第22話 戦況悪化
「司令、さらにガソリンを大量に回収できて助かりましたね」
「そうだな。他にも近所のホームセンターやら、工務店や、工場やらで部品や工具を集められた。ゾンビども、自作の火炎放射器を食らえ!」
いまだこの基地に、市ヶ谷や日本政府からの救援はやって来なかった。
その間にも、ゾンビたちは度々この基地を襲撃してくる。
今のところ撃退に成功していたが、燃料や弾薬の在庫は心許なかった。
さすがのゾンビもガソリンは飲まないようで、決死の回収作戦により、使えそうな物資や工具、車両やその部品などと共に、かなりの量のガソリンを回収できたのは救いか。
残念ながらその作戦で、また少数ながら犠牲者を出してしまったが。
すべてこの基地の司令である私の責任だが、作戦を実行しなければ基地の燃料が尽きる日を延ばすことはできなかったのだから。
「(もはや弾薬は、絶望するような量しか残っていない。自作で武器を作る必要があったのだ)」
『日本の軍隊とお巡りさんは、普段は高い弾薬を極力使わず、いざ有事となれば一撃必殺ってことになってるから』
すでに退役した元上官の言葉を聞き、その時は二人で笑っていたが、今となっては恨めしい限りだ。
国防隊が備蓄している銃弾は少なく、さらにゾンビ相手には効果が低かった。
数十発の弾丸が貫通しても、ゾンビはその動きを止めなかったからだ。
手榴弾で手足を吹き飛ばしてもまだ動く。
某ゾンビ映画みたいに二十ミリで頭を吹き飛ばしたところで、体は動くのだから厄介だった。
頭のないゾンビは噛めないので安全と思いきや、爪で引っかかれたり、腕が吹き飛んで露出した尖った骨を体に刺され、作戦中にゾンビになってしまった隊員もいて、まったく油断できない。
結局、バラバラに切り刻んでから焼き払うのが一番効率がいいという結論に至り、隊員たちはゾンビに噛まれないように分厚い服を着て、近くの店舗で回収した野球用のプロテクターや骨董品店の古い鎧などを加工して装着。
ゾンビと密着しないよう、なるべくリーチの長い刀、銃剣、自作の薙刀などでゾンビを切り刻むようになった。
ゾンビに一体に対し三人で戦うルールも徹底したおかげで、犠牲者は大幅に減っている。
だがなかなか犠牲がゼロとはいかず、今では民間人の中で戦えそうな人たちにも手伝ってもらっていた。
「この!」
「えいっ!」
ただどうしても適性というか、向き不向きが出てしまう。
いくらゾンビでも、その見た目は人間そのものだ。
なんら戸惑いなく人を斬りつけられる人は少なく、なんなら訓練では優秀だった自衛官でもゾンビに攻撃できず、後方支援に回した者たちがいたくらいだ。
逆に民間人の中に、なんら抵抗なくゾンビに斬りかかる人もいて、もうこれは生まれついての特性としか言いようがなかった。
「また骨が増えた」
斬りつけてバラバラにし、自家製火炎放射器で焼き払ったゾンビたちは骨だけになった。
それでも素直に喜べないのは、この骨が必ずスケルトンに復活してしまうからだ。
その前に骨を砕いても無駄で、今はよそに骨を捨てに行く余裕もなく、ゾンビだけの第一陣が終わると、今度はゾンビの中にスケルトンも混じるようになった。
以前倒したゾンビの骨が、スケルトンになったのだ。
「粉砕車を出せ!」
スケルトンはいくら斬り刻んでも砕いても効果がないというか、そもそもとても硬くてなかなかダメージが与えられなかった。
上手く砕けても、ゾンビとは違って必ず復活してしまう。
ゾンビよりも、スケルトンの方が遥かに厄介で強い。
例の廃村に逃げ込んだ、生き残り三人からの情報だ。
今も毎晩、彼女たちと無線通信機で連絡を取り合っているが、さすがはたった三人で誰の手も借りずに生き残っているだけのことはある。
アンデッドのことに詳しく、おかげで市ヶ谷にも報告すると大いに喜ばれた。
我々がゾンビと戦えているのは、彼女たちのアドバイスどおりに装備を整え、戦術を採用しているからだ。
基地の車両や、町から手に入れたトラック、工事車両などに鉄板を溶接……溶接機も、町の工場から拝借してきたものだ。
これら改修作業は、民間人たちも手伝ってくれた。
前面に刃物やハンマーの代わりになる金属の塊をつけて、そのままスケルトンに体当たりする。
すると、いくら剣で斬りつけても傷一つつかなかったスケルトンに罅が入った。
「普通の人間なら、即死なんだがな……」
代わる代わる何度か車両で攻撃して、ようやくスケルトンは粉々に砕け散った。
だが、車両全面に装着した鉄板が凹んでおり、それだけスケルトンの防御力が高い証拠だ。
「「「「「「「「「「やったーーー!」」」」」」」」」」
「……」
車両を動かしている若い部下たちが喜んでいる様子が無線機から流れてくるが、実はまだスケルトンは倒せていない。
『しばらく……多分数日は粉々のままですが、また復活します。物理的な攻撃だけでは、スケルトンは倒せないからです』
事前に廃村で生き延びている女性からそう教わっていたので、私はあまり喜べなかった。
それでも、数日の時間が稼げただけマシだろう。
「(ゾンビはバラバラにして肉を焼き尽くせば倒せるが、スケルトンは粉々にしても完全には倒せない。これからますます厳しくなっていくな)」
確実に持久戦になるので、基地の敷地内に畑を作って野菜の種を植えてみたが、やらないよりはマシ程度だろう。
すでに町中の食料は誰かが回収したか、腐ったか、ゾンビに食べられてしまった。
市ヶ谷と日本政府に食料の補給を要請はしているが、はたしてそんな余裕があるかどうか……。
「最悪この基地を捨てて、食料のある他の基地や避難所に向かう必要がある」
だがその過程で、多くの犠牲者が出るだろう。
私だって、いつゾンビにされるかわからないほどの戦況の悪さなのだから。
「(だが今は、部下や民間人の前で不安を表に出すわけにいかない)ようし、順調にスケルトンを倒せているな。ゾンビにも容赦するな!」
ゾンビを倒さなければ基地が蹂躙されてしまうが、倒すとより厄介なスケルトンが生まれてしまう。
痛し痒しな状態で、どうにかスケルトンを倒す手段が欲しいところだ。
「アンデッドとは、なんと無慈悲な」
死者をとことん利用するなんて……。
死者に対する尊厳なんて、奴らは欠片も持ち合わせていないのだろう。
「この基地を襲撃した、ゾンビとスケルトンをすべて倒しました」
「ご苦労、急ぎ車両を基地内に撤収させてくれ」
今日もなんとか生き残ることができたが、食料、物資、弾薬の備蓄は減る一方だ。
町中からの回収にも限界があり、すでに新たな食料は見つからなくなってきている。
あまり長々と探索しているとゾンビにやられてしまうので、隊員たちに無理はさせられなかった。
「(とにかく救援が欲しい。このままでは全滅覚悟でこの基地を捨て、近くの基地か、安全な場所を目指さなければならない)」
そのためには、まだある程度食料と水が残った状態で出発しなければならない。
さらにその決断をしなければいけないのは、この基地の司令である私なのだ。
責任が重いなんてものじゃない。
国防隊の隊員で実戦経験がある者なんて、一人もいないのだから。
「(近くの基地だって、同じように食料や水が不足しているかもしれない。もし上手くそこにたどり着いたとしても……)」
受け入れてもらえない可能性も高く、そうなるとこの基地にいる部下と避難してきた住民たちが、食料と水を得るためにその基地の兵士や住民たちと争い……いや、戦争だな、そうなってしまえば。
「(ゾンビと人間、両方が敵になる。最悪の未来だな)」
人間は、食料と水がないと生きていけない。
世界中にゾンビが出現したせいで、今後の食料生産の見通しは立っておらず、まさに人類滅亡の危機なのだから。
「(市ヶ谷と日本政府は、我々を見捨てたのかもしれない)」
そんなことは考えたくないが、常に最悪の事態を想定してこその将校だ。
だがそこまで想定したとしても、それを解決する手段が見つからない。
胃が痛くなってくるが、私はこの基地にいるすべての人たちに対し責任がある。
最後の最後まで足掻かなければ。
「無宗教のくせに、神に祈りたくなってきたなぁ」
私はともかく、みなを救う救世主がやってきてくれるかもしれない。
最後まで希望を捨てず、一日一日を生き延びていくことにしよう。




