第一話『旅の仲間・光の騎士』
ミスティックさゆりの伝言で、ペラ遺跡の近くの魔術屋に立ち寄ることになった。
【ペラ遺跡】ギリシャ北方、マケドニアの都。かの有名なアレクサンドロス大王が産まれた地として有名である。当時の人口は、6~7万人ほどだったといい、アテネと同規模だったらしい。紀元前5世紀から紀元前2世紀ほどまで栄えたという。
「こんにちは」リカルダスが店内に入ると、ミスティックのば~さんが出迎えてくれた。
「こんにちは。さゆりから話は聞いているよ。私の名はしおりじゃ。よろしくの」
「よろしくお願いします」
「お前さんたちに、紹介したい人物がおる。買い物はそれからじゃ」
「紹介したい人物とは、誰でしょう?」エルピーダが不思議に思った。
「心当たりがないな」リカルダスも訝しがった。
「こちらの人物じゃよ」店の奥から出てきたのは、光の騎士アスタルだった。
「こんにちは。初めまして」
「! こんにちは」リカルダスは驚いた。
「! これは、偶然でしょうか?」エルピーダも驚いた。
「お前さんたちが、さゆりと関わり合った時から、こうなる運命じゃった」
「どういうことでしょうか?」リカルダスが問いただした。
「お前さんたちが、『神々の試練』を受けたのは偶然ではない。神様の近くに行く資格があるか試されただけじゃ。その資格がないものには、試練さえ受けることが出来ない」
「神様の近くに行くって、どういうことですか? 我々は、失われた大陸を探しているだけです」
「・・・」アスタルは、黙って話を聞いていた。
「それじゃよ。失われた大陸と、神様は関係が深いのじゃ」
「どういうことでしょう?」
「まぁ、『神様たちが大陸を滅ぼした』ともいえるし、『大陸を滅ぼしたのは、神様たちと関係がない』とも言える。どちらが正しいかは、自分たちで確かめるのじゃ」
「我々は、どうすればいいですか?」しおりは静かにうなずいた。
「そこにおる、失われた大陸の末裔が鍵じゃ。彼女が認めた者が、その地に導いてくれるわ」一同がエルデムを見た。そして次にリカルダスを見た。アスタルは、初めてエルデムの存在に気が付いた。
「誰ですか、この方は? お美しいです」
「リカルダス様のお連れのエルデムさんです。失われた大陸の捜索は、彼女の望みでもあります」エルピーダが答えた。
「承知しました」アスタルがうなずいた。
「我々は、神殿のシントリスタから、王都アテネのヒストリアを訪ねるように教えられました」しおりはまた、静かにうなずいた。
「そうさのぅ、彼がカギを握っておる。直接聞いてみるといい。そのために、『地下迷宮探検競技』に参加しなさい。優勝者には、王都でアテネ王に謁見する権利が与えられる」
「やるべきことが、決まっていて胡散臭すぎるな」リカルダスが訝しがった。
「でも、そうせざるを得ない様子です」
「だよな。やるしかないんだよ」二人は納得した。そこにアスタルが口を挟んだ。
「恐れ入りますが、私も参加させて頂きたいです」
「? 来るの? 大丈夫?」リカルダスが確認した。
「我々は、失われた大陸を探しておりますが、道中は命の保証はありません。あなたの目的と参加するための条件をお聞かせください」エルピーダが確認した。
「私は、英雄ナポレオンを尊敬しております。彼の生き方を参考にして、この時代で名を残したいのです」
「誰ですか? ナポレオンって」リカルダスが聞いた。
「後の時代に祖国フランスを統一した英雄です」
「ふ~ん、後の時代ね~。呀龍も似たようなことを言っていたが、アンタもか」
「!(何ですか! 後の時代って)」エルピーダが驚いた。リカルダスは、静かに確かめた。
「よろしい。それでは、ご一緒に旅をしましょう。報酬は、何がよろしいか?」
「必要ありません。私の目的は、名誉を残すことです」
「何もいらない筈がないでしょう。もし私が、一国を手に入れたならば、それをあなたに差し上げましょう。それでどうですか?」
「必要ありません。私は国を治めるタイプではありません。誰かに仕えて名を残すタイプです」
「無欲ですね。贅沢はしたくありませんか?」
「贅沢は、生まれ変わった次の人生でさせて頂きます」
「ぷっ」リカルダスが笑った。
「くっ」エルピーダも笑った。
「どうしましたか?」アスタルが聞いた。
「全く同じことを、エルピーダ君も言いました。あなたがたは、良い友達になれるでしょう」
「それは、奇遇です。栄華は一時代限りですが、名誉は永遠に残ります。これもナポレオン公の置き土産です」
「分かりました。報酬のことは、後で考えましょう。命がいくつあっても足りない旅になります。私たちに同行すれば、名誉は自動的に付いて来るでしょう。よろしくお願いします。友よ」
「精一杯お仕えします、閣下」
「敬称はやめましょう。意志の伝達が遅れるし、まだ何ごとも成し遂げていません。以後、我ら三人の立場は同等とします」
「分かりました」とエルピーダが答えた。
「分かりました。閣下、兄弟子さん」
「兄弟子さんも、やめてください」
「分かりました。ですが、礼儀は弁えさせて頂きます」
「一応の上下関係は意識してもいいが、戦闘中は仲間であることを忘れないように」リカルダスが注意した。
「分かりました」
「分かりました(信用できる人たちだ)」と、アスタルは確信した。リカルダスは、密かに「状態」を発動した。剝奪師に昇格してから、相手の状態を知ることを意識すると自動的に発動できるようになっていた。
「(ふむふむ。年齢は、25歳か。Lv.52。属性は、善人であり公的か。完全な主役ではないか! 私とエルピーダは、善人であり、中立だ。彼が今後、我々のパーティーの柱になる!)」リカルダスはほくそ笑んだ。
「よし、連携の確認をしよう」と、リカルダスが言った。
「しおりさん、この辺りに、手頃な洞窟はありますか?」
「近くに、トロルの洞窟があるが、ここ最近は物騒でねぇ・・・」
「どうしました?」
「何者かが、洞窟内で暴れておるらしいんじゃ。テリトリーに入らなければ襲ってこないから、無理に退治してくれなくてもいいんじゃが・・・」
「よし、様子を見に行こう!」
ペラ遺跡から、20kmほど離れた山の麓にトロルたちの住処があった。50体ほど暮らしていたというが、村への被害は特になかったという。数日前から、このトロルの住処を襲った何者かの調査をするのが目的だった。
トロルの洞窟の入り口付近から、死臭が漂っていた。
「うわっ! 酷いな!」リカルダスが鼻をつまんだ。エルデムは、リスに姿を変えリカルダスの懐に隠れてしまった。洞窟を10mほど進むうちに、トロルの死体がそこここに転がっていた。
「酷いな。強そうなトロルが何体も転がっているぞ」
「誰の仕業でしょうか?」
「剣で倒された傷ではないですね。殴られた跡です」洞窟をさらに進むと、何体か死にかけているトロルがいた。
「・・・っ!」虫の息だった。
「我々は、治癒を持っていない。治せないな・・・」
「仕方ありませんね・・・」
「・・・」
「吸収!」リカルダスが死にかけのトロルの命を吸い取った。
「せめて、苦しまずに死んでおくれ・・・」そこにエルデムが現れた。
「きゅ~」リスから人間の姿に変わると、祈り、舞い始めた。
「汝の御霊の行く先は、
穢れることなき永久の国
汝の残した遺産は、
子々孫々が伝えゆく
誰がために苦しみて、
誰がために耐え忍ぶ、
汝の守りし遺産は、
子々孫々に託される」リカルダスが三つ、エルピーダが一つの命を吸い取った。
「治癒できる仲間がいれば、いいんだけど・・・」
「今は、これしか出来ませんね・・・」
「・・・(この人たちは、どんな能力を持っているんだろう・・・)」アスタルが訝しがった。洞窟のさらに奥から、何ものかが、何ものかを殴る音が聞こえた。
「ドっガッ、ドッガッ!」何が起きているのか確認するために洞窟をさらに奥に進むと半径5mほどの空間に出た。巨大な塊が、中央で瀕死のトロルを殴り続けていた。
「や~め~て~よ~」小さなトロルたちが、必死に懇願してすすり泣いていた。
「何でぇ、さっきの勢いは・・・もう終わりか?」
「ふ~、ふ~っ・・・」仰向けに倒れたトロルの拳は力なく、塊に届かず空を切った。
「や~め~て~よ~」小さなトロルたちの懇願は続いた。そしてリカルダスたちは、衝撃的な光景を見た。
「何でぇ?」巨大な塊が、トロルを殴るのをやめた。暴れている主は、液体ゴーレムだった。
「! お前は、神々の試練で見た液体ゴーレムではないか!」リカルダスが叫んだ。
「誰でぇ? 俺を知っているのか?」ゴーレムは、ギョロリとこちらを振り向いた。
「ヤツは、飲まず食わず寝ず休まずで丸二日間、サイクロプスと闘い続ける体力の持ち主です」エルピーダがアスタルに説明した。
「まさか、戦うことになるとは・・・」リカルダスが観念した。
「この状況において、逃げる選択肢はないでしょう」アスタルが観念した。液体ゴーレムが立ち上がり、瀕死のトロルは解放された。
「私が使おう。命、命、命! 上昇、上昇、上昇!」リカルダスがありったけの術を使い、三人のレベルを+20ずつ上げた。
「喰らえ、化け物! 『残滅!』」アスタルが飛び掛かった。
「よせ! 不用意に斬りかかるな! そいつは液体になって斬撃を躱すんだ!」
「え? 何だって!」アスタルが聞き返した。
「力!」と言って、液体ゴーレムは液体の腕をリカルダス、エルピーダ、アスタルの三人の浴びせた。液体が三人に飛びかかると同時に金属に固めた。
「ドガッ!」「ドガッ!」「ドガッ!」
三人は、たったの一撃で倒された。
「何でぇ? お前らも勢いだけか?」
トロルの洞窟の中央広場で、リカルダス、エルピーダ、アスタルの三人は液体ゴーレムに、たったの一撃で殺された。




