第十五話『地下迷宮探検競技(カオティック編④第三関門・それぞれの心的外傷(トラウマ))』
ゴール地点が第三関門だった。迷宮を抜け、外に出ると体長が20mほどもある昇龍が宙に浮きながら、待ち構えていた。
「ん? 最後の敵は、巨大な龍か?」ドプレクスが言った。
「今の、このパーティーで勝てるかな?」ゾフォスが言った。
「やるだけぇえぇ、やるさぁあぁ」
「・・・」プーパは、後ずさりした。
「戦わない気じゃないだろうね?」ドプレクスが言った。
「戦いやすとも」プーパは、仕方なく返事をした。
「しゃーーーおーーーー」昇龍が口から火を吐き、ヴィズに浴びせた。そのまま、同じダメージが昇龍に返って来た。
「ぐっしゃー!」雄たけびをあげながら、ヴィズを尻尾で叩きのめした。そのまま、同じダメージが昇龍に返って来た。
「ジャーオー!」昇龍は、ヴィズをまるっきり無視した。ヴィズ対策の最適解だった。ヴィズは、自分から攻撃を仕掛けないので、この戦いでは最後まで傍観者だった。しかし、誰も気に留めなかった。
「忠実なる我が下僕に命ずる。敵の一切を殲滅せよ・・・」ゾフォスの目の前に、ヤギの頭を持った黒い翼のある悪魔が現れた。悪魔は龍に殴りかかったが、まるでダメージを与えられず、逆にゾフォスともども尻尾で吹き飛ばされた。
「ドッガッ、ズザザザ・・・」悪魔が消え、ゾフォスは簡単に死んだ。
「おのれー!」ドプレクスが溜まりに溜まったダメージを龍にぶつけた。
「ズッガーン!」龍の柔らかそうな腹に渾身の一撃を叩きこんだ。
「ぐっふっ!」と、龍が痛みに耐えた声を漏らした。
「しゃーーー!」龍は、毒ガス入りの火炎を吐き、ドプレクスを焼き殺した。龍は、ジロリとプーパを睨みゾフォスと同じように尻尾で叩きのめした。プーパは、慌ててワッペンを取ろうとしたが間に合わなかった。カオティックチームが戦闘不能になるまで三分かからなかった。ヴィズは、まるで戦意を見せなかったので、龍に相手にされなかった。
「・・・、どぉいうぅことだあぁぁああぁ」ヴィズは途方にくれた。
「え? リカルダスが島を出たって本当ですか!」ゾフォスが師匠に詰め寄った。
「本当だとも、次はお前の番だ。早く逃げなさい」師匠が答えた。
「信じられない! 絶対に逃げ出さないと約束したのに! ゲホゲホ・・・」
「興奮しすぎだ。ここにいては、いずれアーヴィンに殺される。隙を見て二人とも逃がすのだ。勘違いするな」そこに運悪く、熊退治に出かけていたアーヴィンが帰って来てしまった。
「そういう訳ですか・・・。逃がさないよー」体調が回復しては嬲られ寝込む生活が繰り返された。アテネとトロイアの戦争が拡大するとアーヴィンはレベルと術を吸い取りに喜んで出かけて行った。
その隙をついて逃げてきた。嫌、逃げる気はなかった。何かの偶然にアーヴィンに致命傷を与え、嬲り殺すことが目的だった。アーヴィンは自分を絶対に殺さないことが分かっていたから、壮大な復讐をするつもりだった。
「与えられ続けた屈辱は、殺すことで返す!」その一心で、苦しい修行に耐えてきた。
「はっ!」目覚めると、ヴィズ以外は死んでいた。ヴィズは途方に暮れていた。
「よし、ヴィズ! 戦うぞ!」ゾフォスは立ち上がり、魔法を唱える態勢に入った。
「わかったあぁぁあぁ!」
「ほんっとうに、できない子だねー!」毎日毎日叱られ続けた。毎日毎日罵られ続けた。自分が出来ないことは分かっていたが、底辺のど底辺であることを刷り込まれ続けた。だから、向上することを諦めていた。
「相手から受けたダメージは、『気』という、イメージの力で相手に返すのだ! やってみろ!」師範や兄弟弟子と組手をくり返したが、イメージが膨らまずダメージを相手に返せなかった。
「『傷魔人族』は、受けたダメージの大きさが全てだ! ダメージを受けすぎると体が破壊される。当たり前のことだ。だから『気』で防御しながら、ダメージだけを相手に返すのだ。『気』の使い方が上手ければ、ダメージを増幅することも出来る!」その『気』と言うやつが分からなかった。みんなは上手にコントロール出来ていたが、自分だけは出来なかった。ある日、修行が終わってボロボロになりながら泣いていた。情けなくなって、砕けてもいい気持ちで大木をぶん殴った。
「べっぎっ! どっしゃーん」大木が真っ二つに折れた。情けない感情と怒りの感情が入り混じって、ある心境に導いてくれた。「悟り」というものが、自分を限界突破に導いてくれた。技術論でも何もなく精神論だった。それ以後、一族の中で俺に勝てる者はいなかった。
「ふっ、出来損ないなんかじゃねぇ! ただの天才じゃねぇか!」受けたダメージをなるべく早く回復する術も身に着けた。
「ふっ」と我に返ったら、ヴィズを盾にして、龍に雷の魔法をくり返し攻撃しているゾフォスを見た。むくっと立ち上がり、戦闘に参加した。
「俺も、混ざろうかのぅ」
「お前は考えが卑しすぎるんだよ! 喋るなよ! 近づくなよ! いっそのこと消えてしまえよ!」友人がなかなか出来なかった。
「自分の都合のいいように相手を動かしている」と、見透かされたからだ。
「そんなことは当たり前じゃないのか? 誰も口に出していないだけで、みんながそう考えているはずだ」そう思い込んでいた。話し方はどんどん卑屈になっていった。それでも下心があることを皆に見透かされていた。誰もが自分の望むように動いてくれることを夢見て、操り人形に夢中になった。
「魔法と組み合わせれば、最強じゃないか!」と思い付いたところで、目が覚めた。
「あれ? 寝てたのか?」目の前で、ヴィズとドプレクスを盾にして、火炎魔法を唱えているゾフォスを見た。
「まだ、倒せてなかったか・・・。ちょっとだけ、手伝うか・・・」プーパは、よろよろと立ち上がって肩甲骨に貼ってあった星型の特大ワッペンを剥がした。
しつこい攻撃に痺れを切らした昇龍は、尻尾を思い切り振りかぶった。三人同時に叩きのめされる寸前だった。
「よっこいしょ」プーパが特大ワッペンを龍の方向を向いて落とした。
「ぺとっ」ワッペンが地面に落ちた。
「操り人形! ひれ伏せ(レベレンシア)!」龍は、地面に頭からひれ伏した。尻尾が自分の頭を直撃した。
「! よし、今だ!」ゾフォスとドプレクスは畳みかけた。
「絶対零度!」ゾフォスが龍を凍らせた。
「『軟体甲殻拳・奥義・痛くないなら死んでるね!』」体中の全ダメージを龍に叩きつけた。
「ぐわっしゃー」凍った龍は、打撃に耐えられずの粉々に砕け散った。
「いやった~でやんす!」プーパが歓喜の声をあげた。
「よっしっ! 決まった!」ドプレクスは手ごたえを感じていた。
「たえたあぁぁあ、かいがあぁぁあ、あったああぁ」とは言うものの、ヴィズは痛みを感じていなかった。
「ふっ(らしくないねぇ。カオティックなのに、チームワークか・・・)ゲホゲホ」息が苦しかったのを思い出した。
「ニ・三人死ぬ予定だったが、全員無事か」ムアコックが言った。
「土壇場で協力しましたからね。彼らも何か学んだのでしょう」マキア将軍が言った。
「この後、チームを組み続けるかどうか、分かりませんね・・・」デバスタド将軍が言った。
「昇龍の尻尾の打撃は、致命傷だったはずだ。すぐに目覚めたが、回復魔法を使っていなかった。ちょっと調べてみてくれ」ムアコックが調査を命じた。
「畏まりました」マキア将軍が調査に乗り出した。
「あの、道化師みたいな男は、お前の知り合いか? 一昨日何か話していただろう」ムアコックがデバスタド将軍に訊ねた。
「あぁ、競技の開始時刻を聞かれていただけです」
「そぅか」ムアコックが小さく頷いた。




