第八話『地下迷宮探検競技(ニュートラル編①呀龍、再び!)』
デルフィとアテネの中間に位置するテーベで開かれた「地下迷宮探検競技」では、中立属性が集められていた。
【テーベ】ペルシア戦争(前500~前449年)では、アテネに対抗しペルシア軍に加勢した。ペロポネソス戦争(前431~前404年)では、スパルタに対抗した。レウクトラの戦い(前379年)でスパルタを破り、全ギリシャの覇権を握る。今のエジプトのルクソールにあたるテーベとは別の場所である。
総合司会は、伝説の冒険家・貴族でリヴィングストンの相棒のジャクソン(Jackson)だった。
「『地下迷宮探検競技』へようこそ! 諸君は『ニュートラル代表』である。ひと口にニュートラルと言っても主義や主張がない訳ではありません。あなた達には、あなた達の持つ信念や思想を貫いて生きて欲しいです。いわゆる『ローフル』は、公的で公正なる立ち居振る舞いをすることを好む者たちです。ですが、必ずしもそれが万事正解であるとは言えません。『衆愚政治』に代表される無方向・無政策である政治につながる恐れがあります。一方の『カオティック』は、自己中心的な行動や決断をしたがる者が多いです。それもまた、いけません。『独裁政治』に繋がる恐れがあるからです。どちらの考え方にも偏りがあります。そこで、皆さんの出番です。どちらか一方の考えに偏ることなく、あなた達は『バランサー(balancer)』であることが望まれます。アテネやスパルタに代表される勢力と対抗し、ギリシャの覇権を握った、この地『テーベ』で、ニュートラル代表の『地下迷宮探検競技』を開催する次第であります」
会場では、歓声をあげる者もいた。賛同する者もいた。ジャクソンの後ろには、黄色と白の色が映える虎をイメージした鎧を着た体格の良いフェーザ将軍(fuerza)と、熊をイメージした黒い鎧を着たスクートム将軍(scutum)が控えていた。スクートム将軍の胸元は、白い三日月の文様がデザインされていた。
「サロスの奴は、抜け駆けしてローフルに行きやがった」フェーザ将軍が言った。
「馬鹿なやつよ。クロマを利用する気でいるらしい。クロマは一筋縄ではいかんぞ」スクートム将軍が言った。
「まぁ、良いってことよ。こちらはこちらで『大陸』を見つけるまでだ。お前は俺に協力するのか?」フェーザ将軍が聞いた。
「そう言う、お前こそ俺に協力するのか?」スクートム将軍は聞き返した。
「・・・早い者勝ちってことだ」
「そりゃ、そうだろう・・・」二人は無言になった。
【地下迷宮探検競技(中立)・ルール】
・登場する怪物・・・獣人系、亜人系、他
・優勝賞金・・・200万ドラクマルク
・副賞・・・王都アテネ招待権
・勝利条件・・・無事に、地下迷宮から帰ること。複数の組が帰還した場合、生存者が多い組または怪我の具合が軽い方を勝利組とする。
猟師の格好をして茶色い髭を生やたミスティックによりスカウトされた神殿組は、いちばん最後の十三組目だった。
「拙者たち以外は、烏合の衆にすぎぬ。半分も勝ち抜けられぬで御座ろう」呀龍が言った。
【呀龍】東洋の国ジパングから来た暗殺者。雪玄斎とともに、時空を超えて古代ギリシャにやって来たらしい。属性:Neutral・Common。日本の安土桃山時代あたりからやって来たと推察される。獣系・獣人系に滅法強い。ギリシャ神話最大の英雄ヘラクレスの加護を受けている。
「何でもいい、どうでもいい」全身青色の鎧に包まれた、感情表現の少ない若者が無表情で言った。
【ベスタ(Beste)】全身青色の龍をテーマにした鎧を着ている騎士。青色のオーラを出している時は無口な青年だが、赤色のオーラを出している時は口数が多い自己主張の強い女性の人格になる。紫色のオーラを出している時は、両方の人格を備えた最強の剣術と変身術を使える。オーラの色を見極められる人は少ないし、本人たちでもオーラは制御不能である。属性:Neutral・Neutral。音楽・詩・予言・太陽の神アポロンの加護を受けている。
「ベスタは相変わらずだな。愛想のない奴だ」細い眼鏡をかけた、オールバックの群青色の司祭服を着た男が言った。
「ベレーザだって、人のことは言えないだろう。キミも女性以外には愛想がないよ」ベスタと呼ばれた若者は棒読みで言った。
【ベレーザ(belleza)】自他ともに認める「自惚れ邪悪司祭」である。不死属性の化け物に滅法強い。女性にしか興味がない。属性:Neutral・Self。生命体を回復できる治療の術を使うことが出来、死体を葬り去る浄化の術を使うことも出来る。愛・美・豊穣の神アフロディーテの加護を受けている。
「美しい姫君は、私に力を与えてくれます。私はただ、それに応えているだけなのです。美しくなき者は、相手に何も与えてくれません。従ってその方たちは、この世に存在する意味などないのです」
「あー、そう」二人の会話は、ベスタのこの一言で終わることが多かった。
「グルルルル・・・、はぁはぁ」二足歩行の犬が鎧を着ていた。会話が出来ない様子だった。
「トロや、もう少しの辛抱で御座る。すぐに戦いは始まるで御座る」呀龍が犬騎士の背中を撫でてやりながら話しかけた。
【トロ(Toro)】戦闘前は、身長が1.5m~2mほどの鎧を着た獣の姿をしている。敵に攻撃が当たったり、敵の攻撃を受けた場合、耐性や属性や体形をも変えることが出来る。1対1の戦いに滅法強い。属性:Neutral・Self。力・勇敢・暴力・武勇の神ビアの加護を受けている。
「グルル・・・、はぁ」犬騎士は少し落ち着いた。
「時に、呀龍公」ベレーザが呀龍に話しかけた。
「何で御座るか? ベレーザどの」
「貴公の友人であるという、雪玄斎公は今回の競技には参加しないのですか?」ベレーザはメガネの位置をクイッと調整しながらたずねた。
「雪玄斎は、いずれ我々に合流する手筈になっているで御座る。今回は、拙者たちだけで参ろう」
「分かりました。女性がいないこのパーティーは、じつに味気ないものです・・・」ベレーザは、ため息をついた。
「チョット、アンタ! 私がいるじゃないのよ!」ベスタの声色が変わった。女性の声色に変わった途端に表情が豊かになった。
「おっと、失礼! わたしとしたことが忘れておりました。アナタが女性でもあることを・・・」
「まったく、失礼するわよね~! こんなに可愛いのに放ったらかしで! ドイツもコイツも!」
「アナタが、男性か女性かどちらなのか分からないのです。女性と思って話しかけると男性のままなので、混乱するのです」
「こっちだって、困るわよ! こんな不便な身体なんだから!」
「人格を、自在に操る方法は、ないで御座るか?」呀龍が聞いた。
「あれば、とっくに試しているわよ!」といって、声色が変わった。
「ないから、困っているんだよねー」棒読みになった。
「(あ! 男性に戻った)」呀龍とベレーザが気付いた。
一組目、二組目、三組目の組は、いずれも第一の関門で敗退した様子だった。入り口から戻って来た参加者たちは、噛み傷や獣の爪の痕がついていた。多くの者が流血し、担架で運ばれてきた。
「おや、おや、どなたも獣にやられた怪我ですねぇ」ベレーザが言った。
「治してあげないの? アンタ、司祭でしょ?」ベスタが聞いた。
「MPの無駄です。本来、美しく無いものは苦しむべきなのです。尤も、美しい方が苦しむのも雅ではあるのですが・・・」
「アンタ、変態だねー」
「お褒めに預かりまして、光栄です」
「褒めてないよー」
何組かは、第二関門まで辿り着けた様子だったが、入り口から運ばれて来るものが多かった。八組目。九組目、十組目が出発した。
「各々方、覚悟は宜しいで御座るか? 拙者たちは、先日急に組まされたパーティーで御座る。それぞれの得意・不得意も知らぬで、この機会に確認しておきたい御座る。獣系、獣人系であれば、拙者にお任せを!」呀龍が言った。
「不死系、幽霊系であれば、私の出番です。美しい方を優先的に担当します」ベレーザがメガネのふちを触りながら言った。
「なんでもいい、だれでもいい」「まかせてよ」ベスタが言った。
「ガルル、グロロ・・・」
「トロもベスタも、お手並み拝見とするで御座る」呀龍が言った。
「ニュートラル代表」として集められた彼らは、ニュートラルのミスティックとそれぞれに契約を交わしていた。即席の寄せ集めであるので、いがみ合うことも特になかった。「いずれ別れる」という思いがあったからかもしれないし、「それぞれが大きな契約を結んでいたから」かも知れない。それぞれの素性を知らなければ、お互いの関係性に深入りすることもない。感情移入もしなくて良いし、責任を感じることも少なくなる。旅を進めるうちに「情」という心のはたらきが生まれるか生まれないかで、それぞれの道が変わってくることを、彼らはまだ知らない。
「最終組! キミたちの出番だ!」呀龍たちが呼ばれた。
「う~む、怪我人が続出で、これまでに成功者なしか・・・。ニュートラル代表は全滅かも知れんのう・・・。難易度を上げ過ぎたかも知れんのう・・・。だって、100匹出したかったんだもの・・・」ジャクソンが呟いた。
「(それならば、それで良い)」フェーザ将軍がほくそ笑んだ。
「(かえって、それが好都合だ・・・)」スクートム将軍もほくそ笑んだ。




