第十五話『それぞれの道しるべ』
「獣武闘家ってやっぱり狼みたいな風貌でしたか?」リカルダスが聞いた。
「覚えておらんのう。昨日何を食べたかも覚えておらんわ」シントリスタは会話に応じなかった。
【シントリスタの回想】狼にしては巨大な、身長が2mほどの獣が鎧を着ていた。呼吸が荒く、会話が出来ない様子だった。
「・・・はぁはぁ、グルルルル・・・」
「挑戦開始!」シントリスタが宣言した。獣武闘家の対戦相手は、身長が3mほどもある石像武闘家だった。
「(獣対石像では、相性が悪いな・・・。獣の負けだ・・・。残念だ、ウチの陣営だったのに・・・)」シントリスタは、そう思った。
「ぐわおおぉ!」獣武闘家が雄たけびをあげた。石像武闘家に右正拳突きをいれたが、ビクともしなかった。
「グロロゥ・・・」石像武闘家の右正拳突きを返された。獣武闘家は、それを左腕で受け止めて堪えた。
「グルルルル・・・ブッシュうぅぅ・・・」獣武闘家が大きく息を吐くと、体が大きくなった。鎧を砕き、体長が4mほどもある巨大な熊が現れた。
「ぐわおおぉ・・・!」獣武闘家が吼え乍ら石像武闘家に正拳突きを胸板に叩きこんだ。胸元にひびが入り、石像武闘家は苦しんだ。
「グルルルル、ぐわおおぉ!」獣武闘家が吼え乍ら、太さ1m、長さ8mほどの巨大蛇に変身した。
「ぐりゅりゅぅぅ・・・」石像武闘家に巻き付いて、粉々に砕いてしまった。
「・・・(すげぇ!)」
「(攻撃したり、攻撃をされたりすると耐性を変えるのでしょうか? 厄介ですね)」
「(長期戦になると、面倒だな・・・)」二人は身震いした。
「挑戦者の勝ちー!」シントリスタが宣言すると、獣武闘家の目の前に(力・勇敢・暴力・武勇の神)『ビア』が現れた。
「ふっふっふ、個性的な特性を持っておるの。以後よろしく頼むぞ」
「グルルルル・・・・」
「召喚術剣士でしたっけ?どんな方でした?」エルピーダが聞いてみた。
「忘れたのぅ、何もかも。自分の名前すら忘れたわ!」シントリスタはクルリと背中を向けてしまった。
【シントリスタの回想】緑色のローブを身にまとっていたが、青色の鎧を着ていた。兜ではなくフードを被っていた。神殿に入ってくると、しばらく考え込んでいた。
「何を選ぶかは、決まっている。どれと対戦するかも決まっている。勝つことも決まっている。問題は、決断をするタイミングだ。何故ならば、自分の納得がこの世で一番大切だからだ。相手の都合は関係ない。俺が主人公なのだから。みなが俺にあわせなければいけないのだ。俺あっての世の中なのだから。だから静かに俺の決断を待つのだ。そうすれば世の中丸くおさまるのだ。例えこの世が四角くても」そこまで言い終わると、くわっと目を見開いた。
「(何じゃい! コイツは。ワシの陣営でもさゆりの陣営でもない。誰じゃ? コイツは!)」シントリスタが待っていると、ぶつくさ男は、四時と五時と八時の方向を指さした。
「三つも選んでいいのかえ?」シントリスタが質問した。
「良かろう。主人公の強さを見せてやるわ。それが俺の運命なのだから。あー主人公は辛いなー」全ての台詞が棒読みだった。この時シントリスタは、この男の言葉に感情がこもっていないことに気付いた。
「挑戦開始!」シントリスタが宣言すると、骸骨騎士と、青竜と、石製人造人間が現れた。
「三体そろっても弱いなー。弱い奴三匹集めて役立たず。我泣き濡れてザコと戯る。えい」ぶつくさ男は、指をパチンと鳴らしただけだった。
「びゅわっ!」どこからともなく、何かが飛んできて、三体のモンスターを包み込んだ。モンスターたちは包み込まれた瞬間に粉々に砕け散った。
「勝負あり。たった三秒。真夏の夢も砂塵に帰す。君にキス。アニサキス・・・ぶつくさ、ぶつくさ・・・」
「? 終わったのかえ?」シントリスタは呆然とした。
「終わったよ」シントリスタをじろりと睨んだ。ぶつくさ男の目の前に現れたのは(不死身の再生能力を持つ)『ヒドラ』だった。
「神じゃないのはハズレかな。ハズレだよ。外れはないよ。当りだよ」
「(ぶつくさ、ぶつくさと。何じゃい、コイツは?)」シントリスタは呆れ返った。
「(どうやって勝ったんでしょうか?)」エルピーダが疑問に思った。
「(何かを召喚して、そいつが一気に勝負を決めたんだ。しかし、何が召喚されたんだろう?)」リカルダスも疑問に思った。
いくらつついても、これ以上シントリスタから新しい情報は出て来なかった。お腹がいっぱいになった二人は、神殿を出ることにした。
「色々ありがとうございました」リカルダスがシントリスタに頭を下げた。
「お陰で勉強になりました」エルピーダが頭を下げた。
「? お? おう!」シントリスタには、意味が分からなかった。エルデムはリスの姿に戻り、リカルダスの服の中に隠れてしまった。リカルダスとエルピーダの二人は、静かに神殿を出た。夕方になりかけていたので、外の空気は少しだけ冷たかった。
「世の中、広いな~。軍隊に入って、王様に仕えていそうなのが一人もいなかった。みんな、どこでどういう噂を聞いて、ここに試練を受けに来たんだろう?」リカルダスは疑問に思った。
「分かりませんね~」エルピーダにも理解が出来なかった。
「仲間にするんなら、断然彼だよな~」
「あの方も良さげでしたよ」
「縁があったら、どこかで逢うだろう」
「案外、その日は近いかもしれませんね」
山を下る途中で、ドレッドヘアーで色の浅黒い女性とすれ違った。
「おや? お嬢さんお参りですか? こんな時間に」
「うふふ、そうですの。お兄様、オリンポス山の神殿って、こちらで宜しかったかしら?」
「神殿は、この先20分ほどです。お参りですか?」リカルダスが言葉をかけた。
「うふふ・・・。『神々の試練』を受けますの。ご存知でしょ?」と、言葉を返された。
「はい、存じ上げております。ミスティックのば~さんの紹介でした」
「あら? さゆりさんかしら?」
「はい、確かそのような名前でした」
「あら? 奇遇ですわね~。私もさゆりさんからの紹介ですの。今度、ご一緒したいわ~」
「面白そうですね、そのうち何処かでお逢い出来た場合、それは何かの縁です。ご一緒しましょう」と、軽くあしらった。
「ふふっ、面白そうな人。またお会いできるのを楽しみにしています」クスリと笑って、山頂を目指し行ってしまった。
「?」エルピーダが違和感を覚えた。
「リカルダスさん、今三人いませんでした?」
「う~ん、ハッキリしないな~。二人はいたと思うが、ハッキリと見えたのは一人だけだった」
麓についた時、すっかり日が暮れていたのでその日はその辺の宿で一泊した。翌日『神のご加護』を授かった二人に、ミスティックさゆりさんから手紙が届いた。目的地は王都アテネだったが、ダーダネルス海峡を渡ってトロイアに行くことになった。
見事『神のご加護』試練を乗り切ったの。オメデトウ!
お主らは、これからトロイアへ行くがよい。
ジャクソンとリヴィングストンが『地下迷宮探検競技』を開催するそうじゃ!
参加してみるがいい。
心強い仲間が出来るじゃろう。
「なんか、胡散臭いな~」リカルダスが言った。
「どうしますか?」エルピーダが聞いた。
「胡散臭いのが、大好きなんだよね。行ってみるか!」
「喜んでお供致します!」
宿を出発する時、宿の主人に言われた。
「ん? 一緒じゃなかったのか? お連れさん、先に行ってしまったぜ」
「? お連れさん?」リカルダスが訝しがった。
「雰囲気が似てるんで、仲間かと思ったよ」
「どんな方でした?」
「善人の中の善人だった。光り輝いていたわ」
「まさか? あのヒトじゃないか?」二人は同時に同じ人物を思い浮かべた。
「あ、あぁ、出来れば仲間にしたいんだ。どっちへ行きましたか?」動揺しながら、親父に聞いた。
「トロイアへ行くとか言っていたな」
「そうですか、ありがとうございます」二人は旅を再開した。目的地はトロイアだった。
「それでは、エルピーダ君。トロイアに向かおうかね!」リカルダスが言った。
「はい、リカルダス様!」
「きゅ~」エルデムはリスの姿に戻った。
「エルピーダ君に確認しておきたいことがある」
「何でございましょうか?」
「我々の短期的な目標はトロイア行きだがその後、長期的な目標として私は何を目指そうか? 私の目標は何がいいと思うかね?」
「ズバリ!『王道楽土』の建設で御座います」
「はっはっは! 夢が大きいね。一介の窃盗師に君は何を期待しているのかね?」
「一介の奴隷だった私の大きな夢であります。夢は大きい方がやり甲斐があります」
「良かろう! ひとつその夢を叶えて、全てキミに差し上げようではないか」
「私は、それを他の人に譲ります」
「はっはっは。欲が無いね。贅沢をしたくはないかい?」
「贅沢は、生まれ変わった次の人生でさせて頂きます」
「立派な心掛けだ。キミは私の道標だよ」
「私にとっても、リカルダス様は道標で御座います」
「救われるよ」
「私もで御座います」
「それでは、行くか! アーヴィンに倒されて二年も月日が経ってしまった。挫折は早い方が良いのぅ!」
「仰る通りで御座います!」生まれ変わったリカルダスと、名参謀のエルピーダの次の旅が始まった。
第一部『神々の試練編』完
第二部『地下迷宮探検競技編』に続く




