第七話『宿命の限界突破!』
「う~。スパルタまでもう少しか?」リカルダスは隊列から離れ、一人で立小便をしていた。背後から誰かがやって来た。
「立小便中、ごめんよ~。ぐふっ」ゾフォスだった。
リカルダスは振り返りながら言った。
「襲ってこないのか? 行儀がいいんだな」
「小便中の人間を襲う真似はしないよ。げっほっ。さっきもね。女性をひとり見逃してあげたんだ。ぐふっ」
「?」リカルダスは、ゾフォスの声色と表情がいつもと違うことに気付いた。
「何か、いいことでもあったのか?」リカルダスは下半身をしまいながら聞いた。
「あぁ、とっておきの良いことさ・・・げふっ。用意はいいかい?」
ゾフォスは魔法を唱える準備をした。
リカルダスも準備を整えた。
「召喚! 召喚! 召喚!」ゾフォスは、ヤギの頭を持った悪魔を三体召喚した。
「親愛なる友人に依頼する。敵の一切を殲滅してくれ! 召喚! 来たれ! ラクシャス!」リカルダスは、ラクシャスだけ召喚した。
「おぉ! 久しぶりのシャバだぜぇ!」三体の悪魔と対峙した。
「ん~? たったの三体しかいないのか? 俺は強いぜー」ラクシャスは興奮し始めた。
「雷撃!」森の中に雷が落ちた。誰にも当たらなかったが、周囲の木々を燃やし始めた。
「ふいぃ~、エルピーダの放つ雷よりも強力だね~。ゼウスの力か?」
「まだ、借りてないよ。ごほっ。火柱! 全てを焼き尽くしてやる!」リカルダスの周辺を火の壁が覆った。
「風の障壁!」リカルダスは、自分の周囲に風の障壁を張り巡らせた。
「ちぃっ! 打ち消しか! ならば足元だ! 掘削! 奈落に落ちて行けー!」リカルダスの足元に巨大な穴をあけた。自分やエルピーダが作り出す穴とは桁違いの深さだった。
「興奮していれば、呼吸が楽そうだな・・・。それにしても、こりゃ深いね~」リカルダスは余裕を持って、術を唱えた。
「交代!」ラクシャスに立ち向かっていた悪魔の一体と入れ替わった。
「ぎゅもー!」悪魔は奈落に落ちて行った。
「おっと、一体片付いてしまったか! 勿体ねぇ!」ラクシャスは残念そうだった。
「ちぃっ!」リカルダスは走り出し、そのまま戦闘場所を変えた。
ゾフォスは仕方なく追いかけた。
ラクシャスと二体の悪魔を残して、二人は見晴らしの良い広場に出た。
「! 向こうで戦闘が起きているな? リカルダス様が危ない!」エルピーダが戦闘態勢に入った。
「エルピーダくん、向こうで戦っているのは、リカルダス殿とゾフォスだと思うの」合流したクロマが言った。
「よし、応援に行こう!」全員で戦場へ駆けつけた。
三体でも何の問題もなかったが、二体の悪魔の打撃攻撃はラクシャスにはまるで通じなかった。
「ぎゅもん!」拳を丸めてラクシャスに何度も殴りかかったが、ラクシャスは拳が当たる寸前に体を液体化させた。体内に拳が入った瞬間に体を金属化させ、悪魔の身動きを封じそのまま金属製の拳でタコ殴りにした。もう一体も似たように弄ばれた。
「さぁ、二日くらい続けてくれるんだろ? 俺は、暇なんだよ」
「ぎゅもー!」「ぎゅももん!」悪魔たちは脂汗を垂らし、恐怖した。
「雷撃、火炎柱、風の障壁、掘削。持っているものは同じだ」リカルダスが言った。
「交代と、召喚も似たようなものだね。げふっ」ゾフォスが言った。
「詰まるところは、吸収合戦しかないか?」リカルダスは覚悟を決めた。
「窃盗師に体を触らせるほど、馬鹿ではないよ」ゾフォスは応じなかった。
そこにエルピーダ達が駆け付けた。
「リカルダスさま! 援護します!」エルピーダは叫んだ。
「ダメだ! 来るな! これは稽古だ!」リカルダスが制した。
「え?・・・」エルピーダは固まった。
ゾフォスは静かに聞いた。
「修行でいいのか? 俺はアンタを殺しそうだよ。ぐふっ」
「あぁ、恨むなら恨め! 俺が先に島を出たのだから、恨まれても当然だ!」
「違うよ。師匠に先に島を出ろと言われていたのはボクなんだから・・・」
「何! それは本当か!」
「本当だよ。ボクよりも先に島を出れば、兄さんは、ボクに負い目が出来るだろう?」ゾフォスはニヤリと笑った。
リカルダスは、ゾクリとしたが開き直った。
「お前には悪いことをしたと思って反省していたんだが、それは今無くなった」リカルダスは、格闘する構えを取った。
「そんなことよりもボクが恨んでいるのは、リカルダス兄さんだけ受け継いだ術があることだよ。『蜘蛛の糸』の術だよ。げふっ、羨ましいなぁ。師匠に愛されて独自に術を授かるなんて・・・ぐふっ」
「アーヴィンも知らなかった。剣でしか戦おうとしなかったからだ。お前も同じだ。アーヴィンと同じく接近戦を嫌う。距離を取って魔法で片付けようとする。だから二人には接近戦用の術を教えなかったのだ。人にはそれぞれに適性がある。窃盗師の基本は格闘技だ。他人と取っ組み合って戦おうとしないお前たちには必要のない術だ!」
「男同士が取っ組み合うのかい? それは、力自慢の戦い方だ。ボクのように腕力の無い者は、距離を取って魔法で攻撃するしか出来ないのだよ。ぐふっ」
「お前は窃盗師の職業を理解していない。相手に触れてこそ吸収出来るのだ」
「倒してからでも、それは出来るよ。ごっほっ」そして、そのまま睨み合った。
「得意の引力で、俺を引き寄せるか?」
「状況によるよ・・・。近づかせないよ・・・。雷撃障壁」ゾフォスは自信の周囲に雷のバリアーを張った。
「俺もそれは、良く使うけどね。弱点あるの知ってる?」
「さぁ、知らないね・・・ごっほっ」
リカルダスは、ゾフォスに向かって石つぶてを投げつけた。石つぶてが雷の障壁を潜り抜けゾフォスの手前に落ちる寸前だった。
「交代!」石つぶてと、リカルダスの位置が入れ変わった。
「!」ゾフォスの目の前にリカルダスが現れた。
「ぐわっ!」
「ぐお!」リカルダスが障壁に近づき過ぎたので、障壁のバランスが崩れ二人とも同時に雷撃を受けた。
「解除!」ゾフォスは苦し紛れに術を解いた。
その隙にリカルダスは、ゾフォスの腕を掴んだ。
「!」ゾフォスは吸い取られる覚悟を決めた。
「・・・」リカルダスは黙ったまま、ゾフォスの行動を待った。
「・・・吸収!」ゾフォスがリカルダスよりも早く、レベルを5吸い取った。
「『蜘蛛の糸』も手に入れたぞ!」ゾフォスは歓喜した。
「たったの5か? 成長しないなぁ」リカルダスは落ち着いていた。
「ふっ、剥奪!」リカルダスはゾフォスのレベルを20剥奪した。
ゾフォスは一気にレベルを下げられ、その場に崩れ落ちた。
「何だ! この威力は!」ゾフォスは今自分に起きていることが信じられなかった。
「これが、窃盗師から昇格した剝奪師だ・・・。剝奪師に奪われたレベルは、一朝一夕では戻らない。ついでに雷系以外の術を剝奪しておこう。修行をやり直しなさい・・・」リカルダスは、倒れているゾフォスの見下ろした。
「ボクにとどめを刺さないのか? また襲いに来るよ・・・」ゾフォスはリカルダスを見上げた。
「修行だと言っただろう・・・。窃盗師は窃盗師と修行してこそ限界突破するのだ。それが俺たちの宿命だ!」
「・・・瞬間移動!」ゾフォスは逃げて行った。
「リカルダスさま、大丈夫でしょうか?」エルピーダが恐れながら尋ねた。
「・・・、あぁ、大丈夫だ・・・」リカルダスは考え事をしながら答えた。そして、クロマに向かって質問した。
「さきほど、ゾフォスは女性を見逃したと言っていたが、それはクロマ、あなたのことですか?」
クロマはドキリとした。
「(え? 忘れていないの?)えぇ。違います。私ではありません・・・」クロマは動揺しながら答えた。
「・・・そうですか。誰のことを言っていたのだろう・・・」リカルダスはゾフォスの言葉を思い返してみたが、答えは出なかった。
「一般人の女性かも知れませんね・・・」エルピーダが答えた。
「うむ。見逃したと言ったのだから、無事だろう」
その後、スパルタに辿り着いた一行は、休戦協定の条件を確認し合った。スパルタの代表団がアテネを訪れ、後日正式に休戦協定が調印されることになった。
そして、リカルダスだけ別室に通された。
「はっはっは。リカルダス、出世したじゃないか!」スパルタ軍の総大将エピテリコスが言った。
「お陰様で、大役を任されました」
「わが軍も、これ以上犠牲が出るのを防げる。休戦協定は望むところだ」
「お役に立てて、光栄です」
「休戦協定を結ぶことだけが目的ではないだろう? 他にも何か、目的があるのか?」
リカルダスは、言葉を選びながら答えた。
「・・・このギリシャを全て頂きます」言い終わると同時にエピテリコスの顔を見た。
「・・・ふっ、大きく出たな。ギリシャの戦乱が収まり、平和に統一してくれるならば、それに越したことはない。お前のように魂が綺麗そうなものならば、尚更だ」エピテリコスは快活に答えた。
「はい!」
「ところで、お前に随行してきたあの女性は、アテネ軍の将軍か? 仕事が出来そうな雰囲気だが?」
「はい。アテネ六将軍の一人で、唯一の女性であるクロマ将軍です。いずれアテネ軍を掌握する存在になるでしょう」
「ほぅ。女性ながらに、大したものだ。総大将は、実戦経験はもとより正確で素早い決断能力が必要だ。戦争が泥沼化する前に、休戦できて幸いだ。お前には救われたわ」
「はい、いずれ自分の物になるという考えならば、戦争をすぐにでも終わらせるのが得策です。とは言え、私ではなく他の誰かに治めさせますが・・・」
エピテリコスは笑った。
「欲がないのう」
「えぇ、その考えの方が、私利私欲が湧きませんから」
「尤もだ。わっはっは」




