第八話『異界への旅立ち』
エンペラドール暦615年1月5日、運命の皆既日食の日がやって来た。ディアキバルニシ王は既に、『永久凍土』で永い眠りについた。リカルダスたちは、国王の代理であるギリムシュー将軍と、その補佐である宮廷歴史家のイストリアに見守られて、スニオン岬で日食が始まるのを待っていた。万が一の兄弟弟子の襲撃に備えて、50人の兵士に守られていた。
「いよいよだな」イストリアが、リカルダスに話しかけた。
「はい。準備は出来ております」リカルダスが応えた。
「日食が始まると同時に、ベルダッドの体に異変が現れるはずだ。その時に、この岬のどこかに異界への扉が現れるだろう。ベルダッドが案内人となって、お前たちをムー大陸に導いてくれるだろう。仲間が誰一人欠けることなく、ムー大陸に辿り着いて調査を進めて欲しい」イストリアは段取りを伝えた。
「分かりました。我々はそれで良いのですが、ニュートラル代表やカオティック代表の出立はどうなっておりますか?」
「うむ。彼らは、一時間ほど時間をずらして出立する予定だ。そのため少し離れたところで待機している。我々は、君たちの成功確率が一番高いと信じている」
「ありがとうございます・・・」リカルダスは余韻を残して応えた。
「ん、どうした? 何か気になることがあるのか?」
「私の推測で申し訳ございませんが、一つだけ気になることがあります」
「何だ? 大切な出立前だ。疑問点は解決して整理しておこう。質問があるなら、遠慮なくしなさい」
「はい。それでは、質問させていただきます」
「うむ。何だ?」
「もしかして、イストリアどのは、以前失われた大陸のどこかに旅立たれたことがあるのではないでしょうか? 随行者さえいれば、大陸に行く事が可能なのではないでしょうか?」
「ふっ」図星をさされたイストリアは軽く笑い応えた。
「まぁ、その通りだが、いろいろと問題があってな。今回は、私が直接行くことは出来ない。私の知識を全て伝いたいのだが、そんなこともできないだろう・・・」残念そうに言った。
リカルダスは、イストリアに気付かれないように知識を吸い取った。
「(それならば、話は早い。複写)」イストリアの莫大な知識がリカルダスの体内に流れ込んできた。
「(スゴイ知識の渦だな・・・。戦闘経験も豊富だ・・・。
イストリアたちは、国王たちと長らくパーティーを組んでいたんだな・・・。
ここは何処だ? 見慣れぬ土地だが・・・。
武闘家・剣士・英雄のディアキバルニシ王、
剣士・魔術師・格闘家のギリムシュー将軍、
魔術師・吟遊詩人・戦略家のイストリア、
治癒魔術師・妖精使い・怪物使いのさゆりさん、
召喚術師・狩猟者・盗賊のしおりさん、
土類妖精・防御系剣闘士・武器防具職人のナーヤック(nayak)・・・? ドワーフの名前じゃないな? それにしても、バランスの取れたチームだ。長年にわたり、この見た事のない土地で戦い続けていたのか・・・。ふむふむ、いい青春を送っているじゃないか!」リカルダスは感心した。
「! 何だこれは!
リヴィングストンに、ジャクソンに、ムアコック?
地下迷宮探検競技の主催者たちじゃないか!
・・・これは、巨大な野望が渦巻いているな・・・。
もう少し調査が必要だ・・・)」リカルダスは驚愕した。
「(ふむふむ、そしてこれだな、イストリアが大陸へ行けない理由は・・・。コイツを探し出して、解決する必要があるな・・・。よし、大陸に関する知識だけをエルピーダにも渡しておこう・・・)」
「(複写)」リカルダスは、そっとエルピーダに渡した。
「! (承知しました)」エルピーダは、突然体内に流れ込んできたイストリアの知識に驚きながら受け入れた。
1月だというのに、風がない穏やかな日だった。日食が始まると同時にベルダッドの体に異変が現れた。
「? 何? 体が透けていくんだけど・・・!」リカルダスの召喚術の本の中で、ラクシャスと、ヴィズにも同様の異変が起きていた。
「弛まぬ時の流れの中で、我らは過去の歴史を慈しみ来るべき未来を希う。
人間の視界から消えされど、人間の心の記憶に深く残れり。
我らの望みはただ一つ。
大地の記憶に不深く刻まれたる常しえの知恵に触れること
失われた大地に眠る妖精たちよ。
我らに力を貸し給え・・・」イストリアの詠唱が始まった。
「! 始まった! 門を探せ!」国王代理が兵士たちに命じると、スニオン岬の海岸の西にそこそこ風化した高さ3mほどもある巨石が忽然と現れた。ギリシャ彫刻ではない見慣れぬ装飾の石の門だった。門に刻まれた文字も、ギリシャ語ではなかった。ゆっくりと門が開き、リカルダスたちを誘った。
「現れたのぅ・・・」国王代理が呟いた。
「行ってこい!」イストリアが叫んだ。
そして、門の前に辿り着くと半透明のベルダッドの傍に、半透明のエルデムが現れた。
「! 何じゃ? あの娘は!」イストリアが驚いた。
「さぁ~って、どこに行けるかね~。行き先は、本当にムー大陸なのかな~?」リカルダスたちは、門の中に姿を消した。
一時間後に出立を予定していた呀龍たちは、慌ただしく出立させられた。
「予定が早まったで御座るか?」
「何だよ、もう時間かよ」
「ガルル、グロロ・・・」
「お時間ですか? それでは、行きましょう」
青色のオーラを纏った半透明のベスタと、茶色のオーラを纏った半透明のトロを引き連れて、呀龍たちは門をくぐった。
「何やら、不思議な雰囲気では御座らぬか・・・」
「懐かしいね~。この故郷へ帰る雰囲気は」
「グロガルル・・・」
「美味しいもの、清楚な美女、価値あるお宝、有り余る名声、・・・それと、・・・」
「大冒険の始まりで御座る、雪玄斎よ、お先するで御座る」
日食の終わりが近付いていた。門が閉じ始めた。
「ダンナァ、行かないんでゲスか?」プーパは、すがるような眼でゾフォスを見つめた。
「今しか、チャンスはないぞ」ドプレクスも、決断を促した。
「・・・、よし、行こう! 交換!」
閉まりつつある門を警備している衛兵の一人と自分たちの場所を入れ替え、門の中に次々と入った。
「! 待て! 部外者の侵入は禁止する!」衛兵の静止を聞かずにゾフォスたちは門の中に入った。それを制止するクロマ将軍と、ニュートラル担当のフェーザ将軍・スクートム将軍をも巻き込んだ。
「! 何だ! スゴイ力だ! 吸い寄せられる!」三人の将軍たちを吸い込んだところで門は閉じた。
カオティック代表担当のマキア将軍とデバスタド将軍は終に姿を見せなかった。
「何と! クロマ将軍、フェーザ将軍、スクートム将軍までもが、異界に引き寄せられたか!」国王代理は驚愕した。
「想定外の事態です!」イストリアにも誤算だった。
その後、異界への門はそこに佇み続けた。数名の兵士が監視のために待機させられたが、開くことはなかった。
オリンポス山では、サロス将軍が骸骨剣士と対決していた。骸骨剣士は、半径50cmほどの円形の盾と、両刃の剣を持っていた。サロス将軍は、1.5mの剣を二刀流で構えていた。サロス将軍は骸骨剣士の攻撃を剣で薙ぎ払い、縦に直接打撃を叩きつけた。防御を無視した連続の打撃攻撃は、不死を躊躇させるほど凄まじかった。
「勝者、サロス!」シントリスタが宣言した。そして、サロスの目の前に現れたのは、上半身が人間でヤギの角と顎髭が生えており、下半身が羊の姿をした半獣神パーンだった。
「なかなか見どころがあるではないか。我は、牧畜と豊穣と恐怖を司る牧羊神だ。条件次第で力を貸そう」
「宜しく頼むぜ!」サロスは、パーンの加護を得た。
地下迷宮探検競技で、カバロはリカルダスに62あったレベルを28まで下げられていた。オリンポス山での特訓で、レベル80まで上げていた。2m近かった身長も2mを軽く超えていた。上半身も下半身も筋肉が増えて逞しくなっていた。
「ふっふっふ。俺の出番か・・・」リカルダス戦で使っていた棍棒よりも二回り大きくなっていた。カバロの前に現れたのは、身長が3mを超える巨大な棍棒を持ったトロルだった。
「相手弱いね。棍棒対棍棒。めんぼうたいめんぼう。まんぼうたいまんぼう・・・」言い終わる前に肩を掴まれ振り返りざまに、アーヴィンにぶん殴られた。
「ドガッ、バギッ、グシャッ、・・・」神殿内に鈍い打撃音が鳴り響いた。
「(アーヴィンの野郎、気でも狂ったか?)」サロスは、ギョッとした。
「オラオラ、どうしたよ。殴り返して来いよ」アーヴィンは、ヒドラゲルを完膚なきまでに叩きのめした。いつも顔全体を隠すほど深くかぶっているフードが取れた。アーヴィンもサロスも、ヒドラゲルの素顔を初めて見た。それぞれの頬に二つずつ口があり、左右の首筋にも口があった。額の口と合わせると八つの口があった。それぞれの口を分けるかのような赤い線が顔全体を走っていた。
「・・・、ピクピクン・・・」ヒドラゲルは、失神した。
「ちっ何だよ、反撃してこないのかよ・・・」アーヴィンは興醒めした。振り向いてカバロの試合を見てみるとカバロは打撃勝負で勝っていた。
「屁でもねー! まぁ~ったくぅ、屁ぇでもねー!」カバロの前に現れたのは、鍛冶・農耕・豊穣の神カベイロスだった。
「原始的な奴だな」カベイロスが言った。
「親近感を覚えるだろ?」カバロが応えた。カバロはカベイロスの加護を得ることになった。
サロスはヒドラゲルを見やると、右の首筋の口が動き出し本来の口を入れ替わった。ほんの一瞬の出来事だった。そしてガバッと起き上がり喋りはじめた。
「勝ったか? これで、全員揃ったな。揃ったよ。当然だ。やぶさかではない。したたかだ。しこたまだ」
「? 殴り返してこないのか?」ヒドラゲルが復活したことに気付いたアーヴィンは聞いてみた。
「勝ったと思ったか? 満足か? 専属だ。百姓だ。十分だ」
「俺と本気で戦って見ろよ。トロル相手は飽き飽きだ」ヒドラゲルは、ギョロリと片目を大きく見開いてアーヴィンを威嚇した。
「ドズッ!」そして、アーヴィンのどてっぱらに重い一撃を叩きこんだ。
「ぐわっ・・・」アーヴィンは膝から崩れ落ちた。
「ここで、お前ごときに本気は出せない! たかがレベル152でいい気になるな! せっかく育てた手駒を失えないからな!」
「・・・」アーヴィンはヒドラゲルを睨んだだけで、反論はしなかった。
「それでは、準備が整った。出発するぞ!」ヒドラゲルが言った。外野は、口を挟まなかった。
「行くって、何処に行くんだよ?」誰も質問しなかったので、アーヴィンが聞いた。
「六大陸を制覇しに行く!」
『夢大陸・レムリア戦記』第三章(王都炎上編)(完)




