第六話『地下迷宮探検競技(ローフル編②)Vs.ビホルダー』
「知らない! あたし知らない!」フィリアが叫んだ。
「? ベルダッド?」リカルダスは戸惑った。
「いえ、違う人格みたいですね・・・。ベルダッドさんは、黄色いオーラが強いです。この方は、ピンクが強いのでお姉さまのどちらかでしょう」エルピーダが言った。
「何かのきっかけで、人格が変わるのかも知れません」アスタルが分析した。
「おそらくベルダッドは、難敵まで敵の正体が分かっていたのだろう。何かの陰謀で、敵の順番を変えられたのかも知れない」リカルダスが状況を整理した。
「もとから何も分からなかったのですから、仕方ありません」エルピーダが言った。
「私たちだけに有利な状況であるハズがありません」アスタルが言った。
「ごめんなさい。最初の化け物は、ブリキ騎士だったはずなの。次の化け物は、鬼狐火(Demon fox fire)のハズなんだけど・・・」フィリアが謝った。
「大丈夫だよ。なまじ情報を知っていると惑わされるから、先入観はない方がいい」リカルダスが言った。
「次の対戦相手は、鬼狐火の可能性もあると準備しておきましょう」エルピーダが言った。
「案外、物質系と自然系と言うのも怪しいかも知れません」アスタルが言った。
さらに20mほど進むと、半径10mほどの空間に出た。
「ふよん、ふよん、ふよ~~~ん」奥から出てきたのは、ビホルダー(Beholder)だった。地上から3mほどの高さに浮きながら、ゆっくりと近づいてきた。直径1mもある球体の塊の中央には、一つ目がぎょろりとにらみをきかせていた。巨大な口から無数の牙が生えていた。数十本生えた髪の毛のような触手の先に目が一つずついていた。
「! 火の矢!」リカルダスは、すかさず右に回り込み三本の矢を放った。
「ぼとっ、ぼとっ、ぼとっ」矢は、ビホルダーに当たる瞬間に地面に叩き落とされた。ビホルダーはギョロリとリカルダスを睨むと、リカルダスににじり寄った。
「ぐぅわっはー!」攻撃を仕掛けてきたリカルダスに、三本の触手から火炎が吐き出され、リカルダスを追い回した。
「ぐぅわっ!」リカルダスは逃げ回った。
「岩! 岩! 岩! 岩! 岩!」エルピーダが、左に回り込み、岩の塊をたて続けにビホルダーに放った。
『エルピーダくん! カッコイイ~!』フィリアは、エルピーダの奮闘に興奮していた。
「ぼとっ、ぼとっ、ぼとっ、ぼとっ、ぼとっ」岩の塊は、ビホルダーに当たる瞬間に地面に叩き落とされた。ビホルダーはギョロリとエルピーダを睨むと、エルピーダににじり寄った。
「ぐぅわっぶっはー!」攻撃を仕掛けてきたエルピーダに、五本の触手から生み出された岩がはじき出され、エルピーダに飛んできた。
「うぅわっ!」エルピーダは逃げ回った。
アスタルは、右へ左へ動かされるビホルダーに狙いを定めた。
「風速の斬撃!」アスタルが、10m先にいる敵に鋭い斬撃を放った。
『アスタルさま~! ステキ~!』アマールは、エルピーダの奮闘に興奮していた。
「ぺしょっ」しかし、まるで効き目がなかった。ビホルダーはギョロリとアスタルを睨むと、アスタルににじり寄った。
「ぐぅわっぶっどっはっはー!」攻撃を仕掛けてきたアスタルに、七本の触手から生み出された斬撃が放たれた。
「ズバッ、しゅぱっ、ズザッ、しゅわん、すぱっ、ジュザッ、しゅぱ~ん」
「同じ攻撃を返すのかっ!」アスタルは、飛び掛かってくる斬撃を受け止め続けた。
三人は、違う攻撃をたて続けに放った。が、同じ攻撃が同じ数だけ返って来た。
「まるで、埒が明かないな」リカルダスが吐き捨てた。
「こちらの疲労を待っているかのようです」
「弱点は、あの目でしょう」アスタルが覚悟を決めた。
「ずっぼ~ん!」ビホルダーが動きを止め、全員を威圧した。空間の空気が重くなった。ビホルダーの不吉な攻撃が始まる前兆だった。全員イヤな予感がした。
「魔法攻撃は、まるで当たらない!」リカルダスが叫んだ。
「やはり、ビホルダーには物理攻撃しか無理です!」エルピーダが叫んだ。
「皮膚が堅い! 捨て身の一撃で叩き斬る!」アスタルが剣を構え突進した。
『姉さんたち! 交代よ!』フィリアがベルダッドと交代した。
アスタルがビホルダーに斬りかかる瞬間だった。
「びっきっ!」ビホルダーが空中で静止した。
「ボットッ」地面に落ちて、割れて、粉々に砕け散った。
―戦闘終了―
「? どうなった?」リカルダスが言った。
「知らないうちに、勝ってしまいましたか?」エルピーダが言った。
「私が斬り付けようとしたら、粉々に砕け散りました。私の攻撃は当たっていません」アスタルが言った。三人は、ベルダッドを見た。
「ビホルダーは、全魔法を無効化できるから、厄介よね。しかも、攻撃が当たったら難敵が傷魔人の場合、食らったダメージ分だけ攻撃力が上がって倍返しを喰らうの。危なかったわね」
「? ベルダッド?」リカルダスが言った。
「喋り方がベルダッドさんですね。黄色のオーラが強いです」エルピーダが言った。
「これが、アタシの能力よ。生命体を石化できるの」ベルダッドが言った。
「最強ですね!」アスタルが興奮しながら言った。
「それにしても、たかが競技なのにビホルダーが出てくるのはおかしいです」エルピーダが言った。
「ベルダッドが把握していない、何かウラがあるな」リカルダスが言った。
「しかも、ビホルダーがラスボスではありません」アスタルが言った。
「トロイア大会の参加者たちは、ブリキ騎士、鬼狐火、傷魔人の順番で戦う筈だったの。だけど、どれも出てきていないわ。クロマやサロスが言ったことは嘘だったの」ベルダッドが説明した。
「何だい? 傷魔人って」リカルダスが聞いた。
「善人として試されるのは、無駄な殺戮をしないことよ。だから、ブリキ騎士や鬼狐火を力で叩きのめしたら、全てのダメージが傷魔人に蓄積されて傷魔人の攻撃力が上がるの。トロイア大会は、出来るだけ戦闘不能に追い込んで先に進まなければいけない暗黙のルールなの」
「それは、誰も気づかないですね」エルピーダが言った。
「そうですよ。参加者たちはみんな、力づくで叩きのめす気が満々ですから」アスタルが言った。
「だから私が、あなたたちを無傷で勝ち残らせるために送り込まれたのです」
「なるほど、ようやく話が見えてきたな」リカルダスが納得した。
「しかしなぜ、ベルダッドさんが送り込まれたのに、出現する怪物を変えたのでしょう?」エルピーダが疑問に思った。
「そうです。まるで、私たちを優勝させる方針を変更したかのようです」アスタルが言った。
「それは、分からないわ。私は、出現する怪物の順番をサロスから聞いていただけです」
「サロスって、アテネの六将軍の一人なの?」リカルダスが聞いた。
「そうなの、中立の属性なのに当たり前のように善人属性にいるの。六将軍を善人・中立・悪人の属性に無理矢理二人ずつに分けたのよ。考えが違うんだから、ケンカになるに決まってるじゃない」
「どうやら、アテネの六将軍も一枚岩ではないようだね」リカルダスが言った。
「それぞれに、大陸探し競争をしているの。出世争いのために・・・」
「それほどまでに大陸探しをする魅力があるのでしょう」アスタルが言った。
地上の競技会本部は、騒々しかった。
「サロス、どうなっている! 十番目の挑戦者たちが、優勝する手筈ではないのか?」クロマがサロスに詰め寄った。
「分かりませんねぇ~。何かの手違いでしょう・・・」サロスは、のらりくらりと追及を躱した。
「どうしましたか? 何かありましたか?」リビングストンが心配そうに話しかけてきた。
「リビングストンさん、こちらの手違いです。挑戦者たちは、ブリキ騎士、鬼狐火、傷魔人の順番に戦う手筈でした」クロマが説明した。
「何を間違えましたか?」リビングストンが聞いた。
「十番目の挑戦者たちだけ、違う怪物たちと闘っています。砂魔人とビホルダーが出現しました!」クロマが説明した。
「ビホルダーなど、勝てる挑戦者はいないでしょう。トロイア大会の参加者たちは全滅でしょう。王都アテネ行きは誰もいません」リビングストンは残念そうだった。そこに、大会の審判員が報告に来た。
「十番目の挑戦者が、ビホルダーに勝ちました!」
「何と!」リビングストンが驚いた。
「何ですと? ビホルダーに勝ったと?」クロマが聞き返した。
「ハイ、挑戦者の一人が石化を使い、無傷で勝ち残りました」審判員が説明した。
「(ほほぅ、ビホルダーに勝つとは本物だね~。ベルダッドが本気を出したんだな? いよいよカバロの出番だ・・・)」サロスがニヤリとした。
「そもそもキミは、アテネの六将軍と知り合いなのかい?」リカルダスが質問した。
「そうよ。あたしとヴィズ(Vis)が、地下迷宮探検競技の参加者に混じって優勝者に紛れ込む作戦なの。どちらかが大陸に辿り着けばお互いを呼び合う約束なのです」
「すると、あなたみたいに競技に参加している人が、デルポイかエフェソスにいるんですね」エルピーダが確認した。
「そうです」
「ちなみに、その方も試練組ですか?」アスタルが聞いた。
「そうです。私みたいに戦わずに勝ちました」
「!」三人は絶句した。
「だけど、なにもかも話が変わってきているわ。アタシとあなたたちは、トロイア大会の優勝を約束されていたんだけど、騙されたみたいだわ」
「その通り、少ししゃべり過ぎたね。俺も知らないことだらけなんで聞かせてもらったよ、ゴルゴンの三姉妹さん。上からの命令だ。ここで負けて、死んでもらおう」現れたのは、十一番目の挑戦者カバロ(caballo)だった。




