第十二話『地下迷宮探検競技(カオティック編①ゾフォスの野望)』
トルコの西部にあるエペソスでは、「地下迷宮探検競技」の悪属性が集められていた。
【エペソス】世界の七不思議の一つに数えられるイオニア建築の最高傑作の「アルテミス神殿」がある。アテネのパルテノン神殿の4倍の大きさを誇ったが、9回もの破壊と再建が繰り返され、現存するのは柱一本だけだという。
「地下迷宮探検競技」のカオティック部門の参加者は、一組だけだった。前日までは三組が登録していたが、当日顔を出したのはゾフォスのチームだけだった。カオティック担当の黒いローブをまとった老紳士・ムアコックが熱弁を振るった。
「力は正義である! 力ある者が『法』を作り、それに力無き者たちを従わせる! それが気に入らなければ、下の者が上の者に取って代われば良いだけのことだ! 歴史とは所詮、その程度のものに過ぎない! だからこそ、力さえあれば誰にでも書き換えることが出来るのだ! その歪んだ「歴史」と呼ばれるものの中で『悪』と呼ばれる属性に、諸君らは一応属していることになる! しかしそれは、必ずしも悪いことではない! 力こそ正義であり、力こそ歴史であると言えるからだ! そもそも誰にとって『善』なのか、誰にとって『悪』なのか! 簡単に決められることではない! 簡単に区別できることではない! 歴史の多くは、勝者の価値観で残されていることを忘れてはならないからだ!」額に汗し、血管が切れそうになるほどの勢いで、唾を飛ばしながらの熱弁だったが、真剣に聞いているものはいなかった。
― 前日 ―
カオティック属性の「地下迷宮探検競技」に参加する冒険者のチームの宿舎に群青色のローブを着た魔術師が訪れた。戦士・騎士・盗賊・僧侶のパーティーが、食堂で酒盛りをしていた。
「はっはっは。たった三チームだとよ。俺たちの楽勝だな!」戦士が大騒ぎをしていた。
「全くだ。こんな楽な稼ぎ方はない。200万ドラクマルクは頂きだ!」騎士が追随した。
「ゾフォスって奴のチームは、魔術師・操り人形術師・武闘家魔術師・ゾンビ武闘家のパーティーらしい。何だよ、ゾンビ武闘家って」盗賊が笑いながら言った。
「楽勝だ! 酒でも飲んでしまえ~」僧侶が言った。
「飲み過ぎるなよ~」騎士が言った。
そこに、のそりと魔術師が現れた。
「バカ騒ぎ中、ごめんよ。ゲホッ・・・」
「ん? 何だお前は?」戦士が言った。
「魔術師か?」盗賊が言った。
「偵察か?」僧侶が言った。
「戦闘だよ。忠実なる我が下僕に命ずる。敵の一切を殲滅せよ・・・」
「術の発動だー!」戦士が剣を手に立ち上がった。
「させるかー!」騎士も立ち上がった。
『ぼわん!』魔術師の目の前に、ヤギの頭を持った黒い翼のある悪魔が現れた。盗賊が魔術師の背後に回り込んだが、悪魔の一撃でぶっ飛ばされ、そのまま失神した。
「入れ替わり(カンビアス)!」魔術師が騎士と入れ替わった。騎士に攻撃を仕掛けた悪魔は、攻撃の手を止め戦士を攻撃した。
「ドッガッ!」戦士は悪魔に叩きのめされて、たった一撃で戦闘不能になった。
「聖なる障壁!」僧侶が魔法防御の魔法を発動した。
「遅いよ。吸収!」魔術師が僧侶のレベルを吸い取った。
「たったレベル26なの、弱いね・・・」
悪魔の傍らに移動させられた騎士も悪魔の餌食になった。戦闘が終わるまで三分かからなかった。
「一応頂いておくよ。吸収!」ゾフォスは、+12レベル、ライフを4つ、middle cure(50%)回復、聖なる障壁(Horry barrier)、解毒(Cure poison)を手に入れた。
【ゾフォス(Zofos)】リカルダスの弟弟子。アーヴィンに殺されそうになりながら、窃盗師の修行を続けた。属性:Chaotic・Common。ギリシャ神話の最高神・ゼウスの加護を受けている。生まれつきの脆弱な体質で、目が落ちくぼみ、頬が痩せこけて、四六時中咳き込んでいる。公共的な行動をするので、ローフルやニュートラルに勘違いされるが、根っからの悪属性である。
ゾフォスが他のチームを襲撃したのと同じ時刻、別の宿屋で競技に参加する別のチームが作戦会議をしていた。
「敵の戦士・騎士・盗賊・僧侶のチームはバランスが取れているな。要注意だ!」騎士のリーダーが言った。
「もう一つの、魔術師・操り人形術師・武闘家魔術師・ゾンビ武闘家のチームは不気味だな。チーム構成が想像できない」副リーダーの魔術師が言った。
「回復役がいないので、弱いかもしれませんね」僧侶が言った。
「出会ったことのない職業だ。なめてかかってはいけない」武闘家が言った。そこに紫色のローブを着て、顔にドーランを塗った男が現れた。右目が星で、左目が太陽の化粧をしていたので魔術師と言うより道化師に見えた。
「作戦会議、ご苦労様です。へっへっへ・・・」
「! 誰だ、お前は!」武闘家が立ち上がった。
「明日、戦う仲だ。仲良くしましょうや。へっへへへ・・・」
「敵襲だ! 全員戦闘態勢に入れ!」騎士が叫んだ。
「戦闘は、初動が肝心ですぜ。ダンナがたは、対応が遅いっすよ~。操り人形」星型のワッペンを騎士に向かって投げつけた。ワッペンは騎士に当たらず、手前で床に落ちた。しかしその瞬間に、勝負は決まっていた。騎士が仲間を悉く切り裂き自害した。
「相手が悪かったっすね。へっへっへ・・・」紫色のローブを着た魔術師が外に出ると、群青色のローブの魔術師と鉢合わせた。
「おや? ダンナ様も、襲撃ですか?」プーパがゾフォスに言った。
「プーパ、お前もか・・・」ゾフォスがプーパに言った。
「戦いは既に、始まってますからねー」
「その通りだ。競争相手は少ない方がいい」
「ダンナも、アッシを殺しやんすか?」
「それはしない。チームで参加するのが条件だ。お前だってそうだろう?」
「へっへっへ・・・。お見通しで・・・。競技が終わったら、アッシは用無しでやんすか?」
「お前にとっても、俺は用無しだろう・・・」
「へっへっへ・・・、疑り深いお方で・・・。へっへっへ・・・。どうでやんしょう・・・」
「俺は、お前の本名すら知らない」
「嫌でございますねー。アッシの本名はプーパですよ。へっへっへ・・・。ダンナの目的は何ですか?」
「お前の目的は何なんだよ。まず自分から言いな」
「へぇ、アテネへ行って「大陸探し」をすることです」
「お前も、大陸に行きたがっているのか?」
「アッシは、情報を集めるだけでいいのでやんす」
「よく、わからんな」
「アッシの目的はお教えしました。次は、ダンナの番でげす」
「・・・二人の兄弟子を殺すことだ・・・」
「へぇへぇ・・・。たいそうな目的で・・・」
「・・・」二人は無言のまま宿に帰った。
【プーパ(pupa)】操り人形魔術師。踊りの神・テルプシコラの加護を受けている。自らをプーパと名乗っているが、詳細も目的も不明。属性:Chaotic・Neutral。
ゾフォスとプーパはお互いを信用していなかった。警戒のため、お互いがそれぞれの部屋で、眠るか眠らないかの時間を過ごした。パーティー仲間の武闘家魔術師・ドプレクスは、酒を飲んで己の部屋で豪快な鼾をかいて寝ていた。
【ドプレクス(duplex)】東洋の武道着を着ている筋骨逞しい背の高い若者。物理的な攻撃を受けた場合、倍返しのダメージを返せる「軟体甲殻拳」の使い手。狩り・貞潔の神アルテミスの加護を受けている。属性:Chaotic・Neutral。
もう一人のパーティー仲間であるゾンビ武闘家・ヴィズは外にいた。全身の皮膚が腐り、肉が所どころただれていた。異臭を放つため、誰かに近づくと迷惑がられるので丘の上で毎晩月光浴をしていた。
【ヴィズ(Vis)】ボロボロのマントを羽織っているが、体から溢れ出る異臭を隠すことが出来ない。オリンポス山にある「神々の神殿」で、蜥蜴騎士に右腕と首を斬られたので、トカゲの右腕と首を持っている。滑舌が悪く、喋るとエコーがかかる。商業・旅・学問・伝令の神ヘルメスの加護を受けている。
ベルダッドとともに「ムー大陸」に行きたがっているらしい。属性:Neutral・Common。
ムアコックは、翌朝早く二組が参加不能になったという知らせを聞いた。
【地下迷宮探検競技(悪属性)・ルール】
・登場する怪物・・・不明
・優勝賞金・・・200万ドラクマルク
・副賞・・・王都アテネ招待権
・勝利条件・・・一体でも多くの敵(参加者を含む)を倒すこと。
「ローフルやニュートラルの代表は既に決まっておる! お主たちに期待することはない! 関門を三つくぐれば、王都アテネへの招待券を授ける! せいぜい暴れ回って、スッキリして来い!」ムアコックの言葉はいちいち乱暴だった。
「リーダー殿、どうしやす?」プーパがゾフォスに聞いた。
「俺がリーダーなのか?」
「適任でしょう」プーパが言った。
「俺も賛成だ。パーティーの中じゃ、ゾフォスが一番常識的だ」ドプレクスが賛成した。
「俺もおぉぉ・・・。賛成だあぁぁおああ・・・」ヴィズが追随した。
「それでは、作戦ね。誰でもいいから敵を倒すこと。誰が攻撃してもいいし、死んでもいい。生きて三つの難関をこえた者がカオティック属性の代表だ。死にたくなかったら、必死で生き残ってくれ」
「へい」
「押忍!」
「分かったあぁぁ・・・」こうして、ゾフォスチームの決起集会は終わった。
ムアコックの背後に、アテネ六将軍のうちの二人が控えていた。
「ふっふっふ。みどころがあるじゃないか。昨夜のうちにライバルチームを撃破するとは」カブトガニの仮面をかぶり、茶色のローブを着た将軍が言った。
【マキア(Majia)】属性:Chaotic・self。
「自己中心的な行動は、パーティーの危機を招く。しかし、圧倒的な力があれば話は別だ。敵を倒す時間が少なくて済む。パーティーの生存確率が一気に上がるからな」兜に数十本の角が生えていた。赤いマントの下の銀色の鎧も棘だらけだった。説教っぽい喋り方をする将軍が言った。
【デバスタド(evastado)】属性:Chaotic・self。
「行ってこい! 死体を増やして来い! しかし、生き残ったら褒美は思いのままだ!」ムアコックのひと言で、カオティック属性の競技が始まった。




