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第十六話『地下迷宮探検競技・黒色のハト』

リカルダス一行は、船で一路王都アテネを目指していた。

「ね? こうなるのよ。分かる?」フィリアは、カフェでレムリアの知識をエルピーダに教えていた。フィリアの唇は艶やかで、色気に満ちていた。

エルピーダは顔を赤らめながら、フィリアの話を聞いていた。

「フィリアさん・・・」エルピーダは小さな声で言った。

「どうしたの?」恥ずかしがっているエルピーダの反応を楽しみながら、フィリアは楽しいひと時を過ごしていた。

「体がちょっと、近すぎます」向かい合って座っていたはずなのに、フィリアはいつの間にかエルピーダの横に移動していた。

「あら? いいじゃない。近い方が話が良く聞こえるじゃない?」

「そんなに体を近づけなくても、フィリアさんの話は良く聞こえます。大丈夫です」

『ねーさん、エルピーダ君をからかい過ぎよ~』ベルダッドが言った。

『まだ子どもなんだし、刺激が強すぎるわよ~』アマールが言った。

『そんなことないわ。人間の成長は早いのよ~。すぐに逞しく成長するわ。その時に私を忘れないように、今のうちから教育しておくの』フィリアは答えた。

すぐ横で、体のオーラの色が黄色や青色やピンク色に変わるのを見てエルピーダは思った。

「(お姉さんたちと、何を話しているんだろう?)」

少しだけ、ほったらかしにされて淋しかった。

アスタルは、甲板で剣を振り体を動かしていた。

「狭い船の上じゃ、思い通りに修行が出来ないな~。陸が恋しい。早くつかないかな~」

アテネには、まだ一週間ほどかかるという話だった。


リカルダスは、食事が終わってから少し微睡(まどろ)んでいた。

『いよいよね』

『あ、あぁ、エルデムか。久しぶりじゃないか』

『しばらく見ない間に、仲間が増えたのね』

『あぁ、そうなんだ。ラクシャスの他にも、ベルダッドたちがムー大陸を探しているらしい』

『レムリア大陸も、アトランティス大陸も、ムー大陸も全部に行ってみるの?』

『俺に出来るのかな? 良く分からないや。だけど、みんなを連れて行くという話になっているよ』

『あなたなら行けるの。だからついて来ているの』

『俺が? まだ分からないな』

『王都アテネで全て分かるわよ』

『そうなの? 楽しみにしておくよ』


夜になると、エルピーダは一人静かに学問の修行を進めていた。カフェでは、アスタルとアマールが話し込んでいた。

「ねぇ。アスタルさまの祖国ってどんなところですの?」

「大英雄ナポレオン公の率いる最強軍隊が君臨していた国だ」

「戦争は多かったのですか?」

「あぁ、私が望まない戦いばかりだったが負けはしなかった。エジプトでネルソン提督により叩きのめされるまでは、ナポレオン公は私の生涯の目標だ」

「負けてしまったのに、尊敬なさっているのですか?」

「彼の目標(ベクトル)才能(インジェニオム)は申し分なかったが、運命(ファトム)だけが彼に味方しなかった。残念な晩年だったが、紛れもなく彼は私の目標だ!」キラキラした目で熱く語った。その瞳をアマールは楽しそうに見詰めていた。

「アスタルさまは、将来何をなさりたいのですか?」

「私は、人を束ねる才能は有りません。主君に仕えて能力を発揮するタイプの人間です。リカルダス公の目標を達成するお手伝いをしている間に生涯目標(ライフワーク)が見つかるかも知れません。アマールさんのためにも、まずはムー大陸を目指さないといけませんね」

「ま、ぁ、嬉しいですわ」アマールは、名前を呼んでもらえただけでも嬉しかった。

「・・・」アスタルは、やさしくアマールを見つめた。自分に好意を抱いてくれる彼女に対して、出来る限りのことをしたいと思っていた。


翌朝、リカルダスは早く目覚めた。甲板に出て太陽の光を浴びているところにベルダッドがやって来た。

「やぁ、おはよう」リカルダスは挨拶をした。

「おはよー」ベルダッドが返事を返した。

「エルピーダの相手をしたり、アスタルの相手をしたり大変だな」

「ねーさんたちが気に入ってるからね、仕方ないよ。体は一つしかないけど、心は三つあるんだもん」

「レムリア大陸、アトランティス大陸、ムー大陸かぁ。まず最初に、どの大陸に行くことになるんだろうか?」

「どの大陸でもいいよ。それぞれに行きたがっている人がいるんだもん」

「・・・」リカルダスは沈黙した。そして口を開いた。

「キミとヴィズが行きたがっているという、ムー大陸とは、どんなところだい?」

「平和なところだったわよ・・・。このエーゲ海なんかとは比べものにならないくらい広い海の真ん中にあったの・・・。アトランティス大陸にも劣らない物質文明が栄えていたわ・・・。ある日突然、『神の怒りだ』と言って、滅んでしまったの・・・。あまりにも唐突過ぎて訳が分からないわ・・・。私とヴィズは恋人同士だったんだけれど、離れ離れになってしまったの・・・。今頃どこでどうしているか・・・」ため息交じりに話してくれた。

「案外、近いうちに会えるかもね・・・」

「なら、いいんだけど・・・」カモメが数羽飛んでいた。その中に、黒いハトが混ざっていた。

「見たことのない色のハトね」ベルダッドが気付いた。

「! あのハトは!」リカルダスは狼狽えた。

「どうしたの?」ベルダッドが驚いた。

火矢(フレチャ・デ・フエゴ)!」右手の人差し指と中指だけ真っすぐにして、黒いハトに魔法を放った。

「ぐえぇーー」黒いハトは焼かれて海に落ちた。そこに、アスタルとエルピーダが現れた。

「! リカルダスさま! あの黒いハトは!」エルピーダが叫んだ。

「どうしました?」アスタルがたずねた。

「2年前に、リカルダスさまと私を襲撃したリカルダスさまの兄弟子アーヴィンです。リカルダスさまは、2年もの間再起不能にされました」

「あぁ、エルピーダよ。実に懐かしいじゃないか・・・」リカルダスは震えながら言った。

「えぇ、あの時とは違います。我々も修羅場を幾つも潜り抜けました。レベルアップもしております!」

「僭越ながら助太刀いたします!」

「厄介な敵だ! 窃盗師(スティーラー)は窃盗師を倒すことでしか限界突破(リミットブレーク)出来ないのだ!」アスタルに説明した。

「ですから、リカルダスさまは執拗に狙われるのです」

「おそらく、ゾフォスも俺を狙っているだろう・・・」

「簡単じゃない? みんなでやっつけましょうよ」ベルダッドが平然と言った。

「最悪の場合、助けを借りるよ。しかしこれは、俺たち兄弟弟子同士の問題だ。出来ることならば、巻き込みたくはない!」

「状況次第ですね。仲間がいるかも知れないですし・・・」エルピーダが言った。

「あの時の俺は、窃盗師レベル26だった。兄弟子のアーヴィンは窃盗師レベル55だった。今はどれだけ強くなっているか・・・」リカルダスは眉間に皺を寄せた。

「リカルダスさまは、剝奪師に転職なさっています。アーヴィンは窃盗師のままなのでしょうか?」

「うむ、それも心配だ。あの頃のままのハズがない」

「戦闘が避けられないんなら、アレコレ考えても仕方がないわね。覚悟を決めましょう!」ベルダッドが言った。

「ふっ、そうだな。陸につくまでまだ時間はある」リカルダスの気が楽になった。そして、エルピーダに指示を出した。

「エルピーダよ。私とキミは、アーヴィンを知っている。しかしアスタル君は、初めての敵だ。一応一つだけある(ビーダ)をアスタル君に使ってくれ」

「承知しました」

「命!」アスタルの命に保険をかけた。

「恐縮です」アスタルは畏まった。

「ベルダッドは一応、フィリアさんか、アマールさんに変わっておいてくれ」

「分かったわ」治癒と捕縛が使えるアマールに変わった。


港が見える丘の上で、犬歯を剥き出しにして入港する船を見ている剣士がいた。傍らには身の丈3mほどもある大猿とカバロがいた。

「雑魚が! 仲間が増えたようだな! 太った豚は、美味しく食べろ!」アーヴィンが吐き捨てるように言った。

「借りは、きっちりと返させてもらうぜ!」カバロは叫んだ。

「誰が戦うかは決まっている。誰と戦うかも決まっている。勝つ奴も決まっている。負ける奴も決まっている。だからおれがここにいる。なぜならば主人公なのだから。あー主人公は辛いなー。決まっているものをどうするのだ? 不満でも納得するのだ。耐えるのも主人公だ。だから覚悟しておけよ。主人公は強いのだ。たとえ負けると分かっていても。うーん、戦う気満々ですなー」緑色のローブを身にまとっていたが、青色の鎧を着ていた。兜ではなくフードを被っていた。フードの被り方が深すぎて顔を確認できなかった。

「(どんなツラをしているんだ、コイツは・・・。棒読みの台詞を長々と・・・)」アーヴィンはイライラしながら、ぶつくさ男を見ていた。


索敵(ブスカール)」リカルダスは、白い(きじ)のような鳥を10羽ほど放った。鳥たちは、数分で港に辿(たど)り着くと上空を旋回し始めた。

地図作成(カルトグラフィア)!」鳥が帰って来ると、10枚の羊皮紙(ようひし)に姿を変えた。

「! こいつは、カバロと召喚術剣士だ! でかい猿もいる! 丘の上にいるから、上陸と同時に戦闘だ!」リカルダスは叫んだ。

「準備出来ています!」エルピーダが言った。

「いつでも行けます!」アスタルが言った。

「用意はできています!」アマールが言った。

「召喚術剣士は、神殿組です。『神々の試練』で三体を同時に選択しました。何かを召喚して、その三体を一瞬で倒しました。物理的な攻撃だったので、ラクシャスさんが盾になれば防げると思いますが、充分に気をつけてください!」エルピーダがアスタルにアドバイスした。

「よし! 相手にとって不足はない!」アスタルは武者震いをした。

「アーヴィンは俺が引き受ける! でかい猿はエルピーダが引き受けてくれ! カバロには召喚獣をぶつける! アスタルはラクシャスと組んで召喚術剣士を倒してくれ! アマールは、後方支援だ! 苦戦している仲間がいたら敵を捕縛して援護してくれ!」リカルダスが指示を飛ばした。

「承知しました!」エルピーダが言った。

「よし! 分かった!」アスタルは覚悟を決めた。

「任せてください!」アマールが言った。

上昇(エレバール)+15! 風の障壁!(バリーラ・デ・ビエント)」アスタルのレベルは、71に上がった。

上昇(エレバール)+15! 風の障壁!(バリーラ・デ・ビエント)」エルピーダのレベルは、44に上がった。

上昇(エレバール)+15! 風の障壁!(バリーラ・デ・ビエント)」リカルダスのレベルは、49に上がった。

そして、上陸と同時に戦闘が始まった。


第二部『地下迷宮探検競技編』完

第三部『王都炎上編』に続く

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