ」
この真夏に、分厚い布の装備にヘルメット。
二人は、確実に熱射病になるだろう。
だからゾンビ退治に連れていけない。
「その冷却のネックレスがあれば、私たちだって」
「あっても連れていけないよ。レベルアップしない人には効果がないから」
異世界の品だからか、この冷却のネックレスもある程度レベルが上がらないと装備できない。
つまり、レベルが上がらない二人が冷却のネックレスを装備しても、まったく効果がないのだ。
それに強くならない二人をゾンビ退治に連れて行き、もし特別個体でも出現したら、今の私のレベルでは二人を守ることができない。
「そんなわけだから、ここでなにか作業でもしていてくれ」
「わかりました」
「ぶーーー、残念」
こればかりは、二人の要求を受け入れるわけにいかなかった。
たとえこの世界で、レベルが上がる人が私だけだったとしてもだ。
そのくらい、レベルが上がる人とそうでない人の強さには大きな差があったのだから。
「じゃあ、行ってくるよ」
「「いってらっしゃい」」
今日も、ゾンビとスケルトンを倒してレベルを上げる。
もう慣れてしまったルーチンワークだった。
そんな時こそ危ないとよく言われるが、そんな未来は簡単に想像できないからなぁ……。
実際私は、このあと予期せぬ強敵と遭遇してしまい、大ピンチに陥ってしまうのだから。
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「坂田さん、準備オーケーかな?」
「装備の装着は完璧。でもこれはかなり暑いから、長時間活動すると熱射病で倒れちゃうかも」
「白井さん、冷却スプレーを持参しますか?」
「それを持っていくのなら、聖水の予備が最優先だと思う」
「自作したホルダーに幸三さんから預かった聖水の瓶を挿し、いつでも水鉄砲に補給可能にする方が安全でしょうね」
「暑さ対策は、今は車の中でクーラーをキンキンにかけるしかないかな」
「ガソリンが勿体ない気もしますけど」
「たとえ幸三さんのようにゾンビを倒してレベルが上がらないにしても、私たちだってゾンビを倒せるようにしないと」
「いつも幸三さんに頼っていられませんからね」
幸三さんは、いつも一人でゾンビとスケルトンを倒しにいく。
私たちも連れて行ってほしいけど、何度頼んでも断られてしまう。
幸三さんは私たちの身を案じているのだろうけど、いつまでも幸三さんに守ってもらうだけじゃ駄目だ。
今後、幸三さんが近くにいない時にゾンビに襲われるかもしれない。
なにより、そんなことは考えたくないけど、今後幸三さんがゾンビに殺されてしまうことだって考えられた。
だから私だちだけで、ゾンビと戦えるようにしておかないといけない。
そんな優しい幸三さんが私たちと一緒にお風呂に入って裸を見ても押し倒してこないのは、幸三さんが私たちを娘のように見ているからだと思う。
だからここで、私たちが一緒にゾンビと戦えることを幸三さんに見せて、対等に近い関係だから遠慮なく手を出しても問題ないと認識させる作戦も兼ねていた。
この作戦は、坂田さんが考えたんだけど。
というわけで私と坂田さんは、幸三さんを追いかけるように予備の車で学校周辺へと向かった。
車の運転は、私も坂田さんもまだ免許を持っていないけど、この数日しっかりと練習したし、ここは山道で対向車も来ない。
少しくらい下手でも問題ないはずだ。
「到着っと。ええと、幸三さんは?」
「幸三さんの車を探せば……あった!」
私が運転手する車を幸三さんの車の隣に停め、彼の姿を探す。
「結構車から離れているのかな?」
しばらく二人で幸三さんを探していると、遠くで誰かが話す声が聞こえる。
「幸三さん?」
「誰と話しているのでしょうか?」
「もしかして生存者が?」
それを確認するために急ぎ声の方に走っていくと、なんと幸三さんはゾンビと戦っていた。
ゾンビは話せないはずなのに……と思っていたら、なんとゾンビが幸三さんを嘲笑するかのような声で、ずっと話しかけていたのだ。
しかも幸三さんは、ゾンビに押されているように見えた。
「ゾンビ相手なら、幸三さんが不覚を取ることなんて……」
「アーーーハッハ。ショセンハシュウショクヒョウガキデ、ヒセイキノムノウヨウムインダナ、コノボクニハガタタナイノダカラ」
「それはどうかな? それにしても、まさか特別個体のリッチーが出現するとはな……」
「オマエヲゾンビニシテ、ズットコキツカッテヤル」
「やれるものならな!」
「ザコガ、コノボクニカトウダナンテ、ジュウネンハヤイ!」
「喋るゾンビ、リッチーだから強いみたいです」
「らしいね。あっ!」
「白井さん?」
「あいつは、田島だ!」
「知っているんですか?」
「用務員をしていた幸三さんをバカにしていた連中のリーダー格の一人だよ。理事長の孫だから取り巻きがいたはずだけど、ゾンビになってしまったから一人なのかな?」
さらに父親が政治家で学校に多額の寄付もしていたから、ウサ晴らしで用務員さんをバカにして挑発し、向こうが怒ったら危害を加えられたと校長に訴え、これまでに何人もクビにしてきた下衆野郎だ。
雇われ教師ばかりの学校側も強く言えないから、迅速に新しい用務員を入れることで対応していた。
「ゾンビになっても、幸三さんを挑発するのはやめないですね」
「本当、性格悪いよね。だけど田島のゾンビは強いと思う」
これまでゾンビとスケルトン相手には余裕だった幸三さんが押されており、このままだと負けてしまう。
「なんとかしないと!」
「なんとかって、どうしましょうか?」
坂田さんには荒事の経験がないので、戦う幸三さんとリッチーを見て酷く慌てていた。
私にもそんな経験はないんだけど、とにかく幸三さんを助けないと。
「幸三さんが負けないように手を貸すしかないよ」
もし幸三さんがゾンビにされてしまったら、今の私たちはあの廃村の中で震えているしかない。
一緒にリッチーを倒すことでゾンビ討伐の経験も積め、それは私たちの将来のためでもあるのだから。
「やるしかないですね」
「そうだよ、これが私たち三人の初めての戦闘だよ」
私と坂田さんは聖水の入った水鉄砲を構え、リッチーに狙いをつけた。
幸三さんが負けないように、私たちも全力で戦うんだ!




