34 豊臣の姓を貸す
34 豊臣の姓を貸す
西暦1603年――大坂城謁見の間。
真柴は十一歳となり、徳川秀忠の娘、千姫を正室として迎えた。
徳川と豊臣の結束を固めるための政略結婚だが、最初に打診したのは徳川家からだった。
真柴は家康の意図にすぐ気付いた。同盟を餌に豊臣家を油断させる目論見なのが透けて見える。
真柴は家康の戦略眼を鼻で笑った。徳川家の刃が自分に届くことがないと真柴は高をくくっていた。
そんな出来事は取るに足らない。今、真柴の前に二人の武将が、正装で跪いている。
それを上座で真柴と豊臣三傑の三人が、控えて見据えている。
豊臣三傑『黒衣の宰相』黒田官兵衛が嫡男、黒田長政……顔にほうれい線が刻まれている厳しい眼光の若武者。
もう一人は天下一の智謀を持つと言われた真田昌幸の長男、真田信之……こちらも少々強面である。
「余が二人を呼んだのは他でもない。お主たちに官位、そして役目を与えるためだ。
まずは黒田長政、お主に大納言の位と伊達政宗の旧領、仙台六十二万石を与える。
会津百二十万石を領する結城秀康の牽制と睨みを効かしてほしい」
真柴の言に黒田長政は一転して喜びを顔に滲ませる。
「ははッ! 有難く頂戴いたします。大納言の名に恥じぬよう、全身全霊で精進します」
黒田長政は感極まっている。それをよそに真田信之は緊張感を催していた。
「そして真田信之……六文銭を掲げる真田一族。余は其方に大いに期待している。
真田信之に中納言の位と石田三成の旧領、近江佐和山十九万四千石を与える」
真柴は真田の名に期待を込めて、官位と石田三成の旧領を真田信之に与えた。
だが真田信之は何処か不満そうだ。
それもそのはず、隣に座るライバル視している黒田長政と差が付いたからだ。
「有難き事です……」
真田信之は言葉とは裏腹に歯噛みする。その機微に気付いた宇喜多秀家が、
「真田信之、お主の時代は必ず来る。ここは抑えるのだ」
その声に真田信之は我に返った様子で頷く。
反対に思いもかけない栄達に大喜びする黒田長政が、何かを思いついたように言葉を紡ぐ。
「関白殿下にお願いがございます。某に豊臣の姓を御貸しくだされ。
必ずや、関白殿下の期待に応えて見せます。どうか、どうかお願いいたします!」
とんでもない発言をした。これには一同、開いた口が塞がらなかった。
「黒田長政! 偉大なる豊臣の姓を欲しがるとは何様のつもりだ」
すぐさま、宇喜多秀家が非難の声を上げる。それを真柴が目線で制した。
黒田長政には後藤又兵衛を取り上げて、茶々の親衛隊に付けた借りがある。
「良いだろう……お主の希望通り、豊臣の姓、そして豊臣の旗印も貸す。
だが、一度でも敗れた場合は返上だ。良いな?」
真柴は顎に手をやり、笑みを浮かべて言った。
黒田官兵衛は息子の愚かさに目を背けたくなるような仕草をして、顔を顰める。
「有難く頂戴いたします。これよりは豊臣長政と名乗らせていただきます」
黒田長政は希望が叶ってご満悦の有様であった。
真柴は愚かな配下に遊び心を見出し、この先の未来の行く末を思い描く。
今回はここまで。
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