第五話『地下迷宮探検競技(ローフル編①)Vs.砂魔人』
地下迷宮の前の広場に、参加者たちが集められた。総合司会は、伝説の冒険家・貴族リヴィングストン(Livingstone)だった。好々爺であり貫禄もあった。初老にさしかかった紳士が説明を始めた。
「本日は『地下迷宮探検競技』へ、ようこそ。諸君の中から、栄えある『ローフル代表』が選ばれます。その称号を汚さぬように、競技に挑んでください。地下迷宮は全長1㎞ほどあります。こちらから入り、あちらから出てくるつくりになっております。ほぼ一本道なので迷うことはないでしょう。途中で待ち構える三つの関門を、怪我をしないように突破してください。それが勝利条件になります」説明をしているリビングストンの後ろに、アテネ六将軍のうちの二人が控えていた。唯一の女性将軍クロマ(Chroma)と、サロス(Tharros)だった。クロマは鷹の兜を被っており、全身鷹をイメージした茶色の鎧に身を包んでいた。サロスは、避役をイメージした鎧兜を着ていた細身の将軍だった。鎧兜の色は、緑色から青色に変化しているグラデーションカラーだった。
「始まるわね。善属性の選抜試験が・・・。サロス、準備は出来ているわね?」クロマが確認した。
「へっへっへ。抜かりはね~ぜ。ベルダッドには伝えてある」サロスが答えた。
【地下迷宮探検競技・ルール】
・登場する怪物・・・物質系、自然系、他
・優勝賞金・・・200万ドラクマルク
・副賞・・・王都アテネ招待権
・勝利条件・・・無傷で帰還すること
「リカルダス様、気になります」エルピーダが言った。
「うむ。勝利条件の『無傷で帰還すること』とは、どういう意味だろう」リカルダスが言った。
「怪物と闘うのだから、無傷では済みません」アスタルが訝った。
「だから、わたしが必要なの。戦わずに勝つために。この競技は戦ったら負けなのです」ベルダッドが言った。
「俺たちの順番は十番目だ。最後から二番目だな。他の挑戦者たちの健闘を見たいが、地下迷宮だから無理だな」一組目、二組目、三組目が、入り口から出てきた。どの組も、相当な傷を負っていた。リカルダスとエルピーダがレベルを調べてみるとLv.12~18の若者たちだった。
「レベルが低すぎますね」エルピーダが言った。
「物質系の怪物は力押しできるだろうが、自然系は厄介だ。Lv.30くらいは必要だろう」リカルダスが言った。
「戦ったら負けならば、今回わたしの出番はないかも知れませんね」アスタルが言った。
「出現した怪物にもよります。地下の狭いところでは、ラクシャスさんを呼べません。アスタルさんに盾になってもらわなければいけません」エルピーダが言った。
「そうですね。怪我をしないために・・・」四組目から、迷宮に入るまでの時間が長くなってきた。五組目から九組目までは、出口の方から出てきた。
「後半は、最後の関門まで辿り着けた様子ですね」エルピーダが言った。
「ん? 最後の組はあの人だけですかね?」アスタルが最後の組が一人だけであることに気付いた。獣の皮を着て巨大な棍棒を持った戦士だった。ざんばら髪が肩まで伸びていた。
「ローフルの属性には見えないな」リカルダスが言った。リカルダスは、密かに「状態」を発動した。
「(ふむふむ。年齢は、26歳か。Lv.62・・・高いな。! 悪属性ではないか! ナゼここに・・・?)」
「一人だけで戦い抜けるんでしょうか?」エルピーダが言った。エルピーダも彼がカオティックであることに気付いていた。
「術も魔法も使えなさそうですね」アスタルが言った。
「たぶん、最後の一組だから、力で突破する気ね。脱落確定だわ・・・」ベルダッドが言った。
「?」三人とも、ベルダッドの意図は分からなかった。
そして、九番目の組が出口から傷だらけになって出てきた。いよいよリカルダスたちの順番になった。
「ベルダッド、何か俺たちにアドバイスしておくことはあるか? 俺たちは、何も聞かずに戦った方がいいか?」リカルダスが確認した。
「あなたたちには、アドバイスはいらないと思うの。あなたたちの実力が見たいわ。最後の難敵だけ、私に任せて」
「よ~し、分かった。風の障壁」リカルダスは、自分とアスタルに呪文をかけた。
「上昇! 55+10」アスタルのレベルを上げた。
「上昇! 33+5」自分がレベルを上げた。
「ベルダッドさんには、自分がかけましょう。風の障壁」エルピーダとベルダッドが風に包まれた。
「上昇! 28+5」エルピーダは自分のレベルを上げた。
「上昇!」ベルダッドのレベルを上げたが失敗した。
「失敗!」
「? おかしいですね。上昇!」もう一度、ベルダッドのレベルを上げた。
「失敗!」エルピーダがリカルダスに報告した。
「リカルダスさま、ベルダッドさんのレベルが上がりません」リカルダスはエルピーダに小声で言った。
「あの娘さんには、レベルの概念が無い。仕方ないだろう」エルピーダは少し驚いた。
「色々と、謎に包まれた方ですね」
「我々とは、住んでいる世界が違うかもしれん。風の障壁だけで大丈夫かも知れん。命は温存しておけ。キミが持っている一つしかない」
「はい。承知しました」その後、エルピーダはベルダッドに説明した。
「念のため、レベルを上げる術をかけようかと思ったんですが、ボクがまだ未熟なので失敗してしまいました。済みません」すると、ベルダッドの雰囲気が変わった。
「あら、ぼうや。ありがとう」耳元で囁かれた。艶やかな唇が顔につきそうだった。エルピーダが近寄って来たので、ベルダッドは密かにフィリアと交代していた。
「(どっきどき・・・。あれ? 今のベルダッドさんじゃないな・・・いつも黄色いオーラが強いのに、ピンクのオーラが強かった・・・)」エルピーダの胸が高鳴った。
「よし! エルピーダ、行くぞ!」リカルダスに促された。
「は、はい!(こんな調子では、マズイ!)」エルピーダは反省した。
幅が2mほどだった。先頭からアスタル、リカルダス、ベルダッド、殿はエルピーダだった。
20mほど進むと、半径5mほどの空間に出た。待ち構えていたのは、砂の化け物だった。
【砂魔人(Sand demon)】人体型にも獣型にも変身可能。急所が無いので、致命傷を与えることは不可能。
「! 何だコイツは!」アスタルが盾を身構えた。
「(! あたしたちが聞いた化け物と違う!)」フィリアが驚いた。
『どういうことよ、ベルダッド。サロスの報告と違うじゃない!』フィリアが動揺した。
『知らないわよ』ベルダッドが答えた。
『ここは落ち着いて、三人に任せましょう』アマールが答えた。
「ズぞズゾ、ゾズズ・・・」人体型の砂魔人は、両腕を振り上げた。
「ザッ、ゾッ、バッ!」振り上げた両腕が飛び散り、視界を奪った。砂の粒がアスタルにぶつかる直前に塊になり、障壁を破った。
『LOST !』
『Level Down!』レベル消失判定に当たってしまった。後がなくなったアスタルが反撃した。
「もとより、レベル上昇や障壁などあてにしておらん! GREAT・残滅!」砂魔人を袈裟斬りで、左肩から右わき腹まで真っ二つに一閃した。
「ざっしゅっ! ぼとっ」砂魔人の上半身が地面の落ちて崩れたが、ズリズリと下半身に擦り寄り合体して元の形に戻った。
「! マズい! エルピーダ、永久凍土の用意だ! こぼれない水!」二人は術の準備をした。
「やはりだめか! きりがない!」アスタルは何度も何度も切り裂いたが、元に戻られた。
『きゃ~! カッコイイ!』アマールがベルダッドと交代した。
『ちょっと、姉さん勝手に交代しないでよ~』ベルダッドがひっこめられた。
「ドッガッ!」砂魔人の一撃がアスタルに綺麗に入った。
「ぐっふっ」ぶっ飛ばされたアスタルは、肋骨が折れた。
「治癒!」アマールが、すぐにアスタルに近寄り治療した。そのスキをついて砂魔人がアマールを殴り飛ばした。
「ドッガッ!」アマールが吹き飛んで、後頭部から地面に叩きつけられた。
「しまった! 庇い切れなかった!」アスタルは、戦闘そっちのけでアマールに駆け寄った。
『ほら、見なさいよ。ねーさん。アタシたちが戦闘の邪魔をしてどうするのよ~』
『あ~ん、うれし~』
「(う~ん・・・、オーラの色がコチャコチャしているな~。気のせいか?)」アスタルは困惑した。
「こちらは準備出来ました!」エルピーダが言った。
「こっちもだ! よし、発動だ!」リカルダスが叫んだ。
「こぼれない水!」リカルダスが、術を唱えた。
「ざっばっ!」水の塊が、砂魔人を包んだ。
「永久凍土!」エルピーダが畳みかけた。
「カチン!」エルピーダが、水をかけられた砂魔人を氷で包んだ。
―戦闘終了―
「自然系は、物理的な攻撃が効かないからな。戦闘不能に追い込むのが、いちばん早いかもな」リカルダスが言った。
「ですが、それは格下に使う戦法です。今回はうまくいきました」エルピーダが言った。
「水系の呪文を持っていなかったら、負けていたかも知れない。俺たちの前の参加者たちは、あんなにレベルが低いのにどうやって突破したんだ?」リカルダスは不思議に思った。
「頭を打ったんじゃないかな? 何処か痛いかい?」アスタルが、アマールに尋ねた。
「大丈夫よ」アマールは頭を抑えながら返事をした。
「頭を打ったよね? 無理をしないで・・・」アスタルは、アマールをそっと抱きかかえた。
『きゃ~!』アマールの顔が赤くなった。砂魔人の動きを封じたリカルダスとエルピーダが合流した。
「ベルダッドの様子はどうだ? ストックの術で治療しよう」リカルダスが言った。
「大丈夫よ~」アマールは、アスタルの胸に顔をうずめて言った。
「ベルダッドさんじゃないですね。ベルダッドさんは、黄色いオーラが強いですが、この方は青いオーラが強いです」エルピーダが気付いた。
「え? 同じに見えるけど、そーなの? お前、良く分かるな~」リカルダスは感心した。
「ねーさんなら、大丈夫よ」アマールを引っ込めて、ベルダッドになった。
『あっ! もうっ!』アマールは押し込められた。
「あんなに強く頭を打ったのに平気なのかい?」アスタルが尋ねた。
「信じられないかも知れないけど。アタシ以外の二人のねーさんは不死なの。死にそうになったら交代するから、アタシたちのことは心配しないで。戦闘に集中してちょうだい!」ベルダッドが言った。
「! 無敵だ!」リカルダスが絶句した。
「フィリアねーさんは、エルピーダを気に入ってるわ」エルピーダが固まった。
「アマールねーさんは、アスタルを気に入ってるわ」アスタルが固まった。
「リカルダスは、レムリア大陸のねーさんのお気に入りだから、ふたりとも遠慮したの」リカルダスが固まった。
「愛と友情に満ち溢れている、ステキなパーティーじゃない!」ベルダッドが言った。




