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夢の国の裏側で  作者: 臥亜


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33/39

第32話:外側への逆干渉

観測者の“個体”が揺らぐ。

初期化の宣言は途中で止まり、空間に走ったひびが、逆に向こう側へ伸びていく。

「……干渉値、異常」

「内側からの反射確認」

重なる声が、わずかに乱れる。

太郎はその揺らぎを見逃さない。

「聞こえてるんだろ」

一歩、踏み出す。

「お前ら」

観測者の一体が形を整える。顔のない輪郭が、こちらを“見る”。

「観測対象・太郎。逸脱レベル、上昇」

「再定義を提案」

太郎は笑う。

「勝手に定義すんな」

その言葉と同時に、リュエルナが両手を広げる。空間に残っていた“物語の断片”が、光の粒となって浮かび上がる。

エルナの声。

リュミエラの涙。

早乙女の沈黙。

ミックーの最後の笑顔。

「これが、私たちの“記録”」

リュエルナが言う。

「消えなかったもの」

観測者が応答する。

「不要データ。削除対象」

「却下だ」

太郎が即答する。

拳を振り抜くと、断片が一つに束ねられ、槍のような光となって観測者へ突き刺さる。

衝撃。

空間の奥で、何かが“割れる”音。

観測者の輪郭が崩れ、向こう側の景色が一瞬見える。

そこには。

無数の画面。

無数の世界。

そして、その前に立つ“影”。

「……あれが」

早乙女が低く呟く。

「本体」

観測者の声が初めて揺らぐ。

「外側領域、露出。遮断を優先」

太郎は叫ぶ。

「逃がすか!」

だが、向こう側の影が、こちらを“見る”。

その瞬間。

圧倒的な圧力。

空間が逆流する。

「危ない!」

リュエルナが太郎を引き寄せる。直後、さっきまで立っていた場所が消し飛ぶ。

影の声が、直接響く。

「内側が、こちらを見るな」

低く、冷たい。

「役割を越えるな」

太郎は歯を食いしばる。

「越えるさ」

影がわずかに首を傾ける。

「なぜだ」

「そこに、お前がいるからだ」

沈黙。

その一瞬の“間”を、早乙女は逃さない。

「今よ!」

リュエルナが両手を重ねる。エルナとリュミエラ、二つの人格が重なり、白と黒の光が絡み合う。

「“観測の逆転”」

太郎が理解する。

「……見る側を、見る」

光が爆ぜる。

今度は、こちらから。

影の背後にあった“操作盤”のような空間が露出する。そこに刻まれた、無数の選択肢。

「世界A:救済ルート」

「世界B:悲劇固定」

「世界C:無限ループ」

太郎はその中の一つに手を伸ばす。

影が初めて、焦りを見せる。

「触れるな」

「触る」

太郎の指が、選択肢に届く。

だが。

その瞬間、強烈な反動。

太郎の体が弾き飛ばされる。

「太郎!」

リュエルナが叫ぶ。

影の声が、冷たく落ちる。

「内側の存在が、外側を改変することは許されない」

空間が閉じ始める。

ひびが、塞がっていく。

早乙女が歯を噛む。

「……まだ足りない」

リュエルナが、静かに言う。

「足りないのは、“一人分”」

太郎が顔を上げる。

「……誰だよ」

リュエルナは、空間の奥を見る。

そこに。

微かに、残滓。

「ミックー」

空気が止まる。

「消えたはずだろ」

「完全には、消えてない」

リュエルナの瞳が強くなる。

「“契約”が、まだ生きてる」

影が再び口を開く。

「該当存在、削除済み」

リュエルナは首を振る。

「いいえ」

「あなたたちが消せなかった“例外”」

太郎の胸が、熱を帯びる。

「……呼べるのか」

リュエルナは頷く。

「でも、代償がいる」

早乙女が問う。

「何を失うの?」

リュエルナは一瞬だけ迷い、それでも言う。

「私の、“片方”」

太郎が目を見開く。

「それって……」

「エルナか、リュミエラか」

空間が閉じきるまで、あとわずか。

影の視線が、冷たくこちらを見下ろす。

「選べ」

リュエルナが、太郎を見る。

「あなたが」

世界が、静止する。

太郎の選択が、

ミックーを呼び戻す鍵になる。

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