第十三話『地下迷宮探検競技(カオティック編②第一関門・ドプレクスVsトラ魔人)』
ムアコックには、知りたいことが一つあった。それは、『このパーティーの潜在能力の高さ』だった。
「(所詮、ローフル・ニュートラル・カオティックと分類していても、一般人の常識の中での分類に過ぎん。天才は、往々にして『カオティック』属性から現れる。今までも、そしてこれからも探し続けるぞ! 既成の価値観を打破することが出来るのは、『話し合い』ではない。全てをぶち壊すことができるのは圧倒的な才能だ! 破壊した後で、常識あるものが理想的な好ましい世の中を作ってゆく。いわば、カオティックは来たるべき世界に理想的な天才を導く『露払い』に過ぎない。悪役ではあるが、無くてはならない貴重な存在だ! その才能を見極めるために、過度な試練を与えよう!)」ムアコックは、胸が高鳴った。新しい時代の幕開けを最善席で見られるのだ。マキアもデバスタドも、ムアコックの目論見を見抜いていた。そして、それを利用するつもりだった。
ゾフォス達のパーティーしかいないので、出発はいつでも良かった。従って、すぐに出発することになった。
「それでは、隊列を組みましょう」プーパが言った。
「先頭は、盾役だ。ドプレクスどのが最適ですぜ」プーパは勝手に話を進めた。
「あぁ、良かろう!」ドプレクスが快諾した。
「あっしが、先頭の補助役だ。二番目に行きやしょう」プーパが勝手に決めた。
「その後ろが、うちのパーティーの頭脳のゾフォスさんでいかがでしょうか?」
「悪くないね」ゾフォスも賛成した。
「殿は、ヴィズどのではどうでしょう? 一本道とは言え、三つの関門に辿り着けば、乱戦になります。後方警戒は重要ですぜ?」プーパの提案には、卒がなかった。
「いぃぜぇぇぇえ!」ヴィズも快諾した。
「キミの方が、リーダーに向いてるね。的確な指示だ」ゾフォスが言った。
「いえいえ、私は、そんなつもりはございやせん。皆様が無事ならばそれで結構です。競技を勝ち抜く確率を上げることが、最優先でやんす」プーパはへりくだりながら言った。
「(こう臭くっちゃ、敵わねぇや。少し距離を取りたいが先頭は嫌だ。乱戦になったら、距離と取らせてもらおう・・・)」と、プーパは考えていた。
「ヴィズくん、ゴメンね」と言って、ゾフォスはヴィズに魔法をかけた。
「無臭」忽ち、ヴィズの悪臭が消え去った。
「気を、使わせたなぁあぁあぁ・・・」
「自分でどうすることも出来ないことは、何とかできる他人が何とかしてあげたほうがいい」しれっと言った。
「(なんでぇ。そんな魔法があるんなら、最初から使ってくれ・・・)」プーパが思った。
「誰かが文句を言うか、誰かが何とかするか、見ていたからさ。だけど誰もどうもしなかったから、自分で解決したまでだ」ゾフォスは、プーパに応えるように言った。
「! (あ! 見抜かれている?)」プーパは、背筋が寒くなった。
「(『臭いから、近寄りたくはない』とは言わないだろうが、屁理屈をこねくり回してヴィズから遠ざかりたかったのか。コイツの発言には、必ず裏があると考えなければいけないな・・・)」ゾフォスはさらに、プーパと距離を置くようになる。
「1kmほど続く、一本道で三つの関門が待ち構えている」という、説明しかされなかった。洞窟内は薄暗かったが、数mおきに蠟燭が灯っていたので5mくらい先までは見えた。地下水が湧き出ているらしく、チョロチョロと水の流れる音が聞こえてきた。気温が低かったが息が白くなるほどではなかった。緊張感に耐えられなくなったプーパが喋り始めた。
「第一関門は、何だと思いやす?」誰も返事をしなかった。プーパがもう一度質問した。
「第一関門は、何だと思いやす? ゾフォスのダンナ」ゾフォスは顔を見られたので、自分への質問だと分かった。
「あ、あぁ。俺に聞いていたのか? 誰に聞いたか分からなかった」
「ダンナですよ~。なんせ、リーダーなんだから・・・」
「まだ、その自覚はないな。まぁ、ボクが主催者なら圧倒的な多数の敵を出すね」
「何で、そう思いやす?」
「種族の違う敵にパーティーを組ませて戦わせると、パーティーの属性が分かるからね。ボクが主催者なら、誰がどんな戦い方をするのか見てみたい。だから、獣系・自然系・不死系あたりにパーティーを組ませて、小手調べをするかもね」
「そう、お考えでやんすか・・・。ドプレクスどのは、どう思いやす?」
「誰でも構わん。敵は粉砕する! 一体でも十体でも、百体でも不足はない! んっふ~っ」漲る自信が、鼻息からあふれていた。
「数が多いのは、困ったもんですわな~」とため息をついた。
「俺にも、聞ぃけえぇえぇぇえー」とヴィズが言ったが、プーパは聞こえないふりをした。
「(ふっふっふ。作戦成功! リーダーを押し付ければ、俺は面倒なことには一切関わらなくて済む)」プーパは下衆な笑みを浮かべた。
「・・・お、れ・・・」ヴィズは、それ以来黙ったままだった。プーパに格下扱いされたことだけは理解した。暗さにも慣れ、緊張感も程よく高まったところで、少し広めのホールに出た。半径100mほどの半球形の広場だった。天井が吹き抜けになっているらしく、太陽の光が差し込んできていた。獣の唸り声と、不死系が現れるときの嫌な雰囲気が伝わって来た。
「グワ、グルル・・・」トラが三体現れた。筋肉が逞しく、牙と爪が鋭かった。
【トラ魔人(Tiger Demon)】鋭い爪と牙で敵の肉を噛み切り、戦意を喪失させ戦闘不能にする。太い腕から繰り出される打撃は、敵の骨を折って、戦闘不能にする。身長2mほどの二足歩行のトラであった。
「じゅわ~、ジュルル・・・」剣を持った、二足歩行の龍の騎士だった。
【龍魔人(Dragon Demon)】皮膚が堅いので鎧は着なくても良い。背中に映えた翼で体を浮かせることも出来る三次元の戦闘が可能。口から炎を吐いて、相手を威嚇する。
「・・・のっそ、のっそ・・・」ボロボロの司祭服を着た骸骨だった。
【リッチ(Lich)】徳の高い司祭だったものが、闇落ちして操られる立場になるとリッチになる。生前の治療系の魔法を忘れて、ひたすら敵の生命を削る魔法を使うようになる。
ドプレクスは、トラ魔人に向き合った。
「三体でも五体でも良かろう! ここは、引き受けた!」
ヴィズは、龍の騎士と向き合った。後ろから、プーパが龍の騎士に向き合うように操っていた。
「? 体があぁぁあ! 勝手にうごくうぅううぅ・・・」
「? (何を言っているんだ?)」ゾフォスは、ドプレクスとヴィズが敵に立つ向かう様を見て、リッチを見て身構えた。
プーパはごく自然に気配を消した。
「(成り行きを見守らせてもらうでやんす・・・)」
トラ魔人の鋭い爪攻撃で、ドプレクスの肉体が引っかかれ、血飛沫が飛んだ。
「ざっしゅっ、ばりばり、ガリッ、・・・・」ドプレクスは逃げるそぶりも見せずにすべての攻撃を受けきった。トラ魔人は、爪攻撃に加えて牙でも噛みついた。
「はむはむ、ガリッ、ばりっ」噛みついたついでに、肉を噛み切った。ドプレクスはまるで痛がらずに、攻撃されるままに耐えていた。痺れを切らしたトラ魔人は、殴る蹴るどつく攻撃に切り替えた。攻撃していたトラ魔人が疲れ始めた。
「はぁ、はぁ、グルル・・・」
「どうした? それで終わりか? 俺には痛点がない。軟体動物や魚類や昆虫類ですら痛がるのに・・・。俺は痛さを克服した。我が一族は生まれつき痛さを克服しているのに、俺は何年もの修行の末に克服できたのだ! 喰らえ! 『軟体甲殻拳・奥義・痛がるうちは未熟者!』」右の拳で、一体目の顔を殴り、流れるままに二体目の胸を殴り、そのまま三体目の鳩尾を殴った。
一体目の顔がひしゃげ首の骨が折れる音がして倒れた。
二体目の胸に大きな人の頭ほどの穴が開き崩れ落ちた。
三体目が受けた打撃から間をおいて、体に大きな穴が開いた。
プーパには、たった一撃で三体を葬り去ったように見えた。
「(三体目が一番ダメージが大きかったぞ? どういうことだ?)」プーパには理解できなかった。すぐにドプレクスに駆け寄って確認した。
「酷い傷でやんすが、大丈夫ですか?」
「あぁ、痛みはない。飯を食って呼吸をすれば、そのうち治るよ!」
「もう、戦えないんではないでやんすか?」
「俺は、ダメージを受ければ受けるほど強くなる。呪われた傷魔人族だ!」
「そんな一族があるんでやんすか?」プーパは、質問せずにはいられなかった。
「人間、生きていれば挫折も栄華もある! 何でもかんでも穿るものではない!」




