第九話『地下迷宮探検競技(ニュートラル編②100匹のけもの退治)』
幅が2mほどの狭い洞窟が、1kmほど続いているという話だった。途中で三か所の難関を突破しなければいけなかった。
「勝利条件は、『無事に帰還すること』と、『怪我の程度が軽いこと』です。怪我をすれば、ベレーザ殿の治療があるから安心で御座る」と、呀龍が言った。
「それは、しません」ベレーザが言った。
「何故で御座るか? 拙者たちは仲間で御座る」
「わたしのMPにも限りがあります。怪我をするたびに治療していたのでは、MPが底をついてしまいます。ですから、治療するのは仕方ないときに限らせて頂きます」
「う~む。一理あるで御座る」呀龍は納得した。
「ケチだねー」ベスタが言った。やにわにベスタのオーラが赤く変わり、女性が喋りはじめた。
「アタシでも、治してくれないの?」
「! アナタは別ですよ~。私は、か弱き女性の味方です。その代わり、治療中に少し体が触れ合ってしまうかもしれません。下心はありません。飽くまで治療なので・・・」にこやかに笑いながら言った。
「・・・」呀龍は押し黙った。
「(気持ち悪い)」ベスタはそう思った。
「げ~、体を触られるの~? 気持ち悪いから遠慮しとくわ・・・」ベスタが言った。
「それはそうと、三つの関門では、全員で戦うか、代表を決めるか、決めておいた方が良くありませんか?」ベレーザが言った。
「そうで御座るな。怪我人が少ない方が良いというルールで御座る」
「私は、治療役ですので、戦いは見物させて頂きます」ベレーザが言った。
「言うと思った。だからわざわざ、担当の話をしたんだ」ベスタが言った。
「トロは戦いたがっているで御座る。1対1ならトロに任せるで御座る」
「グロ、グルル・・・」トロは納得した。
「それでは、三つの関門は俺たちの誰かが一回ずつ戦おう」ベスタが言った。
「そうするで御座る」話がまとまった。
それぞれが『神々の試練』を乗り越えた神殿組ではあったが、詳しく戦った内容を伝えあった訳ではなかった。一応パーティーを組んではいるが、心の底から信用し合っている訳でもなかった。だから他の者たちがどのように戦うのか興味があった。ベレーザ以外の三人が、「ベレーザの正体を見ることは出来ない」と薄々感じていた。
入り口から50mほど入った奥に、半径100mほどの草原にも似た景色が広がっていた。
「! ここは、屋外で御座るか?」呀龍が驚いた。
「どうやら、洞窟内のようだね。外にいるように見えるだけだ」ベスタが言った。草むらから、小高い丘の向こうから、岩陰に隠れている獣。どうやら100匹ほどの獣たちに囲まれたようだった。
「多勢に無勢といいます。私は後ろに下がっておきます」ベレーザはそそくさと後ろに逃げた。
「ここは、任せて頂くで御座る」呀龍が戦闘を引き受けた。
「ボクでもいいんだけどね。流石に数がおおすぎるよね。まかせた」ベスタが言いながら後ろに下がった。
「グルル、グロロ・・・」トロも引き下がった。
「参るで御座る!」呀龍は背中の忍者刀を右手で抜いて、左手に苦無(手裏剣)を構えた。呀龍は獣たちを引きつけるように、草原の真ん中に切り込んだ。
「ざっ! しゅっ! ズバッ!」集団で襲い掛かってくるオオカミを斬りまくった。
「(獣は戦意を喪失させれば勝ちで御座る! 手傷を追わせて、威圧するで御座る!)」10頭ほど斬りまくってから煙玉で姿をくらまし、別の場所で斬り続けた。
「なんとも、まぁ見事なもんだ」ベレーザが感心した。
「あざやかだね」ベスタが言った。
「ぐろ・・・」トロも黙って見ていた。
70頭ほど続けて斬った時、少し大きめの煙玉を爆発させた。
「爆音の術!」
「ぼぉん!」するとオオカミの群れは、散り散りに逃げて行った。
「ぐわぁおー!」
「ぐわー!」
続けて現れたのは、20頭ほどのトラの群れだった。
「鼫の術!」と言って、呀龍は風呂敷を広げ宙に待った。
「鱗粉の舞い!」と言って、空中から粉を巻き虎たちの目をくらました。
「八艘跳びー!」と言いながら、虎の頭や背中を次々にジャンプして斬り付けて行った。
「目潰しされてるからねー」ベスタが言った。
「わたしでも、勝てますね」ベレーザが言った。
「じゃあ、やってきてよ」
「ここは、呀龍公にお任せしてあります」
「・・・ずりー」
ひと通り、虎たちを斬り付けて、少し大きめの煙玉を爆発させた。
「雷音の術!」
「ドガッシャー!」すると虎たちは、散り散りに逃げて行った。
「さぁ、お終いで御座るか?」呀龍が、出口を見やると10頭ほどの熊の群れが現れた。
「強敵が現れたで御座る。少々の打撃では、撤退しない猛者で御座る!」
「ぐわあおぉー!」熊が数匹突進してきた。
「分身の術!」と言って、呀龍は六体に分身した。
「あ、増えた」ベスタが言った。
「分身を増やしても、熊は減りませんね」ベレーザが言った。
「あたりまえでしょ」ベスタが言った。
分身忍者は、攪乱役、挑発役に分かれた。熊にスキが出来た時に、呀龍が斬撃を見舞った。
「ぶっしゅっ!」命の危険を感じるほどの攻撃を受ければ、獣と言えども撤退も選択肢に入る。そういう計算だった。クマの攻撃が当たるたびに分身忍者は消えて行った。
「一体ずつ、消えていくね」
「呀龍公は、あと三体。熊は5頭残っています」
「そろそろ、たすけようか・・・」
「大丈夫でしょう。怪我をしては困りますから」
「そのために、あんたがいるんでしょ?」
「私は、女性しか治しません」
「・・・けち」
数が少しずつ減って来た。呀龍の優勢はゆるぎなかった。最後の一頭に斬撃を見舞って、最後の煙玉を爆発させた。
「豪快花火の術!」
「どっごーん!」熊たちも逃げ去った。こうして呀龍の100匹の獣退治が終わった。
「おつかれー」
「お怪我はありませんか? 治療しませんけど」
「拙者は、無傷で御座る」
100匹の獣の群れを抜け出したパーティーは、僅か二組だった。その二組も、第二関門で敗退した。
「神殿組以外は、100匹の獣退治なんて無理な話だ。スクートム、お前の仕業だろう?」フェーザ将軍が聞いた。
「冗談じゃねぇ。ジャクソンの方針だよ(提案したのは、俺だがな・・・)」スクートム将軍がニヤリとした。
「十三組が、第一関門を突破しました! たった一人の忍者がやり遂げました!」伝令が、本部に報告しに来た。
「やりましたかー!」ジャクソンが興奮した。
「なぁに~?」フェーザ将軍が訝しがった。
「(やるじゃねぇか! 呀龍の野郎! だがな、次の関門でお終いだ!)」スクートム将軍ががほくそ笑んだ。




