第四話『旅の仲間・ゴルゴン三姉妹』
アテネ軍の六将軍の進軍により、ペロポネソス半島を除くギリシャのトラキア地方や小アジアは悉く制圧されていた。リカルダスたちが招待された「地下迷宮探検競技」は、トロイアの地で行われた。
【トロイア】かつて小アジアと呼ばれていた、現在のトルコ共和国のアナトリア半島のこと。「トロイの木馬」の逸話で有名。なお「トロイア戦争」は、紀元前1700年ごろから紀元前1200年の間に実際に戦われたという説も、架空の戦争であるとする説もある。
トロイアの「地下迷宮探検競技」会場は賑わっていた。優勝賞金200万ドラクマルクに加え「王都招待権」が与えられるので、冒険者たちが一気に名を売る機会でもあった。リカルダスたちが会場に着くと、既に登録を終わらせた者たちが十組近くいた。腕に覚えのありそうな猛者たちばかりだった。
「この中に、『神々の試練』を突破した者たちがいるんだろうか?」リカルダスが、疑問に思った。
「試練を突破した者は、僅か12名ほどです。見たところ4人パーティーが多いので、この中にはいないかも知れませんね」エルピーダが言った。
「私もそう思います。その12名の中に我々が三人も入っています。猛者たちではありますが、直接対峙しても、怖そうな人はこの中にはいないですね」アスタルが言った。その時、後ろから声をかけられた。
「あー、いたいた。待ちくたびれたよ~」聞き覚えのある女性の声だった。ドレッドヘアーに色の浅黒い女性だった。
「! あなたは!」リカルダスは思い出した。
「やっときたね~。どこで道草食っていたんだい? 待ちくたびれたよ~。さゆりさんや、しおりさんから聞いているでしょ?」
「リカルダスさん、エルピーダさん、こちらの女性はどなたですか?」アスタルが聞いた。
「こちらの女性は、我々の後に『神々の試練』を受けに行った方です」エルピーダが説明した。
「オリンポス山で、『何処かで会ったら、一緒に連れて行く』って言ったわよね?」リカルダスは困惑した。
「あの時は、勢いであのように言いましたが、我々の旅は大変危険なのです。お嬢様を巻き込むわけにはいきません」
「あ~ら、お嬢様に見えますか? 嬉しいわ~。久しぶりです、こんなしおらしく扱われたのは」
「リカルダス様、この娘さんを仲間にする話は置いといて『地下迷宮探検競技』への参加手続きを済ませてしまいましょう」と、エルピーダが言った。
「あら、坊やに娘さん呼ばわりされるとは、私もまだ捨てたもんじゃないわね~。参加手続きは、終わっているよ。金髪のあなたの分も含めて、やっておいたわ」
「・・・手回しが良すぎますね~。話を聞きましょう」リカルダスは、一端宿に帰ることにした。
四人で、食事をしながら作戦会議が始まった。リカルダスは、密かに「状態」を発動した。
「(ふむふむ。年齢は、21歳か。? Lv.という概念が無いな。そんな馬鹿な! 属性は、善属性であり私的か。スキルは・・・。何だこの文字は? 読めないな・・・。ふ~む、なるほど・・・)」ひと通り分かったところで、口火を切ったのはリカルダスだった。黄色・ピンク色・青色のオーラにうっすらと包まれている。三色あることに気付いたのはエルピーダだけだった。
【属性】この世界の属性は大きく三つに分けられる。秩序に従うことを好む・善属性(Lawful)、混沌とした状況を好む・悪属性(Chaotic)、両者の中間の中立(Neutral)に分けられる。その中でも、個々の性格として、公的なことを優先して行動する公共(Common)、私的なことを優先して行動する私的(Self)、両者の中間である中立(Neutral)に分けられる。この9つの属性にいより性格付けがなされる。
「さて、お嬢さん。何から話し始めましょうか?」
「『地下迷宮探検競技』の目的、私を仲間に加えること、大陸探し、の順番ね」
「! 大陸探しのことを、ご存知でしたか?」リカルダスたちは驚いた。
「まぁ、それがあなた達について行く理由ね。あなたたちは、『地下迷宮探検競技』をどこまでご存知かしら?」聞かれて三人は、困惑した。ミスティックに勧められて、『神々の試練』を受けて、競技に参加する流れだったからだ。
「そういえば、ミスティックのさゆりさんに、言われるままだったな」リカルダスは、エルピーダを見て言った。
「それから、アナタを仲間にするまで、一気に事が運んでいます」
「失礼。自己紹介がまだだったね。私の名前はベルダッド(Verdad)です。『神々の試練』を突破して、パナケイアの加護を得ています」
「全てを癒す神ですね」エルピーダが言った。
「治癒系ですか? それは、心強いです」アスタルが言った。
「ベルダッドさんに、お聞きしたいことがあります」エルピーダが言った。
「何でしょう?」
「『戦わずに勝った』と言うのは、本当でしょうか?」ベルダッドはクスリと笑った。
「本当ですよ。『神々の試練』ごときで、戦う必要はありませんもの」サラリと言った。
「それは、どのような方法でしょうか!」エルピーダが身を乗り出して喰いついた。俄かにベルダッドの雰囲気が変わった。ピンク色のオーラが際立った。そしてエルピーダの耳元で囁いた。
「そのうち、分かるわよ。ぼうや・・・」艶やかな唇だった。エルピーダは、顔が赤くなった。
「す、すみません・・・。いろいろと余計なことを!」エルピーダは動揺した。
「(今、雰囲気が変わったな・・・。黄色とピンク色のオーラが見えたが、ピンク色が濃くなったように見えた・・・)」リカルダスは、ベルダッドを見つめていた。
「(何か、別人のようでした・・・)」アスタルも不思議に思った。そしてリカルダスは、ベルダッドに向き直った。
『フィリア(filia)姉さん、その子が気に入ったの?』
『ええ、ベルダッド。別にいいでしょ?』
『私は、金髪くんの方がいいな~』
『アマール(amar)、その子はきっと堅物よ~』
『い~もん。ゼッタイ、アタシに振り向かせて見せるわ!』
『構わないわよ~』
『この赤茶色の髪くんは、どうなの?』
『この子は、レムリアの子のお気に入りでしょ?』
『レムリアの子? 物好きね~』ベルダッドは押し黙ったままだった。
「(守護霊かな? 背後霊? おかしいな? 三人いるように見える・・・。ひとり増えたのか・・・?)」リカルダスは、ベルダッドが落ち着くのを待っていた。
「(先日よりもはっきり見えます。三人で会話しているように見えるのは、気のせいか・・・)」エルピーダが冷静さを取り戻した。
「(この人の魂が抜けだしてしまったんでしょうか? 頭の後ろ上に影が三つ見えますね・・・。これが、この娘さんの最大の謎でしょう・・・)」アスタルは思った。目をパチリと開いて、ベルダッドが三人を見回した。リカルダスは静かに話しかけた。
「それでは、教えてください。ベルダッドさん、競技の目的は何ですか?」
「固いわねえ~。ベルダッドでいいわよ。どうせ仲間になるんだから。『地下迷宮探検競技』は、練習なのです」
「練習?」三人は疑問に思った。
「『地下迷宮探検競技』は、三か所の地で開催されています。この地トロイアでは善属性が。デルポイとアテネの中間に位置するテーベでは中立が。トロイアの遥か南の地エペソスでが悪属性が。それぞれ集められています」
「わざわざ三か所で? 何故ですか?」リカルダスは、質問した。
「『神々の試練』を受けた者たちは全員、アテネの六将軍の権力闘争に巻き込まれているのです」
「! 何だって?」リカルダスは、訝しがった。
「試練組は、それぞれの地でパーティーを組んで、競技の参加者達どうし競わせられるのです。競技への参加した者たちは、試練組の練習台なのです」
「試練組に何をさせようとしているのでしょうか?」エルピーダが疑問に思った。
「王都アテネに招待されて、大陸探しが本格的に始まるのです」
「何やら、まだ全体的な話が見えませんね」アスタルが言った。
「順当に行けば、試練組が勝ち残るでしょう。王都アテネに招待されて、ローフル・ニュートラル・カオティックの全面戦争が始まるのです」
「あなたは、それに参加しようとしていますが?」リカルダスは、質問した。
「しなければいけないのです!」ベルダッドの語気は強かった。
「・・・なるほど、引き下がる選択肢はないようですね。それでは、次の話に移りましょう。あなたとの契約内容です」
「お任せするわ」
「私は、この二人ともそれぞれに契約を結んでおります。だから、あなたとも同じ契約を結びます」
「どのような契約ですの?」
「こちらの要求は、あなたに私たちの旅に同行し、戦闘の手助けをしていただきます。よろしいかな?」
「容易いことですわ」
「報酬は、①あなたを望みの大陸にお連れすること、②私が一国を手に入れたら、あなたに譲り渡すこと。どちらがよろしかったでしょうか?」ベルダッドは、クスリと笑った。
「両方、頂けるかしら?」怪しく笑いながら答えた。
「贅沢がしたいですか?」リカルダスは、静かな声で聞いた。ベルダッドはクスリと笑った。
「アナタたちは、物事を短絡的に考え過ぎです。あなたたちは、一国を手に入れたからと言って、すぐに贅沢するほど堕落した精神をお持ちですの? 富が集まれば、再配分すればいいだけのことです。余裕は有るところから、無いところへ流れます。自分に余裕がなければ、何も出来ません。だから、自分に富を集めるのです」
「あなたがそれをすると言うことですか?」
「まさかぁ、私の伴侶にして貰いますよ」ベルダッドは、優しく笑った。
「(あっ!)」三人は、ベルダッドの本質を理解した。そして受け入れた。
「それでは大陸の件ですが、今のところ『レムリア大陸』、『アトランティス大陸』、『ムー大陸』の選択があります。あなたは、何処へ行くことを希望していますか?」
「わたくしは、『ムー大陸』へ行きたいのです」
「!」三人は、驚いた。
「エルデムの『レムリア大陸』、ラクシャスの『アトランティス大陸』、ベルダッドさんの『ムー大陸』ですか・・・」エルピーダが言った。
「見事に分かれましたね・・・」アスタルが言った。
「どの道、全部行かなければいけない運命らしい。行けることろから行ってみよう!」リカルダスは、腹を決めた。
「分かりました。それでは、『あなたを『ムー大陸』にお連れし、もし私が一国を手に入れたら、あなたの差し上げる』という条件で契約を結びましょう」
「お願いいたしますわ」ベルダッドは快諾した。そして、どうしても確認したいことがあった。
「ベルダッドさん、失礼を覚悟で最後にひとつだけ確認したいことがあります」リカルダスは、丁寧に言った。
「何ですの?」ベルダッドは、聞かれることが何であるか分かっていた。
「たぶん、私だけではないと思います。あなたが二人にも、三人にも見えます。答えたくない場合、答えなくても結構です。以後、この質問はしません」三人ともベルダッドの返答を待った。
「えぇ、私たちゴルゴン三姉妹は、一つの身体に封印されてますの。ですから呪いを解くために『ムー大陸』に行かなければいけないのです」
「!」




