第31話:書き換えの代償
光は、優しくなかった。
温かさはなく、ただ“正しさ”だけを押しつけてくる光。触れたものを、迷いなく“あるべき形”に整えようとする圧力。
太郎は歯を食いしばる。
「……っ、これ……!」
体が勝手に形を決められていく感覚。思考が削られ、“一つの答え”へ収束させられそうになる。
「抗って!」
リュエルナの声。
だがその声すら、途中で歪む。
「“選んだ物語”に、飲まれる……!」
早乙女が低く言う。
「これ、“上書き”じゃない……“同化”よ」
太郎の視界に、さっき触れた断片が広がる。
ミックーが消えない世界。
笑顔が続く世界。
誰も壊れない、都合のいい世界。
「……楽だな」
思わず漏れる。
痛みがない。迷いもない。全部、決まっている。
「太郎!」
強い声。
早乙女だ。
「それ、“外側と同じ”よ」
はっとする。
思考が戻る。
「……ああ、クソ」
頭を振る。
「これ、結局“選ばされてる”のと一緒じゃねえか」
リュエルナが必死に言う。
「だから、“全部を選ばないといけない”」
「全部?」
「いいところだけじゃなくて、壊れる部分も、失うものも」
光がさらに強くなる。
「“物語を成立させるための矛盾”を、自分で抱える」
太郎は理解する。
「……つまり」
「“都合の悪い現実”も受け入れろってことか」
リュエルナが頷く。
「そうしないと、“本物にならない”」
太郎は目を閉じる。
浮かぶのは、ミックーの最後。
消える瞬間の笑顔。
あれを、“なかったこと”にするのか?
「……ふざけんな」
目を開く。
「それは選ばねえ」
光に向かって、はっきりと言う。
「ミックーは消えた」
その一言で、空間が揺れる。
「でも」
続ける。
「それでも、俺たちはここまで来た」
リュエルナが息を呑む。
太郎はさらに言う。
「都合のいい世界なんかいらねえ」
拳を握る。
「全部ひっくるめて、“俺たちの話”だ」
その瞬間。
光の性質が変わる。
押しつける力が、弱まる。
代わりに。
“選択を受け入れる余地”が生まれる。
早乙女が静かに言う。
「……通った」
だが。
次の瞬間。
空間の奥から、強烈な圧力が押し寄せる。
「まだ終わってない」
リュエルナが言う。
「外側が、“修正”に来る」
空間が裂ける。
今度は、はっきりとした形。
複数。
観測者が、“個体”として現れ始める。
「介入確定」
「再構築開始」
声が重なる。
太郎が吐き捨てる。
「しつこいな」
早乙女が前に出る。
「ここからが本番よ」
リュエルナも並ぶ。
その瞳は、もう揺れていない。
「私たちは、“選ばれない物語”」
太郎が笑う。
「上等だ」
観測者たちが、同時に手を上げる。
空間全体が“書き換え対象”としてロックされる。
「全域初期化――」
その瞬間。
太郎が前に出る。
「それ、もう見た」
拳を突き出す。
「効かねえよ」
空間に、ひびが走る。
観測者の動きが一瞬止まる。
「……?」
リュエルナが気づく。
「“影響が出てる”」
早乙女が笑う。
「つまり、“向こうにも干渉できてる”」
太郎が低く言う。
「だったら」
観測者を睨む。
「今度は、こっちから壊す番だ」
空間が震える。




