第四話『ゾフォスの襲撃・アスタルの悲劇』
「! 曲者!」宮廷楽団員の一人が叫んだ。
「意味のない契約中に失礼するよ~、げほっ」ゾフォスがプーパとヴィズを連れて、ふらっと入って来た。
「! ゾフォスじゃないか!」リカルダスは驚いた。
「リカルダス兄さん、久しぶりだね~、げっほっ」
「? 今度は、弟弟子か?」王がたずねた。
「はい、ロードス島でともに修行した仲です」
クロマ将軍が、ゾフォスの前に立ちはだかり質問した。
「お主は、カオティック代表であろう。何用じゃ?」
「(ゾフォスはカオティック代表だったのか・・・。剥奪師に昇格するまで、属性なんか分からなかったからな~・・・)」リカルダスは不思議に思った。
「・・・今ここで、その兄を倒します」ゾフォスは間をおいて質問に答えた。
「今、取り込み中だ。帰りなさい」クロマ将軍は素っ気なく言った。
「交換」と呪文を唱え、クロマ将軍と自分の位置を変えた。
「!」クロマ将軍は不意を突かれた。
ゾフォスは、何事もなかったように話し続けた。
「ダメです。私は大陸探しに興味がありません。今必要なのは、兄が大陸に行く前に、この場で兄を倒すことなのです」ゾフォスは身動ぎもせずに言った。
王は、ヤレヤレと言った表情で返事をした。
「自分勝手な男じゃのう。わしの目の前で、今この場でそれが出来ると思うておるのか?」王は、威圧しながら野太い声で言った。
「出来ますよ~、来い(カムイン)!」指をパチンと鳴らした。
「ぼわっ!」「ぼわっ!」「ぼわっ!」ヤギの頭と黒い翼を持った悪魔が三体現れた。
「既に悪魔を召喚しておるのか。闘う気満々じゃの~」ギリムシュー将軍は動じなかった。
「夜想曲!」宮廷楽団員は、曲の演奏を始めた。
「悪魔の力を弱める曲だね。楽団員は魔術師だらけか。げほっ。悪魔の力は半分出れば、今はいいよ。襲撃!」悪魔は、王と将軍とエルピーダに突撃した。
「プーパ、金髪を頼む」
「へい!」プーパはヴィズをけしかけた。
「うおぉおおぉぉぉー、俺を操るなぁあぁぁぁぁー!」ヴィズは嫌がりながら、アスタルに突進した。
「! ヴィズ? なぜここにいるの? 首と右腕が龍じゃない?」ベルダッドが不思議に思った。
突進してくヴィズにアスタルが立ち向かった。
プーパは、肩のワッペンを外してアスタルの方向に落とした。
「完了!」
「ダメだ! アスタル! そいつを斬るな!」リカルダスは叫んだが間に合わなかった。ゾフォスがリカルダスめがけて無数の火炎魔法を放った。
「火炎矢槍」火炎の矢と槍が立て続けにリカルダスを襲った。
「ちぃっ」リカルダスは舌打ちをしながら、氷の盾で応戦した。
「氷盾」飛んできた矢や槍の威力を受け止め地面に落とした。
「ぼと、ぼとっ、ぼと・・・」矢と槍は、炎を消しながら次々と地面に重なっていった。
悪魔の一体は、王の前に立ちふさがり王を威圧した。
悪魔の一体は、将軍に殴りかかった。
悪魔の一体は、エルピーダに突進したが、無数の岩をぶつけられてよろけた。
「!? 体が勝手に動くぞ!」そしてアスタルは、ヴィズの首と右腕を斬ってしまった。
「ぐぎゃー! 痛くねぇけど、痛ぇよー!」同時にアスタルの首と右腕も斬り落とされた。
「! アスタル様ー!」ベルダッドを押しやって、アマールが現れた。
「落ち着け、アマール!」リカルダスが叫んだ。
「アマールさん、落ち着いて! アスタルは死んではいない!」エルピーダがアマールに向かって叫んだ。
「アスタル様ーーー!」アマールには聞こえなかった。
「男前の顔だぁぁあ! 腕も使い勝手がいいぃいいぃぃ」ヴィズは行動するのをやめてその場で喜んでいただけだった。
王の目の前に、クロマ将軍の名もなき部下が立ちはだかり悪魔に斬りかかった。
しかし、一撃で悪魔にぶっ飛ばされ気を失ってしまった。
「ふっふっふ」悪魔は、そのまま腕組みをしながら王を威圧した。
「良い部下を持ったものだ」王は満足気だった。そしてそのまま悪魔を威圧仕返し行動不能にした。
「舐めるなよ! 悪魔如きワシの威圧でどうにでも出来るわ!」座ったまま拳で一撃を繰り出し、風圧だけで悪魔を粉砕した。
「ぶっわっ!」悪魔は霧のように消えた。
将軍は、悪魔の拳を素手で掴み殴り返した。
「弱体化していなくても、お前ごとき敵ではないわ!」
「ごわきぃ! ずっどーん! ふにゅ~っ」悪魔は風船が弾けるように飛んで行って消えた。
エルピーダは、悪魔を岩で押しつぶし行動不能にすると、とどめの一撃を叩きつけた。
「どがどがどが! どっがっ! さらさらさ~」悪魔は砂塵となって消えた。そしてアマールに駆け寄った。
「アマールさん、落ち着いて! 鎮静!」アマールに魔法をかけた。
「アマールさん、落ち着いてください。アスタルさんには、保険をかけてあります。大丈夫です。今、捕縛しなければいけないのは、あの道化師のような男です」
「分かったわ」アマールは一息つくと、落ち着きを取り戻した。
「(ちょっと、あいつヴィズじゃないの?)」
「(ベルダッド、それは後にして!)」
「(・・・)」ベルダッドは、しぶしぶと引っ込んだ。
エルデムが、プーパの前に立ちはだかった。
「おやおや、お美しいお嬢さんじゃないでげすか」プーパは突然目の前に美女が現れて驚いた。エルデムは、プーパの目の前で一本の棒を取り出し地面に突き立てた。それをクルリと一周すると、プーパの視界からエルデムの姿は完全に消えた。棒はパタリと倒れたが、エルデムの姿は何処にもなかった。
「? 何じゃ、あの娘は? 消えおったぞ・・・」戦いを客観的に見ていたイストリアは、不思議がった。
「おや? どこに行きなすった?」プーパは混乱した。直後に背後から床に押し倒された。
「ぐっげっ!」
「捕縛!」アマールが、プーパを捕縛した。エルデムがプーパを縛り上げた。
「お手あげでやんす」プーパは観念した。
「三体の悪魔は、一瞬でやられたな。道化師の仲間も戦闘不能だ。もう片方は、喜んで踊ってばかりだ。戦意はないらしい。ゾフォス、どうする?」
ゾフォスの放つ無数の炎の矢と炎の槍を氷の盾で弾き返しながら、リカルダスは聞いた。
「負けだねー。タイミングが悪すぎたよ。げっほっ」
「相変わらず、喘息は治らないのか?」
「諦めたよ。何もかもね・・・げふっ。状態!」
「面白いものが、見えたか?」
「剥奪師? レベル52? 窃盗師ではないのか?」
「アーヴィンを倒したからな。レベルが一気に上がったのだ」
「アーヴィンを?」ゾフォスは訝しがった。
「アテネに到着すると同時に襲撃されたから、撃退したよ」リカルダスは涼しげに言った。
「ちぃっ!」ゾフォスは舌打ちをして作戦を変えた。
火炎矢槍の攻撃を止めると呪文を唱え始めた。
「引力!」プーパを回収したが、ヴィズは回収出来なかった。
「ん? 来ないのか? 置いて行くぞ! 瞬間移動!」
ゾフォスが去ると同時に、辺りは静まり返った。
王の前に跪き、頭を下げた。
「お騒がせしました」リカルダスは恭しく言った。
「難儀な兄弟を持ったものだのぅ」王は同情してくれた。
喜んでいるヴィズにベルダッドが話しかけた。
「あんた、ヴィズじゃないの?」
「うおぉおおぉぉぉー、ベルダッドぉぉおっぉ~。久しぶりじゃないかぁあぁ。俺はついに男前になったぞおおおぉぉお。お前に、あいたかったぁあぁああぁあぁ」
「それは、私の仲間の顔と腕だよ。返してやりな」
「うおぉおおぉぉぉー、勿体ねええええぇぇぇぇ。ことわりてぇぇぇええ」
「勝手に人の物を取っちゃダメだよ」
「うおぉおおぉぉぉー、わかったあぁぁぁああぁ!」
「それにしてもあんた、臭いわね~。どうしたの? 今まで何処にいたの? 何故、ここにいるの? それに、なんでそんな喋り方をしているの?」ベルダッドが畳みかけて質問した。
「あーなって、こーなって、そーなったぁあぁぁ」ヴィズは、掻い摘んで詳らかに説明した。
「まったく、馬鹿やってんじゃないわよ」
「ごめぇんんんんん」
「うん、死んではいない。が、これは問題だ」倒れているアスタルの様子をリカルダスは伺った。
「命の保険が効きました。ベルダッドさんたちと、ムー大陸を探さなければいけませんね」エルピーダが言った。
「そうね、これは『ムー大陸案件』ね」ベルダッドが、ヴィズをリカルダスのもとに連れてきて言った。
「ムー大陸に連れて行けば、治るのか?」
「私がフィリアさんから学んだ知識だと、それしか方法がありません」
「・・・」アスタルは、横になったままようやく目を開けた。そして黙って話を聞いていた。
「まぁ、どうせ行くしな。よし、ムー大陸を目指しアスタルを助けよう!」
「はい!」
「・・・」アスタルは何も言えなかった。そしてジワリと涙を流した。
ベルダッドは、ヴィズの正体をリカルダスに説明した。
「そうか・・・、ならば連れて行くか?」
「そうしてくれると助かるわ。何もかも世話になって悪いわね」
「まぁ、乗りかかった船だ。構わんよ。それにしても臭いな。召喚獣にしよう」
「ありがえてぇぇぇぇえええ!」こうしてヴィズが仲間に加わった。ヴィズは、リカルダスの召喚術の書に封印された。それは、ラクシャスの次のページだった。
「ん? 新入りか? 少し臭いぞ」ラクシャスが言った。
「ごめええぇんん。俺はヴィズだぁあぁぁ、よろしくなああぁぁ。出身はムー大陸だぁあぁぁあ」
「俺は、ラクシャスだぁぁあ。よろしくなぁあ。出身はアトランティス大陸だぁぁあぁあ」
「ノリがいいじゃねぇえぇかぁああ」
「ひまだからなああぁぁ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「お前、アスタルに似ているなぁあぁあ」
「かくかくしかじか、まるまるうまうまだぁあぁあ」
「そいつは難儀だなあぁぁああぁ」
「迷惑かけてるわぁぁああ」
「・・・」
「・・・」
「ごそっ。がさっ」リカルダスの召喚術の書が賑やかだった。
「リカルダスさまの、書物が賑やかですね」エルピーダが訝しがった。
「まぁ、ケンカしている訳でもあるまい。放っておこう」リカルダスは気にしなかった。
ベルダッドが引っ込むと、アマールが出てきた。
「アスタルさま・・・、私は、あなたがどんなお姿でもお慕い申し上げております・・・」
「・・・」アスタルは、何も言えなかった。ムクリと起き上がり、ぼ~っとしていた。
「大丈夫だ、アスタル。ベルダッドもヴィズもいる。きっとキミをムー大陸に連れて行って元に戻すよ」リカルダスは優しく言った。
「ありガトウございま、ス。そのオコトばだけでジューブンまんぞクで、ス・・・」アスタルは力無く言った。
「アスタル~。元気出しなよ~。アタシの彼もあんな感じだけど、きっと元に戻してみせるわ。みんなでがんばろー」ベルダッドが明るく言った。
「がんバリま、ス」少しだけ言葉に力が戻っていた。そして、アマールはアスタルに深々とフードを被せた。
「ムー大陸に行けば、全て解決できます」アマールの言葉は力強かった。
「・・・う、ん」アスタルは力無く返事をした。
「このパーティーでどこまで戦えるか分からんが、連携の確認が必要だ」リカルダスが言った。
「はい。うちのパーティーには、心強いラクシャスさんという絶対的な盾がいます。禁断のヴィズさんもいますが、不用意に召喚するのは考え物です」エルピーダが言った。
「そうだな。下手に召喚すると、アスタルの顔と右腕を失ってしまうかもしれん」リカルダスとエルピーダは、ヴィズとアスタル抜きを想定していた。
「うむ、皆の者が落ち着いたら、契約を再開しよう」王は、みなの様子を伺いながら静かに言った。
「さきほど現れた、棒を持った女性はどなたかな? あの道化師を捕獲した娘さんじゃ。ギリシャ人ではないように見えたが?」イストリアはリカルダスにたずねた。リカルダスはギクリとしたが平然を装った。
「さぁ、知りませんね。そんな人いましたか? なにかの見間違えではありませんか?」リカルダスはすっとぼけた。
「おかしいのう、確かに見たんだが・・・」イストリアは混乱していた。




