第二話『愛しの臨死体験』
「閣下! 考え直してください。皇帝に就任することが目的ではなかった筈です!」ナポレオンの側近や、同僚たちが一堂に会する会議室で、アスタルがナポレオンに直訴した。
「黙れアスタル! 私のすることに口出しをするな!」ナポレオンは一喝した。
「士官学校でも、成績優秀。戦場に出れば数々の戦功をあげています。しかし、このアスタル君の考えは、閣下の考えとは異なっております」側近の一人が言った。
「閣下が皇帝に就任せずとも、民を救う方法はある筈です!」アスタルは反論した。
「違う! 皇帝に就任してこそ、存分に力を発揮することが出来る! 戦線を拡大するのだ!」
「それでは、多くの死者が出てしまいます」
「祖国の領土拡大を第一に考えよ! お前はもうよい! 下がれ!」
「戦死者を最小限に抑えて、ここまで活躍できたのも偶然だ。お前の力ではない」と、側近の一人が付け加えた。そしてアスタルは退出を命じられた。同僚や、側近の視線が冷ややかだった。会議室を出た途端に拘束され、投獄された。
「・・・。なぜ、こうなってしまったんだろう・・・。閣下は、あのようなお方ではなかったはず・・・」いくら考えても分からなかった。ナポレオンの運命は、1805年トラファルガー海戦で完敗し歯車は狂いだした。フランスを取り巻く状況は次第に苦しくなり、ワーテルローの戦いで完全に敗北。この時アスタルは、減刑を条件に最前線で従軍していた。イギリス・プロイセン軍の砲撃で気を失った。気がつけば古代ギリシャを彷徨っていた。ミスティックに促されるまま、さゆりを訪問することになる。
「・・・途中まで閣下は、私の憧れだったのだ。ただ、それだけでいい。皇帝に就任するまでの閣下だ。その姿を『私の道しるべ』にしよう・・・」と、決意したところで目が覚めた。いや、生き返った。
目の前に、自分を一撃で葬り去った化け物が、こちらの様子を見ながら佇んでいた。
「けっ! 奴隷の子め!」
「親父が、汚職したんだろ? 盗っ人め!」毎日が暴力の連続だった。
「(父は、貧民に施しをしただけだった。何も悪いことはしていない。そもそも役人の食い残した食べ物じゃないか!)」そう自分に言い聞かせていた。父の同僚の策略に嵌るまでは、普通に学校にも通えていた。
「はい、その通りです。みなさん、エルピーダ君の勉強にたいする姿勢を見習うように」先生は、毎日ぼくを誉めてくれた。クラスでは、品行方正であり、何をしても何処に行っても注目の的だった。
「けっ! 役人の息子だからって、いい気になりやがって!」
「少しだけ、頭がいいだけさ! 今に見てろ!」同級生の中には、露骨にぼくを妬む者もいた。父の貧民への施しが、汚職だと濡れ衣を着せられ、ぼくと父は奴隷身分へ落とされた。それから、地獄の日々が始まった。リカルダス様に助けられるまでは。
「リカルダス様!」と、思い出したところで目が覚めた。いや、生き返った。
目の前に、自分を一撃で葬り去った化け物が、こちらの様子を見ながら佇んでいた。
「けっ! お前ら弱すぎんだよ! 何の修行にもなりゃしねぇ!」アーヴィンに毎日殺されかけていた。弟弟子のゾフォスも同じだった。体力が回復しては嬲られ、叩きのめされ、レベルを吸い取られ続けた。ある日、見かねた師匠が私を逃がしてくれた。
「すぐに、ゾフォスも逃がす。早くここを立ち去るのだ・・・」この一言が、ゾフォスを置いて逃げることをためらっていた私に決断させた。
「は、い。分かりました・・・」私は、アーヴィンが山奥で熊を倒しに行っている最中に島を出てきた。
クレタ島では、アテネ軍と戦争中だった。死体が転がる中で、一体一体から技を盗んだり、死にかけの兵士から命を盗んだりしているところに、一人の美女が現れた。
「ふっ」と私に微笑んで、死体たちに向かって祈り始めた。私が死体漁りをしていたことは実に恥ずかしい行為だ。それは認める。しかし私には、死にかけの兵士たちを治癒する術がなかった。だから、死にかけの命を有効に使えるように、「命を授けるに相応しい相手」を探していただけなのだ。そんな私の考えを見透かしてか、美女は私の心に訴えかけてきた。
「きゅ~」
「え? 俺について来るの? 何で?」
「きゅ~」
「え? 俺が辿り着けそうだから? 何処に?」何度聞いても詳しくは分からなかった。
「分かったよ。連れて行くよ!」と、決意したところで目が覚めた。いや、生き返った。
目の前に、自分を一撃で葬り去った化け物が、こちらの様子を見ながら佇んでいた。
「ん? 何だお前ら、死んだんじゃねぇのか?」液体ゴーレムは、ギョロリと三人を睨んだ。洞窟内では、トロルの子どもたちがすすり泣いていた。最後の大人のトロルは、目の前で死にかけていた。
「こいつらが悪いんだぜ。俺はここを通りかかっただけだった。それをこいつらが『侵入』とか言って、罵って来たんだ」
「罵っただけなのに、この仕打ちか?」リカルダスが聞いた。
「言葉は暴力だぜ。殴られた傷は死ねばその痛みから解放されるが、罵られてできた傷は治らねぇ。精神が存在し続ける限り、傷を受けた者を苦しめ続けるんだ。心の傷ってやつは、厄介なもんだ・・・。こいつらは、俺を化け物呼ばわりしたんだ。分かるか? 化け物に化け物呼ばわりされた屈辱を・・・」
「・・・(屁理屈をこねまわす性格かも知れん)」リカルダスは敢えて返答しなかった。
「(挑発になるかも知れないから、会話に乗らない方がいいかも知れない)」エルデムの思惑も一致した。
「(自分を正当化するだけの詭弁だ)」と、アスタルは思った。返答しない三人に、液体ゴーレムは、痺れを切らした。
「まぁ、いいや。暇なんだ。三日ほど遊んでやろうじゃねえか」のっそりと立ち上がって、こちらに迫ってきた。
「こちらの攻撃は液体化されて躱される。向こうの攻撃は金属化されて我々の致命傷になる。だから、有効打を与えるには連携が必要だ」リカルダスが敵の特性を、手短に説明した。
「金属化されて放たれた攻撃は、私が受け止めます」アスタルが言った。
「液体化されたら、固体化させましょう。氷の術が使えるかも知れません」
「私が懐に入ったら、一気にレベルを吸い取ろう!」
「承知しました」
「(レベルを吸い取るだと? この人たちは、一体何を言っているんだ?)」アスタルには、二人の考えが分からなかった。
「勝機は、ヤツの油断しかない!」リカルダスが杖先をゴーレムに向けて身構えた。
「氷! 準備完了です!」エルピーダも印の準備をして身構えた。
「来るぞ!」液体ゴーレムが拳を振り上げた。
「来い! 一度死んだ身だ! 奥義を喰らえ! GREAT・残滅! 固体だろうが、液体だろうが、気体になろうが切り裂くぞ!」アスタルが、液体ゴーレムの拳を叩き斬った。
「ぐにゅ」剣で拳を斬られた筈だが、拳が液体化してアスタルを包もうとした。
「氷!」とエルピーダが叫んで、液体ゴーレムの拳を氷で固めた。
「ん? 何をした?」液体ゴーレムが操れない自分の腕を金属に戻そうとしたが、戻らなかった。アスタルの剣は、ゴーレムの腕の中で凍り付いた。二人とも身動きを封じられた。
「ん? 戻らねぇぞ! 何をした?」狼狽える液体ゴーレムの背後にリカルダスが忍び寄った。そして、背中に手を添えると叫んだ。
「剥奪!」液体ゴーレムのレベルを剝奪した。
「! (何だ、コイツのレベルの高さは!)」リカルダスは驚愕した。
「ん? お前はお前で、何をやってるんだ?」液体ゴーレムは、リカルダスにレベルを剥奪され軽くよろけた。即座にアスタルがゴーレムから剣を抜いた。
「おー! 効いている!」アスタルは小躍りした。
「効いてはいますが・・・」エルピーダは冷静だった。
「・・・これを繰り返すか?」リカルダスが二人に確認した。
「これで行きましょう!」アスタルは手応え感じた。
「良さそうですが、問題もあります」エルピーダが答えた。
「うむ。これでは、ただのポンコツになる」
「はい、紛れもない逸材です!」エルピーダが答えた。
「・・・どういうことでしょう?」アスタルは理解出来なかった。
「この液体ゴーレムは、暇つぶしが目的だ。我々にレベルを吸いつくされるまで、何も感じずに戦い続けるだろう。レベル0の廃人になるまで!」
「それでは、あまりにも惜しいです」
「我々の目的は、この怪物の退治です。この作戦を続けましょう」アスタルは食い下がった。
「我々は、窃盗師と剝奪師です。戦う相手のレベルを吸い取ることが出来る」エルピーダがアスタルに説明した。
「そんなことが出来るのですか?」
「このまま、この怪物を葬り去るのは勿体ないです」
「その通り、この怪物はレベルが999もあった。今50ほど剥奪したが、まるで効いちゃいない」
「!」
「!」二人は驚いた。
「タダのポンコツに出来ないよなぁ。我々をたったの一撃で殺してしまえる逸材を!」リカルダスの腹が決まった。
「お前ら、何をごちゃごちゃ言っている! 殺すぞ!」話を聞いていた液体ゴーレムは苛立ち始めた。
「リカルダス様にお任せします」エルピーダが言った。
「お任せします」アスタルも同意した。
「うむ。仲間にする」
「はい」「はい」二人は承知した。
「液体ゴーレム君、話がある」と、リカルダスは杖を置いて液体ゴーレムに話しかけた。
「何でぇ? 命乞いか?」
「まず、この戦闘を終結させよう。アナタの望みと、私たちの望みを確認しようではないか」
「めんどくせえ! 殺し合えば、簡単に決まるんだよ! 勝った方が決めるのだ!」液体ゴーレムは、激昂した。
「キミは、何を探している? 一緒に探そうではないか。何が目的なのかな?」
「うるせぇ! 人間ごと気に何が出来る!」
そこに、リスの姿のエルデムが現れた。リスの姿から、人間の姿に変身した。
「! お! 失われた世界の仲間じゃないか・・・。なぜ、ここに・・・」液体ゴーレムは驚きを隠さなかった。
「・・・。
あぁ、思い出した。
何もかも。
懐かしいじゃねぇか!」




