第19話 レベル上げと使える物の回収は続く
「瑠璃さん、楓さん。食べられる山菜、木の実はちゃんと見分けられる?」
「本があるのでなんとか……。これは本の写真と同じ野草でしょうか? 間違えると大変なので慎重に判別しないと……」
「幸三さん、キノコは集めなくていいの?」
「キノコは、採ったものをこちらに持ってきて」
「了解」
結界のおかげで村が安全になったので、結界を村の裏にある山や周辺の山野、河川にも広げ、今日は試しに山に入って食べられるものの採集を行っていた。
書店で手に入れた『食べられる野草図鑑』、『食べられるキノコ図鑑』を参考に、瑠璃さんと楓さんが山菜、野草を集めていく。
食べ物は『アイテムボックス』に大量に入っているが、今後のことを考えたら手に入る食料は確実に確保しておかないと。
まだ『アイテムボックス』の容量には余裕があるのだから、集められるだけ集めておこうと思う。
「山の動物たちがゾンビ化する前に、結界を張れてよかった」
結界の中はほぼ安全になったが、強力なアンデッド……特別個体やボスアンデッドだと破られてしまう可能性はある。
同時にレベル上げも続けていかないと。
「幸三さん、キノコも集めたけど、毒の有無がわかるの?」
「キノコの判別は難しいって聞きますよね」
「『毒探知』があるから大丈夫」
レベルアップのおかげで、対象物に毒があるかどうかを確認できるようになった。
なお、毒の有無しか判別できないので、食べられても美味しいかどうかは不明だ。
「毒がないキノコの中から、このキノコ図鑑で見た美味しいキノコに似たものだけを食べる。もし判別に失敗しても少なくとも毒にやられることがない。不味いかもしれないけど」
実はキノコの中で毒があるのは全体の一割ほどで、食べて美味しいのも一割だとか。
そして残りは八割は、毒はないけど食べても美味しくないものだと聞いたことがある。
素人が、安全で美味しいキノコを集めるのは難しいのだ。
「さすがは幸三さん」
「今夜のお味噌汁の具は、キノコですね」
その後も食べられる野草や木の実も集めたが、山の中にアンデッドは出現しなかった。
山の動物たちがアンデッドになる前に、結界の展開に成功したことを確信していいと思う。
これで今後、この山に住む動物たちがゾンビになる可能性は限りなく低くなったはず。
「明日は、またレベルを上げに行くつもりだよ」
それでも、可能な限りレベルは上げていかないと。
「レベルアップかぁ……いいなぁ……」
「私たちも強くなれば、幸三さんと戦えるのに……」
「二人とも、無理しちゃ駄目だよ。それよりも、この村を維持できる知識とスキルを身につけた方がいい」
私は異世界に召喚されたせいでレベルアップできるようになったけど、この世界に戻ってくる時にレベル1に戻ってしまった。
弱くなった私は、いつ強いアンデッドに殺されるかもしれない。
だからこそ二人には、もし私がいなくなっても生きていけるようになってほしかった。
すでにアラフィフの私と違って、まだ二人は若いのだから。
「第一、どうやれば私みたいにレベルが上がるようになるのか。まったくわからないのだから」
もし異世界に召喚され、魔王を倒さなければいけなかったとしたら、今後の人類の未来は暗いだろう。
だとしても今は、この廃村を整備しながら一日でも長く生き残ることが最優先なのだから。
「(私一人が強くなっても、アンデッドの大群に抗えるわけがない。だから結局は意味がないのかも……)」
この世界がゾンビに滅ぼされるのを、止めることはできないのかもしれない。
それでもしばらくは、この子たちを生き永らえさせることができる。
時間が稼げれば、その間に日本政府が科学的なアプローチでアンデッドを全滅されられるかもしれないのだから。
「(今は、時間を稼ぐことも大切だ)村の留守は任せるよ」
さらに廃村に隣接している放置された農地や、新たにいくつかの山に結界を張ることができた。
わずか三人なのでそこまでの広さの結界が必要だとは思えないが、山野の動物たちがアンデッドになると対処が面倒なので、その対策の面が強かったのだ。
「学校の周辺の町まで行ってレベル上げと、使える物の回収ですか?」
「そうだよ、いつもどおりさ」
学校周辺にはゾンビとスケルトンがまだかなり残っているから、それを倒してレベルを上げる予定だ。
レイスは出現がランダムなので、対策のしようがない。
「(とにかく今は、レイスが出現しても倒せるようにしておかないと)」
レイスは、アンデッドの中でも強い方だ。
体のあるゾンビが一番弱くて、骨だけのスケルトンがゾンビよりも強く、実体のないレイスがスケルトンよりも強い。
不思議な話だが、アンデッドとはそんなものだとしか言いようがない。
人間がアンデッドになると、ほぼゾンビになる。
骨だけの死体だと、スケルトンからスタートするが。
そしてゾンビとして倒されると、少し時間を置いてスケルトンになり、また倒されるとレイスとして復活する。
つまり、一人の人間がゾンビにされると三倍の手間がかかるのだ。
実体のないレイスが厄介なのは、ゾンビならバラバラに砕けば動けず……それでも動くから気持ち悪いけど……、あとは肉を焼き尽くせば倒せる。
スケルトンは骨を粉々に砕いても、灰になるほどの高温で焼いても倒せない。
復活までに時間がかかるので時間稼ぎはできるが、結局は治癒魔法や聖魔法で倒さないといけないのが面倒だった。
そしてレイスだが、レイスには実体がない。
だから剣で斬りかかろうが、銃弾を撃ち込もうが、火炎で焼き払おうがダメージを受けない。
治癒魔法と聖魔法、アンデッドに対しダメージを与えられる武器、アイテムがなければ倒せなかった。
そしてレイスは壁を抜けられるし、人間は数秒触れただけで死んでゾンビになってしまう。
むしろこれから、倒したスケルトンからレイスが復活した時が大変なのだ。
現状、私以外誰も倒せないのだから。
「というわけだから、お留守番をよろしく」
「はい、夕食の準備をしておきますね」
「幸三さんの大好物を用意しておくから」
「それは楽しみだな」
私は二人に留守番を頼み、装備をつけて車に乗り、伴龍高校へと向かった。
ゾンビによって陥落させられたが、無人の校舎はほとんど荒らされていなかった。
食料があると、たとえ腐っていてもゾンビはそれを漁るのだが、学校がゾンビに襲われた時に逃げ出した人たちによって持ち出されたり、すでにゾンビたちに食べられてしまってなにも残っていないのだろう。
そして町中の様子を探ると……。
「ゾンビが減って、スケルトンが増えてきたな」
自分に襲いかかるゾンビとスケルトンを倒しながら、使えそうなものを探していく。
「……もはや、これが必要かどうかわからないな」
とある豪邸の中を探そうとドアを開けたら、いきなりゾンビに襲われた。
まるでホラー映画のワンシーンそのものだが、私からすれば慣れたことだし、レベルアップで再び獲得した『探知』で事前に察知していた。
即座に銀の剣で倒すが、このゾンビはふくよかな中年女性で、この豪邸の住民だったようだ。
白い煙を出しながら骨になっていき、そのあとには高そうなワンピースや、つけていた指輪、ネックレスなどの装飾品が残された。
「大きな宝石だな」
豪邸から容易に、住民はお金持ちだと想像できる。
私は結婚もできず、若い頃に付き合っていた女性にこんなに大きな宝石のついたアクセサリーをプレゼントしたことはないが。それを貰えてもゾンビにされてしまうなんて、まさに諸行無常だ。
「宝石は一応確保しておくか……」
RPGなら、倒したゾンビからドロップアイテムを手に入れたってところか。
こんな世界になってしまったので、宝石にいかほどの価値があるのか不明な部分もあるけど。
実は私は、異世界で手に入れたり、王様から褒美で貰った大量の金貨や宝石を所持しているが、はたして今これがなんの役に立つのか疑問を感じてもいたのだから。
それでも色々と拾ってしまうのは、ろくなインフラもなく、人里離れた異世界を旅しながら魔王の城を目指した頃の癖だと思う。
いつか、なにかの役に立つかもしれないからと、つい使えそうなものを拾ってしまうのだ。
「やっぱり食料はないか……」
冷蔵庫の中身は、さっきのおばさんのゾンビによって食い荒らされていた。
ゾンビには食欲が残っており、だから人間の肉も食らう。
ただ、死体を完全に食い尽くしてしまうとその死体はゾンビとして復活できないからか、一口、二口齧って終わりだった。
だからこそゾンビは常にお腹を空かせており、食料を漁るのだと思う。
ゾンビを含めアンデッドにはわからないことが多く、すべて私の推測でしかないけど。
「あとは……」
大きな金庫の中に、現金や金のインゴットなんかもあった。
どうやら金庫の中身を持ち出そうとして開けたところをゾンビに襲われたようだ。
「はははっ、大金持ちだぁ! ……むなしい……」
日本どころか世界中の人たちがゾンビに襲われており、すでに多くの犠牲者が出て経済も崩壊しているなか、札束がなんの役に立つのか。
今となっては、いくら大金があっても欲しい物が手に入らない可能性の方が高いのだから。
「まだ『アイテムボックス』の中に入るからいいか」
これもいつか、なにかの役に立つかもしれないし。
泥棒はよくないって?
それは私だって、この世が平和ならこんな火事場泥棒的なことはしないさ。
今後、どんなことがあるか想像もつかないし、なにか命を守るために必要なものを手に入れる時、この札束や金、宝石が代価になるかもしれない。
それにこういう性格だからこそ、私は魔王を倒せたのだと思っている。
「だからこそ余計に、あの子たちは連れてこれないな」
もし世の中が平和になって、私が窃盗の罪で糾弾されても、どうせもう終わった就職氷河期だ。
私だけが罪を背負えばいいので、あの子たちにはこんなことをさせないつもりだ。




