第二話『歓迎式典前夜』
「なに? ローフル代表が波止場で襲撃されただと? 誰か出迎えてはいなかったのか?」アテネ六将軍を統括する総大将のギリムシューはギロリとクロマを睨んだ。
【ギリムシュー(grym tjur)】アテネ軍の総大将にして、王国のNo.2の座にある。戦乱で受けた傷は数知れず、過去30年にわたる戦いで50回ほど戦場に出たが敗退したのはただの一度しかない。銀色の口髭とあご髭をたくわえ、猛牛をモチーフにした鎧兜を身につけている。中肉中背で筋骨が逞しい。胆力に優れ決断も早い。
「申し訳ございません。出迎え役をサロスが担当していました。私は王城内で歓迎の準備をしておりました」クロマは謝罪した。
「襲撃したのは、何ものじゃ?」
「聞いたところによると、リカルダスの兄弟子であるとのことです」
「兄弟同士のイザコザか? ならば是非もない。それで? サロスは今、何処におる?」
「行方不明となっております」クロマは申し訳なさそうに言った。
「なにぃ?」ギリムシューの顔色が曇った。
「もう一つ、ご報告があります」
「何じゃ?」
「ローフル代表は、地下迷宮探検競技で、ブリキ騎士・鬼狐火・傷魔人の順に戦う予定でしたが、リカルダス達のチームだけ、砂魔人・ビホルダー・緑ドラゴンと闘いました」
「何じゃと~? ビホルダーに勝てる冒険者はそうおらんぞ?」ギリムシューは訝しがった。
「幸いにも、リカルダス達が倒してくれました」
「なんと・・・、ビホルダーに勝てるのか。頼もしいな・・・」ギリムシューは絶句した。
「それもサロスが担当しておりました」クロマは頭を下げながら報告した。
「ふむぅ。信じすぎたかのぅ・・・。サロスを処罰する、大至急、探し出せ!」
「ははっ!」クロマは速やかに捜索隊を出した。しかし、サロス将軍は消息が不明のままで、その後アテネ軍に戻ることはなかった。
「万が一のためにも、ローフル代表・ニュートラル代表・カオティック代表を対面させる考えは改めてください」クロマ将軍は、アテネ王ディアキバルニシとギリムシュー将軍に直訴した。
【ディアキバルニシ(diakyvérnisi)】現アテネ王、齢70を重ねても精力的に政治を行っている。領土拡大の野心を隠そうともしない。スパルタ軍との戦いは戦争終結に向けて一切妥協しない為、戦乱が長引いている。金髪で、あご髭と口髭も金色に輝いている。目つきが鋭く、鼻が高い。年齢の割に体格が良く、言い負けを嫌う性格でもある。
「うむ、歓迎式典を二日ずつズラすしかないな。出発しなければならない期間が迫っておる。彼らは、大陸さえ探し出してくれればよい。互いのチームで争われると戦力で損失になるからな」ディアキバルニシが言った。
「初日にローフル代表を、二日目にカオティック代表を、三日目にニュートラル代表の歓迎式典を執り行う」ギリムシューがクロマ将軍に命じた。
「ははっ!」クロマ将軍は直ちに指示を出しに向かった。
「おぬしは、クロマ将軍を気に入っておるようだの。何でもかんでもクロマに命じておるの」アテネ王が将軍に言った。
「アテネ軍の六将軍は、それぞれに仲が悪いので困っております。権力を分散しすぎた結果、お互いの足を引っ張る真似ばかりしております。大陸探しにかこつけて、権力をクロマ将軍に集中させることを考えております」
「そうだのう。ひとの上に立つ者がニュートラルやカオティックならば、人は容易にまとまらんからな・・・」
「仰せの通りでございます」
「ギリシャ広しと言えど、理想的な将軍はローフルのクロマ一人か・・・。人材が乏しいの・・・。誰か適任はおらんかの~」
「大陸を探しながら、人材も探す所存でございます」
「任せたぞ」
「ははっ」
リカルダス、アスタル、エルピーダ、ベルダッドのそれぞれに個室が与えられた。
ベルダッドは自分の部屋を出て、エルピーダとアスタルの部屋を行き来した。
四人それぞれの部屋を、黒い子鼠がウロチョロしていた。
ベルダッドの部屋は、もぬけの殻だった。
アスタルは狭い部屋の中で筋力を鍛える修行をしていた。
「? あれ? ネズミかな?」子鼠はアスタルに見つかる前に部屋の外に出た。
「そうよ、そこがレムリア大陸とアトランティス大陸の違いなの。覚えておいてね」フィリアが言った。
「はい。分かりやすい説明です」エルピーダが言った。
「? 今、何かいました?」エルピーダが子鼠の存在に気付いた。
「さぁ? 何か動いたみたいだったけど」フィリアは気付かなかった。
「召喚! 昆虫!」エルピーダが昆虫を召喚した。
「ぶ~ん」と飛んできた昆虫に、蛙が食いついた。
その蛙が子鼠に気付いた。
「!」子鼠はバタバタとエルピーダの部屋を出て行った。
「子鼠か~」エルピーダの緊張がほぐれた。
「びっくりしたわ~」フィリアが安堵した。
リカルダスは、ベッドの上で微睡んでいた。
『あちこち寄り道ばかりだったけど、ついにレムリア大陸に行けるのね』
『待たせたね。やることが多くてね・・・』
『やることが多いなら、後回しにすれば?』
『そうも出来ないんだよ。俺たちは寿命が短いんでね。後回しにしたら、何も出来ないまま死期が迫ってくるのだから、やりたいことは今のうちにしておかなければいけない』
『ふ~ん(死んだ後だって、やりたいことはやれるのよ・・・)』
『ん? 今なんか言った?』
『・・・何でもないわ・・・』
『エルデムちゃんを少し待たせたけど、予定を詰め込んだおかげで充実した日々を過ごせた』
『なら良かったわ』リカルダスの部屋に、黒い子鼠が侵入した。
「(ふふっ、見つけたよ・・・)」
『!』
『!』
「火矢( フレチャ・デ・フエゴ)!」リカルダスが目覚めながら魔法を放った。
「ぐっぎゃー!」黒い子鼠が燃えながら死んだ。
「・・・この黒い子鼠は!」リカルダスに戦慄が走った。
エルデムが姿を見せた。
「ただの子鼠じゃないわね・・・」
「あぁ、弟弟子のゾフォスだ・・・」
リカルダスは、数日以内に二人が衝突する予感がした。
エペソスから半日遅れでアテネについたゾフォスは、王城内に黒い子鼠を放った。
波止場のカフェから、ぼ~っとしながら様子をうかがっていた。
脳内には、子鼠が観た映像が届いていた。
「リーダーは、何をしてるんでげす?」プーパが近づいてきた。
「話しかけるんじゃない。げほ。取り込み中だ・・・」
「明後日の歓迎式典のことなんでげすが」
「歓迎式典には出るよ。だけど、それで解散だ。げっほ。俺は、用事がすんだら大陸探しには興味がない・・・」
「・・・あっしたちは、どうなるでげす?」
「知らないね。担当の将軍に聞けばいい。パーティーを組んでいなければ、大陸探しに行けないわけでも無かろう・・・。げほ・・・」
「・・・大陸にはきっと、ダンナの欲しいものもあるはずでげす」
「それは、何だ? 言ってみろ」
「なんでげしょう?」
「げっほ。そうやって、人を利用しようとするな、げほげほ・・・(ちっ、不在か・・・)」
「大陸には、『優れた精神文明』、『優れた物質文明』、『あらゆる願いを叶える奇跡の石』があるという噂でげす。だから、アッシはそれらを探しに行くでやんす」
「ありもしない噂を信じて、行動するのは時間の無駄だ・・・(ちっ、修行中の男の部屋か・・・。ここじゃない・・・)」
「兄弟子さんも、大陸探しをしているんじゃないでげすか?」
「(うるさいな!) だから、そいつをここで襲撃するのだ! 大陸まで追っかける必要はない!」
「・・・ここで、襲撃・・・出来そうでげすか?(逃がせば、大陸まで追いかけるんでげすね~)」プーパは、下衆な笑みを浮かべた。
「! (マズイ! 巨大蛙だ! 捕食される!)」ゾフォスは肝を冷やしながら、子鼠を逃がした。
「兄弟子は、二人いたんではないでげすか?」
「・・・あぁ、二人とも近くにいる。だから二人ともこの場で片付ける・・・(最後は、この部屋だな・・・)」
「・・・(片っぽは、負けて逃げましたぜ~。ダンナはまるでご存知ない・・・)」プーパは、笑いをこらえた。
「! くっそっ! 殺された」
「何が殺されたんでやんすか?」
「操っていた鼠だよ。だけど居場所は分かった。明日、殺してやる!」殺意に眼が血走った。
「・・・(明日か・・・)」プーパは、大陸探しにゾフォスを利用する方法を考えていた。
「(どうしても、コイツを連れて行って、手伝わせてやる! この魔力の化け物を!) くっへっへ・・・」聞いたことのない声を出して笑った。
「お前の笑い方、そんなに気持ち悪かったか?」
「え、えぇ、失礼しやした・・・」それぞれが、お互いを信用しないままに宿に帰った。
波止場から、2kmほど離れた倉庫の中だった。
アーヴィンとカバロが気を失っていた。傍らで、マイムーが気遣っていた。
「そんで? コイツらはどうすんだよ?」サロスが、ぶつくさ男に聞いた。
「置いて行く。連れて行く。鍛え直す。お仕置きをする。強くならないよ。なるかもよ。時間かかるよ。暇だもの。大陸に行こうぜ。一人じゃ無理だ。面倒だ。捨て駒欲しい・・・」
「考えは纏まったか?」サロマが聞いた。
「もう一度、鍛え直す。嫌だよ。めんどいよ。暇だもの。大陸に行こうぜ。いつでも行ける。主はどうする。手を焼くぜ。捨て駒欲しい」
「主を倒すための手ゴマが必要なんだな?」
ぶつくさ男は、口を開くと止まらなくなるので、頷いただけだった。
話さずに意志を伝える方法を学んだ。
「もう一度、行ってみるか。お前も行くか。お前もいけよ。よわすこキライ。レベルをあげろ。足手まとい」
「行くって何処よ?」
「オリンポス山。『神々の試練』受けに行く。受けさせに行く。お前も来い。来るなら来い。来ないなら去れ。猿なら去る。犬でも去る。猿でも去れ。負けっかす。弱っかす。居場所無し」
「酷い言われようだ。まぁ、アテネ軍には戻れないしな。ついて行くよ」
こうしてサロス将軍は、ぶつくさ男について行くことになった。




