第10話 廃村
「やはり、長年人が暮らしていない家は傷むなぁ……」
学校のあった山の手から、さらに山奥に一時間半ほど車を走らせると、ようやく祖父さんが住んでいた家に到着した。
誰も住まなくなってからすでに十年以上が経過しており、久々に見た家はあちこち傷みが激しい。
この村というか、この地区には他十数軒の家屋があるがすべて無人で、大半が祖父さんが亡くなる前から空き家だったので、半ば朽ちているような家ばかりだ。
「他の家はもっと状態が悪いから、かなり手を入れないと住めないな。雨漏りしないように屋根のチェックをするから、二人は室内の掃除を頼むよ」
「任せて、おじさん」
「家に残されている掃除道具とかってありますか?」
「あるはずだよ」
この家は祖父さんが亡くなってから父が相続していたが、面倒だからと遺品整理もしないで放置していた。
なので、家具や生活用品はそのまま残っているはずだ。
「じゃあ、お願いね」
私はすでに半ば朽ちた他の家へと向かい、それを『アイテムボックス』から取り出した工具を使って解体、家屋の修理に使える木材などを回収していく。
そのまま朽ちた家屋を残したところで意味がないので、これからも必要な建材や薪は朽ちた廃屋から調達するとしよう。
「おじさん、中は思ったよりも綺麗だよ」
「伊作さん、掃除は早く終わりそうです」
家の中から、二人の声が聞こえてきた。
どうやらまだ、家の中は雨漏りしていなかったようだ。
ただ元々古いうえに、祖父さんの死後十年以上放置していた家なので、いつ屋根に限界がくるかもしれない。
私は『アイテムボックス』からホームセンターで手に入れた脚立を取り出し、屋根に登って状態をチェックし始めた。
「これでは、じきに雨漏りしてしまうな」
そうなっては困るので、急ぎ廃屋を解体して手に入れた木材や、ホームセンターで手に入れた建築資材などで屋根を補強していく。
これでも手先は器用な方なので、見栄えさえ気にしなければ日曜大工レベルならなんとか修繕できた。
レベルアップの影響で、器用さが増しているのもあると思う。
「家は屋根をしっかりと補強、維持しておけばそう簡単に壊れないから」
幸いにもお祖父さんの家は古い作りで、柱などがしっかりしていたのも幸運だった。
明日以降も家の補修を続けることを決め、一旦屋根から降りると、掃除を終えた二人が待ち構えていた。
「おじさん、掃除は終わったよ」
「ちゃんと整頓されていて、あまり手間はかからなかったです」
「亡くなった祖父さんは几帳面だったからなぁ……」
祖母さんが先に亡くなってしまったあともこの家で一人暮らし続け、誰の世話になることもなく、ある日庭先で倒れてポックリと亡くなってしまった。
そんな自立心の強い祖父さんのおかげで、私たちは住処を確保することができたのだから感謝しないと。
久々に家の中に入ると、子供の頃には毎年帰省していた懐かしい光景が広がっていた。
あの頃の私は子供だったのでまだ両親との関係も悪くなく、夏休みや正月には一家で帰省していたのを思い出す。
「これなら普通に暮らせそうだな」
誰の世話になることもなく、ある意味理想的な死だったばかりでなく、その後孫を助けてくれるなんて……。
私は天国の祖父さんに深く感謝した。
父はこの家をお荷物だと言って怒っていた。
廃村の空き家なんてまず売れないし、祖父さんの遺産も葬式をあげたらほぼなくなってしまったからだ。
だが今となっては、標高の高い山奥にあるこの廃村の方が安全だ。
特に海の近くは、今後も連続してアンンデッドが上陸してくるかもしれないのだから。
「ここを残してくれた祖父さんに感謝しないと。さてと、食事の支度をしないとな」
とはいえ、ガスは使えない。
祖父さんが亡くなった時に、プロパンガスのボンベは回収されていたからだ。
ただ、あちこちで回収してきた携帯コンロとガス缶なら沢山持っているので、これを使うことにする。
「電気も使えないけど、特に問題はないか」
ただ、今日は疲れたので自炊する気力がない。
私は『アイテムボックス』から、これまでに町の店舗から回収したコンビニ弁当を取り出した。
そのまま放置してもゾンビに食われるか腐るだけなので、可能な限り回収しておいてよかった。
「今日の夕食は、とりあえずこれで」
「はぁーーー、私、丸一日なにも食べてなくて……」
「お腹が空いていたら、言ってくれたらなにか出したのに」
「ここに来るまでそれどころじゃない感があって。私、そのカツ丼がいいなぁ」
白井さんは、よほどお腹が空いていたらしい。
躊躇うことなく、『大盛り』と書かれたカツ丼を選んだ。
「サラダもいる? 飲み物はなにがいいかな?」
「サラダは美容のためにも欲しい。飲み物はお茶がいいな。甘い物を飲むと太りそうだから」
年頃の女の子だからだろう。
食事をカロリーの多いメニューにした分、飲み物はゼロカロリーのものを選んでいた。
こんな状況では、今後太る余裕はないかもしれないけど。
「ウーロン茶、麦茶、ルイボスティー、ジャスミン茶、色々とあるよ」
「ルイボスティーで!」
「あの!」
「坂田さんは、なにがいいかな? リクエストしてくれたら出すけど。在庫がなかったら諦めてね」
「さっきはそれどころじゃなかったから聞きませんでしたけど、なにもないところから色々と出すのってなんですか?」
「……手品です」
「そんなわけないじゃないですか……」
『アイテムボックス』のことを適当に誤魔化したら、黒髪の美少女に少し呆れられてしまった。
もう私の能力を隠すのも限界だし、もしこの二人が他の人たちに漏らしたところで、信じてもらえるとは思えない。
なので私は今日初めての食事をしながら、突如異世界に召喚された時のことを説明するのであった。




