30 高みを目指す2(結城秀康)
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30 高みを目指す2(結城秀康)
謁見の間を後にした結城秀康は茶々様と共に大坂城天守閣の最上階から外の景色を眺めた。
下界を見ると大坂城下の町が一望できる。茶々様は外の空気を思い切り吸って吐き出している。
「結城……秀康様」
茶々様は結城秀康に無理して敬語を使おうとして苦戦しているのが秀康には可愛らしく映った。
まるで自分に娘が出来たみたいだった。だが、結城秀康には既に娘がいた。
それどころか子が何人もいたが、茶々様を娶る為に全て容赦なく他家にむりやり養子に出したのだ。
「無理しなくて宜しいのですよ、茶々様。気軽に秀康とお呼びください」
秀康は彼特有の優雅な微笑を浮かべて貴公子の仮面を被る。
「秀康、貴方は優しい。それに背も高くてしかも見目も良い。正に完璧」
茶々様が秀康の容姿を褒める。
確かに秀康は見目が良い。誰に似たのか不思議だと父、家康に言われる程だった。
その為、家康から自分の子ではないのではないかと猜疑の眼を向けられた。
只の嫉妬を家康が拗らせただけなのだが、秀康本人も悩んだ時期もあった。
父の子ではなかったら……秀康の幼少期は父、家康の疑いの目で僅かに歪められた。
「茶々様も、ご成長なされたら美しくなります」
秀康は目の前の茶々様の成長した姿を想像して言葉を返す。
お世辞ではない。茶々様は美しくなる。秀康は確信している。
そうならなければならない。妻子を見捨ててまで、手に入れたのだ。
その代償に見合うほど美しくならなければ困ると秀康は言葉には出さないが、心の片隅で思っている。
――この娘を篭絡して、私は天下にその名を知らしめて見せる!
内心で燻り続ける上昇志向……遥か高みへと邁進するその姿勢は正に戦国武将。
そう……貴公子という仮面を被ってはいるが、彼も立派な戦国武将なのだ。
「有難く!」
茶々は笑顔で答える。茶々の無邪気な笑顔に秀康は内心、心苦しくなった。
彼の家臣団も居心地が悪そうにしている。何故ならば秀康の本性を知っているからだ。
「秀康様……我が主、茶々様を無下にしたら容赦はありませんよ」
茶々の側仕え筆頭、真田信之正室にして徳川四天王本多忠勝の娘でもある小松姫が釘をさす。
小松姫は敏さを見せて、秀康の本性を垣間見たような気がした様子で言い放った。
それにも結城秀康は動じることなく笑顔を張り付けて、貴公子の仮面を崩さなかった。
――この女……私の本性に気付いている? ビクビクするな! 私は高みへと上る。
秀康は小松姫の敏さに驚きを隠せない部分が少しはあった。
だが、自分に確固たる信念がある秀康は強い。意志の強さだけならば天下に比類ないであろう。
「小松姫殿……無論にございます。私は茶々様を蔑ろにする気など毛頭ありませぬ。
茶々様、大坂城下の町で、商人より購入した茶菓子などがあります。是非、ご賞味あれ」
秀康は意識を切り替えて、家臣たちに用意させた茶菓子で茶々様の機嫌を取ろうとした。
「食べて良いのですか?」
茶々様の顔色がパッと明るくなる。
それを見て子供は何て単純なのだろうと心の中で薄ら笑いをした。
茶菓子を頬張る茶々に他の側仕えも笑みを零す。
「私達も頂いても?」
もう一人の側仕え筆頭……元明国公女董白も物欲しそうにする。
「側仕えの皆様もどうぞ。沢山用意しているので、温かいお茶も用意させます」
秀康は場が和むのに顔を綻ばせながら、家臣たちにお茶の用意をさせる。
――明国公女董白……弓の達人で、会津戦役で自ら、真田父子を討ち取ったという。
秀康は茶々様の側仕えは名のある人物が多いと目を見張る。
やはり、関白殿下の妹君だけに有能な人物を付けられていると、秀康は内心で唸る。
秀康の思惑とは裏腹に結城秀康家臣団と茶々の側仕え達を交えたお茶会で場が和み、会食までの時間を皆で楽しんだ。
今回はここまで。
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