第20話 夫婦感?
「こんなものかな」
学校周辺の住宅街を回り、役に立つかわからないけど使えそうなものを集めておく。
ゾンビとスケルトンが襲ってきたら倒していくが、段々とレベルが上がらなくなってきた。
「レベルが上がりやすい特別個体との戦いは命がけだし、滅多に遭遇しない。今のところ遭遇しているアンデッドはゾンビとスケルトンだけだからなぁ……」
例えるなら、スライムだけでレベルをカンストさせるのは難しい、ということだ。
自宅のある海沿いに行くと、もっと強い特別個体などがいるのであろうか?
だが今となっては行くのも大変だし、今のレベルで、それも一人で倒せるという保証もない。
冒険はしない方がいいだろう。
「あの子たちのことを考えると無理はできず、かといってレベルを上げていかないと今後が辛い。悩みどころだなっ!」
そんなことを考えながら町中にいるゾンビとスケルトンを倒していると、その中に一体だけ、半透明で白いマントを頭から被ったような見た目のアンデッドを発見した。
白い布は目の部分が開けられており、目は赤く光っている。
「間違いない、レイスだ」
普通のレイスなので、誰のレイスなのかわからない仕様になっているけど、物理攻撃が効かず、スケルトンよりも強くて厄介なアンデッドだ。
「ミスリルソードは……。まだ使えないか……」
この、レベルが上がらないと強い武器を使えないシステムは、本当に面倒だな。
文句を言ったところで意味はないので、銀の剣を構える。
生者がレイスに触れられると、数秒で死んでゾンビになってしまう。
触られないように倒さないといけない。
「ミスリルの盾より上の装備のいいところは、レイスが盾をすり抜けてこず、レイスと自分の体が接触する可能性が大幅に減ることだ。レベル上げの効率も上がるし」
早くもっとレベルを上げて、ミスリルシリーズを使えるようになりたい。
「そのためにも!」
私は速攻で、レイスに斬りかかった。
攻撃は当たり、レイスから白い煙と悲鳴があがるが、やはり銀の剣だと攻撃力がイマイチなようだ。
レベルが低いのと相まって、何度か斬りつけないと倒せない。
「おっと!」
だけど連撃はできない。
私の今のレベルでは、レイスの反撃を許してしまうからだ。
もしレイスの攻撃が当たれば、私は即座に死亡する。
慎重にレイスの体当たりを見極め、確実に回避していく。
何度か体当たりをかわした隙に一撃入れる。
そんな戦い方なので、とにかく精神の消耗が激しい。
「(一瞬でも隙を見せればやられる!)」
レイスの体当たりをかわし続け、その合間に銀の剣で一撃入れる。
ちょうど五撃目で、ようやくレイスは消滅した。
その直後、レベルが上がる。
「でも、まだミスリルシリーズは使えないか……。またレイスだ!」
いくら異世界で多彩な戦闘経験を積んでいても、レベルが下がると厳しいものだ。
それでも、なにも知らないままアンデッドと戦うよりはマシだろう。
「今はレベル39だから、レベル50になればミスリルシリーズを使えるはずだ」
異世界ではそうだった。
まだ先は長いが、もっとレイスが増える前にミスリルシリーズを装備できるようにしておきたい。
銀の剣とは違って、ミスリルソード単体ではアンデッドにダメージを与えられないが、治癒魔法か聖魔法を込めてから攻撃すれば、銀の剣の数倍の攻撃力を発揮できるからだ。
対アンデッド防御力も高い。
「レイスは……。いた!」
さっきと同じようにレイスの体当たりを避けながら、五回攻撃して倒すという戦い方を繰り返した。
そのおかげで、その日のうちにレベル42にまで上がったのだが……。
「疲れたぁ……」
夕方になる前に限界がきてしまったので、私は早めに引き上げた。
できれば今すぐにでもレベル50になりたかったが、無理をして死んでしまっては元も子もない。
「……一人ってのは辛いよなぁ」
異世界では、当然パーティメンバーもいたからなぁ。
だが、レベルの上がらない二人をアンデッドと戦わせるわけにいかない。
「(まだレイスが出現したばかりだ。一人でもレベル上げは十分に間に合うはずだ)」
車を走らせて山奥の自宅に戻ると、家の中からいい匂いが漂っていた。
「幸三さん、料理の本を参考に煮物を作ってみたんだ。こういうの好きっぽいから」
「私もお魚を焼いて、お味噌汁も作りました」
プレゼントした服の上からエプロンをした二人は、まさしく美少女だった。
レイスとの戦いで疲れていたので、心が癒される気分だ。
ソーラーパネルと蓄電池を設置し、手に入れた冷蔵庫に『アイテムボックス』から取り出した食材を入れておいたら、それを使って料理してくれたようだ。
「煮物もある。久しぶりだなぁ」
自分でたまに作っていたけど、女性に作ってもらう方が美味しく感じる。
焼き魚は、自宅のあったアパートでは魚を焼くことが禁止とまではいかないが、隣の住民が臭いに敏感ですぐにクレームが入るので焼けなかった。
たまにスーパーで買うんだけど、出来合いの焼き魚はあまり美味しくなかったからなぁ。
やはり、焼き魚は焼き立てが一番だ。
「煮物も焼き魚も、とても美味しいよ」
「温かい食事っていいよね」
「今となっては贅沢ですからね」
私たちはここに逃げ込めたからいいけど、他の避難民たちはちゃんとした食事をとれているのか。
多分、難しいはずだ。
それどころか、すでに飢えに苦しんでいる人もいるはず。
だけど今の私たちに、彼らを助けられるほどの余裕はなかった。
無理にそれをやろうとした結果、私たちが死んでしまったら意味がないのだから。
「初めて和食を作ってみたけど、料理本は便利だよね」
「そうですね。本に書かれたとおり作ればいいので」
「それは、二人に料理の才能があるからだと思うな」
過去に、私にも彼女なる存在がいたことがあった。
その人がたまに料理を作るのだけど、その味がかなり微妙だったのを思い出した。
そのことを正直に伝えたことが原因ではないと思うが、結局私が非正規だったので『将来が不安だ』と言われてフラれてしまったのだけど。
「デザートも作りました」
「プリンですよ」
「今日は疲れたから、甘い物か体に沁みるよ。でも、明日からは私も料理や家事をしないとなぁ……」
今は男女平等の時代だ。
女性だけに家事をやらせるわけにいかなかった。
「幸三さんは、レベル上げがあるんでしょう?」
「少なくとも今の幸三さんは、そちらに専念した方がいいと思います」
「そうだよ、レベルが高い方が私たちの生存率も上がるんだから」
「幸三さんはレベル上げをしない日も、結界を張ったり、山や周辺の様子を見に行ったりしているので、これは正当な役割の分担だと思います」
「そんなものかな?」
「そんなものだよ」
こんな感じで、自然と役割分担が決まった。
私はこの年まで結婚しなかったからわからないけど、夫婦ってこんな感じだなのだろうか?
「いってらっしゃい、幸三さん」
「今日も夕食を作っておきますから」
翌朝になり、今日も私はレベル上げをするべく車で村を出た。
その際二人に見送られたのだけど、なんとなく夫婦感がなくもない?
あくまでもそんな感じがするだけで、アラフィフおじさんと女子高生の組み合わせなんて、世間的に許されるわけがない。
今日も生き残るために、色々と動くことにしよう。




